醒める前に落ちる夢
頭が体から離れた。偽装するために血を吹き出すようにしたが、何かがおかしい。
よくよく見てみれば血より、氣と言った方が正しいものが首から吹き出てている。そんな風になるようにはしていない一体何が起きているのだろうか。
一人でに体が動き、近くの兵士の胸を貫いた。場の全員が固まる。目の前の現象に思考が追い付かない。
「ひぁっ」
やっと聞こえた声は被害者の声…か細く消えるはずのものが、鮮明に通る。
腕は抜かれず、しばらく刺さったままだった。兵士の顔は青くなり皺にまみれる。生命力吸収ならば、かなりの注意が必要だ。
「取り抑えよ!!」
その場の兵…装備の質を見るに近衛騎士だろう者から、指令が飛ぶ。勇敢に向かった者は二の舞、三の舞。それを見て足を止めた者も、区別なく鏖殺された。
無論、観衆の全ては場より逃れる為に走っていた。
「駄目だ!! 見えない壁がある!」
「いで! 圧すな!! 殺す気か?!!」
結界に阻まれ逃げれないようだ。即座な構築……もしや《内演算》は向こうに?
(《内演算》応答せよ)
そんな心の声は、最悪な方に転がった。頭のないソレがこちらを向いたのだ。完全に詰みである。物理的に切り刻まれるのは、この体にとって致命なのだから。
ソレの飛び込みと同時に、上から影が降りた。閃光と金属音に目を瞑る。開けばそこには。
「ゼノム様に、これ以上近づくな」
デュラムがソレと鍔競り合いをしていた。ソレの手は人ではなくなっており、見覚えから言えば…。
「いっだ?!」
「おいゼノム、俺の兵と共に死にたいらしいな」
「知らねぇよ! 俺だってあんな〈竜爪〉みたいなの始めてだわ!!」
「……では可能性として」
「ククラ=ニーツの封印対象が俺の体の主導権を握って暴走中! その対象はドラゴンの系統が大! 俺は悪くねぇ!!」
髪をサイフィに抜かれそうになりながら、必死に釈明する。
自分の体を自覚出来る訳がない。前世界だと、肉体的と精神的な2つで説明がほとんどつくが、現世では魔法や魂の方面まで見なくてはならない。
「くっ! 〈流転〉すら弾くか!!」
「…」
ククラは自分ごと、ナニカの魂と体を封印していた。俺が入って動かす程度では問題が起きなかったが、今回、魔力枯れな上の身体完全分離によって封印がいくらか解放。そして暴れている。
魔力枯らしたのはリヨン&レクスで、身体完全分離はサイフィと兵達だから。
「俺の責めに帰す部分は少ないな」
「……よしその分好きに動けるな? 働け」
「魔力すっからかんでさぁ。無理、無理」
「魔石だ、食え」
サイフィが持っていた魔石を、俺の口にねじ込む。死人が出たんだ、扱いが雑になってても仕方ないだろう。
「サイフィ! 貴様!! 帝国を売ったな?!」
「こいつらに価値が分かるとでも?」
「国賊め!! 死ね!」
リヨンがサイフィに火球を飛ばそうと、自分の周囲に浮かせた。素手で迎撃する気だったサイフィだが。
「?! どこから!???」
ソレがリヨンの側に居た。勿論、攻撃対象には違いないので、リヨンは浮かべた火球をソレに放った。
デュラムが追えない存在に、生身で立っていたのが悪く、リヨンは左目を刺された。
「ぁあぁぁぁぁぁ!!」
リヨンは転がりながら周囲を焼き続ける。ソレはゆったりとした足で追う。
デュラムは相手が離れたので追わず、こちらに来る。
「ゼノム様! あれは強いです!! どうか撤退を!!」
懇願だ。本当に危険な存在だとは感じている。しかし、それよりは。
「サイフィ、俺や臣民を置いて、マーシャ連れて逃げろ」
「は?」
「帝都から4kmは離れておけ」
「いやいやおかしいだろ? 何で数字が出るんだよ!!」
「…とりあえず帝都脱出は義務だ」
「意味分かんねぇよ! 糞が!」
地に投げられる。全身が詰まったこの頭へのダメージが、どれだけ深刻になると思っている。
きっとあれは『死』を呼ぶ。その中心に近い場に存在している魔物は……。
デュラムがキレたのか、サイフィに斬りかかる。いやあれは…狙っているな。
「来るな来るな来るな来るなぁあぁあ!! 私は救国者だぞ!!」
