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全天録  作者: AX-02
第一章 朝
13/261

立てるもの

蚊よ……耳元に来るのだけは止めろ。

 暗闇の中、目が覚める。宿のベッドの上であることを確認し、《内演算》に何時間寝たのかを聞く。


[3時間程度。消費が普通なので平均的です]


 余程の魔力消費等をしない限りは、俺は3時間で眠りから覚めるらしい。高校生の後半から、6時間以上寝続けることが出来なくなっていたが、遥かに越えてくるとは……。


 しかしどうすればいい? 眠気が完全に消えた今、如何にして時間を潰すかを考える。


(外に出るのは危険だ。陰の深淵(アビス)に住む存在が、活躍していないとは言えない。只の村人に見えて実は……なんてものは悪役でも主人公でも見てきたし。

襲撃者は……無い。魔力操作の練習……失敗したら大爆発が待っている。目立つのは不味いな)


 と思い付くもデメリットを多く考えてしまい、名案が出ない。なのでここは《内演算》に投げる。10分程たって。


[記憶の解析が終了いたしました。見聞の完全再現が可能です]

(めっちゃ重要やんけ!!)


 とんでもない技能が知らされた。知能が擬似的にだが進歩してしまう技能が。


 例えば社会科目のテキストの完全再現。事件、憲法、民法、法令内容の一瞬でも視界に入ったのであれば、それを引き出せる。また教師の主張やそのメモも同時に。

 体育理論、物理、生物、科学も同じように出来るとなれば……。間違いなく知恵の神と言われる。


 それは自分のものと言えるか? とんでもない。過去の天才、変態が苦悩や馬鹿げた試行回数の末に、辿り着いた結果を我が物顔で振り撒くのは……。

 こっちの人に教えるのは控えよう………魔王とか無慈悲な天使が相手になったら、完全流出しそうだけど。


 とはいえそれで時間を潰すのは……。


[我、龍玉の物語を望む者]


 その手があったか。ならばそれよりも。


(異なる歯車達の方がいいぞ)


《内演算》とは他人であるが、自分と常に同位置なのだ。だからこそオススメの作品の視聴を進める。-考えてみれば自分を理解してもらうための-視聴会が開かれた。




「ありがとうございました」


 店主のおっさんに礼をする。深夜から起きていたが、安全な寝床を提供していただいたのだ。当然にするべきことだ。「礼は?」を頻発させないためにも、アイム ジャパニーズな姿勢をするのだ。お辞儀をするのだ!


 宿を出て次はどこに向かうかを考える。

 北や西に飛び込むには、早すぎると思う。ツァーリの乱射か太陽顕現が、出来るようになってから行こうと思う。南も同じくだ。大地創造か水平線凍結が出来ないと、まともに戦えないだろう。東は……そういえばここは農村じゃないな? じゃあ、もっと東に行こう。その前にこの街の特産物……過去が分かるとは聞いたが、食い物や物流はそこまでなかった。となると………図書館だな。


 宿に再度入り、図書館の場所を聞いた。話によれば、ここから東南にあるらしい。

 徒歩で向かう。畏れられたか、昨日程のチンピラが現れない。


(ただボコしただけなのに……種消しではないのになぁ)


 退屈に街を歩く。街並みや活気への感動なんて数秒。魔法具を見ても、純粋に楽しめていない気がする。

 血や戦いを求めているのだろうか、半分は魔物だし不思議ではない。


 そうこうしている内に、図書館に着く。結構大きいな。そして受付を見つけ…。


「入館料……1800だ……と……?」


 宿代として700使ったのでここで使えば、残り500となる。たった2回でかなり減らしていたようだ。

 しかし……神話や歴史を見るチャンスではある。特に神話は信用出来る。世界の成り立ちや神々の戦争は、魔法を扱う上でとても重要だ。歴史……自分の周囲に何が満ち溢れ、足りないのか。戦争でどういうモノが紛失、破損してしまったのかを追う……。


[ロマンだ(さ)]

[(?!)]


 思考回路が一致してしまう事故が発生した。

 マジか……これはククラ当人説や赤の他人説は外れで、並行存在(もうひとりのおれ)の可能性が現れたぞ……。


 それを置いて、俺は受付に向かう。止める者などいなかった。


「ようこそ〈ロオ大書庫〉へ」


 非常に心安らぐ顔の受付嬢だ。年は25~33だと思う。口説きたい欲求はない。そもそもブツがないが故に、そういう方面への欲が出ないのだ。あったら微アタックを仕掛けていただろう。


[………]

「これで」


 そういって俺は紙幣を取り出す。


「こちらからですね。残金が1000を下回りましたので、硬貨になりますがよろしいですか?」

「はい」

「ではこちらが換金したものです」


 そう言って彼女が出したのは、黄色がかった硬貨だった。


「来館は初めてですか?」

「ですね」

「では説明させて頂きます……」


 大体10分ぐらいの説明。要約すれば。

 持ち出すな、読めなくするな、騒ぐな。という書物を扱う所では当然のルールだった。


 入館し、驚く。配置が理想的だからだ。

 受付から狭い通路を通らせた後に、まず吹き抜けた広場。その奥に本の棚が並ぶ。上の階へ行くには梯子か階段で………。

…え?あの人…今…飛んだ……浮遊、飛翔、重力操作。最早どれでもいい。

我が身一つで空を飛ぶ実例を見れたのだから。


 まず案内に従い、魔法理論の棚へ向かった。本を取り出し、肉眼にページを捉えては、めくるという動作を延々と繰り返していた。内容理解なんて《内演算》任せだ。

 見覚えがある理論は少々覚えたが、下手すると前世界の方が進んでいる気がした。

無いものへの想像は、あるものへの想像より過大や誇張になりやすいが、魔法にはぴったりのようだ。


 次に神話の棚へ向かう。一際、古い本に目が行ったので取り出し、読み終わり棚へ直した。次の本を読み終わった時、異常事態が発生した。


 最初に取った古い本が消えていたのだ。

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