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全天録  作者: AX-02
第二章 昼
103/261

着々

「畜生! 先回りしろ! 何としても抜かせるな!!」

「いきなり速くなりやがって!」


 戦艦を一つ宇宙の塵にした後、指揮官でもある強存在が〈(ルナ)〉へと向かい、俺は戦線を詰めまくっていた。


 もはや速さは光速と同程度、1km/h遅い。これが重大な差であることも分かっている。光速に達した質量は恐ろしい存在となり、彼の覇王のように『バグ』と言われるであろう。

 未だ自身は『DLCによるバグ』であり、勝手かもしれないが格落ちの気分だ。


 〈XAX-01(セイメイ)〉の人型は光刃と、固形物の剣の二つを振り回す。固形は敵艦から拝借(だっしゅ)する事により、強度を増してゆく。


[ナンデモタベル マオウノ ケン]

(コンニャクには通らなさそう)


 一度、全方位詰みの照射を受け焦ったが[案外、対応出来てるわ]とよく分からない成長を遂げていた。体で崩れた部品を繋ぎ、実に〈魔王(ゼノ)〉の機体らしい。間に合ったのはルシュフェルの加護だろう。


「退却! 退却!」


 天使があわただしく〈月〉へ向かっている。そういえば、声の聞こえも変わったな、天使をジャックしたおかげだろうか。いやこれもルシュフェルの加護だろう。


「職場見学しなきゃ」


 基地見たさに、退却している天使を追い抜き、先に〈月〉に到着した。それを見たのか〈天使軍(キリエ)〉の動きが停止。伝達と規律が良すぎるのを見せつけられる。


「全員これなら世界は平和だな」

[平和ですね。なお白目での発言の模様]


 善くも悪くも中央も、ぶれないのは全て正気を疑われるのが定めのようだ。



「あぁ~、いい文明が築かれてるじゃないか」

[戦艦で察しろよなー]


 〈月〉の基地は前世界での未来願望そのものだった。液晶は机に使われ、移動は宙に浮くかチューブの中、謎物質のビルやマンションしか見当たらず、機能性が重視されているような街と言っても、過言ではない基地だった。


「俺、ここに新居を建てようと思うんだ」

[まず土地、買わなきゃな]

「いや〈魔王〉らしく賠償で〈月〉ごとだろ」

[何にせよ不動産]

「税は誰に納めるんだ?ヴェラド神か?」

『詳しくは、終わってから……ね?』


 ラファエルの声が響く。あの後も喋れるくらいには無事のようだ。録音だったら鏖殺確定。感知が効かない現状に苛立ちを覚え始める。


「どこ居るか分からんぞ、ラフ」

『今はシュアって言って、ゼル』

「シュア、どこにいるんだい?」

『こっちだよ』


 そう言って、シュアは魔法を唱えたのだろう、回復の波動を感じた。

 街を傷つけないようにしながら行く。中々の難度で、数回、踏み抜いてしまった。後で直す羽目になりそうだ。


「えへへ、ここだよ~」


 少し位置をずらして、シュアはビルの上に居た。


「スナイプ?」

「あっ、じゃあ降りるね」


 不信と性格を天秤にかけ、性格が重いようである。そんな事をするわけないじゃないか。


「どうかな?」

「濃い」

「…やっぱり…白?」

「うん」


 恐らく変化した自分の事を、言って欲しいのだろう。そして好みは譲れない。やっぱりシュアは白の犬系獣人が良いのだ。


「戻したよ」


 煙が立ち、その中から獣人のシュアが現れる。翼は生えたままだが。


「首輪までもか」

「ここもだよ」


 シュアが俺の手を取り、下腹部へ当てる。魔力の流れで判断した、この天使は小悪魔に違いないと。


「何をしようか」

「ゼルが欲しいなぁ」


 頭を撫でながら、シュアに目的を遠回しに聞くと、胸を密着させてきた。尻尾の付け根を優しく握りつつ、腰も付けさせる。


「ここゃ、はゆかしい、かかな? ひゃう!?」


 あざとい、アザトイ、イアイア アザトイッス。上擦った声で、尻尾や翼をパタパタさせるの本当に耐えるの辛い。

 余りの辛さに、尻尾を包んだ手を真下に沿わせてしまい、シュアを跳ねさせてしまう。


[あぁ~~たまらねぇぜ]


