第2話 王都に来たんだけど……
魔神導書の力を確認した翌朝、引っ越し用の馬車が来たので早速荷物を積んで行く俺。俺の荷物は必要最低限の服と鍛治に使っていた道具だったので、何かと荷物が多いヒオの荷物を積むのを手伝っていた。
「これで最後だよ、カイトちゃん」
「はいよっと」
ヒオの荷物は1つ1つが重い上に多い。いったい何が入っているのか少し気になるところだが、整理同様見られたくない物なんかも入っているだろうから聞くのはやめた。
最後の荷物を馬車に積むとすぐには出発せず、しばらく世話になったログハウスを眺める。すると、音もなく俺の隣に来るヒオが話しかけて来た。
「いろいろあったね」
「あぁ、本当にいろいろあった」
今でも鮮明に憶えている。ここに初めて来たのは俺がこの世界に来た直後だった。
実は俺はこの森の中に転移させられたのだ。都会暮らしが馴染んでいた俺にとって、森の中は何もわからず子供ながら泣きそうになった。そんな俺を見つけてくれたのが、王城を抜け出してこの森に来ていたヒオである。
「森の中でカイトちゃんを見つけたときはビックリしたけど、私を見るなりいきなりわんわん泣き出したから二度ビックリしたよ〜」
「そ、それはもういいだろ。でも、そのときは本当に安心したな」
急に泣き出した俺をヒオは優しく抱き締めてくれたんだっけ。そのときの俺は顔面中、涙と鼻水で濡らしてたのにな。その後俺は、このログハウスに連れて来てもらって介抱してくれた。そのときに俺が異世界に来たのを知って、ヒオに話したんだった。アニメだと信じてもらえないのが普通だったけど、ヒオはすぐに信じてくれた。
「あのとき、よく俺が異世界人なんて信じたよな。俺の世界だったら、子供の戯言って言われて信じてくれないのが普通なのに」
「ふふふ、あのときのカイトちゃん、すごく脆そうだったから。私がいなくなったら、この子はすぐにも崩れちゃいそうで放って置かなかったんだと思う」
3年前の俺はそんなんだったのか……そのときは自分のことすら、あやふやだったのかもな。
「それにね、自分のこと話すカイトちゃんの目はすごく純粋だったの。王城を訪れる人たちは何かを企んでるような目だったけど、カイトちゃんの目は違ったの。うまく言葉に出来ないけど、この子は悪い子じゃないってわかったんだよ」
「そっか……」
こう見えてもヒオは王女だ。たくさんの欲望が渦巻いている中のほぼ中心で暮らしていたから、そういう人の欲に敏感になってしまったのだろう。でも、あのとき俺のことをちゃんと見てくれてたんだと思うと嬉しくて仕方なかった。
「あのときのカイトちゃんが、今はこんな立派になってお姉ちゃんは嬉しいよ!」
「お姉ちゃんか……確かにそうだな」
ヒオがお姉ちゃんと言っていてもなんの違和感も感じないのは、俺の心のどこかでヒオをお姉ちゃんとして認識していたからだろうな。日本じゃ一人っ子だった俺にとって初めての姉弟である。
「ホント、俺は貰ってばっかりじゃないか」
「……そんなことはないよ。私もカイトちゃんにたくさんのものを貰ってるよ」
「本当に?」
「うん!だから、これからもお姉ちゃんをーーーうんん、お姉ちゃんたちを頼ってね」
そんなヒオの言葉に泣きそうになる。でも、今は泣いている場合じゃない。今の気持ちをちゃんと伝えることが、今俺がするべきことだ。
「……うん、ありがとう、お姉ちゃん」
シンプルだけど、これが俺の気持ちだ。あっちの世界じゃ、絶対に言えなかった言葉を口にした。それを聞いたヒオが目が潤い始めた。
「さ、さぁ!そろそろ出発しよ!王都でミツハさんが待ってるよ」
けど姉としての意地なのか、涙が出る前に袖で目元を拭いて馬車の方へと言ってしまった。
「なに、泣きそうになってんだよ」
なんてな。自分もヒオの言葉で泣きそうになってたくせに。今の俺はただ、この世界に来てよかったと思うばりだった。
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俺たちはあの後、すぐに王都へと出発した。王都までは数時間ほどで着くが、さっきのこともあって馬車内は気まずい雰囲気に包まれていた。たまに口を開いたと思ったらーーー
「け、景色綺麗だねー」
「そうだなぁ」
俺もヒオも景色のことしか言わないので会話が弾むことはなかった。結局王都に着くまでに言葉を交わした数は、両手で数えられるほどである。
