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赤でなく紅でなくあかいものの名

作者: 玄斗楽

好きなんです。とても。

好きです。とても。

私は、あなたの事が。

──────好き、なんです。




××××××××××××××




 むかしむかしのお話なのよ。妄言とも聞き流したりしないで、良かったら聞いていってくださいな。

 あなた、紅葉(もみじ)という植物は知っていらして?…そう、あの赤くなる植物。確か…かえで、とも言うんでしたっけ。不思議よねぇ…季節で色が変わるなんて。

 わたしが初めて紅葉を見たのはね、あれは…十になったばかりだったかしら…、お隣のタカシさんと、あら、タカシさんというのはわたしの婚約者だった人なんですけれどね、初めて二人だけでお出かけをしたのよ。

 タカシさんはわたしよりも三つか四つくらい年上でいらしてね、学校へお通いになっていたものですから、中々お会いする機会も夏休みや冬休みなんかの長いお休みの時だけしかなくてね。でもそのときは珍しく、秋なのにお休みが出来た、って言ってわたしをお出かけに連れていってくださったの。わたしは嬉しくって、二人であいすくりんが食べたい、っておねだりなんかして。タカシさんは笑うときに眉毛をちょこっと下げるような癖があって、そのときも眉毛を下げて笑っていたわ。そうね、少し困ったような顔になるのよ。本当に困っていたのか、それは今となってはわかりませんけどね。もしかしたら小さい子どもの…わたしのことですけれど、相手をするのが嫌だったのかもしれないわね。親の決めた婚約者ですし。

 それでもね。わたしは彼の事が大好きだったの。





 そう、それでね、紅葉を見に行ったのよ。二人で、あいすくりんが売っているというお店によってからね、大きな滝…そう、あの緋淚(ひるい)の滝をね、見に行ったのよ。あそこのあたりは紅葉(こうよう)の名所って言われてるらしいってタカシさんに聞いたわ。…そういえばあのときは、あんまり他の人はいなかったわね…。少し寒かったからかしら。

 滝の向かい側に見晴台があってね、その端まで寄って下を覗けば滝壺が見えたりなんかして。流れてく水の白い飛沫とそのまわりの紅葉の赤…いえ、紅かしら、がとっても綺麗で。わたしは感動してしまって、タカシさんに聞いたの。

「どうして紅葉は赤くなるんですの?」





 気付いたら、全身濡れていたわ。とっても寒くって。

 おかしいな、って思って辺りを見回すの。タカシさんを探したわ。寒い、寒くて、我慢できそうにないくらい寒くて、それでも頑張って探して、最後にふっと上を見上げたの。

 タカシさんはとても遠い見晴台にいたわ。わたしを覗きこむように見下ろしてた。逆光だったのね、そのとき彼がどんな顔をしていたかは思い出せそうにないの。だけど、多分、きっと。眉毛をちょこっと下げて、困ったような顔で笑っていたんじゃないかしらって思うの。

 しばらくして彼はいなくなってしまったわ。わたしを寒い場所に置き去りにしたまま、ね。そこでやっと理解したのよ。遅いわよねぇ、わかってるわ。それでも認めたくなかったのよ。

わたしがかれにころされたなんて

絶対に認めたくなかったのよ。だから、だから。

 あれは事故だったのかしら、と思うようにしたのよ。他人事みたいに感じていたの。ちらっと視線を投げれば緋淚という名にふさわしいように、白かった水があかくなっていたわ。紅葉の赤が水に映って、その水さえも赤く染めてしまったみたいに見えたの。とても、とても綺麗だったわ。





それでも、…あら、どうしてそんなに泣いていらっしゃるの?あなたは何も悪くないじゃない。……そんなに泣かれたら困っちゃうわ、わたし若いひととどう接すればいいかわからないんですのよ?ほら、あなたも見てご覧なさい。

()()がとっても、綺麗ですから。





×××××××××××××




だって、好きでした。あなたのことが、とても、とても。

最後にあなたと綺麗な()()を見られて、わたしはとっても。


好き、好きでした。好きです。愛してる。


ねぇ、だから。わたし待ちました。愛してるから。好きだから。

ずっとずっと、待っていました。

ほら、今。あなたはここに来た。

後味わるめごめんなさい。好きなんです。好きでした。

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