頼むから止まれ
「まずは第一段階の発動だ」
ヴェラドは半透明の鍵盤を叩き、浮いた画面を確認しながら呟く。その脇を小さな光が通り、ヴェラドと画面の中間に停滞した。
「何やってんの?」
「イレギュラー〈ゼノ〉への対処。本当はラビオンを送れば、確実に修正できるけど」
「またアホ共のせいね」
「そうなんだ。『期間を空け、順に上げるべし』って手遅れにする気満々の制約があって………フロー定形になれ。見にくい」
小さな光は人の形をとり、黄金のオーラを纏う妖精になる。本来ならこの姿になるだけだが、悪戯心でオーラを垂れ流しにしている。
悪戯は妖精の性分なのだから、誰も止められない。当人は無意識に行うからだ。
特に彼女の場合、周囲は深刻になるような実力の存在はいない上に、保護のような状態になっており、ますます修正しようがない。
平時ならもっと言うが、判明した制約の方が大問題だ。
本来ならば成った者への枷となるはずの制約が、海底へと送り込む為の重しへと変貌していたからだ。原因は判明している。先々代のせいだ。無我で対処する事が、満場一致する位にやらかしていた代のせいだ。
〈万象庫〉の大規模削除、残存生命体1200、種族の得意方面の極限化………二度とあってはならない事件が多数起こっていた。
禁止リスト案を全員が作成、提出したという奇跡もあった。
「どうしてそうなった……理解出来ない………」
「経過見たい。出せる?」
「出せる。けどねぇ……状況は読めてるんだぁ………」
連続した画に切り替わる。
一人の男が集団に肉弾戦をしていた。どう見ても男が優勢である。
「………これは……合ってない……」
「レベルが全然違う。一体どこから発生したのやら」
火の幕に覆われようが回転で吹き飛ばし、氷塊となれば打ち砕き、斬撃を二指で止め、打撃をすり抜け、次々と気絶させてゆく。見た目に傷は見えるが無いかのように断行する。
〈狂戦士〉にして〈乱調者〉がそこに在った。
「………殺ってたら……」
「そうだね。魔物が強者を撃破したときの伸びは、凶悪そのもの。しかも彼は……記されてない」
気休めは殺害がないところだろう。していたのであれば、戦闘中に魔改造という予測困難なものになる。
そして彼は、神々ですら未来は見えないのだ。〈万象庫〉にない存在の未来は遠くから見えない。しかし〈原初球〉へと向かえる条件は、まだ達していない。故に後手を取ることとなる。
「耳とか白は動かせないの?」
フローが既に送り込まれている存在への問いを出した。
「駄目なんだ。耳は出てはいけないし、白は段階的に言えばまだ先になる。〈ゼノ〉の段階が飛べばこちらも飛ばせるけど……」
「手遅れ」
そうならない為の対処は制約され、どうなるか見えない存在が自由に行動する。
あの代に自分が在れば………ヴェラドはそう思った。
「あっ……赤いなんか出て来た」
「終わったな………第二じゃなくて第五にしたい……」
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荒れた呼吸を整える。いつになく長く苦しい戦いだった。
[NKT……]
(城を壊してないぞ? 立ち排尿もぞ? 出ないし)
完全に俺と同等のネット民となった《内演算》への対応にも疲れた俺は転がった。
ギリギリだった気がする。何せ体が痛いのだ。間違いなく筋肉痛だろう。体術戦用とか思って付けた反動が来ている。
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「しょぅ…じんせ……ょ…どぅらもぅ」
絶え絶えの言葉をデュラムへとかける。多分、変換出来てないだろう。
しばらく寝転がっているとグームが現れた。
『次はどこへ向かう』
行き先を聞きたいようだ。少々、考えて。
「海沿いに西へ行こうと思う。じゃないとこいつが目立つし」
まだ塗料がない時に、デュラムを関所等に通せる訳がない。グームに乗った方が通れる気がした。
『それ以外はないか? 伝言もよい』
「…………ならこいつらとその上にこう言え。[カウンターは攻撃に合わせるものだろう]とな」
『ふっ……曲がるだろうな、その言葉』
グームに伝言を頼んだ。そっちが来ないなら俺も手を出さないよ~。のような意味だ。まぁ全然期待してないがな。
気絶している冒険者の皆さまの装備は、美味しく頂きました。レアリティは然程だが、量があれば使える。食べてるけど。
食べ終わった俺は立ち上がり。
ベギッ
体から嫌な音がしたので、即〈粘性体〉形態へと移行した。
[全治4日]
この体で4日かかるダメージ。つまり前世界の場合、治らないと思った方が良いレベルのものが、入っているということだ。
死な安なのがファンタジーだが、恐怖した。




