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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
56/261

試練5 

更に時を飛ばす男

「いい加減倒れろよ!」

「キサマコソシズメ!!」


 〈キテル〉との対決は19日間に跨がっている。《内演算》は言わなかったが、恐らく睡眠不要の域に達してしまったのだろう。もしくは〈キテル〉の性質上、寝ようにも寝れないだけかもしれない。

 しかしこういう時には、人外の身であることへ感謝せねばなるまい。人の身は数日寝ないだけで気絶する。まともな動物でも同じであろう。


「《天地一体(オールフュージョナー)》!」


 スキル名を叫びながら行使する。でなければ〈キテル〉に操作が乗っ取られるからだ。


「グゥ!」


 一応の生物らしさはあるので、体内の血管と身体の外側を融合させたりは出来る。ただどんなに太い血管でやろうとも、回復が間に合う。


「イマイマシイ!!」

「邪神が忌むか……」

[いつの間に神聖属性を…!]


 《内演算》はいつもの調子だ。19日間もネタがよく持つものだ。


「ウケトメレマイ!」


 そう言って放っているだろう、狂気確定大容量テレパシーは決め手にならない。代わりに。


「またか」


 状態異常の出方がまさに異常だ。何体、水生生物が空を泳げるようになったのだろう。邪神の信者となり、必ず俺に来るから対処せねばならないのは。

 半身は必ず海からは出れないようなので、実力的には本来の1/4だろう。それでもなお、19日かかって殺しきれない。

 

 もはや悪魔と同じと考えた方が……?! まさかの可能性。あれはあの作品の悪魔限定のはず……いやもう一つあったか。ならばもう試すしかない。


 俺は海溝を目指し、海へ突っ込んだ。下へ下へ全速力で。触手を空気の刃で削り、黄色い布で人型のデコイを作り、またミートボールに麺を巻き付けたモノで気を引いた。グングン差がつく。


 海溝は漆黒だ。《空間陸覇》での反響のみが信用出来る。しかし上の〈キテル〉以外は何もない。


 また彼の友人を思い出す。何かがとんでもなかった彼を。


 影響がない。ただ思い出すのは駄目なようだ。彼への敵意を燃やしてみる。

 連打王、神笛、前作で厳選終了、ゴール装備……そして発想。


[そのまま右!]


 岩壁を《天地一体》で抜ける。そこには、何とも言い難い姿があった。


「ソレデ……ドウスル?」


 目がどれかは分からないが、俺を見ずに問われる。多分、殺るか利用するかを聞きたいのだろう。

 正直に言えば利用しかない。どれだけ下限にしようが、3桁は生きている存在の話は聞きたい。他の神々の話もだ、新旧の逆転が起きている可能性だってある。更に言えば……。


「どうもしないさ。俺はただ蟹を採りに来ただけだし」

「……」

「お前の縄張りとして機能していたんだ。俺が狙われるのは確実だろ?」

「マッタンデオワレヨ」

「……強い存在が居るし、つい戦いたくなって……」


 駄目だこいつ……。そんな意思が伝わってくる。それもそうだ〈トゥルズ〉の殲滅だけで終わり、蟹を捕りながら対処すれば、変に日数も取られなかったのだから。


「スキニサイシュスルガイイ」

「お前に話を聞きに来る事もあるぞ」

「ツマラナイハナシ………タダ…デルダケダ」


 ………攻撃手法と余波とかのせいで、邪神認定されただけの方ですか。それとも反省と更正をガッツリやったか……どちらにせよ哀愁を漂わせる不思議生命体〈キテル〉との仲が出来たようだ。




 数日で蟹の漁は地獄だった。なにより〈トゥルズ〉素材と〈キテル〉素材で空間収納に空きがないのだ。蟹を凍らせた山が出来上がる。


「ウマイウマイ」

「てめぇは食うな……絶滅する…」


 〈キテル〉が興味を持って嵌まった。しかも本体の小さな方ではなく分体の大きい方でだ。穴場となっていたのは配下生成に夢中なせいだったか、と思う。




[残り5日]


 《内演算》の一言で意識が変わる。不味い。この山を持って行く方法を考えてなかった。筋力のみでは無茶なので《物体変化》も併用するが、その間の海の魔物への対処が出来ないのだ。


