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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
64/261

精神に致命的

 体が重い……一体どれだけ深い傷を負ったのだろうか……間違いなくレクス王の剣が原因で……そもそもこの思考は何処でやっている。


 辺りを見ても何もない。手を動かしている気はあるが見えないし、触れている感覚も同じくだ。ただ存在するとはこの事だろうか。


 浮遊感も落下感も地に伏せている感覚もない。どれかあった方が楽だ。天に召されるのか、地獄に堕ちるのか、まだギリギリで生きているのか。不明こそ不安だ。タイプは分かれど、現状がどれか決まらないのは辛い。


 魂への干渉の道でも開けたか?ものは試しに《内演算》を呼んでみる。

 やはりというか応答はなかった。自力で抜けるにも、訳がわからない空間なので大人しくしておく。


 とりあえず復習だ。レクス王の虹剣はエフェクト詐欺の毒だった。厄介さだけを跳ね上げた毒……治療のしにくさが段違いの毒だ。

 体を蝕むのではない、もっと深く…魂への毒だ。罪の重さ等は関係してない、そうであれば教えられ『罪は消えないぞ』とか言われて……。


 まだ起きない体に苛立ちを覚える。黒に染まる視界ほど飽きやすいものはない。

 とりあえず前に一撃を出してみる。衝撃も何も反ってこない。次に寝転がり、ベッドから落ちるのを期待したがそんな事はなかった。


 自分の体にも当てようとするが、すり抜ける感じだ。


もっと高めて__


 おおよそ10分を測る時の曲を歌う。干渉が無理なら歌うしかない。が暇潰しも駄目だ、むしろ音すらないのを理解してしまい、非常に悲しくなる。


 もう一つ腕があることを思い出し《物体変化》を動かす。触覚があった。


 触覚を頼りに現状確認。どうやら何処かで寝かされているらしい。


 逆に触れられる感覚……颯爽とその先を目指す様に伸ばす。対象の型を取った、見る限り犬系獣人。

 シュアとは断定出来ずに、しばらく放置して考えこむ。ん?誰かが剥がそうとしているな……そんな簡単にはいかないし、むしろ剥がされまいとするから、苦しめてしまうのでは。


『ゼル、起きてるの?』


 そんな声(?)が聞こえた。目が開けれないから寝ている判定です。しかしアクションなしは嫌なので。


『ひゃう?!』


 ベッドに引き摺り込み、腕をセッティングし抱き締める。尻尾は立ち激しく振れている。


『もう……』


 抱き返され何かが流れてくる。回復の波動というものか。

 じわじわと体の感覚が戻るような気がして。


『てい!』

「プフォ!」


 腹部への衝撃で口から息が漏れ、目が開く。怪我人への、目覚めの一撃にしては強すぎません? ワイの呼吸めっちゃ荒いんすけど?


「おはよう、ゼル」


 積雪の中を思い出す近さだ。キスしそうになるのを、他にも居た事を思い出し止まる。

 危ない。言い逃れ不能になるところだった。婚約されているとはいえ、好き勝手はいけない。


[既に挿して何を今更]


 二人だけの秘密だからセーフだろ。


 シュアの服装は白衣か……似合い過ぎる。


「おはよう、シュア」

「ごめんね。長く居ちゃ駄目なの」


 そう言ってシュアはベッドから降り、服を整え扉へ向かう。


 俺は起き上がろうとして、持ち上がる程度が限界になっていた。こんなに体力落ちてんのか……色々と不味いな。


 振り返ったシュアが、戻って来てベッドに俺を押し付ける。


「ずっと寝てたんだから…直ぐには無理だよ」


 そして今度こそ退室する。あっ、ちゃんと尻尾用に穴開いてるんだ。


(寝てたって何日間?)

