悪化
「思ってたのと違う……火力が高過ぎた……」
愚痴をボロボロの体でこぼす。HPゲージが、レッドゾーンになっているのが見える。完全に幻覚状態だ。
鼓膜があったら脳が死んでいたレベルの爆音。
血管があればブラックアウト継続からの脳死な速度。
内臓破裂、待った無しの衝撃。
それらを耐えて、ギリギリ生きている。何か食べない死ぬ、と物を探す。
全てぼやけて見える中、茶色い物体を見つけた。木か糞かどうでも良かった。とにかく補給が必要なのだ。
掴もうと腕を伸ばすと、ボタボタと垂れた。自動で〈粘性体〉形態になっていたようだ。
消化は一瞬だった。物の上に手を落とした瞬間に、なくなったのだから。
焦点が合う。どうやら木々の中に居るらしい。
だったら食べよう。無断伐採になるかも知れないが、命がかかっているんだ。少しくらい大丈夫。
[それが大伐採に繋がるんだよな。人間だもの]
《内演算》かなり現実的な事を言っている。しかし気にして、食を止めたりはしない。栄養(?)が足りていないのは明白で、やれるはずの強制オートモードにしないからだ。
一応、居る可能性を考えて。
「精霊達よ、今より私は木を直接食す。そなたらが宿る事のない木まで、導くのならば私はそれを食らおう。しないのならば無作為に食らうだけだ」
と言ってみる。秘境かどうかなんて、俺にはさっぱりだからな。
[駄目だこいつ…ツールの使い方を分かってねぇ…]
何かアドバイスらしいものが聞こえるが、無視して木を補食する。
溶かしていくうちに甘味を感じた。
(なる程、これが昆虫の主食……結構いける)
自然の甘さを前世界から好んでいたからかクセになり、それなりの本数を食べた。
『なんだ………お主か』
声がしたので周囲を見渡し、グームを見つけた。
「おひさ~っす。てなるとここ〈ファイウダル〉?」
『あぁ南寄りのな』
どれだけ飛んだのか気になって、脳内地図を出す。………なんかこういうところはスケールでかいよな。
『他にも肉片が飛来してな、負傷者が出ておる』
「えー………俺のせいか………」
『何をやったらこうなる?』
「浮いた大きな鯨の中を、連鎖爆発させた」
『主が入った後に、どれだけ上に行ったのやら。海までは数日先だぞ?』
それなりの高度から45°で爆風に煽られ飛び出す球体。物理学的に正しく、当然の結果だ。この飛距離は出せる。そう思いたい。
「まぁいいや。それはそうと調査隊でも来ているのか?」
『おっと。お主は隠れておいた方が良いだろう』
「忘れてたのかよ。おいこら」
とりあえず木の陰に穴を掘って《錬成》で埋める。
人の足音が聞こえてくる。グームに集まっているようだ。
「何かあったか?!」
一人がそう大声で言った。
飛来物は全部調査したいものなのだろう。取りこぼしから、事件発生ではたまったものではない。
『何かが移動しておるな……肉片の正体は分かったのか?』
「ほぼ〈エルダルマテリ〉のものと見て違いない。それもかなり大きめの」
『その内部に何かが、住み着いて居た可能性は?』
「覚えがない……だが今は疑うべきだろう」
すまんな住み着いてたゴブリンは、討伐済みなんだ。あれもあれでヤバい奴らなのは違いない、酸とガスに耐えていたのだ。激不味料理で毒耐性をするような存在と、同列な気がしてきた。
その後、彼らが話終わってどこかへ行こうとした時。
「ゼノムさまぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁ!!」
大絶叫をしながら駆ける赤い鎧……デュラムがこちらに迫っていた。
勿論、居合わせた彼らは。
「なんだありゃ!新種?!」
「なんて速さだ…生き残るには…」
とか言っている。俺はなんてタイミングなんだ、と泣いていた。
非常に不味い状況へ持ち込まれた。しかも仲間の良心で。責める事は……した方がいいのか?周りを見ろと……。
[どのみち目立つくね?]
