着々
「畜生! 先回りしろ! 何としても抜かせるな!!」
「いきなり速くなりやがって!」
戦艦を一つ宇宙の塵にした後、指揮官でもある強存在が〈月〉へと向かい、俺は戦線を詰めまくっていた。
もはや速さは光速と同程度、1km/h遅い。これが重大な差であることも分かっている。光速に達した質量は恐ろしい存在となり、彼の覇王のように『バグ』と言われるであろう。
未だ自身は『DLCによるバグ』であり、勝手かもしれないが格落ちの気分だ。
〈XAX-01〉の人型は光刃と、固形物の剣の二つを振り回す。固形は敵艦から拝借する事により、強度を増してゆく。
[ナンデモタベル マオウノ ケン]
(コンニャクには通らなさそう)
一度、全方位詰みの照射を受け焦ったが[案外、対応出来てるわ]とよく分からない成長を遂げていた。体で崩れた部品を繋ぎ、実に〈魔王〉の機体らしい。間に合ったのはルシュフェルの加護だろう。
「退却! 退却!」
天使があわただしく〈月〉へ向かっている。そういえば、声の聞こえも変わったな、天使をジャックしたおかげだろうか。いやこれもルシュフェルの加護だろう。
「職場見学しなきゃ」
基地見たさに、退却している天使を追い抜き、先に〈月〉に到着した。それを見たのか〈天使軍〉の動きが停止。伝達と規律が良すぎるのを見せつけられる。
「全員これなら世界は平和だな」
[平和ですね。なお白目での発言の模様]
善くも悪くも中央も、ぶれないのは全て正気を疑われるのが定めのようだ。
「あぁ~、いい文明が築かれてるじゃないか」
[戦艦で察しろよなー]
〈月〉の基地は前世界での未来願望そのものだった。液晶は机に使われ、移動は宙に浮くかチューブの中、謎物質のビルやマンションしか見当たらず、機能性が重視されているような街と言っても、過言ではない基地だった。
「俺、ここに新居を建てようと思うんだ」
[まず土地、買わなきゃな]
「いや〈魔王〉らしく賠償で〈月〉ごとだろ」
[何にせよ不動産]
「税は誰に納めるんだ?ヴェラド神か?」
『詳しくは、終わってから……ね?』
ラファエルの声が響く。あの後も喋れるくらいには無事のようだ。録音だったら鏖殺確定。感知が効かない現状に苛立ちを覚え始める。
「どこ居るか分からんぞ、ラフ」
『今はシュアって言って、ゼル』
「シュア、どこにいるんだい?」
『こっちだよ』
そう言って、シュアは魔法を唱えたのだろう、回復の波動を感じた。
街を傷つけないようにしながら行く。中々の難度で、数回、踏み抜いてしまった。後で直す羽目になりそうだ。
「えへへ、ここだよ~」
少し位置をずらして、シュアはビルの上に居た。
「スナイプ?」
「あっ、じゃあ降りるね」
不信と性格を天秤にかけ、性格が重いようである。そんな事をするわけないじゃないか。
「どうかな?」
「濃い」
「…やっぱり…白?」
「うん」
恐らく変化した自分の事を、言って欲しいのだろう。そして好みは譲れない。やっぱりシュアは白の犬系獣人が良いのだ。
「戻したよ」
煙が立ち、その中から獣人のシュアが現れる。翼は生えたままだが。
「首輪までもか」
「ここもだよ」
シュアが俺の手を取り、下腹部へ当てる。魔力の流れで判断した、この天使は小悪魔に違いないと。
「何をしようか」
「ゼルが欲しいなぁ」
頭を撫でながら、シュアに目的を遠回しに聞くと、胸を密着させてきた。尻尾の付け根を優しく握りつつ、腰も付けさせる。
「ここゃ、はゆかしい、かかな? ひゃう!?」
あざとい、アザトイ、イアイア アザトイッス。上擦った声で、尻尾や翼をパタパタさせるの本当に耐えるの辛い。
