無ギュウ
神木が焼かれゆく。もはや楽しもうとしている自分に憎悪を向けた。
星の緑を守ろうとしていたのを完全に上から否定され、周囲からすれば狂気に駆られたとしか見えないだろう。
仲間は精神的に手遅れだ。『これが俺らの選択……大地よ暫しの別れとなる』と言い始めた。ゼノム……どう足掻いても〈魔王〉の要件を満たす男、それの言う通りに動いてるだけなのだが。
〈熾天使〉から与えられた火は豪気に森を焼く。幼き日に切り傷を付けられた葉、初めての狩りの日の尖った枝、いつもの待ち構えに使った木陰……全てが灰塵に帰している。喪失感しか沸かずにいるのだが、どうやら周囲は違う。
完全に呑まれたと言っていい。喪失の先に快を見出だしている。確かにゼノムの言う通りに我々が火を使った所から、魔物は生えなくなっていた。
「この調子だ! 焼き尽くすぞ!!」
「「「おぅ!!!」」」
〈森精人〉が森を躊躇わず焼き始める。先程までと別人と言ってよい変化だ。自分があのようにと恐怖が背筋を伝う。
火による蹂躙、ゼノムはそれに許容がない。本当に全てを黒や白に変える気だ。
「種一つ残すな! 星を侵食すると思え!!」
であれば、呼び込み元凶に再度なる前に死んでくれないかと思うのだが。
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粗方燃えた頃に、場を抜け出し大きい核を探しに出掛けた。こうすれば間違いなく出て来ると思ったからだ。分体が潰されて本体に還元、若しくは本体が表に現れるだろうと。
無論、俺もミカエルの炎は貰ってある。火の名は〈破邪之焔〉だったか………なんだろうか不遇枠のような気がする。
空を行く。少し遅れてルシュフェルがついて来ている。シュアよりも実戦での接触が多い気がした。
「此方で合っているのか?」
彼女は強い相手と戦いたいのだろう。上が故の虚しさを埋める為に。しかし熱くなることはほぼなく直ぐに冷める。反逆するのはこう言うタイプである、と分かりやすい人だ。
「さてな。俺は気配に進むだけだ」
確信は持てないが呼ばれている。そう思って進まなければ。
そうこうしている内に孤島に到着した。
「赤いですね……禁断の果実と言ったところでしょうか」
「そうよのぅ」
5mくらいの大きさの真っ赤なものが落ちていた。おぞましさは微塵もない。
「お先にどうぞ」
「うむ」
戦闘的な欲求不満のルシュフェルに先手を打たせる。何が飛び出すのか非常に楽しみだ。
ルシュフェルの六対翼が輝きを放ち広げた。十二枚の羽が抜け彼女の手に白黒分けて集められ、魔法の球体を成す。その二つの球は果実のようなものを挟むように浮遊している。
ゆったりと……されど静か過ぎる動きで二つの球は互いを求め、その間を埋めて行く。
[ルシュフェルの発汗、動悸を確認。やべぇもんぱなすぞ……]
《内対》がビビる程の圧倒的火力のようだ。余波で人類でも滅亡するのであろうか。その恐怖の時は訪れた。
光と闇の形質が真正面よりぶつかり合う、正負の極限の衝突にその中央で引き起こされるのは。
「〈無積対〉」
そのど真ん中の無のようであった。そして無の引き起こすことは真空や気圧のものと同じく、周囲がそこに引っ張られ、世界がほんの少しの時だけ無の一点を中心に回る。
その中心に虹色の種が鎮座。何だその耐久、対消滅の波に呑まれてなお健在とかどうなってやがる。
[魔力回路を密にして殴るべし。じゃねぇと多分、空間消去紛いで腕落ちる]
さらりと高等技能での対処を求められる。どこぞで見た『骨より血管』理論の実践だ。しかも《内対》は駄目なのか補助をしようとしてくれない。制限の仕様を突破するにはまだ早いか。
手を開き種を潰しに跳んだ。無の領域に接触、存在の否定をされるかのような重圧が右腕にかかる。夢の中でのダッシュだとかとは比較にならない、意思だけで押しきれる気がしないからだ。
虚無、虚脱、虚空、その全てがこの右に集約されている。
【……た】
【……で】
ククラでも、ヴェラドら上位神でもなさそうな意識。これは……俺の内からか?
気付けば種を握っていた。ガッチガチかと思いきや、むしろ柔らかい。これは片手では無理だと左手を出す。集中力の微量の乱れで右の小指が消えた。恐らく無の領域に入ったままだと回復は不可能だろう。
両手で種を包み込み漏れなく平で潰す。
【あぁ! 突破された!!】
【任せろ、これ以上はやらせない】
【なおトドメが変わるだけのもよぉぉぉぉぉぉぉ!!】
声や言語の表現で良いのか、非常に分からない意味が溢れる。一体、この世界は何に振り回されているのだろう。
こういう訳が分からないものに振り回されるのは最も嫌いだ。単なる知識不足とか経験不足ではない。何せ相手は観測不能なのだから。先も読めなければ行動したかさえも分からず、例え行動したとて意味を考えれば途端に分からなくなる。
無意味に意味を与えるというこじつけ、それでは本質と言える部分の捏造をせざるをえない。真実や事実とも言える部分の捏造をする。
それは正しく悪ではないだろうか。
[汚名程度は受け入れて]
(凄く……断りたいです……)
[ここに美少女が三人おるじゃろ]
(全員いたしたい。汚名がなんぼじゃき)
清名と女性観察を天秤にかけられ、余裕で女性観察をとる変態でしかなかった。悪ではない。




