手合わせ
わざと暴行された後、広場をデュラムが見つけたらしいので行った。うん、ここ闘技場の類いだよね? 席でお喋りしてる人もいるし、どうした?
「南海の素材を売って借りました」
「もしかして収納空間持ちに?」
「そうですね。かなりの労力が要りました」
デュラムが大きく成長していた。何より収納空間が可能なら、空間的認知能力が跳ね上がっているはずだ。修行原因の強酸と寒冷に耐性は絶対。言わないだろうが、毒耐性に挟みの強度も上がっている。
身近な強敵と言ったところか……主が強くなるための要員へとなる部下。忠義や大義の体現者だ。眩しい。
「多少壊しても問題ないよな?」
「えぇ。むしろ想定してないのが悪いかと」
何せ壁に何も仕組まれていないのだ。レンガが積まれているだけの壁。確かに壁に追い込み、そのまま倒せば、多少の崩れで済むだろうがそうはいかない。
俺らの場合だと追い詰められたら、壁を蹴り粉を舞わせ、砕けた破片を目に投げ、まだ形のあるもので殴るくらいはやるだろう。そして俺は《天地一体》を使い、ゴーレム製作をし始める。
間違いなく会場が消えるだろう。壁を利用せずとも、投技の先が天か地かなら読みやすいし、魔法等の遠距離攻撃で壊れるのが目に見える。
「随分と気を使う模擬戦だな」
「申し訳ありません。まさかここまで貧弱とは」
「仕方ない、純粋な剣と拳闘しよう」
そう言って俺は《物体変化》で日本刀の形へ、デュラムは……お前もか。
「壁は使わない、体が付いても負けだ」
「あとは見栄え上、致命傷なもので」
「あぁでは参る」
剣道で見る姿勢のまま、ゆったりと歩き間を詰める。飛ぶ斬撃は使えないからな。ただカマイタチ現象は諦める。そんな速度の砂塵を想定していないのが悪い。
俺は悪くねぇ! あいつ! あいつらが壁を駄目にしたんだ! 神の御技になんて事を!! 高さ50m厚さ50cmの壁を俺が築く!!
デュラムの右肩から袈裟斬りを狙う。胸を滑りデュラムの接近、蹴りは待たれていると思いサイドステップ。逆に読まれ左の横薙ぎ。刀を縦にし受ける。
重い。〈トゥルズ〉並みの力だ。
回転しバランスを整えつつ威力を分散。戻る頃には、デュラムが俺の胴の左と右目へ突きを放つ。右は壁に近くなるので、左へ跳ぶ。ついでに顔への蹴り、バックステップで回避される。
走りながら突きを放つ、デュラムが上に行ったのを確認し上げるように斬る。
ギィィン
両方を交差させた形で受け止められる。そのまま俺の首へ、左手を放し交差の中心をアッパー。デュラムの両手は上がるが、足で刀を挟まれ突きを止められる。
片手で引き抜いて姿勢を戻す。デュラムは後方転回(いわゆるバク転)を繰り返し、間を空けて着地。
「ふむ……決め手に欠けるな」
「一撃必殺であるべきですからね……でもまだまだですよね?」
その通りだ。エンジンがまだ掛かっていない。回路の出力の三割もいってないのではないのだろうか。
頷きながら構えを緩める。
「行きます!」
デュラムがオーラを纏い、赤き彗星と化す。3倍か……アイスクリームでも奥歯に仕込んでいたのか?
彗星の残像が俺を囲む。現状の《空間陸覇》の処理速度では追えないのだろう。しかし……撮影は止められない。
達人へ至る試練と思ってやってやろう。ちょいちょいかすり傷のようなものが出てしまうが、勝敗条件外なので無視。
追えないと思わせて……と深読みしているデュラムは消極的な攻撃を続ける。背中への攻撃を、肘で弾いたのが効いたのだろうか。
しかし全然緩む気配がない。デュラムは俺の走る為だけの走りより速く、戦闘用に仕上げている。そんな気がしてたまらない。
威厳として負ける訳には……。
[威厳。だってお]
そういえば《内演算》が働いているのかは、非常に分かりにくいのだった。サボってフレームレートを落としている可能性だってある。が、試練的時間の今は問い詰める必要なし。
さて、どう崩したものか……まず砂でもかけよう。足で8方向に砂をかける。一瞬、円が大きくなるがすぐに修正。
続いて地面を殴る。浮いたのが見えた。
「はぁっ!!」
息を出しながら少し先を斬る。少しバランスが崩れただけだが、連撃を避けるためデュラムは転がる。追うがこれも速い、追い付けずに立ち上がらせてしまう。
うーむ……南極に戦士でもいたのだろうか。そんな錬度の技術だ。
まだエンジンが…は流石に失礼だろう。
(シュアの様子は?)
[あと20分は、夜のお誘い講座みたいだぞ]
(楽しみは取り置くべきだな、撮影解除。あと同講座については今後、撮影及び録音を禁ずる)
[了解。魔力回路の段階上昇]
問題はなかった。むしろ見ないでいた方が良いものだった。作法に俺が乗っ取れないが、そこを察した上での講座だろう。あぁ待ち遠しい。
「征くぞ」
刃先を下に向けブラブラと歩き、デュラムへ近付く。
「次は何をする気だ?」
「読める訳がねぇだろ」
「見え見えに油断を誘ってる。しか分からん」
「あれ決闘の人じゃね?」
観客がそれなりになっていた。デュラムの砂塵が、外に漏れていたのだろうか。それとも鉄の音に集まったのだろうか。何にせよ気分が高揚する。
「人が居ますね……」
「あぁ、見せるものではない。さっさと決めるぞ」
が盛り上がり過ぎてはいけない。嬉々として客の空いている席を足場に、攻撃をしかけそうだからだ。
「では!」
また彗星となりそうだったデュラム。
くっきり。遠距離貫通撮影は、かなりの容量を使っていたようだ。
ゆったりと体の軸をずらし、デュラムの先へ刀身を送る。弾くつもりだったのが、重かったのかデュラムは飛び越えようとする。
見えているので、刀を反しデュラムの背中に叩き込む。
ドゴォ
「修理費用意しなきゃな……いや……俺が作るか」
デュラムは壁にめり込んだ。失明は……すぐに出てきたのを見た限り、大丈夫なようだ。
ぉぉぉおおおおぉおぉぉぉお!!!
これが歓声と言うものか。あぁ良いものだ。感謝せねばなるまい。あと申し訳ないが、これで終わりと言うことを。
「えー。こいつが壁に体を付けたので私の勝利です。御観戦、ありがとうございました」
デュラムと共に礼をする。拍手に送られ退場。
「じゃあ修理よろしく。土魔法出来るならすぐだって」
アライグマらしさのある風貌の兄ちゃんに、肩を叩かれそう言われた。
修理作業は深夜に行った。
「ふざけんなてめぇ!」
[いやいやいや、撮影中止したなら再開宣言して貰わないと……そんなにぃあたしぃ自動じゃなぃよぉ?]
苛ついて壁を殴り、一角を駄目にしたのを、忘れる事はないだろう。再開宣言とパワーセーフティは忘れてはならない事項となった。




