精神に致命的
体が重い……一体どれだけ深い傷を負ったのだろうか……間違いなくレクス王の剣が原因で……そもそもこの思考は何処でやっている。
辺りを見ても何もない。手を動かしている気はあるが見えないし、触れている感覚も同じくだ。ただ存在するとはこの事だろうか。
浮遊感も落下感も地に伏せている感覚もない。どれかあった方が楽だ。天に召されるのか、地獄に堕ちるのか、まだギリギリで生きているのか。不明こそ不安だ。タイプは分かれど、現状がどれか決まらないのは辛い。
魂への干渉の道でも開けたか?ものは試しに《内演算》を呼んでみる。
やはりというか応答はなかった。自力で抜けるにも、訳がわからない空間なので大人しくしておく。
とりあえず復習だ。レクス王の虹剣はエフェクト詐欺の毒だった。厄介さだけを跳ね上げた毒……治療のしにくさが段違いの毒だ。
体を蝕むのではない、もっと深く…魂への毒だ。罪の重さ等は関係してない、そうであれば教えられ『罪は消えないぞ』とか言われて……。
まだ起きない体に苛立ちを覚える。黒に染まる視界ほど飽きやすいものはない。
とりあえず前に一撃を出してみる。衝撃も何も反ってこない。次に寝転がり、ベッドから落ちるのを期待したがそんな事はなかった。
自分の体にも当てようとするが、すり抜ける感じだ。
もっと高めて__
おおよそ10分を測る時の曲を歌う。干渉が無理なら歌うしかない。が暇潰しも駄目だ、むしろ音すらないのを理解してしまい、非常に悲しくなる。
もう一つ腕があることを思い出し《物体変化》を動かす。触覚があった。
触覚を頼りに現状確認。どうやら何処かで寝かされているらしい。
逆に触れられる感覚……颯爽とその先を目指す様に伸ばす。対象の型を取った、見る限り犬系獣人。
シュアとは断定出来ずに、しばらく放置して考えこむ。ん?誰かが剥がそうとしているな……そんな簡単にはいかないし、むしろ剥がされまいとするから、苦しめてしまうのでは。
『ゼル、起きてるの?』
そんな声(?)が聞こえた。目が開けれないから寝ている判定です。しかしアクションなしは嫌なので。
『ひゃう?!』
ベッドに引き摺り込み、腕をセッティングし抱き締める。尻尾は立ち激しく振れている。
『もう……』
抱き返され何かが流れてくる。回復の波動というものか。
じわじわと体の感覚が戻るような気がして。
『てい!』
「プフォ!」
腹部への衝撃で口から息が漏れ、目が開く。怪我人への、目覚めの一撃にしては強すぎません? ワイの呼吸めっちゃ荒いんすけど?
「おはよう、ゼル」
積雪の中を思い出す近さだ。キスしそうになるのを、他にも居た事を思い出し止まる。
危ない。言い逃れ不能になるところだった。婚約されているとはいえ、好き勝手はいけない。
[既に挿して何を今更]
二人だけの秘密だからセーフだろ。
シュアの服装は白衣か……似合い過ぎる。
「おはよう、シュア」
「ごめんね。長く居ちゃ駄目なの」
そう言ってシュアはベッドから降り、服を整え扉へ向かう。
俺は起き上がろうとして、持ち上がる程度が限界になっていた。こんなに体力落ちてんのか……色々と不味いな。
振り返ったシュアが、戻って来てベッドに俺を押し付ける。
「ずっと寝てたんだから…直ぐには無理だよ」
そして今度こそ退室する。あっ、ちゃんと尻尾用に穴開いてるんだ。
(寝てたって何日間?)
