熾天使1
インフレ「ちょっと待て」
俺 「予定と違うって?物語が固定的と思うなよ」
シュアとの遊びは至福だった。癒天使の恍惚とした顔は、独占欲を掻き立て、汗すら聖水の気で舐め回した。
現在は互いを包み合っている。外から見れば白と黒の大玉が接している状態だろう。
(充填は?)
[感知出来ぬぅ!]
時間稼ぎの要因として考えられた、何かの充填だが《内対》が感知不能のようだ。それ以外にせよ、パワーアップを感じさせない時点で差が大きすぎる。
行為中に抜けた、シュアの羽や毛は全て素材として使っている。予想されているだろうけど。
やることがなくなりククラとゲームを始める。
「確率操作されてない?」
「気のせいよー」
最大4人の討伐隊を組み、竜を殺して回る作品だ。ドロップ品が欲しい時に限って遠い『物欲センサー』なる現象も存在。ククラに情報処理を任せてあるので、乱数をずらされても違和なく続けてしまう。
『偏る事こそランダムな証拠』格闘から核の撃ち合いまで楽しめる作品での言葉だが、その通りだと思っている。だから出ないのは気のせいとなれば、それ以上つつく事はない。
「そっちのレアは要らねぇよ!!」
毎度のように愚痴るだけである。結局、前世界の時と同じく、本当に欲しいゴールは来ず、副産物としての交換券的アイテムも無かった。
ホテルに入って19時間が経過した。シュアが翼を広げようとしているので、変化を解く。
「時間か?」
「…またね」
「服着てから出ろよ」
姿は青髪に戻り、彼女は服を着て部屋を立った。数分後に俺も部屋を出る。
下に他の天使がいるかと思ったがいない。成長剤でしかないとの判断だろう。
ホテルを出ると巨大な気配を感じる。丁寧な道案内に従い、飛ぶ。
気配の先に待っていたのは三対翼……やはり〈熾天使〉であった。
「顔合わせは始めてだな、では改めて。俺が〈魔王〉、ゼノム・ルマ=アウゴ」
「ミカエル」
「ガブリエル」
「ウリエル」
「ラファエル」
前世界から言えば珍妙そのものの空間だ。一人の患者が、マジモン四人を相手にしている構図でしかないのだから。
「天使を指して珍妙とはな」
「〈傲慢〉最重にして失せよ」
ミカエルが嘲笑い、ウリエルが予想で罪を定める。他の二人が何か言いそうなのを。
「ティナか」
俺の呟きが止める。ミカエルが目を閉じ、ため息をついてから。
「覚める前の名は捨てたわ。が、クレイスの事を忘る訳がない」
そう言ってレイピアを二つ取り出した。続いてウリエルが大鎚、ガブリエルは鎌を出す。ラファエルは何も出さないし、構えず手を淑やかに揃えている。
他の〈熾天使〉はそれをチラと見て、俺へと跳んだ。
「〈仮止〉」
自分の周囲の電子をほぼ固定し、防御並びに相手を止める呪文を発動する。
予想外だったのか、レイピアと大鎚が止まる。しかし鎌が余裕ですり抜けて、俺の左肩を掠める。
幻想の実現をしても届かない実力差。これは厳し過ぎる。
「そういう事か」
理解されれば二度と通る事はない。大鎚が引かれるのを見て、解除し後ろへ跳ぶ。
「甘い」
ミカエルが迫っていた。全身を手先に収束させ回避、続く大鎚を避けきれず地に埋まる。真上からの火。滅殺しか考えられない炎と正面から撃ち合う。
「〈水神龍王〉!」
目の前が蒸気による白で埋められる。分子にまで分解可能な熱量でなくなってて良かった、逃げ場のない大爆発なんて御免だ。
瞬時に飛び出す。既に水分は俺の支配から、脱してしまっている。相手の置きが入る前に移動しなければ。
蒸気を抜けた瞬間に囲まれる。各個でない状態で『三人に勝てる訳がない』移動では相手の方が速いのが見えている。ウリエルだけ取り替えて、小鎚になっているが些細な事だ。
連撃の応酬。地道な削りが蓄積され、動きが鈍る。
「が!」
タイミングを完全に合わされた。恐ろしく練られた〈読心術〉これが〈熾天使〉か、スルトとは比べるまでもなく、厄介な強さだ。
墜落する間も容赦のない追撃が来る。逸らす為に、ドーム状の防御結界を張るも、二、三発に一回は張り直しとなり魔力を削られる。
不時着。受け身をとることのない落下、人間なら紅に咲き誇るところだろう。次は来ない……出すまでもない程度の実力か。
まだ彼らが本気な訳がない。何よりラファエルが動いていないのだから。
「まだまだ消えれねぇな!」
[光抜きだしなー。詰んでね?]
挑発は《内対》が打ち消す。それは〈魔王〉に通る訳がない、これまでは戯れだな。
「今から消すさ」
全員が輝く。到頭、ラファエルが攻撃に出るようだ。一体、彼女は何をするのか。
〈輪戦車・五型〉を取り出そうとするが、燃え盛る。どうやら、ミカエルに空間支配をされているようだ。飛び退こうとしても、足が動かない。これは重力、ウリエルの力。
ガブリエルの風刃が来るのに合わせて、体を硬化させ。
「[何?!]」
きれず上下に体が分断される。下半身は燃やされ、回復への時間を延ばされる。
更にミカエルが接近、レイピアを弾こうと硬化させた腕を振る。空間で何かにぶつかりレイピアが刺さる。胸を中心に焼かれ始めた。
「〈回岩弾〉」
貫通力を上げた岩石弾を全員へ乱射。燃える、弾く、空中で落ちると効果はない。
「〈XAX-01〉」
[〈英雄翼〉逆回転]
体の内側に〈XAX-01〉を取り出し、溜めたエネルギーを俺に注ぐ。天使の陽光に黒い光が混ざり、最終のような気配が広がる。
「〈幽淵馳〉」
霊速を目指したが実際は光速以下だったのだろう、余裕で三人が追い付いている。背中や足に大ダメージをくらいながら、位置は動いていないラファエルを目指す。
推測が正しければ、彼女により空間や俺のラグが発生しているのだ。彼女はシュアの時点で氷を操っていた。それが天使の力へと増幅されれば、理論上『停止』そのものにまで手を伸ばせる。
放置していれば勝てる見込みが0のまま。調べるには飽和攻撃をするしかない。例え、調べた先が無かろうと。
「〈三千世亡〉」
核の連撃を思い描いた拳による攻撃。秒間に何発打ったかも分からない。
「捕まえた」
分かるのは彼女に一撃も届いていない事だ。
全てを出しきったかのような脱力。ラファエルの胸に押し付けられる。
「大丈夫、転生するだけだから。そしたら一緒だよ?」
普通に記憶を消されるタイプか、獣耳に盛り上がる事もなくなっていそうだ。それを受諾するしかないのだろう、完全敗北なのだから。
炉心に冷たい刃が刺さる。彼女から来るものは現在も、ほぼ拒まないせいもあり、より深く止まって行く。
[つっつつつkiiiiiアーうぜ]
《内対》も凍えている。添うしかない運命になってしまい、非常に申し訳ない。
(さぁ、次だ)
それが最後の思考だった。