そんな永久にも感じた数時間の末、俺たちはようやく王都に到着した。王都は王城に近ければ近いほど位が高い家系だというのが、この王都での常識らしい。だから、王都に入った直後は平民の人たちが暮らす様子を眺めていた。
俺は日本で言えば平民に値する人間だったので、眺めている人たちに勝手ながら親近感を覚えていた。
そこでふと当たり前のことを思い出し、ヒオに聞いた。
「なぁ、ヒオ。俺ってこれからどこに住むの?」
「……カイトちゃん、今更?」
馬車に乗って、ようやくまともな話題を振れてよかったと喜ぶ俺だったが、ヒオからから帰ってきたのは呆れたような言葉である。これに関しては、なんで今まで気付かなかったんだと俺も思うのでなにも言えない。
なぜ俺が、自分が今から住む場所を知らないかというと、全部戸籍を偽装したヒオと職権乱用したミツハに任せているからだ。俺が知っていることは2日後からハーバルヒト魔導学院に通うことと、今日から王都に住むことぐらいだ。こんな少ない情報でよく生きていけるものだと、ある意味自分を感心してしまうな。
っと、感心してる場合じゃなかったな。
「その様子だと、ヒオは知ってるのか?」
「うん、知ってるよ〜。なんせ私もそこに住むからね!」
「へぇ、そうなのか……って、えぇ⁉︎」
マジで⁉︎そんなの今初めて知ったんですけど‼︎……て、当たり前か。2つのことしか知らないもん。
「で、どこなの?」
「んー、な・い・し・ょ」
「……お姉ちゃん、意地悪だな」
まぁ、可愛いからいいけど……
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王都に入って数十分、ようやく目的地に到達した。さっきヒオに内緒にされたこともあって、待望の我が家である。だが、馬車を降りて目にした家を目にして顎が外れそうになった。だって、見たことあるんだもん!てか、なんで予想できなかったと自分を叱ってやりたいぐらいだ。
俺の目の前に広がる家は一言で言えばデカイ。とにかくデカイ。森深くにあるロスハウスもそれなりに大きかったが、目の前のはそれのふた回りは大きい。塀が高く、出入り口であろう門は大きくて重そうだし、その奥に見える物は俺が住んでいた日本の都会でもなかなか拝めないほど立派な建物。
こんな家に住むと言われたら、恐れ多くて住めないと強く断るところだが、見たことある建物にそんなことが微塵も思いつかなかった。
どういうことかとヒオに視線を向けるが、すでに荷物を運び込もうとしている。まぁ、正直ここなら気楽に暮らせるし、逆にありがたいから特に反対はしない。すぐに気持ちを切り替えた俺はヒオの荷物を降ろすのを手伝う。
こっちの世界の引っ越し屋は部屋の中まで運び入れてくれないので、荷物をすべて門の前に置いていく。すべての荷物を降ろすと馬車はすぐさま走り去っていった。やっぱり、こっちの世界の引っ越しは面倒だな。
「さてと、とっとと中に入るか」
「そうだねー。あ、でもこの量の荷物を一遍には無理そうだから、使用人の人に手伝ってもらおっか」
「いや、それはいいよ。準備するから割れ物が入っていない荷物を選び出しておいて」
「う、うん。わかった〜」
しぶしぶといったように、ヒオが自分の荷物を確認し始める。俺はそれを傍目に準備を進めるとするか。まずは異空間を開いてっと。
「《異空間収納》」
《異空間収納》は自分専用の異空間を作り出して、そこに収納することができる俺とヤチオの固有術式だ。固有術式の設定で、ヤチオを解放しなくても術式名を唱えるだけで異空間が開くようになっている。収納する物の大きさによって異空間も大きくしないといけないので、その分魔力が消費される。まぁ、俺自身あんまり使わない魔法だから碌なもん入ってないけど。
俺は自分専用の異空間に手を突っ込んだ。こうすれば、目的のものだけ取り出すことができってわけだ。俺が取り出したのは鍛治のときに素材として使っていた鉱石『金剛石』だ。大きめの物を数個取り出しておく。
「カイトちゃん〜、割れ物が入ってない荷物選んでおいたよ〜」
「3つだな。ゼクト、いくぞ」
『おうよ!』
ヒオが選び出した荷物の数を確認すると、ポケットの中からゼクトを取り出し解放した。手の平サイズの魔導書だったゼクトが光を放って、紅い腕輪へと変化し俺の手首に纏わりつく。そして、さっき取り出した金剛石を6個握りながら術式を発動させる。
「《錬金人形》」
