到着
ファンタジーが動き出す。
「言い残すことありませんか?」
「……」
「言い残すことありませんか?!」
「…」
「言い! 残すこと! あぁりませんかぁぁ?!」
「」
「駄目だ反応がない……あなたは四部を。あなたは○.I.Sを!」
調子に乗って水上(低空)を高速移動していたら、彼が白目で気絶していた。〈電柱〉を撃ち込み、辺りを静かにしてから停止。呼び掛けてみるも反応なし。
[キゼツシタ シロメノ シンダ ショウネン]
「脈も呼吸も体温もあるだろ」
《内演算》の勝手な鑑定を封殺し体を見る。心臓がバクバクしている以外に、何もなさそうだ。
なんて都合がいいのだろう。落ちないように固定すれば、更に速度を出せる。〈選風〉の負担が減りいいことづくしだ。
彼をガチガチに固めた後、世界が線になるくらいの速さで大陸を目指していると。
カァン
とある角にスリングショットした時のような音がし、舟が停止した。
海の流れにさえ逆らう現象……思い当たる節があり、舟の先端へと移動する。手を伸ばすと先ほどと同じ音がなり、今度は弾かれる。
[未登録生命拒絶結界。しかしこの規模は]
なんと高度な文明なのだろう。ここまで魔法に明るいとなると、エルフの可能性が高まる。
エルフか……胸、寿命、魔法適正以外の特殊さ、耳の感帯……夢が膨らむなぁ。
しかし膨らんだものも、これを越えなければ虚しい妄想となる。実現の為に手を考える。
結界をこの効果だけで考えず、他への転用や運用も視野に入れるのが、突破口となりうる。
見てきた作品から似たような、結界や壁を探す。
(大魔王のは無理矢理だから真似出来ない。画面端のは殴れば反せるが、やはり壊せない。あれは心への呼び掛けだし……金色は)
そうして思い当たる。本での繋がりを描く作品での壁に。
舟を大型集合店舗サイズの収納空間に入れ、氷の足場を作る。そして気絶したままの少年を、頭を下げればぶつからない、手を横にした形で立たせる。
手の下の水面に向かって海氷を投げる。結界に弾かれることなく着水。それを見て俺はしゃがんだまま歩き、結界を通りすぎる。
「厚い方が確実なのに薄い方を使うからだ!」
[できちゃったね~。よかったね~]
圧縮技術は素晴らしいが、逆効果になる場合もある。それが今回のような場合だ。
そしてまたも高速船舶。気絶から帰っても、また逝く少年だった。
[まだ目じゃ無理だけど、港あんで]
《内演算》はそう言って水流から、スクリューへと切り換えた。良かった、未開の地での第一印象が変人は嫌だからな。
俺の事だからやらかすだろうけど。そんな事を考えてると。視認可能になり。
『そこの木製船。停まりなさい』
近代的な船……いやエンブレムだとかがついてるから戦艦の方が近いだろう。
捕縛される流れのやつだ。言語が一致しようが、きちんと説明しようが関係なく牢にぶちこまれ__
「そうですか……では旅の続きをお楽しみ下さい」
なかった。自由に出来るのはありがたいが、異世界イベントとしては物足りない。同じ牢の人が黒幕の最大駒だったり、看守が転生・転移者で脱走手伝いと聖地等の情報を教えてくれたり。
[これはサブカル脳]
真っ直ぐストレートな言葉をくらう。同類に言われようが、きついものはきつい。
そうしながらも情報収集は行う。国や地域名の記憶は後回しに、人や未開の地を探す。街中には人しか見えないので残念だったが。
『北側へ行ってはならない』
聞き回ったほとんどがこれだ。実際、北側の壁は厳重そうに監視されていた。
もちろん俺は行くで? 異世界の楽しみ方は、冒険以外ないからな。人の言う事をガン無視しているのは………屑だが。
〈粘性体〉形態で、舗装された道路の隙間をぬい、壁を抜け、土の中を行く。これでクビになったりしたら悪いが……今の俺は子供のように自分本位なのだ。
__全てを手に入れてから余分なものを取り除かねば、何が真に必要なのか分からない。それが今は__
したかった事が全て可能の可能性がある世界に【一人で】来た時点で、行動は決まったのだ。ヤマモトとサイフィの出会いは、かなり軽めのストッパーにしかなりえない。デュラムは普通のストッパーか。
ならば次は最重……人生の墓場といこう。その為に亜人種を探そう。
歩き始めて二時間は経った頃。猛吹雪に襲われた。〈炎鎧〉で突き進むにも限界が来たと感じた俺は、洞窟を探した。
流石に猛吹雪の中で、絶対零度の習得に励むのは無茶と思ったからだ。
30分程の捜索で発見。かなり広く、深かったので《錬成》を使い部屋を作った。しばらくの間はここを拠点に探そうと思う。
試しにデュラムを出してみると。
「申し訳ありません! ここでは役に立てそうにごさいませぬ!」
もの凄い土下座だ。慰めるのに時間がかかりそうな。
「では、また修行の旅へ行きます」
「……おぅ。死なずに帰還せよ」
使えそうにないが、完全に使えなくなった。次に合う時は、酸と冷気にも耐性をつけてくるだろうが。
(いや主を置いて行くなよ)
[壁扱いは如何なものかと]
(そうは言ってないぞ)
《内演算》とのお喋りに夢中になっていると[22:14]就寝の時間だ。部屋の明かりは暖の為に付けたままにしておこう。
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カツカツカツ
誰かがドアを引っ掻く音がした。野生動物か何かだろうと、臨戦体勢で《内演算》がドアを開けると。
「あの~」
これは間違いない。ゼノムの目標……というより前世界で、最も保存画像数が多い存在ではないのだろうか。《内演算》は待機モードへと変わった。
白毛の犬系獣人で可愛い娘。しかも見た目の獣が、耳と尻尾だけという。より言えば巫女服気味であれば極上であっただろうが、そうではなかった。
「これは……触手……? でも襲って来ないし……」
若干の警戒か。文明人としては同然。
「あっ。暖かそう……入っちゃえ」
非常識であった。人がいようと布団に潜り込むという、犬のような習性。これもまたゼノムにとっては至福であろう。
「ヌクヌク~………スピー」
寝るのまで早い。恐らくゼノムは早朝に目覚め、理性との戦いに身を投じる事になる。
追記:最近、飛んでるなと思ったあなた。ご安心下さい。嫁を一応出せたので、ここからはまたゆったりとした、脳内プロットと黒歴史ノートにあるような流れで行けます。




