第3話 おっさんは多くの金を手に入れる
訓練場で一人取り残されたアランは、とりあえずどうしたら良いのか分からなかったため、ギルドの中へと戻ることにした。試合の結果は気絶ということで終わったであろうと訓練場を後にしたが、破壊した壁の請求費を支払わなければならないのではないかと一抹の不安を抱えていた。
「アランさん!勝手にいなくならないでください!登録の途中なんですから!」
「……む。すまない」
アランがギルドの中へと戻ると受付から身を乗り出してきたミーナが怒ってますよという雰囲気を晒しながらアランの腕を引っ張る。アランはされるがままに腕を引っ張られ受付の前に立たされていた。
「それでは、換金査定士のユナさんをお呼びしたので、詳しい話はユナさんの方からお願いします」
「うむ。任されたのじゃ」
ミーナに紹介された女性――ユナは、受付のカウンターに幼く見える顔を乗せていた。
「子供ではないか?この子もここで働いているのか?」
アランは思ったことを呟いてしまう。
アランの視線から見てもユナは歳が10にも満たない子供と変わらない身長をしていてその上、顔も幼い。ちょうど受付のカウンターに顔を乗せることができるユナはカウンターに顔を乗せたままアランに向かって吠えた。
「黙れ若造!わらわはこう見えてもこのギルドの年長者だ!敬わないのであれば査定をしてやらんぞ!……ミーナ!この体勢は疲れたから早く踏み台を用意せんか!」
「は、はい!」
アランに向けられた怒りは矛先を変えミーナに向けられた。ミーナは返事をすると慌ただしく奥のほうへと消えていった。これだけ見てもこの子供がミーナよりは上なのはわかるだろう。それともミーナがこの子供の遊びに付き合ってあげているだけなのだろうか。
「ふん!それで?お主がワ―ウルフを蹴り殺して換金しに来た若造であっているか?」
「……あぁ。そうだ」
ユナはカウンターに顔を乗せるのを辞めると俺の顔から足まで小さい顔を上下に目一杯動かし観察していた。
「ユナさん!お待たせしました!」
ユナの観察はミーナが奥から木で作られた箱を持ってくるまで続いていた。アランを満遍なく見たユナは満足そうにミーナが持ってきた箱に経つと置かれたワ―ウルフ皮と牙を手に取る。撫でるように皮を触ると目を見開くと肩を震わせながら恐る恐る呟いた。
「……じゃ」
「どうかしたか?」
小さな声でユナは呟くと撫でるように触れていた皮を次は揉み始める。その度に「おほっ」と女性が言ってはいけない言葉が聞こえてきた。撫でては揉み撫でては揉みを繰り返していると俯いていた顔をあげる。
「モッフモフじゃな!」
ユナの満面の笑みは、玩具を与えられた子供の姿にしか見えなかった。
「普通は罠を使った後に弓で遠くから仕留めるか剣を使って切り刻むのが普通でな。それ故に毛皮には傷がつきザラザラとした感触が残るんじゃが、これにはそれがないのじゃ!本当に打撃で倒したのじゃな!これ程の物なら高く買い取ろう!」
ユナは捲し立てるようにアランに言うとミーナに金貨の準備をさせる。ミーナはさっきからユナの言う通りに動いているため慌ただしく動いていた。アランは続いて鞄の中からワ―ウルフの牙を取り出してユナに見せる。ユナはアランから牙を受け取るとまた興奮したのか牙を舐め回すように撫でていた。
「おぉ!牙までも綺麗な状態ではないか!ワ―ウルフの討伐の際には不手際が生じて怪我をするのを最大限まで減らすために危険な牙を破壊するのにこれには傷一つないのじゃ!おほっ!ほほほ!」
ユナはワ―ウルフの皮と同様に牙を見ると興奮して触ることに夢中になっていた。
査定士として長くギルドに働いているユナは貴重な物や質の良い物を査定する時には、態度が変わる事をミーナは知っていた。だがこの光景を見たことがない物は呆然とするだろう。現にアランは呆然と事が過ぎるのを待っていた。
