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借金魔王と魔神導書  作者: 明石 遼太郎
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第4話 クラス内での肩身が……

 俺はかつてない出来事に混乱していた。予想すらしていなかった。まさか、俺以外のクラスメイト全員が女子だったなんて。


 今は1時間目である算術ーーーこっちの世界じゃ数学かーーーの授業を受けている。時間割はあっちの世界とは異なっていて、午前に3時限、午後に魔導士の演習と大きく違っていた。午前は1時限1時間行い、午後に行われる授業は2時間もするそうだ。なんとハードな……


 だが、今は自分の体力を気にしている場合ではない。俺の席はクラスメイト全員を見渡せる位置にいるので、改めてクラスメイトたちを見た。女性特有の胸の膨らみが1人見られない者がいるが、間違いなく女子だ。やばい……教室で1人ぼっちな俺しか想像できない……


 そんなことに頭を悩ませていたら、いつの間には算術の授業が終わってしまった。長くもあり短くも感じた最初の休み時間である。話できるかなと心配になったが、向こうから話しかけて来てくれた子がいた。それも意外にもナーデラルさんだ。


「ちょっと、いいかしら?」


「あ、うん。なに?」


「あなた、本当に実力者なの?」


「?それはどういうこと?」


 話しかけて来てくれたと思ったら、いきなりよくわからないことを聞かれた。


「私からして見れば、この実力者ぞろいのSクラスに途中から入るような実力をあなたにあるとは思えないんだけど」


「あ、あぁ、そういうことか」


 色々と納得した。おそらく彼女はこの最高クラスであるSクラスに誇りを感じているんだろう。俺が教室に入って来たときの不満の視線は、最高クラスに途中からノコノコと入ってきた俺に対するものだろう。


「アリア。ちょっとこいつの魔力を測ってみて」


「あ、は、はい」


 ナーデラルさんに呼ばれたアリアさんが俺の元までやってきて、左小指に嵌められている指輪に魔力を流し始めた。その指輪が彼女の魔導書なんだろうな。現に魔導書の力が解放されて、変形し始めている。変形した魔導書は指輪から白銀に輝く宝石が詰め込まれた髪飾りに変わる。


「そ、それでは……失礼します……《魔力測定(スキャン)》……えっ、えぇぇぇぇええ‼︎」


「ちょっ、どうしたのアリア⁉︎」


「なにかあったのですか?」


 俺の魔力を測定したアリアさんが驚いたような声を上げたことで、他のクラスメイトたちも俺の元に集まってきた。


「なになに?なにがあったのっ?」


「アリアにこいつの魔力を測ってもらったんだけど、測り始めた途端、急に声を上げて」


「へぇー、で結果はどうだったの?」


 サテラ、なんか楽しそうだな。まぁ、それが彼女のいいところなんだろうけど。


「えっと……結論から言うと、測定不能でした……」


「測定不能……それはつまりどういう意味なのですか?」


「測定不能になる場合は2つあって……1つはその人が魔力を持っていない場合、もう1つが魔力が多過ぎて測りきれない場合……キラサカくんの場合は後者で……ミツハ様を大きく上回る魔力を持っています……」


「なっ⁉︎」


「うえー……」


「それはまた……」


 俺の結果を聞いて、マリアちゃん以外の子たちが驚いた声を漏らしていた。サテラなんて、口を開けた状態で固まっている。マリアちゃんはだいたいわかっていたんだろうが、なぜそんか満足気な顔してるの?


「あの《魔王の寵愛魔女(トライアングル)》の《禁獄の魔女(プリズン・ウィッチ)》のミツハ様を上回る魔力ですって⁉︎」


 驚愕から我に返ってきたナーデラルさんが発狂したように叫び始めた。その中で俺は聞き捨てならないことを聞いてしまった。


「《魔王の寵愛魔女(トライアングル)》?《禁獄の魔女(プリズン・ウィッチ)》?なにそれ?」


「えっ?カイトくん、知らないの?」


「あ、あぁ」


「はぁあ?あんたそんなことも知らないの?世界常識でしょうが‼︎」


 えぇ?なんで俺、怒鳴られてんの?てか、別世界から来た俺に世界常識って言われても……


「《魔王の寵愛魔女(トライアングル)》様たちのことを知らないとは、キラサカくんおかしいですよ」


 こっちも⁉︎そんなガチトーンで言わなくてもいいじゃん‼︎メディナさんは真顔だから普通に怖いし……


 俺は助けを求めるべくマリアちゃんに目を向けたが、マリアちゃんはただ苦笑するだけで終わった。ちょっ、マリアさーん!