「ワレモホンタイガナ………」


 〈キテル〉は本体から離れないらしく、港近くまで来てもらえない。一体どうしたら……すると。


「ヒククナゲツヅケロ」

「………は?」

「スコシズツナゲレバヨイ」


 投げたものを自分で追う、という対処方を教えてもらった。確かにそれだと滞空中は自由に動かせるが。


「絶対折れる……」


 負担が重すぎるのは見えている。氷山を投げては持つ、持っては投げるのだから。魔力切れだのは確実。


「おい。距離はどうなっている」

[内緒]


 《内演算》が協力しない。黒幕やその手先感が満載だ。

 手を諦めて他の………転移しか思い浮かばない。駄目だ、座標がないとあれは発動すらしない。空気中の魔素と同化や門生成タイプは、この山を持って行くには不適当だし出来ない。神の元へ行ってから再送の二度手間タイプもない。

 そんな風に明後日の方を見続ける俺に。


「ゼノム……オモイハソノテイドカ?」

「……」


 そう言って〈キテル〉は、触手を振り海の底へ帰った。


「そうだよな……辛くないことして嫁が来る訳がないよな……」


 二次元も媒体と媒介を金を払って揃える必要が。金の為には働く必要がある。

 今は、主張と行動が伴わない他人も、何をしようが批判する(みん)もない。その恵まれた環境で、幻想存在(ゆめ)だった彼女(シュア)との幸せを逃す?とんでもない。


[早くしねぇと猪鼻に取られるぞ。豚ぁ]


 訂正、批判民は存在した。


 意を決して俺は蟹山を投げた。体が衝撃を解って止まりかけるのを。


「止まるナァアァァァァアッ!!!!」


 叫んで動かす。無理矢理、山を持ちに海面を駆ける。

 やめろ、死ぬぞ、痛いぞ、泣くぞ、ほら泣いてるぞ。そんな事を体が語る。本能が反射的に痛苦から逃れようとする。前世界のままならこの時点で止めていただろう。いや、体に止めさせられたが正確か。


(《内演算》!!!!! 臆病者を黙らせろ!)

[ガバガバな命令は受け取らない。勝手に動くだけ]


 しかし、この体を操るのは俺だけではない。実質二人で動かしているのだ。俺が根を上げようと《内演算》が鬼畜に酷使して無双する。《内演算》が理論的に止めようなら、俺が感情的に突っ込む。対極な相棒のような関係だ。間違っても"せいさい"のルビは振らないが。


 第一回目のキャッチ。体が言った通りの辛さだ、海の藻屑……全くもって気を抜けないペア作業を体感する。

 二回目の投げ。薄氷では無理なので《物体変化》を足裏から海底へと伸ばして〈氷与(エンチャント アイス)〉で摩擦を稼ぐ。


「〈角力(アトラス)〉ぅぅぅぅぅう!!!」


 適当な当て字をしながら投げる。大声に反応してか様々なものが寄って来る。

 

__あぁ、何て煩い生態だ。死ぬがよい、試練を阻むものよ。貴様らの死骸の上に、絶頂は待っている。骸の山を築く事でしか魔法(このような)世界では、幸せを掴む事が出来ぬのだ__


「〈命不全(タナトス)〉」


 即死系統の魔法を放ち、二回目のキャッチ。軽くなったように感じながら三回目を。


_______________________________________________




「おい! 何だあれ!!」

「知らねえよ!氷山が飛ぶなんざよぉ!」


 〈フェリオス王国〉の港は緊急事態となった。氷の山がジワジワと寄ってくるのだから。


「む? あれは……」


 鷹顔は何かが見えたようだ。それに合うものを記憶の棚から探す。見つけ出し。


「あー………迷惑な方だ」


 感想を述べる。またも振り回されるのだから当然だ。細かく見れば氷山の中は蟹だと分かる。まさしく試練を自力で越える気なのだろう。


「……どこに置くつもりなのでしょう」


 嫌な予感の通りに海が凍りつく。暫く出航は出来なさそうだ。鷹顔は隊長に押し付けられる、書類の山を幻視した。

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