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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
39/261

見つけなかった結果

 深夜。灯りが全くない部屋で待たされる。物音を立てれないので、ひどく緊張した。

 外から歩く音が聞こえた。五感が高性能だからだ。現に周囲は外を確認してから、準備をしている。


「お疲れちゃん」


 サイフィが気楽に話しかけてくる。言わないだけで、前と同じようになっているのだろう。


「あえて言わなかったな?てか元凶お前だな?」

「問題なかったしセーフ」

「全滅させる必要が出ただろ…!」

「一人逃がしたし、また作られるかもな」

「問題じゃないか」

  

 サイフィはため息をつく。面子や長期的な対策をしなければならない、政治的なものに比べて楽なのだろう。


「俺も言ってから気が付いたよ。大砲付き…ベルトみたいな車輪……って。飛びすぎ技術革命起こすとこだった」


 こちらでは神からの啓示級だろう、現代知識。機器の構造や形状を、あやふやでも言ってしまえば再現してしまう。そんな時間と力を持っている人だらけなのが異世界……特に魔法系のだ。


「んで?好きな娘とはどうだ?」

「旨かったし上手かった」

「そうか」


 早速ハッスルのようだ。恐らく到着から2、3日なのに……二人とも早い。そして妬ましいわ!


「では報酬の話をしよう」

「待ってました」


 サイフィが指差し、執事がくるまった紙を持ってくる。机に広げられたそれを見て。


「なん……だと……?!」


 驚きを隠さずにはいられなかった。それはこの世界の地図だったのだが……。


「な、びっくりだろ?あっちの大国二つ分しか土地がないんだぜ」


 アメリカとロシアみたいな形の大陸以外、全て海の星だった事が判明した。国名がつけられているのは、米風の大陸だけ……つまり。


「こっちで俺が10の時。あまりにも長い自由時間を貰った。消化しようと俺は、とあるキャラの真似で海洋横断をする事にした。海面を疾走、疲れたら氷の上で休みを繰り返し、日本の辺りまで行った。そこで船を見つけた。飯の匂いが漂い、男達の歌声を上げている船を。勿論、幻覚とかの類いじゃない。俺の接近に気付いてか、号令がとんで超スピードで西へ消えた。で、追いかけるにも時間が足りなくて、そこから帰った」


 亜人かどうかは不明だが、文明がありそうな状態ではある。これは早めに調査したい。


「浮きを一つ貰いたい」

「行かせるのは確定として……どうして別大陸なのかってところが分からない。過去に迫害された者達かあるいは……監視者か。出来れば調べて貰いたい」


 どちらもあり得る事で、仲の修復や立場の平等化は無茶だ。だからせめて調べておく必要がある。どんな理由でそうなったのか、分からないまま異世界を終えるのは夢がない。


「まかせろ、どのみちやる」

「頼みますよ、悟さん」


 握手を交わす。魔物と皇帝が結んだ……歴史的瞬間であった事を後に知った。


「では明日、これを持って港へ行って下さい。本当に細やかな浮きを渡すように、言ってありますので」


 渡されたのは証書だった。皇帝権限の引換券みたいなものと思い、〈収納空間〉行きだ。


 そして挨拶を済ませ退室。黒服の後を追い、塔の屋根で別れる事にした。






[起きて?ゼノムお兄ちゃん]

「ニ"ャー!」


 やめろぉ!!と声を出そうとしたが、猫に変身していたので出なかった。

 時刻は[6:47]普通の早さで起こされたようだ。身を整えて、塔から西に見えた港へ向かう。近付く度に荒くれ度が増してきた。証書の効力が不安になる。


[あの船だな。船員に聞け]


 一番荒れてそうな船なんですが。しかし、証書にある紋様と掲げる旗が一致してしまっている。変わり者が惹かれ合ったとしか考えられない。

 証書を手に持ち、船員に話しかける。


「あのーこれの用件なんですが」

「んぁ?何だこれ…………わかりやっしゃー」


 そう言って証書を持って、船員は消えた。数分待つと、小舟を持った者達が現れる。


「これが契約の品だ。確かに渡したからな?んじゃ」


 新品の木舟を渡したらそそくさと消えた。素性を少々書かれていたのだろう。そうでなくとも、こんなもので大海原へ向かう変人との会話は、短くして詮索されないようにしたい。


 何よりオールがない。これで変人っぷりが加速したのであろう。


[ジョウジィ]


 《物体変化》でスクリューなりをつくる必要があり、圧倒的な異常を見せつける事になるだろう…………やるけど。


 港の端の方に舟を浮かべて、《物体変化》で推進装置をつくる。見覚えのあるものを切り替えながら使えるようにした。色々間違っている気がするが仕方ない。

 人目が少ないうちに出港しよう。そう考え水流噴射による推進を


パァン


 起動した瞬間、跳ねた。10m近く上に、200m近く前へと。ヤバい、絶対目立った。そして更に。


[あともう一射デス!]

(待て?!それは舟の意味が!てか後ろの被害とk)


ブボッ


 これで合計1.4km進んだ。視線は集中し現実味のなさに全員、無表情だ。空中で出した分は計算されたかのように、海へと落ちたようで安心した。

 首を正面に戻せば海面が迫っていた。そう言えば聞いた事がある。ある程度の速さで水に突っ込めば、コンクリート並みの衝撃となると。


(まさか貴様ぁ?!)

[米が遅い罰だ!!コンクリムゾン!]

(飛ぶのは俺の首と血潮かぁ)

[心配しないで、変わりはいくらでもあるもの]

(私が守るとかで)

[それ体力なくなった方もあるで]

(……そっか……) 


 首はギリギリで管により完全分離しなかったものの、俺の視点は、これからもないくらい激しく回転した。

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