いざ、参らん。
兄をやっとのことで部屋から追い出せた。
もう私の体力、殆ど無いんですか…何だあのシスコンモンスター。
話が全く終わらないし、聞かないし。
愛が重すぎるわあの人。怖い。
「はぁ…やっと、お父様の部屋に行ける」
ゆっくり扉を開けて左右を見て、シスコンモンスターがいないこと確認する。
何でこんな自分の家で、しかも実兄にヒヤヒヤしなくちゃならないんだ。
長い廊下を歩きながら、眉間をグッグッと押してマッサージした。
ご令嬢としてアウトだがそこは気にしない。スルーだ。
前世を思い出したは良いものの、若干今の暮らしの面倒くささを実感してしまう。
当たり前のようにずーっとドレスを着なくちゃだし、食事をするにも作法のオンパレード。
ダンス練習だってあるし、家庭教師達の教える勉強内容もハード。
ご令嬢って面倒くさっ!!と大きな声で言いたい。
前世の私は動きやすさ重視でジーパンばっか履いてたし、食事だってカップラーメンが好きだった。特にシーフード。
ダンスだってキャンプファイアーとかで踊ったくらいで、勉強も語学は英語くらいだった。
何だ。スルティア語って。何処だそこ。
前世の自分の女子力の無さを嘆くが、楽で楽しい人生だった。
平和エンドに向けて頑張って生き出したとか…波乱すぎるでしょ七歳にしちゃ。
改めて自分がこの魔法世界で生きていくのだと実感すると乾いた笑いしか出てこない。
「ふぅ………よし。いっちょやってやりますか。お父様に直談判!!」
コンコンコンッと扉を叩くとすぐに中からお父様の入室を許可する声が聞こえてきた。
扉を開けると資料整理をしていたお父様が私を見てにっこりと優しい笑みを浮かべた。
いやー癒される。大好きですお父様。
「体調はもう大丈夫なのかい?部屋に様子を見に行こうと思ったんだけど、クオンが代わりに行くと言ってね。
人数が多いのは迷惑になると思って行かなかったんだ。すまなかったね」
「もうすっかり元気になりましたわ。お兄様ともたくさんお話出来ましたし良かったですわ」
「そうか、そうか。トワが元気なことが僕の幸せだからね嬉しいよ」
「お父様…」
何だこのぽちゃイケメン!!
癒しのオーラが半端ないよマイナスイオンが出てるよお父様!!
弛みそうになる顔を一度、引き締めてお父様の正面に移動する。
ここからが勝負だトワ・アトリエス!
「あの急な相談で申し訳ないのですが、薬を調合する器具が欲しいのです」
「薬を?何故だい?」
「以前に読んだ医学の本がとても興味深く是非、私も多くの人を助けれるような薬を作りたいと思ったのです」
「トワ…それはとても素晴らしい考えだけれど、薬を作ることは並大抵のことではないんだよ?」
お父様は少し困ったような表情になった。
予想通り、すぐには了承されないだろうなとは思った。
だって七歳の子供が急に薬作りたいとかどういうギャグだ。
けれど、諦められない。
だって私の未来がかかっているから!資金調達をしなくちゃだから!
「お願いします、お父様!もし三ヶ月で何も成果が得られなければすぐにやめます!
ですが、どうしても挑戦してみたいのです私は!」
「うむ…トワがそんなに医学に興味があったとは」
うーん、と悩むお父様をじっと見つめる。
お願いだ~可愛い娘の頼みだ~聞いて~、と念を送る。伝われ私の思い。
悩んでいたお父様が私と視線を合わせ、何か言おうとした瞬間にコンコンコンッと扉を叩く音が部屋に響いた。
誰だよ!こんな大事な場面で!
ぐりんっと振り返り、舌打ちでもしてやろうかと考えていたらまさかまさかのあの方。
「お父様、失礼しま……!え、トワ?!何でいるんだい?!もしかして俺に会いに?!」
「断じて違いますわ。お兄様」
またお前かよ!と言わなかった私を誉めて頂きたい。何故、また貴方が登場するんですか!
最高にキラキラした笑顔で近付いてくる兄の顔をグーパンチするのを頑張って耐えた私だった。