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第1話 おっさんは森を出て街へ行く

おっさんが主人公の物語ってかっこいいものばかりですよね。

おっさんが活躍する小説を書きたくて投稿しました。



 ある辺境の村にアランという一人の男がいた。


 アランは何かに秀でている物も無く特徴の無い男で、いつも村では当たり障りの無い生活をしていた。


 村にある共同の畑を耕し、村に運ばれた荷物を倉庫へ運び、たまに狩りをして獲物を村の人へと配る。よく言えば何でもこなせる、悪く言えば器用貧乏、それがアランだった。


 そんなアランには一つだけ誇れることがあった。


 アランは今までに村の誰よりも駆けっこが早かった。そのため村人たちは急用がある時にはアランに頼み手紙を届けて貰うなどと運び屋として活躍していた。アランも運び屋として頼まれることが誇らしかった。


 そんなある日、村に冒険者が泊まった時だった。酒を飲んで宴をしていた時に、冒険者達の中に足に自信のある者がアランに駆けっこの勝負を挑んだ。アランもそれに了承し勝負に挑む。酒を飲んでいた冒険者にアランは負ける気がしなかった。


 いざ勝負とスタートラインに立たされた時に村の長から小言を言われた。


「わざと負けてくれ」


 村の長は冒険者の気分をよくするために八百長をしろと持ちかけてきた。アランはその言葉に返事をせず男と勝負に挑む。


 アランは本気を出した。

 今までに無いぐらいに足に力を入れ走る。過去最高の速度を出しただろう。冒険者の男も足腰を鍛えているのか負けずとアランに食らいつく。両者互角の戦いだった。


 結果はアランの惜敗。


 アランは全力を出し男に負けた。村一番と自信のあった足で負けたのだ。酒を飲んだ男に。


 アランに勝って機嫌を良くした冒険者を見て村の長は、「わざと負けてくれてありがとう」と言った。その言葉がアランのプライドをズタボロにする。


 アランはその日のうちに荷物を持って森の中へと走っていった。齢二十と数年、アランは初めて挫折をした。今は村から遠く離れたい、そんな一心で森の中を走る。


 村に戻りたくないアランは森の中で生活をする事にした。幸い村では多くの作業をしていたため畑を耕し、獣を狩りでしとめた獣を食し毛皮で服を作る。獣の牙を刃の代わりに使い木を切り倒し簡易的な家を作った。


 それからアランの自給自足の生活が始まった。


 獣を狩るために森を走り、剣や武術には、あまり才能が無かったが足技はかろうじて戦えるレベルであったため木を蹴り岩をけり、足技を鍛える。


 雨の日も風の日も嵐の日もアランは蹴り続けた。



―――――――――――――――




「……ハァ!」

 

 そんな毎日を過ごして十数年が立ったある日、すっかり若者からおっさんになったアランはトレーニングを重ね、一蹴りだけで岩を粉々に吹き飛ばすことに成功した。


「ようやくだ……これで俺は、あの冒険者にもう一度勝負を挑むことが出来る」


 アランの中で一蹴りで岩を粉々に吹き飛ばすのは、最後の試練と課していた。これを終えることによって自分はようやくあの冒険者と同じステージに立つことができると。


「まずは、この森に感謝をしなければな……」


 アランは少量の飲み水と食料を狩りで手に入れた獣の皮で作った自作の鞄に入れると森に「ありがとう」と感謝を言い深く頭を下げる。


 鞄を背負いまずは森を出ようと走り始めると風が背中を押す感じがした。森が、自然が、アランを後押ししていると感じさせる感覚に十数年すごした森にもう一度、感謝を告げ走る速度を上げた。


 どれくらい走ったのだろう森を駆けていると開いた土地が前に見えた。森を抜けることが出来たアランは速度を歩く速度まで抑えて何も無い土地を見る。どうやら草原のようで人工的に作られた道もある辺り街へ行くまでの道路であろうと判断する。