「まぁまぁー、2人ともそう怒らないの。カイトくんは男の子だし、そんなに興味がなかったのかもしれないよ」


「そ、そうですよ……一旦、落ち着きましょう」


 意外にも2人を収めてされたのはサテラとアリアさんだった。2人の言葉が効いたのか、纏った怒気をようやく抑えてくれた。はぁー、よかった。


「それでね、カイトくん。カイトくんはさすがに《偉大なる魔王(グレイト・サタン)》は知ってるよね?」


「あ、あぁ、それはさすがに知ってる」


 いきなり自分の過去の呼び名が出て来たからビックリした。


「その《偉大なる魔王(グレイト・サタン)》はね、8冊の魔神導書(アルカナム)を集めるときに3人の仲間と旅をしたらしいの。その3人は《偉大なる魔王(グレイト・サタン)》の寵愛を受けた者とされて、《魔王の寵愛魔女(トライアングル)》と呼ばれるようにななったんだよ」


 おぉ、3人の仲間まではあっているが寵愛とかの部分が色々とねじれ曲がってるなぁ。しかも、自分のことを喋られるとなんかむず(がゆ)いし……


「2年前に《偉大なる魔王(グレイト・サタン)》様は世界のために亡くなられたけど、《魔王の寵愛魔女(トライアングル)》様たちは未だに健在だから魔女様たちに憧れている人はこのクラス含めて、世界にたくさんいるわ」


「そ、そうなんだ。全然知らなかったよ……」


 まさか、俺が森に籠っていた2年間で3人にそんなことがあったとは。これはいいネタになりそうだ。


「えっと、ね。お姉様が《禁獄の魔女(プリズン・ウィッチ)》って呼ばれていて、ヒオ様は《水銀の魔女ソリューション・ウィッチ》って言われているの」


「マリアさんはいいですね。《魔王の寵愛魔女(トライアングル)》様たち全員と面識があるなんて。羨ましい限りです」


「ははは……」


 確かにミツハはこの学院の学院長だから会ったことはあるだろうが、ヒオは王女だからな。そう簡単に会えるわけがない。それに最後の1人とくれば……


「最後の1人はなんて呼ばれてるんだ?」


 名前はもちろん知っているが、ここで出せば矛盾が起きかねないので知らないフリをした。


「ルイーズ様は《蛮勇の魔女(アサルト・ウィッチ)》と言われています……現在は行方がわかっていないんですけど……生きてることは確かだそうです……」


 ルイーズ・バルダイン。術式の爆破魔法を組み入れた魔闘技が得意だったのを覚えている。あいつは好戦的な性格で、派手なことが大好きだったからな。《蛮勇の魔女(アサルト・ウィッチ)》とは、またお似合いの呼び名を付けてもったようだ。


「と、だいぶ話が逸れたけどアリアが言うんだからこいつの魔力量は本物ってことね」


「えぇ。キラサカくん、あなたはどんな魔導書と契約しているんですか?」


「あ、僕もそれ気になるー」


 真剣な顔で俺に問いかけてくるメディナさん。それに乗っかるように声を出すサテラにものすごい勢いで頷くアリアさん。そんな期待の目を向けられても俺が口にする答えは決まっているので、少し申し訳なく感じる。


「俺、魔導書と契約してないんだ」


「「「「え?」」」」


 俺の言葉にマリアちゃん以外の少女が声を揃えて同じ反応をする。これが事前に俺とミツハで作った設計の1つだ。もし魔導書と契約していると言って、魔導書を見せて欲しいと言われればそこで詰みだ。ならばいっそ、どれにも契約していないことにすれば魔導書から俺が《偉大なる魔王(グレイト・サタン)》であることがバレる可能性が減る。ちなみに、いつもはポケットの中に仕舞ってある魔神導書(アルカナム)たちは見つかるとまずいので《異空間収納(ストレージ)》に放り込んでおいた。


 俺が答えてから随分な時間が流れる。それからしばらくすると、ナーデラルさんが口を開いた。


「あんた、なんでこのクラスにいるのよ。なんな実力もないあなたが」


「ナーデ。その言い方は良くないよー。もしかしたら、素の身体能力がすごいのかもしれないじゃないか」


「この平凡の身体能力がすごいとは思えないけど、百歩譲ってそうだったとしてもよ。魔導士は契約した魔導書を使いこなしてこそ、魔導士と呼ばれるの!使いこなせてないどころか、契約するらしていないだなんて……あなたなんでこの学院に入ったのよ」


