出会っちまったか
準備二日目。船だとかが買えなかった。根回しは絶大なんだなとつくづく思った。
とはいえ買えなかったのは、試練の準備品と思われそうな部類であり、食材は爆買いだ。
本当になんでも揃っていた。あのソース、あのデザート、あのお菓子……もしかすると俺やサイフィより、遥か前に異世界に来た奴が居る。神の領域に達するか、崇め奉られているか。
どちらにせよ障害にならなければいい。特にハーレム計画の邪魔にさえならなければ、社畜のように荷馬車を揺らす覚悟はある。株で融かす気はないが。
問題らしきものと言えば、公園で寝転がっていたら、白犬に絡まれた。シュアと色の被りのない犬系がいないはずがない。そう考えて撫でまくり、ブラッシング、そしてダメにするソファ&健康器具で落とした。
すると複数人に。
「何をしている?」
と質問された。意図がよく分からなかったので普通に。
「野良犬と遊んでます」
と答えた。犬もその人達も頭に疑問符を浮かべる感じだった。
「シュア様とは思わないのか?」
「毛の色が同じだけなのでは?もしかして白毛は、今は一人だけなんです?」
恐らく互いに疑問符だらけ。そうしていると白犬が移動した。
「……そうだな。遊び相手をして貰えて良かったな」
白犬に話かけながら、彼らは消えた。
これがシュア当人なら問題だ……じゃれすぎた。いや今回のは完全に事故だろう、白毛が大国単位で一人とかどうなってんだ。確率上あり得るが、どんなもの引いてんだ。
準備期間が終わり、出発式となる。完全にアウェーな雰囲気だ。
そもそもシュアの人気が高過ぎて、誰と結ばれようが嫉妬の目が避けられないのもある。式典に出るシュア目当ての人が三割は見えるからな。
船のチェックは二日目の夜に行われたらしい。すまないチェック員。俺の舟はさぞ、やりがいのないチェックだっただろう。
「__双方に、幸あらんことを」
シュアの言葉が終わった。幸なんて願われたら、幸せにしてやりたくなる。
相手の猪鼻と目が合う。お前もか……雄の思考回路は単純だな。
乗り込み出発する。勿論、相手による大波に揺られて俺は出発どころではなかった。式の為に並べたのだろうがきつい。転覆を防ぐのがやっとだ。
完全に出遅れ、周囲からブーイングが飛ぶ。キレた俺は。
「極限圧縮! 水圧保存も併用し、加速に処理を裂け! 港の設置物、一般市民への配慮を演算外とし最遠までを割り出せ!!」
[了解。式の修正を行います………供給魔力不足。更なる追加を]
《物体変化》で舟を包みまたも、流線形へと変える。《内演算》に周囲を全く気にしない、推進を求めたら魔力が不足らしい。日頃なら止めるところだが大量につぎ込む。
明らかに俺の周りが歪む。これだ、これも見たかった。力で空間がおかしくなる瞬間を…………! 待避の為の声が聞こえて数十秒後。
[行けます。]
「〈水神龍王〉禁圧解除!」
更に進化を遂げた気がするので、技名を変える。気分が高揚した時の叫びなんて気にしない、気にしない。
解放された水…いやもはや魔力の激流だろう。それは後方に突風と弾丸のような飛沫を上げさせ、レンガを粉砕、天に轟音を鳴らす。速さに全てが線になり、視界が暗くなりゆく。速度への視覚的処理が間に合わなくなったせいだ。目を無くすのも間に合いそうに____。
[起きろ~~]
「ふぁ?! さぶっ!!」
意識が戻った瞬間に、寒気を感じる。この体に寒さを感じさせるとは…魔法世界の寒冷地、恐るべし。
《物体変化》で舟を包みながら、外を見る。液晶の向こうでしか見たことのない景色が、そこに広がっていた。
氷に閉ざされた海だ。流氷同士がぶつかり、又は擦れる音。冷たさにより死を運ぶ風の音。運が良かったのか、極光も見える。
そして生物。トドだとかペンギンとかだろう、〈トゥルズ〉の海ではないようだ。
「さてと、穴場はどこだ」
(まだ北や)
未だに到着していない。世界の広さを感じる事実だ。一気に不安になる。こんな調子で期間内に帰れるのだろうか。
途中に大きな氷を見つけ、上がる事にした。ペンギンのようなものに群がられる。
「コノコトバワカリマスカ」
片言で話しかける。が通る訳がない、むしろ今ので敵意と見なされたのか、くちばしで刺しに来る。
速い。何故だ? 俺が鈍ってるという事でもなく相手が速いのは?
[『滑り』の概念操作か? いや……ただの身体強化とみるべきか]
《内演算》がとんでもない事を言い出すが、自己否決した。それでも脅威だ。明らかに強すぎるのだから。
「?!」
氷が抜け水に落ちる。まずい、奴らの領域に入った。
見れば、氷海を泳ぐというより翔ぶ鳥に変貌していた。
(《内演算》速度は?!)
[2000m/s。水中でこれたぁ、おでれぇた]
頭おかしい。神が創ったと立証可能な世界の大半が、対戦となると人外はおろか、物理法則すら卒業している。そして環境が過酷になれば、一気に桁が変わる。魔素を考えれば前世界と、同一法則な可能性の方が低いがな。
久々の水中戦だが、もう迷わない。水中で剣を振ろう、何て馬鹿な事はしない。
そうして俺は、大量に小さな透明石を収納空間より取り出す。
念能力で海域にバラ撒く。いくつか食われたものの好都合。
体を貫かれる。水中移動では分が悪すぎだ、頑張れば同一速度にはなれるだろうが、攻撃が当たるとは限らない。ならば当てれるように素材を撒いて。
(〈雷散〉!)
石同士を繋ぐように電気を流す。射程内と、食べた奴は全滅だ。くふふ、雷属性の練習後に思い付いてから、拾っていた甲斐ががあったぜ。
このままペンギン共を全滅……とはいかなかった。あと二回位のところで。
『■■■■■! ■■!』
不規則な言語が流れる。引いてはいけない出目を、引いてしまったようだ。
《内演算》「タコ言語が『■』?リスペクトですか?」
俺「否定材料がございません」




