永遠の忘却。〜レインロゼ視点〜
トトが消えた。
僕の中から温かい何かが欠けた瞬間に彼女の気配を感じなくなったのだ。
どんなに呼び掛けても反応が無い。
主従関係を結んだ僕ら妖精王とその主はお互いの存在を把握する事が出来る。
トトの存在が全くと言って良い程、何も分からなくなってしまった。
僕の他にもトトに加護を与えた火と水の妖精王の二人も慌てて彼女を探している。
すぐに見付かる大丈夫だ、と自分に言い聞かせて必死で平静を保とうとした。
けれど…二週間経った今でもトトは見つからない。
「俺のせいだ…!俺があの時、トワを一人で行かせたから…っ」
「そう自分を責めるなヴァン殿」
「今は全力でトワを探す事に集中しよう。ヴァン、それには君の力が必要なんだ」
「二週間か…彼女のあの強い魔力をここまで無にするとはな。驚きなのだ…」
「やっぱり、組織が関係しているのでしょうか…」
ランジェの部屋で、トトを探す手掛かりについて話し合うけれど何も見付からない。
魔力を嗅ぎ分けられるリリィとハヤテでさえも何も匂わないと言っている。
こんなにも魔力の気配を絶つのには相当の魔法を扱えなければ無理だ。
(もう一つある可能性…っ、あり得ない…けど。)
その可能性は魔力保持者の死を意味する。
トトが死んでいる訳無いと頭からその考えを無くそうとするけれど…思考はどんどん悪い方向に向かって行く。
皆もその可能性を考えるのが恐ろしくて、誰も口にはしていない。言ったら…本当に実現しそうで怖いのだ。
「本当に…どこにいるの…トト…」
『トワいない…』
『王様悲しい…』
『僕らも悲しい…』
僕の感情は他の妖精達と繋がっている。
妖精王として、しっかりしなくちゃ駄目なのに…不安で押し潰されそうだ。
妖精達もずっと涙を流して悲しんでいた。
「妖精王よ。我らの大切な友…トワを妖精達の力を借りて探す事は無理なのか?
我はトワが見付かるのなら何だってやるのだ」
「ウルネロ…ごめん。妖精達でもトワの魔力のオーラを見る事が出来ないんだ…」
「そうか…すまぬ。我も焦っていて酷な事を聞いたのだ…」
守るって約束したのに。
皆の大切な、僕のたった一人の女の子。
トトを失うなんて考えられない。
これが夢ならどんなに幸せだろう。
君のあの温かな笑顔が今すぐに見たいよ。
「トト…」
悲しみでどうにかなりそうだ。
皆の前で泣く訳にはいかないと思い、一人になれる裏庭へと向かった。
ここは密かにたくさんの種類の花が咲いていてトトのお気に入りの場所だ。
座り込んで一つの花を優しく撫でる。
それは赤い赤い真っ赤な薔薇の花。
僕とトトの花だ。
(会いたい…トトに会いたい…。)
花に願い事をして叶うなんて思わない。
それなのに、願わずにはいられないんだ。
我慢していた涙がゆっくりと頬を流れ落ちていく。この涙を止める事は出来ない。
「泣いているのですか?」
「え…」
それは僕の愛しい彼女の声。
心臓の脈が異常に速い。
下げていた目線を上げるとトトがいた。
けれど、それはトトであってトトじゃない。
「どうして泣いているのですか?悲しいのですか?」
「あ…え…」
声が出なかった。
僕が大好きな誰よりも美しい黄金の髪と宝石のようなエメラルドの瞳がそこには無い。
あるのは艶やかな銀色に輝く髪と暗黒の瞳。
声はトトなのに、容姿も雰囲気も彼女が放つ魔力のオーラも全部全部違う。
これは本当にトトなの…?
「ノアール、勝手に居なくならないでくれ。心配するだろう」
「ごめんなさい、リュード。彼が泣いていたから気になってしまったの…」
「彼?」
奥から歩いて来たのは妖精達の間で「闇の子」と呼ばれる人間だった。
この人間からはずっと嫌な感じがしていた。
底知れない魔力のオーラ。
トトがロッド様と呼ぶこの男が僕は大嫌いだ。
「妖精王様が何故ここに?普通なら妖精界にいるのでは?」
「っ、白々しい!お前が!お前がトトを隠したんだろう?!僕らの大切なトトを返せ!!」
「妖精王が感情的になるなんて珍しいな。俺が君の主を隠した証拠なんてどこにある?」
「それは「止めて!」…トト?!」
ドンッと体を強く押され、トトは闇の子を守るように僕の前に立った。
体を震わせながらも僕を睨む瞳には確かな敵意が込められている。
彼女にとって僕は敵になってしまったのだ。
その事が僕の心臓を深く抉った。
「誰だか知りませんが、リュードを傷付ける事は私が許しません!!」
「ち、違う!僕は、僕は君を…!トトを助けたいだけなんだ!」
「…そんな人は知りません。只の勘違いです」
闇の子の手を引いて奥へと行ってしまうトト。
待って!と言って足を踏み出そうとすると、何故か足が動かせず身動きが取れない。
良く見ると地面から無数の黒い手が伸びて僕の足を掴んでいた。
どんどん遠くなるトトの姿。
会えたのに…こんなの嫌だよトト…。
「行かないで…っ、トト…!!」
風に靡く銀色の髪が遠ざかっていく光景が僕には耐えられなかった。