 《内対(ククラ)》の性別を最近、忘れそうになる。情報思念体みたいなものだから、性別無しでも通りそうなせいだ。


「じゃあ何処かに入ろう」

「案内するから付いてきてね」


 シュアが先行して歩く。基地であることを忘れそうな街並みの中。


「あ! 〈アムリタ〉の新商品がぁぁ………」


 とシュアが嘆いている。文化水準が高過ぎて、街を作ってから基地を作った可能性が示された。


ススッ


 監視は感じているが何もしてくる気配がない。細菌のような潜伏タイプの何かも否めないが、癒しの権化の側で、効果を発揮出来るだろうか。


 20分程、歩いて。


「ここに行こ」


 とある建物の前で止まった。見上げれば、高級ホテルと思ってしまう構造をしている。


(ホテルかぁ……火照るなぁ……)

[うわ]

「ぽかぽかだよー?」


 そういえば上位者には、心を読まれるのだった。シュアは純粋で大助かり《内対》は分かりやすく、身震いのイラストを送り着けてくる。


 建物の中に入れば、光射す吹き抜けが目に飛び込み足を止める。


「シュア、中心に行ってくれるか?」


 首を振るだけの返事をし、彼女は吹き抜けの中央に立つ。そして翼を大きく広げ、羽根を舞い散らす。


[非常に美しい光景です。さぁゼノム、ここからどう攻めるか]


 《内対》の声を変えた実況が挟まる。彼女はこれから全てを、サッカーと言い張るのだろう。


 シュアの舌を出した微笑みで膝が折れる。首を傾げられ、五体投地をせざるを得ない。


「上、行こっか」


 貝手繋ぎで天使に上へと導かれる。全て浄化されればいいのにと、〈魔王〉へ成ったのを後悔し始めた。


[トキィ……の流れは変えられないのよね~今は]


 二重に間違いない事を言われ〈至高天(エリシオン)〉気分だったのを、引き戻される。危ない危ない、圧倒的光を前に闇であることを忘れようとするとは……内側にこのような別人が居るのは嬉しい。


 かなり上の階に降り立ち、部屋を探しているようだ。案内板を見てまた歩く。

 部屋を見つけてシュアが開け、俺に先に行くよう合図される。罠かと気にしつつ入ろうとすると、シュアが身を寄せ同時に入室した。


 部屋は『ロイヤル』の語そのもの。高級感を演出しつつ、目に優しいという親切設計でもあり、かなり進んでいる。プールや野外スペースも用意されており、一番凄い部屋なのだろう。流石〈熾天使〉格の違いを見せつけてくる。

 見回ってる間に、シャワールームにシュアが入っているようだ。悩んだ末、冷蔵庫のワインを用意して待つ事にした。


 グラスやビンすら神聖感が溢れる一品。一体、何人が祭壇に飾っていたのだろう。


(大丈夫、黄泉や地獄じゃないんだ。むしろ天国の住人と化せるなら、良いではないか)


 決心して一口。瞬間的に全を感じ、グラスを落としかける。果たして飲み物の枠で良いのか、シュアが上がっていた事に、気が付かないくらいに思考が巡っていた。


「美味しかった?」

「うん」


 語彙の低下を招く天使の用意する飲み物。光も闇も無しに良いもの〈純質(エーテル)〉とでもいうのだろうか。


「寒いなぁ、ゼ~ル?」


 落とさなくていいから早く来て。ということか、ベッドからシュアに呼ばれる。一体、時間稼ぎ(これ)はいつまで続くのだろうか。

___________________________________________


「どうだ?」

『今のところ順調です。しかしここまで嵌まるとは』

「望みは交わりだからな。例え敵陣だろうと可能ならやるものよ」   

追記

Q 読心術のガバ


A ほら……遠かったりだから

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