ゼノムの初犯
ペースダウンしたら再燃するまでが辛いよ
次とか言ってたのはイベントの事です
口の中は海の臭みが充満しているらしい。既に嗅覚を遮断済みの体にしておいて良かった。
雑食の鯨……代謝が半端じゃないのだろう。
喉へ押し込む動きが見える。逆らわず〈粘性体〉形態へと移行する。
〈粘性体〉形態の方が酸に耐え、体を細くすることが出来るからだ。
食道を落ちた先に胃が……待ってなかった。
目の前には、入り組んだ地形が広がっていた。不明な原理で明るい、体内がダンジョンな魔物。そして鯨………。
[大きな浮き百足フラグ立てときますね]
それまで現れたら俺は、この世界とは?と考察タイムが到来するだろう。
どこがどの器官なのか分からないので、脱出は困難だと思われる。
《空間覇握》が制限され、肉壁の向こうを調べる術がない。
敵が突き破って来るのを察知出来ないので、かなり慎重な移動をしている。
[骨なしチキン]
商品名なのか罵倒なのか、分からない言葉を呟かれる。
腕前は味方だが、心の支えでは敵となるのが《内演算》なのだろう。レスバに慣れていない人には辛いスキルだ。
「ギャガガガガ」
ゴブリンの群れが曲がった先にいた。溶けかけた海産物を漁っている。酸耐性を獲得しているようだ。年単位で生息していそう。
「ヴギィ!!」
察知されたようだ。足場が酸だらけで悪いので、移動する。
矢や石が飛ぶ。矢があたるが問題ない。引き抜いたら矢の刃が見えた。
……鉄…製………? なんで製作できたのか理解出来ない。この鯨が砦でも食べてるのか?
それなりの広い場所に誘き寄せることに成功。
「〈氷柩〉」
前にくらった氷魔法を放つ。
冷凍保存されていると、ありふれた物でも美的価値が上がる。気泡がないから更に良いだろう。
範囲外の取りこぼしを狩る。作業だった。
「思った範囲と違うな-」
そうぼやきながら、手を振る。
魔法は振れ幅が激しい。ライターがバーナーになったり、100㎡の範囲が64㎡になったりする。
イメージ等の集中力の揺れ、精霊の機嫌でそうなるのだろうが、なくなった方が良い。威力が安定した方が強いのは必然なのだ。
グググググ
そんな音が聞こえてくる。目の前の氷を見て、悟った。
お腹が冷えたから下すのだろうと。
排泄物には混ざりたくないので、上に向かい壁を掴む。直後。
空間が潰れ、氷塊の砕ける音が鳴る。出す前動作だ。砕けた氷が奥へと流れるのを見て降り立つ。
[データ収集完了。報告します]
(壁の向こうが分かったのか?!)
[そっちに流す作業が面倒なので]
《空間覇握》の制限はどうやら俺の実力不足のせいだったようだ。
馬鹿でもわかる映像へと変換しなければならない手間を考え、スキルに本気で頭が上がらなくなった。
報告の中、周囲が軽い気体だと聞かされ実験をしたくなる。
〈粘性体〉形態で空気を取り込んだ俺は、体内で着火した。
ポン
そんな音だが確かに爆発した。これは使うしかないだろう。
[浮かなくなれば倒しやすい]
軽い気体と魔法の合わせ技で浮いているので、地面に叩きつけたい《内演算》はストップをかけなかった。
寧ろ嬉々として〈爆散〉をホールドして行った気がする。
恐らく腸の中間だろうところにそれはいた。俺は宣言通りに、考察タイムへ突入し足が止まった。
(この世界は一体何なんだろう。魔法法則がある、地球とは別の星は確定。こいつは前世界の創作物とほぼ同じもの。なら前世界はこの世界と同じ上位存在に作られた。もしくは俺が前世界の創作物の中に入った、創作は創世でありその世界に入ってしまったとなる。そうなると何で俺なのか。召喚されたりの方がマシだったな、人間として認知されるし。
上位存在に会ってるけど、記憶が消されている可能性は望まれない。何を仕出かすのか分からないのにやる訳がない。罰ゲームだったら赦されないな、逃げ場をなくした上で、じわじわと消滅させよう)
考察は神への反逆を過らせた。
ギュアァァァァ