余りの辛さに、尻尾を包んだ手を真下に沿わせてしまい、シュアを跳ねさせてしまう。
[あぁ~~たまらねぇぜ]
《内対》の性別を最近、忘れそうになる。情報思念体みたいなものだから、性別無しでも通りそうなせいだ。
「じゃあ何処かに入ろう」
「案内するから付いてきてね」
シュアが先行して歩く。基地であることを忘れそうな街並みの中。
「あ! 〈アムリタ〉の新商品がぁぁ………」
とシュアが嘆いている。文化水準が高過ぎて、街を作ってから基地を作った可能性が示された。
ススッ
監視は感じているが何もしてくる気配がない。細菌のような潜伏タイプの何かも否めないが、癒しの権化の側で、効果を発揮出来るだろうか。
20分程、歩いて。
「ここに行こ」
とある建物の前で止まった。見上げれば、高級ホテルと思ってしまう構造をしている。
(ホテルかぁ……火照るなぁ……)
[うわ]
「ぽかぽかだよー?」
そういえば上位者には、心を読まれるのだった。シュアは純粋で大助かり《内対》は分かりやすく、身震いのイラストを送り着けてくる。
建物の中に入れば、光射す吹き抜けが目に飛び込み足を止める。
「シュア、中心に行ってくれるか?」
首を振るだけの返事をし、彼女は吹き抜けの中央に立つ。そして翼を大きく広げ、羽根を舞い散らす。
[非常に美しい光景です。さぁゼノム、ここからどう攻めるか]
《内対》の声を変えた実況が挟まる。彼女はこれから全てを、サッカーと言い張るのだろう。
シュアの舌を出した微笑みで膝が折れる。首を傾げられ、五体投地をせざるを得ない。
「上、行こっか」
貝手繋ぎで天使に上へと導かれる。全て浄化されればいいのにと、〈魔王〉へ成ったのを後悔し始めた。
[トキィ……の流れは変えられないのよね~今は]
二重に間違いない事を言われ〈至高天〉気分だったのを、引き戻される。危ない危ない、圧倒的光を前に闇であることを忘れようとするとは……内側にこのような別人が居るのは嬉しい。
かなり上の階に降り立ち、部屋を探しているようだ。案内板を見てまた歩く。
部屋を見つけてシュアが開け、俺に先に行くよう合図される。罠かと気にしつつ入ろうとすると、シュアが身を寄せ同時に入室した。
部屋は『ロイヤル』の語そのもの。高級感を演出しつつ、目に優しいという親切設計でもあり、かなり進んでいる。プールや野外スペースも用意されており、一番凄い部屋なのだろう。流石〈熾天使〉格の違いを見せつけてくる。
見回ってる間に、シャワールームにシュアが入っているようだ。悩んだ末、冷蔵庫のワインを用意して待つ事にした。
グラスやビンすら神聖感が溢れる一品。一体、何人が祭壇に飾っていたのだろう。
(大丈夫、黄泉や地獄じゃないんだ。むしろ天国の住人と化せるなら、良いではないか)
決心して一口。瞬間的に全を感じ、グラスを落としかける。果たして飲み物の枠で良いのか、シュアが上がっていた事に、気が付かないくらいに思考が巡っていた。
「美味しかった?」
「うん」
語彙の低下を招く天使の用意する飲み物。光も闇も無しに良いもの〈純質〉とでもいうのだろうか。
「寒いなぁ、ゼ~ル?」
落とさなくていいから早く来て。ということか、ベッドからシュアに呼ばれる。一体、時間稼ぎはいつまで続くのだろうか。
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「どうだ?」
『今のところ順調です。しかしここまで嵌まるとは』
「望みは交わりだからな。例え敵陣だろうと可能ならやるものよ」
追記
Q 読心術のガバ
A ほら……遠かったりだから




