突入3
短縮するのに限る。本来の形になくて、不安定なのだから。
「〈怨射〉!」
「〈浄城〉!!」
「まだやってる……じゃれ合うのはいい加減にしてよ~!」
(大分降りたな、恐らくここは60階)
ゼノムとサイフィは、ダンジョンを降りながら戦闘を続けていた。
シュアが音の遠ざかりを感じ、降りていくのを忍者が追随した。彼女らが目にしたのは激闘の痕跡。
原型を止めていない死骸は当然、森林に血の溜め池、砂漠にクレーターと熱を持ったガラス片、平原に凍った竜巻、海辺に呻く壁。壁として使用され、拳か剣でボロボロになった氷や岩。
忍者は一々に驚き、シュアは一々を視て起因を考えていた。クレーターとガラス片以外は、何が起きたのか予測がつく。
「ゼルーーー!! マダーーー?!」
が、それよりも長々とした喧嘩の方が気になる。止めるにせよ止めないにせよ、終わりが見えないのは暇となる。
シュアとしては、さっさとダンジョンごと終わらせて欲しいのだ。こんな環境で盛る事は、憚れるべきだから。
「後、二分!」
「はーい」
ゼノムは戦闘中に外部と話す。それでいてサイフィに反撃の隙を与えないよう、怨霊弾を放ち続けている。
「先程、拾ったばかりを使うぜ!」
そう言ってゼノムは二丁拳銃を戻し、リュートを取り出した。何の効果があるのか、知ってはいるが。
「荒らさが足りない!」
リュートへと魔力を流したのか、周りを取り込み形状が変わる。
「その形状、その属性…まさか?!」
「ちょっち混ざるが Let's Rock!」
ギターへと変化し青い電撃が迸る。
「Foooooooooo!!」
ゼノムが弾く度に点の電撃が襲う。サイフィはフットワークで掻い潜る。
「あ……んんっ」
流れ弾を気にしてシュアは移動をするも、小さな体が思い出してしまい、内股になって速度が落ちる。近くに蒼電が着弾、しかし破片が刺さる事はなかった。
「気を付けてくれ。あんたに怪我されると、殺される」
「…はい……」
忍者が全て落としていたからだ。
「ほぅらまた部外者に被害が」
「ちっ、使えねぇ」
それを見てゼノムはギターを、サイフィへ投擲する。
ギターは切断され中から煙が立ち、辺りは一瞬で灰色の世界になる。
「〈阻害煙〉か……」
晴れた瞬間に、最大手が来ると読んだサイフィは、魔力を練り始める。吸い込んでも阻害効果が出るので、無呼吸で行う。
30秒の沈黙、空気は音もなく震え続ける。そして煙が晴れ。
「はっ! 何て格好だ!」
「勝手になった」
正に突撃の為の姿でゼノムはいた。翼を型どった渦のような魔法陣を両脇に、東洋竜になりかけの身なりで。
「ちゃんと耐えろよ?」
「来い!」
「〈一閃〉!!」
「〈一太刀〉!!」
誰の目にも止まらない速度。実際、彼らの目には何も写っていない。ただ感じた。
斬られる自身、貫かれる自身。斬った感触、貫いた感触。そして。
「「俺の勝ちだ」」
勝利を。
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「教えてくれ。どこが勝利だったのか」
「ほら……俺、片腕と片足じゃん?」
「アホくさ。ダンジョン攻略大丈夫なのか?」
「気合いで治せる」
「………まぁ、お前の世界よりは出来るな」
サイフィとの戦いの後、真っ白に燃え尽きるような脱力と共に、内側へ来ることになった。
俺は右半身に大ダメージ、サイフィは左腕と胸から上しか残ってない。
そう、彼はこれで死んでいないのだ。なんて恐ろしい生命体なのだろうか。《内対》が何度確認しようとサイフィの[種族:人間]は覆る事はない。
人の身についての哲学が到来しそうになるが。
(ゼル、大丈夫? 痛くない? 死にたくなってない?)
嫁の心配し過ぎな声に、到来は避けられる。心配を除くとしますか。
(お前を遺して逝く訳ないだろ。痛みもないしへーき)
(逝ったら赦さない。あとこの人も)
微小に怒ってるな。もっと怒る事象ではあるのだが……俺に都合が良いし別にいいか。
収納空間にあった大量の薬草を薬に変えて、瓶に詰める。
(薬効とかアレルギー……まぁ人によって相性が悪いものがあるんだが、そういうものを調べてない薬ならある)
(出して)
(………もう少し、いつものおねだりするように)
(ちぇい!)
シュアに求め過ぎたか、腹部にダメージを感じる。
感情がモロ出しな娘は可愛いものだ。モロ出しでなくなっても、その変化を間近で見たりすれば慣れるもの。いや、根底が変わってないと妄信してしまうか?
収納空間より薬を出し終えて、不意に思った一言。
「ここで来たらヤバいよなー」
「余の事かや?」
主の魔力切れ(?)を感知したのか、ルシュフェルが現れた。マイナス方面にも運があるな。
「あっルシ姉、久しぶりだね」
とりあえず障りのなさそうな言葉をかける。すると不思議そうに。
「時折、来ておったぞ?」
「お~いククラさ~ん」
来訪があった発言が飛び出し、ククラを呼ぶ。来てるなら言ってくれよー。
「ふぅ、ルシュフェルか」
「時折、来てたらしいんだが知らないの?」
「………」
「…おうふ…」
ルシュフェルとククラの目の中間に、火花が見える。物凄く入り憎い……俺の魂の中のはずなのに。
「知らないな」
「済まないね留守(?)にしてて」
「あぁ。それはそうと、其方の魂を覗きたいのだが……」
……絶対に危ないやつだこれ。けど見せないと死ぬやつ。
「本当に見るだけだし、俺の不利益に使うなよ」
「良いぞ。見せて貰おう」
ルシュフェルに向かって、胸が物理的に開く。ルシュフェルはそこに顔を入れ。
「…」
何か凄く長いものでも見ているのか、ルシュフェルは硬直している。
何か嫌な気になって胸をずらし、閉じても固まったままだ。
「ルシ姉?」
「ん? あぁ、魂の底は」
「見たんだろ?どうだった?」
「………………あぁ………とてつもなく大いなる耀きを放っていたよ。ふふ、昔を思い出したものだ」
そう言ってルシュフェルはどこかへ去った。間を考えるに嘘だが、彼女は一体、何を見てしまったのだろう。




