あるある:知らないところで進む
騎士に連れられ、議事堂のような場所に入る。形式だけ裁判所みたいなのもあり得る。被告人に発言権が無いのが最悪だ。下手すると王族の多数決で、死刑判決になりうる。
長い廊下の先にあった巨大な扉。四人がかりで両開きだ。開いていく音からして石製で、歴史そのもののような重さなのだろう。
そしてその先は……。
「罪人の到着である。現王レクス・ガ・フィエータの名により、審議を始める」
半円型の会場。その中心の椅子に座らされ、大体の罰の範囲が決定しているタイプが始まった。裁判官とかじゃなくて、貴族な雰囲気だからだ。
「まずは罪状を」
「はい。我々が調べた所によると、第一王女シュア・ラ・フィエータ様の乗られた馬車を、東の山地において襲撃、護衛騎士12人を惨殺。そして三週間に渡りシュア様を監禁し___」
身に覚えが無さすぎる。襲撃なんてしてないし、監禁は……一瞬だけだがしたな。その後に並べられたものは、一線を越えていない内容で助かった。触手を伸ばしていたのも露呈したが仕方ない。
シュア、よくぞ隠し通した。
[一線(俺ルール)]
《内演算》で判決を出したらどうなるんだろうか。気になったので聞いてみる。
(お前だと、どんな罰にする?)
[テクノb]
(やめろ)
駄目だな完全に染まってやがる。まともな判断がこういう時にすら出来ないとは…。
……待てよ?どんな刑罰が待っていようと問題ないから、ふざけれるのか。
ならば俺は余計な波を立てぬ様に、無表情に徹するべきである。
「次に功績を」
「?!」
「静かに」
謎裁定が挟まる。いや、大陸外の情報を仕入れなければ、ならないとかを考えれば。
「ゼノム氏の功績は、下着の発展、犯罪組織の検挙貢献、南方の土地改善、囚人食の再評価です」
二つ程どうして繋がったのか理解出来ない。下着は男女それぞれに20着程作ったのを、シュアと捜索隊に渡した。囚人食のおいしさを書いた紙を、厨房に渡すように言ったり、不審に思って話しかけてきた看守を、栄養素と調味料の話で魅了したりした。
犯罪組織の検挙貢献と土地改善とは何ぞ?そう思っていると、説明がきた。
どうも組織が俺の触手を対処している間に、潜入が出来た。触手は地中を掘って伸ばしていたので、硬すぎた土地が農耕可能になったらしいのだ。
手間が省けたということだろう。土地の方は仕事を盗ったとも思えるが仕方ない。
「以上が功績です」
これにより酌量を含めた判決である。と思わせてるのも考える。
「レクス様とシュア様が到着です」
俺以外が膝をつく。これは乗るべきなのだろうか、少なくとも椅子に座ったままではないな。
席を立ったところで姿を見せる。
「戻れ」
獅子だ。しかも毛がヤバい、スパークがチラついている。服装はどう考えても王にしか許されない。緋の地、金の繊細な紋章、体格を抑えない……素材に龍の髭でも使っているのだろうか、魔物としての格を感じてしまう。
シュアはそれに添えられた華。赤の対照となるような配色で、非常に落ち着かせてくれる。癒し系は絶対なのか。
シュアと目を合わせると、照れた顔をした。そんな表情しないでくれ。ここで野獣の眼光を見せようもんなら、王の咆哮で会場が壊れる。
ゴク
唾を飲み視線を落とす。良かった、取りこぼしがなくて。当たってたら人生終了だった。魔法世界だからね、早くなってても不思議ではない。
再開。今度のは功績と罪状の相殺の議論だ。これが一番、難しく長い。というより護衛殺害は誤報だったと何故出てこない。まさか揉み消されたのか?