緑の森で真っ赤……確かに目立つ。赤下着を振って救助してもらえた人がいるように、不釣り合いな色合いなのだから。
「気配はするのに……ゼノム様ー!どこへーーーー!」
やめろ、それ以上は何も言うな。といいたいが、索敵班による〈念話〉の探知や盗聴が怖く何も言えない。
「ゼノム……?!この近くにいるのか、探せ!!」
言えなかったせいで念入り探索が始まる。俺にやれるのは精々、下半球の範囲で動き回ることだ。しかしそれも。
「あれの下が怪しいぞ!!」
デュラムが俺のほぼ真上に来るので、無意味となった。
調査隊は一人離脱して臨戦体制を組む。グームはため息をつきつつ、戦闘姿勢を取る。
「そうか……お前らが居るから出れないのか……ならば消えて貰う!」
こちらも戦うことにしたようだ。違う、お前の立ち位置でバレてるんだ。直ちに戦略的撤退を望む。とお祈りした。
聖職者でもない俺の祈りは、届かなかった。届いたとしても邪神にとどいたのだろう。
「ピリピリ来るなぁ、ここは」
〈天烈〉のとは違った筋肉がそこにいた。引き締まってなお洗練された筋肉だ。俺の技はアマチュアなので、技能派戦士はデュラムにとって辛い相手になるだろう。
「一人増えたか……だが退かば死ぬぞ?」
「退く前に殺っとけば必要なし。当たり前のことだろう?」
出来れば殺り合ってる内に、他の所に行ってもらいたい。
そう思ってる内に戦闘が始まった。
やはり予測通りに技能派戦士に押され気味である。ダメージとしては微妙かも知れないが、相手は剣。鎧の隙間を狙い打つか、ごと叩き斬るのが定例。そしてここは非現実。鎧や甲殻の耐久を削る技能がない方がおかしい。
それを含めての動きにしか、見えなくなっていた。
同じ箇所を狙う戦士。それを補助する他冒険者、本気ではないような気がするグーム。そしてバランスよく受け流し、ダメージを全体に渡らせるデュラム。
これは負けそうだな。どのようにして助けようか…触手は見えるだろうから駄目……魔法にしても流れは読めるはず……やはり捨て身で行くか?
そんな考えを巡らせている間に。
バギッ
明らかに割れる音、見ればデュラムの右脇腹の殻が落ちていた。
迷う暇がない気がした俺は、地面から顔を生やし。
「いーれーてー」
と陽気な声を発した。
勿論、全員動きが止まった。地面から人面が生えた反応としては普通だろう。
早々と戻ったのはデュラムだ。
「まさか土の中とは……考えが至りませんでした」
「おぅ。伝える暇なく、またやるかも知れないからな、どこに隠れるのかを予想してくれ。じゃ離れといてね」
「はっ!」
そんな会話をしていると次々と戻ってくる。
『貴様がゼノムか……全く騒がしくしおって』
と俺からすれば白々しいグームさん。まぁ調査だなんだで騒がしくしているのは事実だ。他人の体に入れた奴だれだよ、こうなって現地人に迷惑じゃないか。
[自重しないなら同じ事]
…………こいつか? 黒幕が相棒ってのも、たまにある。
「てめぇが死ねば大助かりだ」
戦士がそう言って、蹴ろうとする。引いた足を地面から出した触手で、吊り上げた。
「ふっ!!」
筋トレをしているかのような自然な流れで、体を持ち上げ触手を斬った。おまけに完璧な受け身だ。何ドル出せばいいかな。
ふざけた思考をしていると、出た杭として打たれ深く埋まる。重みで分かる通りグームの攻撃だった。
使命感を感じる足裏が見える。付き合ってやりますよ。
穴からの脱出は飛び蜘蛛スタイル。穴から出して、刺しこんで、引っ張る。
(さて《内演算》よ。今の高度は?)
[700m。これ低限]
無駄に跳んだようだ、ついでに周囲も確認し、風を使い柔らかく降りた。
「撤退だ! 行くぞ!!」
降り立つと同時に撤退宣言が出される。追う気はない。それよりグームを置いていく気満々だな。伐採の邪魔なのか?
人が消え行く中、グームは襲いかかってくる。隠蔽は徹底するもののようだ。




