試練2
なんか出来上がってた
シュアのような回復がないのに無茶な事をする。一体どんな期間、治療に時間をかける羽目になるのか。
[馬鹿なの? 死ぬの?]
いつもの辛辣さで安心した。こんな風な心配の仕方は、卑屈野郎にはGOサインと同等である。
[治す期間を考えろ。死にかけパワーアップを期待しても無駄無駄]
(気合いでどうとでもしてやろう)
[7年5ヶ月間、眠りにつけ]
(7時間5分へ訂正だ)
何時になく《内演算》が止めに来る。確率的に低いせいだ。基本、助かる見込みないからな。
[飛ばすにも接触は]
(あぁ、直でなければセーフだ。アトラスのガバで)
(■!)
会話に割り込まれる。今のは『おい!』だろう。自身を目前に話されてはへこむのは当然。
直に掴まなくていい方法。念力などではない。思い浮かぶのは『これも計算の内か』____
「我は解く者」
__いつの間にか詠唱を始めていた。触手の動きも遅くなった気がする。
__前世界でもたまにあった。目が異様に遠くまで見えたり、世界の音が速く聞こえたりする現象だろう。にしても口が止まらない。
「空の先に在りし宇宙は凍てつく純凍。生を止める死の風が漂うものなりて、空に隔たれ在るもの。されど今、その隔たりを解かん」
__触手が凍る。謎だ、まだ発動すらしていないのに。
「空に穿たれし宇宙への穴。流れ来たれ死の風よ、我が前へ注げ〈降零〉」
__口から出任せ、しかし効果は見える。遥か上より落ちてくる。宇宙の一部が降りてくる。
__ほんの一瞬の光。そして急速冷凍。勿論〈トゥルズ〉だけで済む訳もなく、地形が出来上がる。
__地を這い氷塊となった〈トゥルズ〉へと駆ける。未だ不思議な感覚だ。これは本当に俺の体と思考なのか?《内演算》も静か過ぎる。
「我は力を望む」
__またも勝手な言葉が出る。死への覚悟が高揚を招いているのだろう。好都合なので乗る。結果で生き残れたら、全て良しだ。
「城を山を領地をも持ち、乗せられし全てが声を出せぬ力。万物を放る力を、この躯の兆の虫へ〈乗自〉」
__氷塊に両腕と変化した外套を刺し込み、放り投げる。外套の一本が突き刺さったままだ。
「氷球を蝕め、ヒトのように! 〈解啄〉!」
__短い詠唱。しかし大きな塊が数秒で、黒に染まる。何て速さと精度だろう。無詠唱とは桁違いだ。
何かが大きく抜かれる感覚がする。魔力だけでなく、魂にまでも負担をかけたのだろう。あんな高威力なのだから当…いや…こ…は…担を…ず…出…なら……。
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「くしゅん」
〈フェリオス王国〉の王城でシュアは眠れないでいた。暗闇の中でかなりの時間を過ごしたはずなのに、全くもって意識が薄れない。むしろ鋭敏になっている気さえしている。
「きゅ~」
寂しさから鳴き声が漏れた。原因ははっきりしている。彼がいないからだ。
「シュア様、どうかなさいました?」
蝙蝠が問いかける。『ゼルが欲しい』と言っても叶う事はないので。
「……寒いの」
実際には、心と体に添う存在がいないせいだが、それは言わない。
「寒さで寝付けないのですか。ならば良いものがあります。しばしお待ちを」
そう言って部屋から出る蝙蝠。それを見送ってからシュアは窓辺へ向かう。
星の煌めきを茫然と眺める。思うのはただ一人である。もう一人は眼中にない。
「戻って来てね……ゼル……」