「あれ? 護衛は13人だったよ?」
「あと一人はどうした?」
シュアから投下される。しかし13人か……前世界での金曜日に出発したんじゃないんだろうな。
お父さん怖いです。あと1人はおろか13人全員知りません。
「王の質問です。答えなさい」
あっ、やっぱそういうのあるのね。まぁこれは正直に。
「そもそも襲撃してないので知りません」
ほぼ全員から白けた目を送られる。往生際の悪い奴としか思われてないのだろう。
「ではあなたは、三週間前はどこに?」
「きっちり三週間前だと、向こうの大陸ですね。二週間前だと、どこかの港街に、途中で拾った遭難者を届けたりしましたが」
「……向こうの大陸か。種族は人間?」
「シュア王女から聞いてないのですか。〈粘人〉です」
会場がヒソヒソ話だらけになる。何故に?《内演算》に小声キャッチを要請した。
「粘系で人並みの知恵とは」
「伝説か……再現にならねばいいが」
「いまは関係ない。本当に今だけは」
何かヤバい奴呼ばわりだ。あとお父さん、獲物見つけた眼やめてください。彼が何かしらにかこつけて、対戦しようとしない事を祈るばかりである。
蛇に睨まれた蛙のように固まっていると。
「新情報でございます!」
兵士が一人、入ってきた。新情報か…襲撃の修正を期待する。
「……承知……生き残りの護衛が襲ったのは、異常な〈刺氷熊〉だったとの証言が出た」
「その異常個体は?」
「討伐完了との事です」
異常個体か……呑まれた人じゃなきゃいいけど。それより罪状が軽くなったな。
「待て、そいつの変化とも限らんぞ」
余計な事、言うなよぉ! どうすんだよこれ………。
「この場で見せてみよ」
王ぅうぅぅぅぅ! その顔は楽しんでますよね?! 襲撃は別と分かっていて、やらせるつもりですよね?!! やりますけど。
〈粘生体〉形態になった後に《物体変化》で〈刺氷熊〉を覚えている限り再現する。
「わざと?」
「いえ覚えている限りだと……あっ吹雪分からね……」
シュアの外見への疑問に答え、特殊技能の再現が出来てないのを思い出す。周囲もこれで見間違えるかと思い始めただろう。
「ではゼノム氏の罪状より襲撃、並びに騎士の殺害が消えます」
勝った、これで禁固か懲役刑にまで落ち込むだろう。裁判のレベルで分かる。王だからと言って特別な酌量が無さそうな事を。
「これにより、功績と罪状の相殺が可能となり、決定権がレクス様へ移動します」
ふぁ?! そんなんありですかいな?! 前言撤回、駄目だこりゃ。
そんな風に沈んでいると。小声キャッチが反応する。
「娘よ、お前としてはどうだ?」
「ゼルと一緒がいい」
「そうか……」
天使だわ…紛うことなく天使だわ……。出来る事ならこの場から連れ去りたいが、父親の強さがちっとも分からん。多少も掴ませない時点で半端ない、そんなのから逃げ切れる訳がない。
早く決めてくれ。逃走か闘争か問うかをこっちも決めたいんだ。どう来るどうなる……!
「不問とし、婚権の試練への参加を確定とす」
不…問……? 実質、無罪になったのかこれ。
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「ありがとうございます。父上」
「何でもない。それよりもだ」
久々の親子水入らずなのだろうか、非常に温かな空気が部屋を包む。がレクスの質問により真逆へと進み始める。
「お前とアレの関係は、あの通りか?」
「あの通りです」
報告書通りを疑った質問だ。シュアは即答で返す、がむしろ怪しまれたのか。
「いやアレの視線の落とし方が、気になってな………お腹に何があるか知っているか?」
「食べ物が行くところですよね? 食べ物……囚人食って何を出して」
シュアの目が一瞬だけ泳ぎ、常識的な話題へのすり替えを試みる。古狸にそれは通じず、確信へと繋げた。
「ほとんどの雄はな、顔を見た次は胸なんだがなぁ………」
「もう! 父上!」
「お前を身籠った時の」
「帰る!!」
分かりやすい娘の退室を見送ったレクス。
突如、振り返る。何かを感知し、膝をつく。汗が滴り、絨毯に黒がかかる。数分後、解放されたかのように椅子に座る。
「まさか勅命で解放とは……ゼノム・ルマ=アウゴ、貴様は何者だ?」