[おおよそ4日]
長いな……EP1~91完走出来るじゃないか。それは落ちてても仕方が。
[まぁ剣の毒で魔力回路ズタボロなだけだけどね]
ただ単に体力が落ちるよりヤバい。そんなんでよく《物体変化》動かせたなおい。
[終盤出さなくてよかった]
そういう。回路が破壊されてないから働けると。
[《物体変化》を中に入れれば動けるぞ。まぁでも毒の中和もしなきゃなのに、二度手間な魔力消費はオススメしない]
非推奨なだけと。まぁそういうものだろうな、俺の意志に添う中、それが《内演算》なのだから。
(シュアの撮e)
[やーらーなーいー]
当然の措置をされる。添わない……いや合わない時だってある。
とはいえ外出しないのも嫌なので、車椅子のように外套を変え部屋を出る。周囲の目は……二度見が基本だ。起きられると思ってなかった存在が動いている。それだけで車椅子は珍しそうではない。
一階への階段に着く。降りる必要があるが、車椅子を想定していないので段差のままだ。球体で駆け降りても、止まるには壁か床が死ぬので却下。蜘蛛型という複雑なものは、魔力消費が高い。単純な直線の延長をするしかないだろう。
外套を階段の下へ広げ、上の方に車椅子が乗る程度の三角ブロックを出現させる。専用エスカレーターを使い、一階へ。
一階の様子は何とも安らぐ。木や薬品の香りに包まれ、静かにするべき空間とよく分かる。
「あの」
治療所から出ようとしたところを、背後から呼び止められる。振り替えれば、黒猫の看護婦。前世界だと高校生だろうな。
シュアに会う前だったら、誘拐を実行する位の情が沸き立つ。
「何?」
[シュアとの遊び以外で聞いた事ない声だわ]
非常に爽やかな声を出してしまったようだ。シュア以外には使わない気でいたが仕方ない。
黒猫ちゃんは、声に好意を持ったのか頬が赤くなる。うーん早い。
「シュア様から、脱走しそうになったら阻止しろと……」
シュア? お前は何を命じているんだ? こんな娘を俺の前に出すなんて……俺がどれだけ、お前の耳と尻尾を玩んだのか忘れてないか?
彼女の匂いを嗅げる距離から離れなければ……そう考えて前進する。が、治療所から6m離れた所で捕まる。
正確に言えば捕まえられに行っただ。走って追いかけてきたが。
「にゃ"……! …………みゅー」
転びかけたのを《物体変化》で助けた。この時点で、ドジ属性を視野に入れた俺は帰る事にした。逃げたらそのまま裏路地迷子か、黒塗りのケンタウロス馬車に衝突してしまうからだ。絶対に危ないし、俺が処理するはめになり、吊り橋効果の犠牲者第二号になるのはごめんだ。
(子犬と子猫の同時は困る)
[あくまでパワーやん……お前の年でそれはなぁ……]
車椅子に持ち手を追加し治療所に帰る。押してみて車椅子の再現率の高さに。
「足を使わなくても、動けるんですね!」
とキラキラした目で興奮している。
……シュア……お前…………これはあれか?ハーレムを形成しろと言うのか?まだ式を上げる前なのに…いや分かってるよ、目の保養とか一番時間空いてる人員を選んだ結果だって。けどさ……俺がお前のどんな仕草でスイッチが入ってしまうのか、俺にとってどんな表情が扇情なのかを教えたはずだよな……。
「どうかされました、ゼノム様?」
寝かし付けられた俺に迫らんでくれ。目が可愛すぎる。
「しばらくは動けないよ……仕事戻っていいよ」
「見張るのが仕事なので」
かなりの間、同室なのね……襲う気力が出ないのがせめてもの救いだ。
[1:57]
(なぁもしかして)
[ん? ノワちゃんの事か?]
(あぁ。魔法を使うからシュアのは切ったが)
[もちろん匂いは封し、寝落ちした時の唾液は採取したぞ]
言わなくても、表層心では喜べない事を実行する。そんな知能に育ったスキル《内演算》。
(不穏な未来しか見えない)
いや本当だから!ハーレム要員にする気ないから!!
とある剣を持った黒猫?
是非とも飼われたいものです。




