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全天録  作者: AX-02
第二章 昼
110/261

何かを感じる

 連れられたのはどこをどう見ても、役所としか言い様のない場だ。書類と人が並び、連絡が次々と飛び交う場。


 ほぼ全員が、こちらを見て刹那、手を止めるのは壮観と言ったところだろう。


『え? 今回の代変わり早くない?』

『まさか〈魔王(ゼノ)〉を手懐けた?』

『どっちにも癒されたいでござる』


 ひそひそとした話が行われ始め、思い思いの推察に、社畜も混ざっているようだ。今やシュアは専属天使であり、ルシュフェルなら『倍プッシュ』による地獄しかあり得ないが。


「これはこれはレプト様、一体どのような用でしょうか。立ち話も何ですので、こちらへどうぞ」

「こやつを警備に入れようと思ってな、イレギュラー〈魔王〉じゃったから強さは、心配ないぞ」


 経験による格好よさしかない、50代顔になったレプト。ぬらりくらりと登り詰めただろう、80代顔の[警羅龍迅局 総合局長]の男。

 どちらも背筋が伸びており、まず姿勢による圧がかかる。そして局長の方からは、喰う気のような圧が流れて来た。『なら好きな味を選んでね! 逝かせてあげたいから』で返すと『旨味で』と来た。ユーモアの完全否定はしないような、良い人なのであろう。


 案内された部屋は、謎に木製を強調する部屋だった。ある種、落ち着かない。コピーに忙しいからだ。


[流石は魔法の一級建築士ぇ……]


 前世界ではあり得ない建築方法だったのか《内対(ククラ)》が呟く。梁や大黒柱に魔石を埋め込み、配電盤や変電機のように水晶が置かれ、地に埋もれた〈龍〉の死骸に杭を打ち込む。等を想像する。定住でない俺には、マイホームを気にする事はないが。


(そういや〈熾天使(セラフ)〉と判明してから、レクスに会いに行ってねぇ)

「あー」


 ソファーで隣に座り、俺の膝に手を付いていたシュアに、意識が直に伝わる。

 彼女の正体が判明したのに、実家がそれを知らないのは不味いので、この仕事が一つの節目を迎えてから行こう。


「ではこちらの四名が入局ということですね?」

「そうだ」


 ルシュフェルが否定しないのは、どういうことだろうか。疑問に思いながら手続きは進む。

 名前を書き込み、誓約を読み上げる。そして発行されたカードを。


「こうですね」


 頭頂より脳へ行くように差し込む。凄くシュールな画が録れたのを《内対》と大爆笑している。あの部屋で『ボールから召喚』と『魔獣』を合わせた時と同じ位に。


「それで、初仕事はどうなります?」

「RX-100という星系に行って貰う。詳しくは現地でな」


 凄く不吉な数字だ。どちらの不思議な事が起きるか予想がつかない。

______________________________________________


「久しいなメタト」

「本当に舞い戻るとは……」


 移動が公共交通になり、暇をもて余したルシュフェルは〈疑似万象庫(アカシックレコード)〉の門へ現れた。

 管理者はメタトロン。〈天使軍(キリエ)〉外の特級天使であり、主に観測を司る存在である。


「何の用? 君が見るようなものは、無いと思うが」


 ほぼ全てを刻む自身さえ分からない。彼女の思考に合わせようとするが、分からず仕舞いだ。


「可能性を見る。〈魔王〉のあり得た分岐を見せよ」


 メタトロンは驚きでしかなかった。あの堕ちた者が他人の事を、それも未来ではなく過去の可能性ときた。〈奈落(アビス)〉から出る時に、何かの不備を考えてしまう。


「あの君がかい? 今回の〈魔王〉は一体何を……」

「どうでも良いではないか」


 とりあえず彼女を〈疑似万象庫〉に干渉させる訳にはいかないので、メタトロンは急いで一つのあり得た世界を見せる。


「一体どうなっておる」


 ルシュフェルは終わりの方から読んでいた。そこに記されていたのは、ゼノムに(ラファエル)と共に胸を預ける自分だった。あられもない表情で体を絡める自分……恥が心を埋め尽くす。


「まずこれは『ゼノムが最初から今と同等に強く』更に君とは『〈奈落〉を突き破って』出会った場合の話だ」

「つまり余の儀式は」

「闇と光を与えた以外は、潜在能力の引き出しだろうね」


 それはそれで良い事だ。この場合だと、自身の弱体は避けれそうにないのだから。


「しかし、見た目の変化がないの」


 ルシュフェルは疑問に思った。この身は贄として捧げられたものであるのに、贄のないはずのこれと変わらないのは一体。


「………どうやらこちらは『諦めていた』ようだ」


 つまりは〈輝霊(アウゴエイデス)〉さえ穴だらけになり、器がなかったという事だろう。そしてまた自我をより深く思う、少なくともこの場合より自身は強いと。


 ページを前に戻して行く。寵愛に感涙を流している姿に吐き気を催しつつ、自分の体となる存在の最期のページに着く。

 何ら代わり映えもない、ゼノムの覚醒時に喚ばれなかっただけの事だった。


「完全解放〈キテル〉からスルトと連戦後に〈戦車団〉のようだね。これは流石に」


 疑問の全てを先に言われ、読むところがなくなったので本を返す。


「他は?」

「人間国と〈フェリオス〉の位置が逆、ゼノムがゴブリンを従えて団体を立ち上げる、胎児から始まり冒険者として名を上げる。とかだね。因みに全部、君の見た目は変わらないよ」


 なんとおぞましき因果なのだろう。その全てでゼノムは〈魔王〉となり余波等で、この身を殺していると言うことだ。余りにも不運である。


「強さは変わるか?」

「それがね…今と同じ期間、生き残ったら大体同じなんだ」


 強さに本当にムラのない存在という、珍しいを通り越し唯一の可能性さえある存在。それがゼノム・ルマ=アウゴ。


「本格的に何者かを探る必要がありそうだな」

「もっと読み込めば分かると思うよ、何分、長期の未来が読めないからね」

「では余は戻るぞ。セラフィとダルフに宜しくな」


 ルシュフェルが消えた門。メタトロン以外の天使がそろりと現れ始める。


「再開だ。〈干渉結果〉も洗い直せ。奴が何者かを理解せねば」 

Q スキルは?


A 馬鹿には扱えなかったよ………

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