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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
59/261

手合わせ

 わざと暴行された後、広場をデュラムが見つけたらしいので行った。うん、ここ闘技場の類いだよね? 席でお喋りしてる人もいるし、どうした?


「南海の素材を売って借りました」

「もしかして収納空間持ちに?」

「そうですね。かなりの労力が要りました」


 デュラムが大きく成長していた。何より収納空間が可能なら、空間的認知能力が跳ね上がっているはずだ。修行原因の強酸と寒冷に耐性は絶対。言わないだろうが、毒耐性に挟みの強度も上がっている。

 身近な強敵と言ったところか……主が強くなるための要員へとなる部下。忠義や大義の体現者だ。眩しい。


「多少壊しても問題ないよな?」

「えぇ。むしろ想定してないのが悪いかと」


 何せ壁に何も仕組まれていないのだ。レンガが積まれているだけの壁。確かに壁に追い込み、そのまま倒せば、多少の崩れで済むだろうがそうはいかない。

 俺らの場合だと追い詰められたら、壁を蹴り粉を舞わせ、砕けた破片を目に投げ、まだ形のあるもので殴るくらいはやるだろう。そして俺は《天地一体(オールフュージョナー)》を使い、ゴーレム製作をし始める。


 間違いなく会場が消えるだろう。壁を利用せずとも、投技の先が天か地かなら読みやすいし、魔法等の遠距離攻撃で壊れるのが目に見える。


「随分と気を使う模擬戦だな」

「申し訳ありません。まさかここまで貧弱とは」

「仕方ない、純粋な剣と拳闘しよう」


 そう言って俺は《物体変化》で日本刀の形へ、デュラムは……お前もか。


「壁は使わない、体が付いても負けだ」

「あとは見栄え上、致命傷なもので」

「あぁでは参る」


 剣道で見る姿勢のまま、ゆったりと歩き間を詰める。飛ぶ斬撃は使えないからな。ただカマイタチ現象は諦める。そんな速度の砂塵を想定していないのが悪い。

 俺は悪くねぇ! あいつ! あいつらが壁を駄目にしたんだ! 神の御技になんて事を!! 高さ50m厚さ50cmの壁を俺が築く!!


 デュラムの右肩から袈裟斬りを狙う。胸を滑りデュラムの接近、蹴りは待たれていると思いサイドステップ。逆に読まれ左の横薙ぎ。刀を縦にし受ける。

 重い。〈トゥルズ〉並みの力だ。

 回転しバランスを整えつつ威力を分散。戻る頃には、デュラムが俺の胴の左と右目へ突きを放つ。右は壁に近くなるので、左へ跳ぶ。ついでに顔への蹴り、バックステップで回避される。

 走りながら突きを放つ、デュラムが上に行ったのを確認し上げるように斬る。


ギィィン


 両方を交差させた形で受け止められる。そのまま俺の首へ、左手を放し交差の中心をアッパー。デュラムの両手は上がるが、足で刀を挟まれ突きを止められる。

 片手で引き抜いて姿勢を戻す。デュラムは後方転回(いわゆるバク転)を繰り返し、間を空けて着地。


「ふむ……決め手に欠けるな」

「一撃必殺であるべきですからね……でもまだまだですよね?」


 その通りだ。エンジンがまだ掛かっていない。回路の出力の三割もいってないのではないのだろうか。

 頷きながら構えを緩める。


「行きます!」


 デュラムがオーラを纏い、赤き彗星と化す。3倍か……アイスクリームでも奥歯に仕込んでいたのか?


 彗星の残像が俺を囲む。現状の《空間陸覇》の処理速度では追えないのだろう。しかし……撮影は止められない。

 達人へ至る試練と思ってやってやろう。ちょいちょいかすり傷のようなものが出てしまうが、勝敗条件外なので無視。


 追えないと思わせて……と深読みしているデュラムは消極的な攻撃を続ける。背中への攻撃を、肘で弾いたのが効いたのだろうか。

 しかし全然緩む気配がない。デュラムは俺の走る為だけの走りより速く、戦闘用に仕上げている。そんな気がしてたまらない。

 威厳として負ける訳には……。


[威厳。だってお]


 そういえば《内演算(こいつ)》が働いているのかは、非常に分かりにくいのだった。サボってフレームレートを落としている可能性だってある。が、試練的時間の今は問い詰める必要なし。


 さて、どう崩したものか……まず砂でもかけよう。足で8方向に砂をかける。一瞬、円が大きくなるがすぐに修正。

 続いて地面を殴る。浮いたのが見えた。


「はぁっ!!」


 息を出しながら少し先を斬る。少しバランスが崩れただけだが、連撃を避けるためデュラムは転がる。追うがこれも速い、追い付けずに立ち上がらせてしまう。

 

 うーむ……南極に戦士でもいたのだろうか。そんな錬度の技術だ。

 まだエンジンが…は流石に失礼だろう。


(シュアの様子は?)

[あと20分は、夜のお誘い講座みたいだぞ]

(楽しみは取り置くべきだな、撮影解除。あと同講座については今後、撮影及び録音を禁ずる)

[了解。魔力回路の段階上昇]


 問題はなかった。むしろ見ないでいた方が良いものだった。作法に俺が乗っ取れないが、そこを察した上での講座だろう。あぁ待ち遠しい。


「征くぞ」


 刃先を下に向けブラブラと歩き、デュラムへ近付く。


「次は何をする気だ?」

「読める訳がねぇだろ」

「見え見えに油断を誘ってる。しか分からん」

「あれ決闘の人じゃね?」


 観客がそれなりになっていた。デュラムの砂塵が、外に漏れていたのだろうか。それとも鉄の音に集まったのだろうか。何にせよ気分が高揚する。


「人が居ますね……」

「あぁ、見せるものではない。さっさと決めるぞ」


 が盛り上がり過ぎてはいけない。嬉々として客の空いている席を足場に、攻撃をしかけそうだからだ。


「では!」


 また彗星となりそうだったデュラム。

 くっきり。遠距離貫通撮影は、かなりの容量を使っていたようだ。

 ゆったりと体の軸をずらし、デュラムの先へ刀身を送る。弾くつもりだったのが、重かったのかデュラムは飛び越えようとする。

 見えているので、刀を反しデュラムの背中に叩き込む。


ドゴォ


「修理費用意しなきゃな……いや……俺が作るか」


 デュラムは壁にめり込んだ。失明は……すぐに出てきたのを見た限り、大丈夫なようだ。


ぉぉぉおおおおぉおぉぉぉお!!!


 これが歓声と言うものか。あぁ良いものだ。感謝せねばなるまい。あと申し訳ないが、これで終わりと言うことを。


「えー。こいつが壁に体を付けたので私の勝利です。御観戦、ありがとうございました」


 デュラムと共に礼をする。拍手に送られ退場。


「じゃあ修理よろしく。土魔法出来るならすぐだって」


 アライグマらしさのある風貌の兄ちゃんに、肩を叩かれそう言われた。





 修理作業は深夜に行った。


「ふざけんなてめぇ!」

[いやいやいや、撮影中止したなら再開宣言して貰わないと……そんなにぃあたしぃ自動じゃなぃよぉ?]


 苛ついて壁を殴り、一角を駄目にしたのを、忘れる事はないだろう。再開宣言とパワーセーフティは忘れてはならない事項となった。

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