精神的な準備
「貴公らには過酷な試練を与える。ここより更に北の海にて、蟹を捕るのだ」
ファンタジー王族の結婚には、条件が付く事が多い。結婚でなくとも成人や就任の時も同じく、試練を越える必要がある。ドラゴン素材だの、ダンジョン奥の秘宝だの、を取ってくるのが定例だが。
今回、与えられた試練は漁。しかも蟹限定である。超寒帯で、相手を越える量を捕らなければならないのだろう。環境と他人との勝負を同時にこなす……それは過酷であろう。
準備期間は2日………正直言って、公平なんてない。既に相手はド級漁船を確保していたからだ。
「ぽっと出の愚民が」
猪鼻の彼からの一言以外、声を聞いてない。互いに時間の無駄と割り切っているからだ。
かくいう彼もぽっと出……下手すると俺より幸運なのかもしれない。
__彼は元々、一般の兵だったのだがある日の訓練で変わった。ゴリラ系の方に超長距離ぶん投げられ、建物に突っ込んだ。それでも気は失っておらず、体を起こそうとすると。
ぷにっ。
「ふゃふ?!」
柔らかい何か、とても可愛らしい声……。
彼が突っ込んだのは、王室御用達の宿の女子トイレで_______
なんとも言えない。いや言えたとして。
[画像全振り]
の一言だろう。冷静に考えたら、これで進んでいてもおかしくなかった。それでも彼女は俺に逢うまで、純白だった。今は少し黄色が入っただろうか。
っと変な事考えずに情報収集をせねば。2日間何てすぐだからな。
とはいえ俺に伝など………いやあいつか。思い出した俺は、拘留所へ駆け出した。
「へっ! 負けらんねぇ!!」
道中、チーター系にレースをしかけられた。肉食が後を付けている。そう考えるだけで恐慌状態になった俺は、いつの間にか体の最適化を行い、螺旋状に拘留所へと向かっていた。後から知ったが、途中で奥さんに突撃され、レースどころではなかったらしい。
拘留所は足の速さだけで襲撃と思われたのか、隊列が組まれていた。列の手前への、スライディング土下座で事なきを得た。
「ドッペさんは居りますか?」
そう言うと撤収する列から出てきた。串肉を食いながら。
「師よ、どうされました? 帰ろうとしてましたが」
「おぅ。冷めるだろうが、食いながらは止め」
「ゴグ! ………はっ!」
シュアを賭けての漁に出る事を伝えると。
「え? 毛繕い権、貰えます?」
「全身脱毛する? 繕う必要なくなったりして良いよ」
「勘弁」
耳を露骨に畳みながら、怯えを表す。変な欲を出すからだ。耳が上がったところで。
「けど俺、知らねぇからさ」
「え? でも蟹を肉のタレでいくのもって」
「あくまで食う方だろうが!」
「あぁそうでしたか。てっきり自分で取る通かと」
「で? どこで取れるんだ?」
「更に真北の海全域ですよ。穴場もないんじゃないですかね」
これでは漁船持ちのあちらが有利だ。まだ何かがあるはずだが……穴場……穴……裂け目……あっ!
「近づいてはならない領域ってあるか?」
「あぁ! 〈黄緑海〉ですね。確か黄緑色の蛸の巣だらけで、魔物避けも効かなくなり、精神異常をきたすとか」
…………リヴァイアサンの方面かと思いきや、ヤベーのがヒットしてしまった。それでもいかねばならないだろう、そんな差が出来ている。
「まさか……行く気ですか……?」
唾を飲み、目を合わせる。俺の決意は硬い。
「行く気だ。そうでないとs」
「あれレクス様が二年前に持ってきて以来、誰も取れないんですよ! 珍味だったので分かりませんでしたが、今なら分かります! あれは単品でなく合わせて食べるべきだったと!」
違う、食欲だった。デコピン刑だな。中指と親指で音を立てる。
ビビるドッペ。気付いても遅い、既に越えてはならないものを越えたのだから。
パァン
デコピンだというのに、破裂音のような音が鳴る。ドッペは額を押さえている。
「俺の事より味か……まぁいい情報ありがとよ。料理も食わせてやろう」
「はぃ」
外ふわ中とろのたこ焼きで、舌を痛めるがいい。
ドッペの情報を元に、情報収集。大体同じものが取れる。いやはや流石は公務員、教養が良い。情報収集の為に図書館へも向かう。
目印として梟のマークがされている。何て知を感じさせる紋なのでしょう。しかも入館料は無料、なんて良心的なんだ。
黄緑蛸が〈トゥルズ〉ど呼ばれていることが新しいだけ。しかし興味を惹くところがない訳ではなかった。
封印されし扉があった。鎖は埃にまみれているものの、魔力的には全く衰えがない。一体どんな内容を隠してあるのか……ドラゴンとかか? 扉に耳を当ててみる。
「ヴォォォオォォォォォォォ」
これはあれか、邪神を封じたしゃべる本か。ならば仕方ない。経年の知恵より世界の危機だ。ここは絶対、後で来よう。起こしそうな事態に一人で対応出来ないのは、起こさない方がいい。
そうして[20:00]を迎える。街が魔力で灯された。流石に電気ではなかったか…結局あれも発熱だが。
宿に泊まれる訳もなく野宿だ。というか結構な割合で野宿者が見える。獣らしさがここで出るのも愛嬌。身一つだし取られるものは命くらいだろう。
ん~~試練前に殺しに来るか、あり得そうだが。
[お呼び?]
問題は無さそうだ。むしろ過剰防衛しないことを祈る。