[おおよそ4日]


 長いな……EP1~91完走出来るじゃないか。それは落ちてても仕方が。


[まぁ剣の毒で魔力回路ズタボロなだけだけどね]


 ただ単に体力が落ちるよりヤバい。そんなんでよく《物体変化》動かせたなおい。


[終盤出さなくてよかった]


 そういう。回路が破壊されてないから働けると。


[《物体変化》を中に入れれば動けるぞ。まぁでも毒の中和もしなきゃなのに、二度手間な魔力消費はオススメしない]


 非推奨なだけと。まぁそういうものだろうな、俺の意志に添う中、それが《内演算》なのだから。


(シュアの撮e)

[やーらーなーいー]


 当然の措置をされる。添わない……いや合わない時だってある。


 とはいえ外出しないのも嫌なので、車椅子のように外套を変え部屋を出る。周囲の目は……二度見が基本だ。起きられると思ってなかった存在が動いている。それだけで車椅子は珍しそうではない。


 一階への階段に着く。降りる必要があるが、車椅子を想定していないので段差のままだ。球体で駆け降りても、止まるには壁か床が死ぬので却下。蜘蛛型という複雑なものは、魔力消費が高い。単純な直線の延長をするしかないだろう。

 外套を階段の下へ広げ、上の方に車椅子が乗る程度の三角ブロックを出現させる。専用エスカレーターを使い、一階へ。


  一階の様子は何とも安らぐ。木や薬品の香りに包まれ、静かにするべき空間とよく分かる。


「あの」


 治療所から出ようとしたところを、背後から呼び止められる。振り替えれば、黒猫の看護婦。前世界だと高校生だろうな。

 シュアに会う前だったら、誘拐を実行する位の情が沸き立つ。


「何?」

[シュアとの遊び以外で聞いた事ない声だわ]


 非常に爽やかな声を出してしまったようだ。シュア以外には使わない気でいたが仕方ない。


 黒猫ちゃんは、声に好意を持ったのか頬が赤くなる。うーん早い。


「シュア様から、脱走しそうになったら阻止しろと……」


 シュア? お前は何を命じているんだ? こんな娘を俺の前に出すなんて……俺がどれだけ、お前の耳と尻尾を玩んだのか忘れてないか?


 彼女の匂いを嗅げる距離から離れなければ……そう考えて前進する。が、治療所から6m離れた所で捕まる。


 正確に言えば捕まえられに行っただ。走って追いかけてきたが。


「にゃ"……! …………みゅー」


 転びかけたのを《物体変化》で助けた。この時点で、ドジ属性を視野に入れた俺は帰る事にした。逃げたらそのまま裏路地迷子か、黒塗りのケンタウロス馬車に衝突してしまうからだ。絶対に危ないし、俺が処理するはめになり、吊り橋効果の犠牲者第二号になるのはごめんだ。


(子犬と子猫の同時は困る)

[あくまでパワーやん……お前の年でそれはなぁ……]


 車椅子に持ち手を追加し治療所に帰る。押してみて車椅子の再現率の高さに。


「足を使わなくても、動けるんですね!」


 とキラキラした目で興奮している。


 ……シュア……お前…………これはあれか?ハーレムを形成しろと言うのか?まだ式を上げる前なのに…いや分かってるよ、目の保養とか一番時間空いてる人員を選んだ結果だって。けどさ……俺がお前のどんな仕草でスイッチが入ってしまうのか、俺にとってどんな表情が扇情なのかを教えたはずだよな……。


「どうかされました、ゼノム様?」


 寝かし付けられた俺に迫らんでくれ。目が可愛すぎる。


「しばらくは動けないよ……仕事戻っていいよ」

「見張るのが仕事なので」


 かなりの間、同室なのね……襲う気力が出ないのがせめてもの救いだ。






[1:57]


(なぁもしかして)

[ん? ノワちゃんの事か?]

(あぁ。魔法を使うからシュアのは切ったが)

[もちろん匂いは封し、寝落ちした時の唾液は採取したぞ]


 言わなくても、表層心では喜べない事を実行する。そんな知能に育ったスキル《内演算》。


(不穏な未来しか見えない)   

いや本当だから!ハーレム要員にする気ないから!!


とある剣を持った黒猫?

是非とも飼われたいものです。

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