俺はゴーレム生成の術式を発動。すると、握っている金剛石が不気味に蠢いて変形していく。ゴーレムの素材に特定の物はない。触れているものが素材となりゆる物なら、なんでもゴーレムを作ることができる。ただし、質量保存の法則のせいか触れている物以上の大きさのゴーレムを生成することはできないんだけどね。
俺は6個の金剛石を使ってゴーレムを生成する。2個で1体という配分で、3体のゴーレムを作り出す。それなりに大きめの金剛石を選んだが、それでも大きさは昨日のと比べてだいぶ小さい。でも、今回重要なのは大きさではなく数だ。こう見えて、力持ちだから問題わない。
俺はヒオが選び出した荷物を指差しながら、自分で生成した膝あたりまでしかないちっさいゴーレム3体に命を下した。
「ゴーレムたちよ、この荷物を持って俺に付いて来い」
「分野を極めた魔神導書の魔法をこんなことに使っていいのかなー……?」
「使い勝手がいいしいいんじゃないか?」
知能が低いせいで難しい命令は出せないが、これくらいならなんとかなる。けど、荷物は雑に扱いそうなのでヒオに選び出してもらったということだ。
ゴーレムたちは俺の命令通り、荷物を持ち始める。それを確認した俺は自分の荷物を《異空間収納》で作り出した異空間に放り込み、ヒオの割れ物が入った荷物を持った。
「それじゃ、行こうか」
「おぉー!」
俺たちはこの豪華な屋敷に入ることにした。重そうな門は、その前に立っている見張り番の騎士が来たので名前を言うとすぐ隣にあった人に2人並んで歩けそうな出入り口に案内されたので、そこから敷地内に入っていった。
敷地内に入ってもこれまた豪華で、キラキラとしたエフェクトが見えて来そうである。だが、前に見たことのある俺の感想からすれば変わってないなと懐かしむぐらいである。
出入り口を通ってから1分ほど歩き、ようやく屋敷のドアへとたどり着いた。これまた立派なドアで、相変わらずのようだ。俺たちがドア前に来ると不意にドアが開き始める。そして、屋敷の方から顔を出して来たのはーーー
「よう、魔女」
「相変わらず口の利き方がなってないようだな」
そう言って、殺気をぶつける紫の女が不敵に笑ったのだった。
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「それで、何が聞きたい」
「全部だ。今、それとこれから俺に関わって来るであろうこと全部」
屋敷に着いた俺とヒオは出迎えてくれたミツハの案内で自分の部屋まで行った俺は、まずヒオの荷物をヒオの部屋に運び込んでゴーレムを元の金剛石に戻し、また自分の部屋に戻って来るや否や異空間から荷物を取り出して部屋に置いた。
荷物の整理はまた明日にして、今はミツハの仕事部屋にいる。ここが1番広いからな。
「紅茶入ったよ〜」
「ありがとう、ヒオ様」
「来たばっかの家で平然と紅茶淹れるって、どんな適応能力だよ……」
いや、ミツハが普通にしてることから俺が変なのか?
「では、改めて私の屋敷へようこそ。カイト、ヒオ様」
そう、ここはミツハのーーーディルバール家の屋敷である。2年前、俺がまだ魔神導書を集めていたとき、何度か泊めてくれたので家の内装まで知っている。俺としてはここで暮らせるのはありがたいけど、問題がある。
「なぁ、もし俺が偽装の戸籍で暮らしているのがバレたとき、ミツハたちは俺を切り離す約束、憶えてるか?」
俺は偽装がバレれば、2人に切り離される。だが、同じ屋敷に住んでいたら切り離しても共犯としてミツハたちが怪しまれる。それじゃ、結局迷惑をかけてしまう。
「そのことなら、バレる心配はもう無くなったから大丈夫よ」
「どういうことだ?」
「ははは、実はね、カイトちゃん。私がカイトちゃんの戸籍偽装したのお父さんにバレちゃった」
「……え?」
お父さんって……エンペラード・アインズ?この国の国王様?ーーーはぁあ‼︎‼︎‼︎
「ちょ、それって俺もう学院に通えないってこと⁉︎」
えっ、じゃあ俺が王都に来た意味は⁉︎
「カイトちゃん、落ち着いて。バレちゃったけど、大丈夫なの」
バレちゃったけど、大丈夫?ヒオの言っていることがわからなくなって、つい頭の中で復唱してしまった。
「バレた後に私がお父さんにちゃんと説明したらね、偽装のオッケー出してくれたんだよ!」
「偽装のオッケー出してくれたって、王族が言うセリフじゃないだろ……つまり、俺の偽装戸籍は王様に認められたってこと?」
それってほど正式な戸籍と変わらなくね……?