「それは……知人に誘われて」


 俺はあらかじめ作っておいた設定を口にした。でも、今の状況でこれを言うと……


「あー、なるほど。理解したわ。あなた裏口入学ってやつしたんでしょ」


「その可能性は十分にあり得ますね」


「えぇ⁉︎いや、違うよ。カイトくんはちゃんと正式なーーー」


「マリアは黙ってなさい。どうしてこんな無能がと思ったけど、裏口入学なら納得よ。男なら《偉大なる魔王(グレイト・サタン)》様みたいに魔神導書(アルカナム)8冊とは言わないにも、高位の魔導書と契約してから裏口入学することね」


 必死に弁解してくれようとしたマリアちゃんだっけど、ナーデラルさんの迫力で抑えられてしまった。ナーデラルさん、もう過去のことだけどあなたが様呼びしている張本人なんだけど……


 ここまで言われるとさすがにムカっとくる。だけど、今の俺では何も言い返せない。生まれ変わった俺はあまりに無力だ。


 タイミングがいいんだか悪いんだか、そこで2時限目のチャイムがなって先生が入ってくる。それに気付いてみんなが席に戻って行く。マリアちゃんだけは心配そうに俺のことを見ていたが、俺は大丈夫と手を振るだけにした。



 *************************



 それからあった言う間に時間が流れ、昼食休憩になった。2時限目は魔工学で、3時限目は戦術の授業だったが俺は上の空のように聞いていた。3時限目の授業が終わるとクラスの子たちは早速さと教室を出て行った。行き先は多分食堂だろう。俺も食堂に行こうか。


「やぁ、カイトくん。僕たちと一緒にご飯でもどうだい?」


「え?」


 俺が立ち上がろうとしたところで不意に声を掛けられた。見上げれば、そこにはサテラにマリアちゃん、それにアリアさんもいた。マリアちゃんはまだわかるが、サテラとアリアさんはどうして?


「おいおい、こんなに可愛い女子に誘われてるんだから断るなんて野暮だよっ」


「カイトくんの分のお弁当作ってきたよ」


「あの……ダメでしょうか……?」


 俺が疑問に思っているのを余所に3人が俺を誘って来てくれた。


「あ、あぁ、うん。大丈夫だよ」


 俺は頭に浮かぶ疑問を払って誘いを受けた。あっちの世界で女の子に食事に誘われたことがなかったからわからないけど、返答へんじゃなかったかな?


「よーし、それじゃ付いて来て。僕たちがいつも食べてるいい場所があるんだ」


「行こう、カイトくん」


 俺は素直に付いてくることにした。連れて来られたのは、中庭の木の下。俺がネビル先生に案内されて教室に行くときに見た大きな木だ。その日陰に4人で円を作って座った。


「はい、カイトくんの分」


「ありがとう、マリアちゃん」


 俺はマリアちゃんから受け取った弁当を開けた。そこには同い年の女の子が作ったとは思えないほど、綺麗だった。俺の世界みたいに保温可能な弁当がないせいで、冷めても美味しい物に限られてくるがそれでも色彩よく並べられたおかずはどれも美味しそうで食欲を湧き上がらせてくる。


「それじゃ、食べよっか」


 マリアちゃんの合図でみんな一斉に食べ始める。こっちの世界だと「いただきます」と言った挨拶は言わないらしく、1人のときならともかくみんなが入る前だと疑問に思われるだろうから胸の中で言うことにした。