リヨンが追い詰められたのか、喚いている。悲しき人生だな。俺も下手したら追う事になるから、先に行って舟を予約しといてくれ。
「〈真斬〉!」
「〈運旋〉!!」
サイフィはシンプルに威力を上げた斬撃を放つ。それを受け流すかのように、デュラムは刀を走らせ上にサイフィを飛ばす。追撃されサイフィは間違いなく、結界に当たる。と思いきやデュラムが投げた刀が結界を破壊し、サイフィは外へ。
(行け。主の言う通りに)
デュラムはサイフィを追い出し〈念話〉を飛ばす。良い部下だ、俺の意を通す為の手段を考え、実行する。サイフィがどうするかはまた別だがな。
破れた結界は即座に修復され、俺は出れなかった。
一般人並みに走る為に、身体を形成する。そしてリヨンを始末したソレがこちらに……デュラムに向かう。
「今は私の方が魔力がありますからね」
奴も補給型…魔物の大抵がそうなのだろうが、他者を喰らった時の変換率に差があるのは事実である。そして上位者になればなる程、餌になる方に求められる強さも上がる。つまり俺は補食対象外ってことか? 《内演算》への呼びかけに反応したのは偶然だったのか?
疑問が尽きないまま、デュラムとソレの戦いが再度始まる。
ソレは正しく力だ。爪を立てるまでもなく、一撃一撃でデュラムの甲殻を外してゆく。外れた箇所は超速再生されるが、完治までソレの攻撃に耐えきれていない。ジリ貧は確実に待ち受けている。
前の時には俺が入れた状況だ。しかし今は無理だ。歯痒い、自分の無能さに恥を感じる。
「そうだ! あいつが元凶だ!」
「ゼノムぅうぅ!!」
怒りを向けられ、走って逃げるしか出来ない。流れ弾も来ず、一般の速さでしかない俺は組伏せられる。
それに気を取られたデュラムが、押しきられるのを見えた。身内の重傷を、自身も殴られながら見る……初〈トゥルズ〉並に精神がマイナスに振り切れた。
「逃げろ!」
「あ? ………あっ」
標的が変わりソレは民衆を襲う。やはり俺は無視か……溜まる血液の池の中を、デュラムに向かい這う。
後悔なのか、懺悔の為か………よく分からないままデュラムに向かう。胸に穴が空き上半身だけのデュラムに。
数分かけて到達した。デュラムは死の間際だ。かくいう俺もそうなのだろう、走馬灯らしきものが見えているのだから。
「デュラム……最期だぜ……」
「…………何て第二の……ゴフッ……生だ……」
デュラムが謎な事を口ずさむ。疑問に思った俺は質問を始めた。
「第二? 第一は何だ?」
「………事故だ……相手は……………爺だったかな…」
何て事はない。配下が記憶持ち越し転生をしていたという、普段であれば聞き返さずに分かる事だ。
「あ~……色々したかった………」
「諦めんなよ。無茶だろうけど」
「さらっと吸う?」
いつの間にか手が〈粘性体〉になっていた。助からないから吸収しようとしているのだ……最低過ぎる。
「ま………あんたが……まだ生きてるなら……」
「いやそれで勝利と言われても困る!! 今でさえ穴が空きそうなのに!」
「我がまま………」
「それでいいだろ?! 今は生きろよ!」
「……」
「おい! 前の名前聞いてねぇぞ! 黙るな!! ……頼むから…何か……」
デュラムが喋らなくなる。血液もゆっくりと流れ出るようになった。
「っ!! そうだ、召喚契約の繋がりで!!」
残り僅かな魔力を伝い、デュラムとの繋がりを探る。一度は見えた、ナノを余裕で越える細さの線が。本当に一瞬だけだった。
プッ
音……恐らく勝手に造った音がして、その線が切れ俺に回収される。
「これがこちらの死……死の繋がり………身内の死……俺のせいの………」
脳が視界が外側から黒に染められていく。
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「〈ゼノ〉の条件が達成か。〈万象庫〉外の魔王の誕生により、イレギュラー対処Lv5〈天使軍〉を発動……正直、間に合う気はしないが」
Q.何で活躍に思い入れのない人で?
A.思い入れなくても、顔真っ赤で叩いたりするじゃん?




