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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
76/261

ニケツ

癖になりそうな書き方である。非常に困るが

三人称視点が長続きする訳でもないし、一人称だらけは微妙だし……やはりテク足りない

 本来であれば、会場にいる全てが歓喜に震えているべき状況だ。そうでなくとも、祝賀の雰囲気でなければならない。しかし。


「ゼノム処刑とは真実なのか?」

「そうだ。一体何がどう転んだのやら」

「ふひひ……爆発したぜ…後はもう一人もなれば……」


 沈み気味な空気に包まれている。

 我らが王との激戦を魅せてくれた存在。それが文明でも魔法でも下の段階のはずの、人間に処刑……向こうの戦力を侮り過ぎたのか。ならば次は我々か?

 そんな思いが民衆には流れている。




 主役の花嫁に至っては。


「……」


 意気消沈を越え、虚数の海でも見てしまっているのだろうか。『無表情のまま数日をお過ごしであるのでは』という推論さえ、かなりの頻度で聞こえるくらいの変貌をしていた。


「シュア、今日くらいは笑おう。折角の結婚式なんだから…」


 花婿はライバルが消えた事に狂喜したが、花嫁の心も同時に消えた事に気付き、精神の値が+から-に反転している。それでも、幸せを掴ませようと躍起になったが会う度に、準備が進む度に、彼女の表情が硬くなっている気がした。

 先のは懇願だ。彼の精神が崩壊しない為のお願い。


「本当に今日だけならいいよ」


 シュアから冷たさを感じる言葉が飛ぶ。事実、室温は0に近付いて行っている。


「いいやや、そそれはは……」

「じゃあ笑えない」


 顎を震わせて出した答えは、完全なる悪手だった。


 アルゴは後悔しかない、あの時に勝っていれば……あの後にあれを渡しておけば……防げたはずの今は残酷だ。


「シュア様、アルゴ様、お時間が参りました」

「行くぞ」

「…」


 呼ばれて二人は立ち上がった。

 放棄はしないが、顔は絶対に晴れさせない。シュアはそう決意している。




「「シュアァァ様ァアァ!!」」


 前は会心の笑顔を見せる事に、何ら違和を持たなかった声援にすら冷徹に返し。


「新郎、アルゴ・ベラ・デは……」


 何かが進行しているとしか思っていない。自分の言うべき言葉は、抑揚だけで黒に染め上げる。


 今のシュアには疑惑でしかない。無理矢理、今とは逆の心にしようとしてくる全てが。

 空は汚れた青に、ゴミの混ざった白が浮かんでいる。無駄に飾られたバルコニーに立たされ、今となってはどうでもいい、他人の五月蝿い声の中で動く作業。


「では誓約の証として接吻を」


 既定通りに体の向きと顔の角度を変える。

 シュアの予想通りに、アルゴは目を逸らした。妻と妻を通しての自分からの逃避だ。


「はぁ…」


 彼との生活に馳せていた自分を憐れむ。現実はこんなものだと諦め、目を瞑ってしか、証を見せる事が出来ないこれと。


『動くな』


 低く大きな声がした。フェリオスの全てが止まってしまう程、黒く通る声が。

 声に場が騒ぎ始め、人が波になりかけた時。


 重圧がそれを止めた。存在としての格の差を認知し、完全に次の指示を待つようになる。


『道を空けろ』


 場の支配者の言葉に従い、一本の道が出来上がる。


 道には最初は何もなかった。少しして、不穏な三種類の鐘の音楽が鳴り響く。コツコツと歩く音、人の形をした影が見え、その影は進みながら下から剥がれゆく。


「ゼ……ル…?」


 顔まで剥がれたところで、シュアは自分を疑う。合致する顔の存在はただ一人。


 ゼノムは反応を見た後、瞬時にシュアの右側に現れた。


「ゼル…なの?」


 シュアの目には、涙が限界まで溜められている。視覚と嗅覚が合ってしまった存在。返答の声で判明すれば、決壊は免れない。


「分かってるけど…だよな? 俺の(シュア)