 それからしばらくは静かな昼食が続く。俺はタイミングを見計らって、さっきからずっと疑問に思っていることを口にした。


「あのさ、サテラにアリアさん。2人は俺のこと疑ってないの?」


「裏口入学のことかい?」


「あぁ」


 せっかく誘ってくれたご飯にこんな話題はどうかと思ったが、やっぱり聞かないと俺の心はスッキリしそうになかった。


「そうだね。これに関してはハッキリしておいた方がいいね。僕は君を疑っている。ただ、それは裏口入学ことじゃなくて君が隠していることの方をかな」


「……え?」


「わ、私もサテラちゃんと同じで疑ってはいません……」


 意外というか、サテラが言っていたことも驚いたが裏口入学を一切疑っていないということに俺は不意を打たれた。


「僕は君が確かな実力を持っているけど、わけがあって隠していると考えてる。違うかい?」


「……」


「……」


 サテラが言うことに俺とマリアちゃんは何も言わなかった。ここで無言を通しても、肯定しているのとなんら変わらないとわかっていても何も言わなかった。


「ま、それも秘密なんだろうから深くは聞かないよ。ただ、いつか僕には君の本気を見せれ貰いたいものだね」


 自分に自信があるのか、サテラは俺に秘密があることを疑っていない。こんなに勘のいい子が学院にいるなんて、想定外にもほどがあるぞ。


「あぁ、いつか機会があったら見せてやるよ」


 とりあえず俺は、叶えられるかもわからない約束を交わした。まぁ、俺が本気を出したときは世界が無くなる日だろうけどな。


 2人は俺のこと疑ってないのはわかった。けど、残る2人のナーデラルさんとメディナさんは絶対疑ってるだろうなぁ。あそこまで言っておいて、まったく疑っていないなんて聞いたらドッキリに掛かった気分に陥りそうだ。


「残る2人だけどね。あれでも根は優しい子たちなんだよ」


「うん、貴族の子にしては珍しくね」


「それはマリアちゃんも同じだと思うよ……」


「そうなのか?」


 俺からしてみれば、高飛車なのとド真面目なお嬢様にしか見えないのだが。どうも数ヶ月間の付き合いで彼女のことが少なからずわかっているのだろう。


「多分、今頃言い過ぎだって気にしているんじゃないかな」


「うんうん。実は謝る機会を伺ってるとかね。だから、今は待つときだよ、カイトくん」


 そうなのか?本当にそれで大丈夫なのか?まぁ、マリアちゃんたちが言うことだからそれがいいんだろうし、そうした方がいいんだろうな、きっと。


「わかった。アドバイスありがとう、3人とも。それとアリアさん、俺のことはカイトでいいよ」


「あ……はい、わかりました。カイトさん」


 それでこの話は終わりにした。次は魔導士の演習だし、運動用の服に着替えて演習場に行かないといけない。俺たちは手早く食事を済ませ、女子は女子更衣室に俺は男子更衣室へと向かった。


 男子更衣室にはすでに数人の男子が居て着替え始めていた。俺は学院内で始めて見た男子に内心ホッとしていた。とりあえず、自分のロッカーを探すか。ロッカーといっても、あっちの世界みたいに開け閉めする物ではなく、下駄箱のようにただ置くだけのスペースがあるだけだ。


 自分のロッカーは1番奥側の1番端で、そこに真新しい運動服が綺麗に畳まれた状態で置いてあった。俺はすぐに制服を脱いで運動服に着替える。半袖短パンとあっちの世界となんら変わらない運動服。着心地もあっちと全然変わらないし、なんだか懐かしい感覚だ。


 手早く着替え終えた俺は男子更衣室を出る。向かうのは演習場だが、一体どこの演習場なのかまったくわからない。こういうとき、向かう場所は決まっている。俺はすぐに目的地を変えて歩き出した。


 俺が向かった場所は職員室だ。ここに来た理由は簡単でネビル先生に演習場の場所を聞くためである。俺が呼ぶとネビル先生はすぐにやって来た。演習場の場所を聞くと、ネビル先生も今から行くところだったらしいので俺はその後ろをついて行くことにした。


 演習場と校舎は繋がってるらしく、途中でたくさんの分かれ道があったからおそらく演習場は複数あるのだと推測される。そして、俺は1つの扉にたどり着いた。


「ついたぞ」


 ネビル先生が一言そういうとスライド式の扉を開けて中に入って行った。俺もそれに続いて中に入ると、そこは大きな円盤型の訓練場になっていた。広々としていて、頑丈そうな壁と天井にその周りには客席らしき席もあるので俺の世界でいうところのコロシアムと同じだろう。


 土でできたリングに目を向けて見れば、2組の塊になって集まっているのがわかる。片方にはマリアちゃんたちがいるので俺のクラスだろうが、もう片方は運動服の色が俺と違うことから上級生なのだろうことは一目瞭然である。


 俺はみんなを待たせてはいけないので、さっさとクラスメイトたちの塊に行くことにした。みんな、それぞれで会話していたのでとりあえずマリアちゃんとサテラ、それにアリアさんと一緒に花を咲かせていた。


 途中で視線を感じて発生源の方を見ると、上級生たちがこちらを見ていることに気付いた。ただ、見ているだけならなんとも思わなかったのだが、その視線に宿っている感情と表情がキモかった。こちらのクラスの女子の身体を食い見るように見ていたのだ。だが、そこでチャイムが鳴ったので俺は仕方なく授業に身を入れることにした。


「今日の演習は来週に控えた中間テストの課題を発表しようと思し、今日はその練習に取り組んでもらおうと思っている」


 …………ん?中間テスト……?ーーーワッツ?


