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全天録  作者: AX-02
第二章 昼
90/261

突入3

短縮するのに限る。本来の形になくて、不安定なのだから。

「〈怨射(カースショット)〉!」

「〈浄城(サンクチュアリ)〉!!」

「まだやってる……じゃれ合うのはいい加減にしてよ~!」

(大分降りたな、恐らくここは60階)


 ゼノムとサイフィは、ダンジョンを降りながら戦闘を続けていた。


 シュアが音の遠ざかりを感じ、降りていくのを忍者が追随した。彼女らが目にしたのは激闘の痕跡。



 原型を止めていない死骸は当然、森林に血の溜め池、砂漠にクレーターと熱を持ったガラス片、平原に凍った竜巻、海辺に呻く壁。壁として使用され、拳か剣でボロボロになった氷や岩。


 忍者は一々に驚き、シュアは一々を視て起因を考えていた。クレーターとガラス片以外は、何が起きたのか予測がつく。


「ゼルーーー!! マダーーー?!」


 が、それよりも長々とした喧嘩の方が気になる。止めるにせよ止めないにせよ、終わりが見えないのは暇となる。

 シュアとしては、さっさとダンジョンごと終わらせて欲しいのだ。こんな環境で盛る事は、憚れるべきだから。


「後、二分!」

「はーい」


 ゼノムは戦闘中に外部と話す。それでいてサイフィに反撃の隙を与えないよう、怨霊弾を放ち続けている。


「先程、拾ったばかりを使うぜ!」


 そう言ってゼノムは二丁拳銃を戻し、リュートを取り出した。何の効果があるのか、知ってはいるが。


「荒らさが足りない!」


 リュートへと魔力を流したのか、周りを取り込み形状が変わる。


「その形状、その属性…まさか?!」

「ちょっち混ざるが Let's Rock!」


 ギターへと変化し青い電撃が迸る。


「Foooooooooo!!」


 ゼノムが弾く度に点の電撃が襲う。サイフィはフットワークで掻い潜る。


「あ……んんっ」


 流れ弾を気にしてシュアは移動をするも、小さな体が思い出してしまい、内股になって速度が落ちる。近くに蒼電が着弾、しかし破片が刺さる事はなかった。


「気を付けてくれ。あんたに怪我されると、殺される」

「…はい……」


 忍者が全て落としていたからだ。


「ほぅらまた部外者に被害が」

「ちっ、使えねぇ」


 それを見てゼノムはギターを、サイフィへ投擲する。


 ギターは切断され中から煙が立ち、辺りは一瞬で灰色の世界になる。


「〈阻害煙(ジャマー)〉か……」


 晴れた瞬間に、最大手が来ると読んだサイフィは、魔力を練り始める。吸い込んでも阻害効果が出るので、無呼吸で行う。


 30秒の沈黙、空気は音もなく震え続ける。そして煙が晴れ。


「はっ! 何て格好だ!」

「勝手になった」


 正に突撃の為の姿でゼノムはいた。翼を型どった渦のような魔法陣を両脇に、東洋竜になりかけの身なりで。


「ちゃんと耐えろよ?」

「来い!」

「〈一閃(フロントパラミーチ)〉!!」

「〈(カッタージ)太刀(アイン)〉!!」


 誰の目にも止まらない速度。実際、彼らの目には何も写っていない。ただ感じた。


 斬られる自身、貫かれる自身。斬った感触、貫いた感触。そして。


「「俺の勝ちだ」」


 勝利を。


_________________________________________________




「教えてくれ。どこが勝利だったのか」

「ほら……俺、片腕と片足じゃん?」

「アホくさ。ダンジョン攻略大丈夫なのか?」

「気合いで治せる」

「………まぁ、お前の世界よりは出来るな」


 サイフィとの戦いの後、真っ白に燃え尽きるような脱力と共に、内側へ来ることになった。


 俺は右半身に大ダメージ、サイフィは左腕と胸から上しか残ってない。

 そう、彼はこれで死んでいないのだ。なんて恐ろしい生命体なのだろうか。《内対(ククラ)》が何度確認しようとサイフィの[種族:人間]は覆る事はない。


 人の身についての哲学が到来しそうになるが。


(ゼル、大丈夫? 痛くない? 死にたくなってない?)


 (シュア)の心配し過ぎな声に、到来は避けられる。心配を除くとしますか。


(お前を遺して逝く訳ないだろ。痛みもないしへーき)

(逝ったら赦さない。あとこの人も)


 微小に怒ってるな。もっと怒る事象ではあるのだが……俺に都合が良いし別にいいか。

 収納空間にあった大量の薬草を薬に変えて、瓶に詰める。


(薬効とかアレルギー……まぁ人によって相性が悪いものがあるんだが、そういうものを調べてない薬ならある)

(出して)

(………もう少し、いつものおねだりするように)

(ちぇい!)


 シュアに求め過ぎたか、腹部にダメージを感じる。

 感情がモロ出しな娘は可愛いものだ。モロ出しでなくなっても、その変化を間近で見たりすれば慣れるもの。いや、根底が変わってないと妄信してしまうか?

 収納空間より薬を出し終えて、不意に思った一言。


「ここで来たらヤバいよなー」

「余の事かや?」


 (おれ)の魔力切れ(?)を感知したのか、ルシュフェルが現れた。マイナス方面にも運があるな。


「あっルシ姉、久しぶりだね」


 とりあえず障りのなさそうな言葉をかける。すると不思議そうに。


「時折、来ておったぞ?」

「お~いククラさ~ん」


 来訪があった発言が飛び出し、ククラを呼ぶ。来てるなら言ってくれよー。


「ふぅ、ルシュフェルか」

「時折、来てたらしいんだが知らないの?」

「………」

「…おうふ…」


 ルシュフェルとククラの目の中間に、火花が見える。物凄く入り憎い……俺の魂の中のはずなのに。


「知らないな」

「済まないね留守(?)にしてて」

「あぁ。それはそうと、其方の魂を覗きたいのだが……」


 ……絶対に危ないやつだこれ。けど見せないと死ぬやつ。


「本当に見るだけだし、俺の不利益に使うなよ」

「良いぞ。見せて貰おう」


 ルシュフェルに向かって、胸が物理的に開く。ルシュフェルはそこに顔を入れ。


「…」


 何か凄く長いものでも見ているのか、ルシュフェルは硬直している。

 何か嫌な気になって胸をずらし、閉じても固まったままだ。


「ルシ姉?」

「ん? あぁ、魂の底は」

「見たんだろ?どうだった?」

「………………あぁ………とてつもなく大いなる耀きを放っていたよ。ふふ、昔を思い出したものだ」


 そう言ってルシュフェルはどこかへ去った。間を考えるに嘘だが、彼女は一体、何を見てしまったのだろう。   

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