波を呼ぶ
「じゃあ入るよ」
「うぃ」
ケイに連れられ〈グーバス王国〉の中央ギルドに来た。思い描いた通りの配置と人の柄。そして。
「「「……」」」
反応。騒ぐ方の人達は前に滅多打ちにした人でもあったのか、ギルド屋内は静まる。仕方ないよな、狂戦士な立回りだったし。
「本日のご用は?」
「〈翼竜〉の討伐成功だよ」
「え?!本当ですか!!?」
じわじわと騒ぎが広まる。一番の実力者が、これまでは幻想存在だったものを討伐したのだ。騒がない方が無理である。あと俺の事を忘れたいのもあるだろう。
〈天の眼〉は人の波に飲まれてしまった。一人で登録するのは不安なので、全空席になった飲み場に行く。
「ここ、座っていいですか?」
「どうぞ。何にされます?」
「素人でね、分からない事だらけなんだ。これで酔いにくいものを」
そう言って、ワイバーン討伐協力と死の回避の礼としてもらった中から、黄色硬貨を一枚取り出し、机に置く。
「ん? お強そうなのに質素なんですね」
「その位が好きなので」
「ほぅ、ゼノムとはそういう存在でしたか」
何とも言いにくいので、頷くだけにする。
出て来たのはエールだ。前世界の舌だといけなかった炭酸である。まずは一口。なるほど、炭酸が胃に行く感覚はこうなのか。
「冷やそ」
金属製の棒を収納空間から取り出し、冷気を流す。マスターはじっくりとその様子を眺める。
十分に冷えたと思ったので棒を抜き、飲む。うーん、嵌まる人がいるのは分かるな。それでも日本酒とかの方がいいんだが。
ファミレスに居座る時のように追加して飲む。シュアが狼形態でコップにマズルがつっかえたりもして、30分後。
「やっと解放されました……」
締め疲れたケイが飲み場に来る。ケイへ首を振って席を立つ。受付に向かい。
「彼を冒険者に登録してやってくれ」
俺を指差ししてそう言った。頷きながら俺は前に出る。
「どうも、新規登録したい者です。どんな事を書く必よ………」
言葉が詰まった。仕方ないだろう、受付の方が瞬きや視線変動をしないのだから。
シュアが狼形態のまま回復魔法を飛ばし、意識を戻す。
「ナンデショウカ」
それでも現実から逃げる為に、言葉が片言となる。『ゼノム』のネームバリューはそんなに大きいのか。
「新規登録をしたいのですが」
「デハコチラニナマエトトクギヲ」
紙が出てくる。文字は《内対》による実質、代筆で行った。筆跡鑑定でバレないかな?
書いた紙に機械音が聞こえるような動作で判を押し、裏に紙を持って消え、何かの板を持って来る。
「コチラガボウケンシャショウデス」
そう言って、銅のプレートを置いた受付は「シュー」と息を吐きながら机に倒れ込む。腸中お察しします、お疲れ様でした。
瞬間的に入り口から誰かが飛んでくる。
[ライだな]
俺や《内対》は動かない。既にシュアが対応に回っているからだ。氷が割れる音が建物内に響く。
「何だ? その犬は」
感覚が鋭いな。シュアの魔法干渉は、魔物に気付かれた事はなかったのに。
振り返り、シュアを抱き上げる。顔を舐められながらも返答する。
「俺の宝物」
「落とさないように置いときな」
「お前が落とせるものか。聞けば、俺は難度Sだそうだな」
二度目の拳。シュアに直当てしないように俺の顔を狙っている。今度は俺が対応する。尻の方を持っていた左手を抜き、人差し指を立てて当たるのを待つ。
ギルドが揺れる。二階の装飾や手入れ中の刃物が落ち行く事で、その拳の破壊力を誰もが認知した。
「チッ、舐めやがって」
「だから言ったんやで~~」
指一つで止める俺の格も。拳は引いてあるのでライの格は、これ以上落ちる事はない。
ライは頭を振りながら、標的を変えたようだ。
「説明してくれんだろう、ケイ?」
「あはは……実はね……」
ケイは俺が語った、虚実混ぜの話を始める。
『ゼノムは、〈ハスト・ブレイダ帝国〉にて処刑されかけた際に〈魔王〉として目覚めてしまった。魔物の勢力増強に生存するだけでなり得る存在だ。彼にとって魔物の強化は真意ではない。彼は魔物狩りを始めた。大海の魔物は相当荒らしたが、陸地はまだまだである。目的や場所が冒険者と被るだろうから、同業として狩りをした方が良いと考えた』
という内容のものだ。『魔物狩りを始めた』辺りで察したライが『そういう事か。次の依頼は』と話を切ったが。
「でも始めたてだからな」
「そうだね。安全な方の土地での採取、低級魔物討伐依頼とかしか駄目だよ」
「一応でもなっちゃったもんなー。ギルド長とか通してないけど」
「判子押して裏行ったから、その時点で正式だよ」
(マ?)
[マ。盗撮した覚えあるし]
ちょっと待て。もしかしてこの天才さん、俺に影響される前から変態性を発揮していたの?
悩ましい可能性を考えながら、依頼の掲示板に向かう。
《天地一体》「なぁ、感じたか?」
《内対》[えぇ、これはあれね]
勇者「違いない。初期プロットにも日頃の妄想にも
無いものを書こうとしている」