「学院に入って初めての課題だからな、みんな頑張るように」


「「「「「はい!」」」」」


「うむ、では課題を発表しよう。今回、1年Sクラスの生徒にしてもらう課題はあれだ」


 そう言ってネビル先生は自分の左方向を指差した。俺も含めて、クラスメイトのみんなもネビル先生が差した方を見る。そこには、俺たちから20メートル離れたところに透き通った色をした板が垂直に立っている。俺はまさかと思って口にした。


「あれはダイヤか?」


「お、正解だ、キラサカ。あれはダイヤを加工して分厚くした物だな、ミスリルには劣るがとても硬いぞ。今回はあれを壊すか貫通できれば合格とする」


 いや、とても硬いのレベルじゃないぞ。ダイヤと言えば、俺の世界では最も頑丈な鉱石だ。そんな物を厚い板にすれば、対物ライフルでも貫通できないぞ。


「それでは今から授業の終わりまで練習。適度に休憩は挟めよ。魔力が枯渇して動けなくなっても知らんからな」


「「「「「はい!」」」」」


「は、はい!」


 ネビル先生の指示に元気のいい返事をする、クラスメイトたち。出遅れたが、俺も負けじと大きく返事をする。返事をするとみんなダイヤの板に挑み始めた。


 最初に挑戦するのはサテラのようだ。彼女は魔導書を解放して、両手に片手剣より少し短めの剣を2本持ち、ダイヤの板に向かって駆け出した。ダイヤの前まで来るとなんらかのモーションを起こしたのか、魔力を高めて術式を発動させた。サテラは両手持つ2本の剣を交差させ、突きを放った。鉄と鉄とがぶつかったような音を立てるが、剣は途中で止まってしまい貫通には至らなかった。


「いやー、やっぱりダイヤって硬いなー。手がビリビリするもん」


 セリフとは裏腹に表情はまるで悔しそうでないサテラが俺に話しかけてきた。


「サテラはいい太刀筋をしてるな。2本の剣もうまく使えているし、よかったと思うぞ」


「え、そう?いやー、それほどでもー」


 照れた動作のように頭をかきはじめた。本当にお調子者である。


 次に挑戦したのはメディナさんだ。変形させた魔導書がメディナさんを覆い尽くせるほどの盾が出てきたときはさすがに驚いた。メディナさんは腰を低くして自分の前に盾を構える。


「《一盾一進(タンク・インパクト)》」


 メディナさんは術式名を唱え、術式を発動させる。すると、高まった魔力が盾へと収束していく。魔力が収束し終わるとメディナさんは地を蹴ってダイヤの板目掛けて突進していく。そして思いっきりぶつかると、盾に宿っていた魔力がダイヤに向かって放出されダイヤの板を大きく揺らす。けれど、ダイヤを壊すまでには至らなかった。


「やはりダメでしたか」


「どんまーい、メディナ!」


 どうやらメディナさんは元々壊せるとは思っていなかったらしく、そんなメディナさんに俺の隣にいるサテラが声をかけていた。


「えぇ、次は必ず壊します。ところでそこの無能さんはやらないのですか?」


「いや、俺は最後にやうかと。試したいこともあるし」


「なんの魔導書とも契約していないあなたが受かるわけないでしょ」


 俺とサテラとメディナさんの会話に入って来たのはナーデラルさんだ。話に入って来るなり、いきなり俺を睨むように見て来る。これって、本当にさっきのこと気にしてるのか?全然見えないんだけど……


「魔導書がなくてもできることはあるよ」


「じゃ、それを証明しなさい。それじゃ」


 ナーデラルさんはそんな捨て台詞を残してダイヤの方に行ってしまった。ダイヤ板から20メートル離れたところに立つと、ポケットから手の平サイズの魔導書を取り出した。その魔導書と回路(パス)を繋げて魔力を流すと、手にしている魔導書が光を放って変形する。変形したのは30センチほど杖だ。