ユナは見た目が子供だ。それでも女性であるが故にしてはいけない表情というものがある。今まさにユナの表情は女性がしてはいけない表情だった。目はうっとりとし、にやけた笑いを浮かべながら涎をたらし牙と皮を触っている。愉悦に浸るその姿はギルドで働いて数年は経つミーナでも未だに慣れない。
「ユナさん!そろそろ査定額を教えないと!」
肩をゆすっても気づかないほど遠くの世界に意識が飛んでいるためミーナは力を込めて精一杯肩を揺らした。ぐわんぐわんという擬音が伝わるほど頭と肩を揺らしたユナは我に返り涎をミーナが用意した手拭いで拭いた。
「こほん!この素材の査定額じゃがのう」
我に返ったユナは体裁を保つため顔を引き締める。今までの事象を見ていたアランにとっては、ユナに対する印象はそれだけで変わることは無いがユナは気にせず小袋をアランに差し出す。
「皮1つで金貨15枚に牙2つで金貨10枚。合計で金貨25枚じゃな」
アランは金貨の入った小袋を2つ受け取る。アランは小袋を受けとると金貨を鞄の中に入れる。その姿を見ていたユナが「ほう」と感心したように呟いた。
「お主。中身は確認せんのか?」
「中身?金ならちゃんと入っているのだろう?確認する必要があるのか?」
アランは首を傾げさも当然のように言い放つ。それを聞いたユナは、先程までのにやけた笑みではなく、良い笑みで笑った。
「お主のような年頃なら金銭に関しては、慎重になると思うがな」
――体だけ年老いた子供のようじゃな。
ユナは続けてそう言おうと思ったがアランを小ばかにするだけかと思い、心の中に留めておいた。ユナの思考は的中している。アランは物心のついた頃から善人の多い村で過ごし悪人とは無縁の生活をしていた。若い頃に村を飛び出し森で生活をし悪事とは無縁の生活を30数年過ごしてきたのだからアランの心は少年のように純粋だ。
「む。確かに今後、生活するにあたって金銭は大事だな。忠告感謝する」
「わらわは査定額に関しては、ちょろまかした事はないから安心してよいぞ。換金する時は今後ともわらわに頼むといい」
胸を張ってそう答えたユナは踏み台から降り大事そうにワ―ウルフの皮と牙を抱え奥に戻っていた。奥から不気味な笑い声が聞こえたがアランは聞こえなかったことにする。
ミーナはテーブルを綺麗にするとアランから金貨を受け取り冒険者登録の続きを行っていた。金貨1枚を渡すとお釣りとして銀貨50枚をアランに返す。
「はい!アランさんの冒険者登録が完了されました!お疲れ様です!」
「あぁ。時間をかけてすまなかったな」
情報を記入した紙を別の場所へしまうとミーナは登録が完了したことをアランに言う。それに続けてアランも礼を言った。
「そういえばアランさん。宿か住まいってもう決められていますか?」
一連の流れなのかミーナはアランに住まいについて聞く。アランは最悪、野宿か草原にまた家を建てようか考えていたが宿や住まいが空いているのなら願ったり叶ったりだとミーナに住まいについて聞くことにする。
「良いや。まだ決めていない。何処か良いところはないか?」
「そうですねー。アランさんはお金に困らないと思うので宿ではなく空き部屋を買ってしまっても問題ないと思いますよ!」
ミーナはそう言うと紙を用意して何かを書き始めた。絵と文字が書かれた地図をアランに手渡す。
「空き部屋を売っているライベルさんという方のお店の位置を書きました!ギルドを右に出て地図通りに行けば着くと思います!」
「何から何まですまない……感謝する」
アランはミーナに改めて礼を言いギルドを出ようとする。アランの道の邪魔をしないようにとアランの進行方向にいた冒険者は素早く体をどかしてアランの道を作る。どの冒険者も訓練場でのアランの恐ろしさを目の当たりにしていたためアランに物を申すものはいなかった。
アランはすんなりとギルドを出て、部屋売りのライベルの店へと行くために地図を見ながら街を歩いた。
のじゃロリって良いですよね。