「ワォォン!!」


 感激に着ている服の特性を忘れ、シュアが転びそうになるのをゼノムが受け止める。


 死んだはずの男、それに抱き付き泣きじゃくる花嫁、それを見てバルコニーから飛び降りる花婿。混沌した状況で式が続く訳がなく、一時解散となった。

______________________________________



「そうか、ドッペは返り討ちか」

「私も死にたくはないのでね。全力で反撃しましたよ、降ろしても余裕で再起動が出来そうでしたし」

「あの時の剣の効果も、乗ってたはずだが」

「単純な疲れと同等だったのかもしれません。気にした事はなかったです」


 シュアもいる控え室で、レクス王にドッペの事を問われる。隠すべきものではないので、完全公開だ。

 俺が同族を殺した事実を否定したいのか、シュアの外套への力が強くなっている。


 俺も同じくだ。世界にとっての異端が抵抗するのを、前世界で何度見下した事か。その異端の抵抗を自分は実行した。

 本質に何も差がない事を…それだけで心が斬り刻まれる。


「それで……何であれ私とは敵対しない方が良」

「番外の〈魔王(ゼノ)〉を放置だと?」

「何もしてこなければ、何もしない。それを特異過ぎだの番外だのと、理由をつけて干渉する。そして干渉して自分の陣営に被害が出れば『悪』として。実に面白い」

「まさか……貴様〈魔王(ゼノ)〉の作用を理解してないな?」


 理解したとしても成りかねない。そんな予感がしている。


「〈魔王(ゼノ)〉が存在しているだけで、魔物の力が新しくなるのだ」

「…………現在の生態からかけ離れる種類が出る。もしかすると竜でも産まれてくると?」


 レクス王は頷くだけだ。

 では向こうの想定をしよう。上限は闘技場での制限デュラムが8人だとして……そう考えると竜よりは下が多い、ワイバーン数体くらいで街がいくつも滅びそうだ。武器や防具は硬度、魔力伝導率が低いのは判明しているし、何より人手が足りそうにない。

 ならば。


「神やこの大陸が干渉すれば、あちらの強化は出来るのでは?」


 どう答えるレクス王。獣人種(そちら)が何故、人間から離れて生息しているのか。俺が掴むチャンスをどう扱う。


「それは…………出来ない」

「誓約でしょうか。それも神とのであれば、かなり強力な縛り。拡大解釈すら認められないそんな誓約」

「………」


 黙秘だが答えが出るようになっている。つまりは、そういうことも話してはならない条件なのだ。

 となれば、獣人であれば例外なく的なものになっていそうだ。が、ドッペは来ていた。


「シュアを向こうに連れて行くのはどうなる? ドッペはどうやって来た?」

「…………そうか!」


 何か思い付いたのを聞きたかったが。


「早く式を挙げねば!!」


 と走って行った。




 シュアと二人きりになり、少し重い空気だ。仕方あるまい、待ちに待った白馬の王子が、黒馬の殺人者に変わってたのだから。 


「もう、殺す必要のある人はいない………いや…元から必要はないのになぁ」


 漆黒意識から鬱か躁鬱になりそうだ。結婚という目標を達成したのを後悔して自殺するか、悔いなしと言って自殺するか。現場を見る人にとっては誤差のような……。


「大丈夫だよ」


 シュアはそう言いながら、胸に俺の顔を向かわせるようにする。その大丈夫は、誰に向かっているのだろう。何に向かっているのだろう。

 実力差でいけば《内対(ククラ)》を使って心を読む事は可能だが、これで使用していては完全に駄目な人になる。


 抱き返すべきだろう。うなじへ手を回す。


[互いに泣いてねぇ……深刻だぜこれは……]


 数分の沈黙後、振り切った可能性を《内対》が臭わせる。あぁ………人はこんなに簡単に狂うのか。いや、俺は元から狂ってたのか進んだだけか。


「ねぇ、ゼル」

「何だ?」

「今、言葉が出ない子でいいの?」

「……………言葉が無い方が良い時もあるさ」

「そう……」


 静かな空間というのは癒し。遮音&抗音の部屋は狂気の原因。親友関係なら無音に耐えれるという話が過る。親友より上の信頼を要求される関係になるのだ、耐えれて当然だろう。遮音・抗音は一人だから、静かでなくても彼女は癒しだ。


「わふ…」


 いつの間にか逆に胸を貸しており、シュアは尻尾をゆっくりと振っている。

 別に心を読む必要はなかった。忘れていた、獣人好きの一端はそこにあったじゃないか。まだ彼女は俺に好意的だ、そして彼女は主従で言えば従の方だから。


「俺は汚れた手を洗い続ける。お前は?」


 主の方針を示せば、従うか否かを示すはずだ。

 シュアは俺の腕から離れて悩んでいる。見つけにくいか、決めにくいかだろう。


「俺に付いて来るか、来ないか。俺としては付いて来て欲しいんだが」


 頭を撫でながら提案する。

 俺の欲を受け止めてくれるかい?無理なら諦めるよ。君を正室にするのは。そんな意味の言葉、盗聴されてようが最後を読み取れる奴はいないだろう。


 五分くらい待って答えが返る。


「ゼルの手、一緒に綺麗にしよ!」


 やはりシュアは天使だ。神が居ようと、天使信仰を始めてしまいそうだ。




 時間をずらして結婚式は始まった。新郎ゼノム・ルマ=アウゴ、新婦シュア・ラ・フィエータ。

 最前席には、王族の皆様が並び1列下がった所にアルゴがいる。


 シュアが俺に嫁ぐ形式で、王族の首飾り以外は俺好みにして言いと言われたので。


「ほぅ、見たことが無いな」

「……素晴らしい。あの素材をそう」

「…後付けらしい部分があるな…実際は過激な………ふふ……」


 と好評を受けるような、創作巫女服を混合させたものを着せた。勿論、バランスを取ったのは《内対》だ。


「………では誓いの接吻を」


 銀の糸を引かせた誓いは光の中に溶け込んだ。魔王と姫の純愛を、陽が祝福したかのように。  

追記:追記の為に見返してしまい

バルコニーが合ってるか不安になる


再追記:言い忘れてた。いきなり章設定にしてすいません。

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