「さて……街は左か右か」


 道路まで歩きどちらの方角へ行こうか迷ったアランはその場に立ち止まった。注意深く見てみると道路には薄く足跡のようなものがあり方角的には右へと向かっていた。


「足跡は右か。では右へ行くとしよう」


 アランは鞄を背負いなおし足に力を入れ地面を蹴る。蹴られた地面は抉られその反動で飛んだアランは馬車よりも早く地面を蹴っていた。これでも荷物を背負っているため本気では走っていないがアランの度が過ぎる力を目の当たりにすることが出来る。何度も地面を抉り、駆けるアランは約三日間、馬車をかけて街から街まで行く道を半日でたどり着いてしまう。


「案外早くついたものだな」


 後ろに抉った後をつけてきたアランは急に立ち止まり街の門の前で立ち止まる。目の前には唖然とした門番達がいた。それもそのはずだ、何せいきなり目の前にすごい音を鳴らして現れたのが獣の皮で作られた服を着たいつの時代か分からないおっさんなのだから。


「おい!何者だ貴様!」


 門番は我にかえりアランに槍を突きつける。槍を突きつけられてもアランは平然として答えた。


「私の名はアランだ。冒険者になりたく森から参った」


 アランは胸を張り強く言った。その声は獣の雄たけびのように相手に伝わった。門番は一瞬怯むがやりを持ち直しアランに問う。


「森だと?通行証、もしくは通行証発行の通行料はないのか!」

「金か?持っているのは。食料と飲み水と獣の皮や牙ぐらいだ」


 アランは身分の提示を求められ鞄の中から食料と飲み水、それから狩りで手に入れた獣の皮と牙を取り出す。門番はアランから受け取った毛皮を見る。



「……これは!ウルフ種の中でも上位種のワーウルフの毛皮じゃねぇか!」


 素人目でも分かるもふもふとした肌触り。狩ることが難しいと言われているウルフ種の上位種のワーウルフのものだと分かった。上位の冒険者でも狩ることが難しいと言われているワーウルフを差し出してきたアランを注意深く見る。


 門番は仕事上多くの人間を見てきた。貴族、商人、凄腕の冒険者と多くのものが訪れその度に門番としての自分の仕事をした。それでもアランに匹敵するほどの物を差し出してきた者は今までにいなく、凄腕の冒険者として訪れた者と同じだけの風格がある。


 門番は一人喉を鳴らした。どれだけの修羅場をくぐればここまでの風格になるのだろうと。


「それを換金しようと思っていた。通行料としてそれを差し出そう」


 黙りを決めた門番にアランはワーウルフの皮を差し出すと提案した。その言葉を聴いた門番は驚きを隠せなかった。ワーウルフの皮は売れば金貨何十枚もなる程の大金を得ることが出来る。金貨1枚は成人男性が半月もしくは一ヶ月、一人で生活できる金額だ。通行料として定められている金額は銀貨2枚。たった2枚だ。ワーウルフの皮が例え金貨10枚でも銀貨1000枚。つまり500回も通行証が発行できる。


「わかった。これで通行証を発行しよう。そこで待っていてくれ」


 門番は考えるまでも無かった。門番の利益を考えてもアランを通すのに不利益は無かった。それにアランは冒険者になりたいと言っていた。冒険者になりたい男が街に害になるようなことは起こさないだろう。この時門番の思考は金の力によって正常に働いていなかった。


 もう一人の門番もアランと門番のやり口に手を出すことは無かった。このやり取りを黙ることと引き換えに自分も金を得ようと考えていたからだ。


「これが通行証だ。今後、門をくぐるときは、これを見せるように」

「それと、ギルドはこの道を真っ直ぐ行けば大きな建物が見えてくる。そこで冒険者登録をするといい」


 門番達はアランへ通行証を渡しギルドの場所を教えるとアランから受け取った物を隠して持ち場へと戻る。


「すまない。世話になった」


 アランは門番に礼を言い街に入りギルドを目指した。


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