浮き百足 大 がまた突進してくる。考えがまとまったので相手をしようと思う。
ホールドをするため、拳は集中し握ったままにしなければならない。
魔法や直接拳闘が出来ない。《物体変化》オンリーで戦うことになった。
まずオーソドックスに一刀両断を狙う。相手の狙いが顔らしいので、思い切り体を下げて斬った。
ギギギ
後ろから悲鳴らしきものが聞こえるが、まだ浮いているので余裕とみなし、追撃をかける。
鎚による打撃を追いかけながら行う。
硬い……回復をしていないにも関わらず、割れた甲殻が一枚もないように思える。
巨大生物に寄生する存在がここまで強いと、寄生の意味を再確認してしまう。
鑿で剥がす作戦に出たいが、乗らせてくれない。無属性の〈魔法矢〉が飛んでくるので、意識を割かなければならないからだ。膠着しそうになった時。
[………………………《自動攻渉》]
本当にポツッと《内演算》が答えを出した。数秒間、何を言っているのか分からなかったが、理解した。
そう言えばそんなスキル持ってたなと。どこかでOFFにして解除し忘れてたのだろうと。
(Lock OFF!)
と気分的に念じる。すると周囲に〈魔法矢〉が静止状態で出現した。相手のと比較すると、こちらの方が太いようだ。
弾幕の相殺試合がなされる中、俺は甲殻を剥がす作業に入り、しばらくすると。
ペリペリ
音が聞こえた。予兆だと感じた俺は、同時作業へと変える。
キンキンキンキンキンキンキン
相殺の音が激しくなる。浮き百足 大が危機を感じているのだろう。手遅れだがな。
俺は41枚、全ての甲殻を剥がしかけで止めている。
[やっぱ悪魔だったわ]
それは誉め言葉なのだろう。さぁ一斉に剥がすぞ!
ベリベリベリ!!!
ギァァァァァァ………
[ショック死を確認しました]
これが勝利だ。
剥がした素材を空間収納に6枚入れ、残りは食べた。
消化に時間がかかったので急いで仕掛ける。
途中にいたキラー細胞らしきもの等を蹴散らしながら、奥へと進む。
機は熟した。長時間の仕込みの威力を特と見よ。《物体変化》で体を覆い、握った拳を開いた。
_______________________________________
「次の依頼はどんなのがいい?」
「んーーー。また討伐がいいかな」
「クレイス……血の気が多いな」
「ティナだって護衛が多いじゃん」
二人は平凡に馬車に揺られて、会話をしていた。
いつも通りの会話だ。
依頼をどうしたいのかは、ソロでない限りは相談が必要だ。しなかったら空気が悪化し、解散か全滅となる。
彼女らの場合は元から仲があり、先の事件からは、あまり離れないように行動しているので、話す機会が多くなってその心配はない。
「にしても………あの時は終わったと思った」
「そうだね…男の人だったらアタックしてたかも」
「放置されるのね。分かった」
「しないよ!!」
あれは運が良かった。もしも現れなかったら……。そうならないためにも。
「強くならなきゃ。また助けられる訳がないもんね」
「だな。頑張るぞー!」
「お」
ズドン
「きゃぁあぁ!!」
「うぉう!! またか?!」
トラウマが掘り返される二人は、軽症のまま恐る恐る横転した馬車から身を出した。
人の気配はおろか獣すらいない。あるのは。
「何? あの塊」
「魚の……尾びれ? ……にしてもデカイな……ギルドに持って行くか」
見慣れない、そして場違いな物体だった。
【祝・使用回】
《自動攻渉》「うぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」
《空間覇握》「良かったな(今後は知らないけど)」
《内演算》[おめでとう!(上げて落とされそう)]
《錬成》「今回はなしか(お前よりは使われるけど)」
《座標詐称》「いいな(強敵に使われないだろうな)」
《物体変化》「うるせーな。封入するぞ」
《自動攻渉》「やめて下さい折れますから」




