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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
25/261

悪化

「思ってたのと違う……火力が高過ぎた……」


 愚痴をボロボロの体でこぼす。HPゲージが、レッドゾーンになっているのが見える。完全に幻覚状態だ。


 鼓膜があったら脳が死んでいたレベルの爆音。

 血管があればブラックアウト継続からの脳死な速度。

 内臓破裂、待った無しの衝撃。


 それらを耐えて、ギリギリ生きている。何か食べない死ぬ、と物を探す。

 

 全てぼやけて見える中、茶色い物体を見つけた。木か糞かどうでも良かった。とにかく補給が必要なのだ。


 掴もうと腕を伸ばすと、ボタボタと垂れた。自動で〈粘性体(ウーズ)〉形態になっていたようだ。


 消化は一瞬だった。物の上に手を落とした瞬間に、なくなったのだから。


 焦点が合う。どうやら木々の中に居るらしい。

 だったら食べよう。無断伐採になるかも知れないが、命がかかっているんだ。少しくらい大丈夫。


[それが大伐採に繋がるんだよな。人間だもの]


 《内演算》かなり現実的な事を言っている。しかし気にして、食を止めたりはしない。栄養(?)が足りていないのは明白で、やれるはずの強制オートモードにしないからだ。


 一応、居る可能性を考えて。


「精霊達よ、今より私は木を直接食す。そなたらが宿る事のない木まで、導くのならば私はそれを食らおう。しないのならば無作為に食らうだけだ」


 と言ってみる。秘境かどうかなんて、俺にはさっぱりだからな。


[駄目だこいつ…ツールの使い方を分かってねぇ…]


 何かアドバイスらしいものが聞こえるが、無視して木を補食する。

 溶かしていくうちに甘味を感じた。


(なる程、これが昆虫の主食……結構いける)


 自然の甘さを前世界から好んでいたからかクセになり、それなりの本数を食べた。






『なんだ………お主か』


 声がしたので周囲を見渡し、グームを見つけた。


「おひさ~っす。てなるとここ〈ファイウダル〉?」

『あぁ南寄りのな』


 どれだけ飛んだのか気になって、脳内地図を出す。………なんかこういうところはスケールでかいよな。


『他にも肉片が飛来してな、負傷者が出ておる』

「えー………俺のせいか………」

『何をやったらこうなる?』

「浮いた大きな鯨の中を、連鎖爆発させた」

『主が入った後に、どれだけ上に行ったのやら。海までは数日先だぞ?』


 それなりの高度から45°で爆風に煽られ飛び出す球体。物理学的に正しく、当然の結果だ。この飛距離は出せる。そう思いたい。


「まぁいいや。それはそうと調査隊でも来ているのか?」

『おっと。お主は隠れておいた方が良いだろう』

「忘れてたのかよ。おいこら」


 とりあえず木の陰に穴を掘って《錬成》で埋める。


 人の足音が聞こえてくる。グームに集まっているようだ。


「何かあったか?!」


 一人がそう大声で言った。

 飛来物は全部調査したいものなのだろう。取りこぼしから、事件発生ではたまったものではない。


『何かが移動しておるな……肉片の正体は分かったのか?』

「ほぼ〈エルダルマテリ〉のものと見て違いない。それもかなり大きめの」

『その内部に何かが、住み着いて居た可能性は?』

「覚えがない……だが今は疑うべきだろう」


 すまんな住み着いてたゴブリンは、討伐済みなんだ。あれもあれでヤバい奴らなのは違いない、酸とガスに耐えていたのだ。激不味料理で毒耐性をするような存在と、同列な気がしてきた。


 その後、彼らが話終わってどこかへ行こうとした時。


「ゼノムさまぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁ!!」


 大絶叫をしながら駆ける赤い鎧……デュラムがこちらに迫っていた。


 勿論、居合わせた彼らは。


「なんだありゃ!新種?!」

「なんて速さだ…生き残るには…」


 とか言っている。俺はなんてタイミングなんだ、と泣いていた。

 非常に不味い状況へ持ち込まれた。しかも仲間の良心で。責める事は……した方がいいのか?周りを見ろと……。


[どのみち目立つくね?]