 その杖を手にしたナーデラルさんが術式を発動させる。


「《集え暴風・集え青嵐・汝の本質を輝かせよ・ーーー」


「こっ、これはっ⁉︎」


 間違いない。俺のシェルと同じ呪文詠唱タイプだ‼︎なんとなく友を見つけたような想いになってしまう。だが、俺が驚いたのはこれだけじゃない。


「ーーー大気を切り裂く弾丸となりて・撃ち穿て》」


 計5節の呪文を唱え終わった瞬間、魔法が発動した。ナーデラルさんの周囲にある風がナーデラルさんの持つ杖の先に集まっていく。集められた風は徐々に光を放ちはじめ、1弾の弾丸となる。


 ナーデラルさんは杖を振るって弾丸を発射させ、ダイヤ板を獲られる。ダイヤ板に着弾すると分厚いダイヤを容易く貫き、その後ろの壁へと着弾する。


 その光景を満足気に見つめ、俺の元まで歩いて来るナーデラルさん。


「どう?あんたに同じことができる?」


「プラズマの弾丸か。そう言えば、風の魔法が得意って言ってたっけ。いい発想だね」


「あら?無能のくせによくわかったわね。今のが私の固有術式よ」


 風を極限まで圧縮して作り出したプラズマを撃つ、ナーデラルさんの固有術式か。いい発想力と才能があるな。でも、ここまで挑発されたんだから頑張らないとな。


「マリアちゃんとアリアさんは挑戦しないの?」


「私の魔導書は補助とか浄化とかしかなくてね。元々攻撃魔法がないの」


「わ、私も、知覚魔法メインの魔導書なので……攻撃魔法がありません……」


「そっか……じゃ、俺が行こうかな」


 2人がそう言うことなら俺が行くしかないな。ダイヤの目の前に立ってみると、やっぱりすごく硬そうだな。今の俺にどれだけできるかわからんが、やって見ますか。


「アリア、カイトくんの魔力がどうなってるか見といてくれない?」


「え?う、うん、わかった。《魔力視認(ソーサリー・アイ)》」


 後ろでなんかやってるけど、今は集中しないといけないから無視だな無視。俺は体内にある魔力を全身に巡らせて強化する。身体能力はもちろん、肉体、それに骨も。


 人間は魔力を有している。これは昔からわかっていることで、今は常識となっている。だが、人は魔力を有しながらも体外に放出することができなった。そこで出て来るのが、魔導書だ。魔導書の術式を借りることで、人は初めて魔力を体外に出すことができる。


 つまり、ただの身体の強化なら魔力を消費することなく強化し続けられるのだ。だけど、みんなそれをしない。なぜなら魔導書に記述されている身体能力強化の術式の方がはるかに効率よく強化できるからである。魔力の消費よりも強化の効率を選んだせいで、この技術は忘れられた。


 だが、しかし!俺の魔力はその絶大さゆえに高位の魔導書の強化術式よりも強く強化できるので、俺はこれを好んで使っている。それに魔導書の身体能力強化は肉体とは骨は強化できないから全力を出すならやっぱりこっちだ。


 俺は殴る構えを取った。そして限界まで強化が巡ると思いっきり拳を振るってダイヤの板に殴りつけた。拳に硬い感覚が伝わってきた後、その感覚は一瞬にしてなくなりものすごい音を立てて崩れはじめた。


「あー、やっぱりダメだわ」


 しかし、俺は納得がいかなかった。昔なら硬い感覚なんて感じなかっただろうに……一度に使える魔力を制限されてるせいで、昔のように強化できなかったのか。なら仕方ないか。


 俺は心の中で一区切り付けてみんなの方を振り返った。すると、そこにいる全員が固まっていた。クラスメイトの全員が口をぽかんと開けて、俺を見ている体勢で動かなくなった。


「え?あ、あの、みんなどうしたの?」


「カ、カイトくん、拳はちょっと……」


「……あ」


 マリアちゃんに言われて、俺はやらかしてしまったことに気が付いた。みんなが術式を使っても壊せなかったダイヤの板を俺はあろうことかただの身体強化で崩してしまったのである。


「えっと、俺普通だよ。みんなもやろうと思えばできるよ、うん。できるできる。はははは……やっぱりもう手遅れ?」


 ーーーそのとき、全員が首を縦に振ったのを俺は永遠に忘れることはないだろう。

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