 緑の森で真っ赤……確かに目立つ。赤下着を振って救助してもらえた人がいるように、不釣り合いな色合いなのだから。


「気配はするのに……ゼノム様ー!どこへーーーー!」


 やめろ、それ以上は何も言うな。といいたいが、索敵班による〈念話〉の探知や盗聴が怖く何も言えない。


「ゼノム……?!この近くにいるのか、探せ!!」


 言えなかったせいで念入り探索が始まる。俺にやれるのは精々、下半球の範囲で動き回ることだ。しかしそれも。


「あれの下が怪しいぞ!!」


 デュラムが俺のほぼ真上に来るので、無意味となった。

 調査隊は一人離脱して臨戦体制を組む。グームはため息をつきつつ、戦闘姿勢を取る。


「そうか……お前らが居るから出れないのか……ならば消えて貰う!」


 こちらも戦うことにしたようだ。違う、お前の立ち位置でバレてるんだ。直ちに戦略的撤退を望む。とお祈りした。

 聖職者でもない俺の祈りは、届かなかった。届いたとしても邪神にとどいたのだろう。


「ピリピリ来るなぁ、ここは」


〈天烈〉のとは違った筋肉がそこにいた。引き締まってなお洗練された筋肉だ。俺の技はアマチュアなので、技能派戦士はデュラムにとって辛い相手になるだろう。


「一人増えたか……だが退かば死ぬぞ?」

「退く前に殺っとけば必要なし。当たり前のことだろう?」


 出来れば殺り合ってる内に、他の所に行ってもらいたい。

 そう思ってる内に戦闘が始まった。




 やはり予測通りに技能派戦士に押され気味である。ダメージとしては微妙かも知れないが、相手は剣。鎧の隙間を狙い打つか、ごと叩き斬るのが定例。そしてここは非現実。鎧や甲殻の耐久を削る技能がない方がおかしい。

 それを含めての動きにしか、見えなくなっていた。


 同じ箇所を狙う戦士。それを補助する他冒険者、本気ではないような気がするグーム。そしてバランスよく受け流し、ダメージを全体に渡らせるデュラム。


 これは負けそうだな。どのようにして助けようか…触手は見えるだろうから駄目……魔法にしても流れは読めるはず……やはり捨て身で行くか?

 そんな考えを巡らせている間に。


バギッ


 明らかに割れる音、見ればデュラムの右脇腹の殻が落ちていた。


 迷う暇がない気がした俺は、地面から顔を生やし。


「いーれーてー」


 と陽気な声を発した。

 勿論、全員動きが止まった。地面から人面が生えた反応としては普通だろう。

 早々と戻ったのはデュラムだ。


「まさか土の中とは……考えが至りませんでした」

「おぅ。伝える暇なく、またやるかも知れないからな、どこに隠れるのかを予想してくれ。じゃ離れといてね」

「はっ!」


 そんな会話をしていると次々と戻ってくる。


『貴様がゼノムか……全く騒がしくしおって』


 と俺からすれば白々しいグームさん。まぁ調査だなんだで騒がしくしているのは事実だ。他人の体に入れた奴だれだよ、こうなって現地人に迷惑じゃないか。


[自重しないなら同じ事]


 …………こいつか? 黒幕が相棒(ヤス)ってのも、たまにある。


「てめぇが死ねば大助かりだ」


 戦士がそう言って、蹴ろうとする。引いた足を地面から出した触手で、吊り上げた。


「ふっ!!」


 筋トレをしているかのような自然な流れで、体を持ち上げ触手を斬った。おまけに完璧な受け身だ。何ドル出せばいいかな。


 ふざけた思考をしていると、出た杭として打たれ深く埋まる。重みで分かる通りグームの攻撃だった。


 使命感を感じる足裏が見える。付き合ってやりますよ。


 穴からの脱出は飛び蜘蛛スタイル。穴から出して、刺しこんで、引っ張る。


(さて《内演算》よ。今の高度は?)

[700m。これ低限]


 無駄に跳んだようだ、ついでに周囲も確認し、風を使い柔らかく降りた。


「撤退だ! 行くぞ!!」


 降り立つと同時に撤退宣言が出される。追う気はない。それよりグームを置いていく気満々だな。伐採の邪魔なのか?


 人が消え行く中、グームは襲いかかってくる。隠蔽は徹底するもののようだ。

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