「つまり、カイトは正式なこの国の民と認められたってことよ」
「マジか……」
「だから、カイトがコソコソする必要はなくなったし、私の屋敷に住んでもカイトが心配していることは問題ないってことよ」
なにこの急展開……?そんな重大なこと、今まで俺に隠してたの。
俺のほど正式な戸籍ができたことに2人は喜んでいるが、俺は怪しさのあまり笑うこともできなかった。だって、あの王様だぜ?知らないかもしれないけど、あの娘大好きな王様だよ?そんな奴が年頃の男子が住んでいる1つ屋根の下で娘が暮らすことを認めるかぁ?絶対認めないだろうし、その男を殺しにも来るだろうよ、あのおっさんなら。絶対裏がある。俺はそう読んでいる。
だけど、今はそのことを考えるのはやめた。だって、2人がこんなに喜んでるんだから当の本人が喜ばなきゃ心配されてします。俺は心のどこかで感じている不安を払いのけ、無理矢理でもいいから笑った。
「そうだな。心配ないなら、俺がここに居ていいならここに居ようかな」
「やったー!また一緒に暮らせるね、カイトちゃん」
「えぇ、そうしなさい、カイト」
結局、俺はお姉ちゃんたちに甘えてばかりだな……学院を卒業したら、ちゃんと恩返ししないとな。
この直後だ。突然、玄関方から声が聞こえて来た。
「ただいまー!お姉様ー!」
聞こえた声はどう考えても女の人のものだ。どう言うことかと思ったが、俺の頭が一瞬にして煌めき過去の記憶が蘇って来た。そうだっ、この屋敷はミツハ個人ものじゃなくディルバール家の物!そして、ミツハの妹といえば彼女しかいない⁉︎
俺が結論に至った瞬間、俺たちがいる仕事部屋のドアが開いた。
「お姉様、ただいま戻りーーーえ?」
姉であるミツハに報告しに来たであろう銀髪の少女は、客である俺とヒオーーー特に俺のことを凝視していた。なぜわかるかと言うと、俺もその少女を凝視していたからだ。
輝かしい緑の瞳に一際目立つ銀髪を左肩のところで三つ編みに垂らしている。鼻を中心に整った顔はお世辞なしでも可愛いと言ってもいいだろう。
あー、やっぱり彼女だ。最後に会ったのは2年前で、それに比べたら随分と成長していて一目じゃわからなかったが間違えない。ミツハの妹のマリアちゃんだ。
ディルバール家の次女にしてミツハの妹、マリア・ディルバール。年は俺と同じ16歳だったかな。彼女と出会いは3年前、ミツハと出会って差ほど日が経っていない頃、まだ国の教育機関の中等部1年目だったときにマリアちゃんと出会った。
そのときは俺と同じでまだ幼さが残っていて背もだいぶ低かったが、成長期を迎えて見違えるほど変わったようだ。姉のミツハみたいに背は高くはないが、やっぱり姉妹なんだなと思わされるところがある。どこがとは言わんが……
「も、もしかして、カイトくん?」
「あぁ、久しぶりだね、マリアちゃん。大きくなったね」
俺のことを凝視しているからわからないのかなと思ったが、どうやら憶えていてくれたようだ。なんだかよくわからないがホッとしてしまった。
「カイトくんっ!」
ホッとした俺に不意打ちのように抱きついて来たマリアちゃん。ん、抱きついて来た?……えぇぇええええ⁉︎
「ちょ、マリアちゃん⁉︎」
本当にホッとしてしまったのだろう。反応が数秒も遅れてしまった。て、今はそんなことより‼︎
「どうしたの、マリアちゃん⁉︎女の子がそんな軽々しく男に抱きついてはいけませんよ‼︎」
自分でも何言ってるんだろう?まぁ、同級生の女子に抱きつかれたことなんて一度もなかったからな。気を動転させても仕方がないことだ。ーーーじゃなくて‼︎
「ひくっ……ひくっひく……」
「えっ?マ、マリアちゃん……?」
な、泣いてる……?
「本当に……本当によかった……カイトくんが無事で……」
あ、あー、そう言うことか。魔王たちと戦った後、マリアちゃんに会ってなかったっけ。そりゃ、心配されるわ。でも、ミツハはこの2年間ずっと会ってるんだから知る機会はいっぱい会ったのでは?
「戦争が終わった後も姿が見られなくて……お姉様に聞いてもわかないって言うから……私、すごく不安になって……」
ああ、昔と変わらないな、マリアちゃんは。出会った当初はすごくおませな子でよく怒られたよな。でも、正義感があってすごく優しい子なのを俺は見抜いていたよ。俺は昔と変わらないマリアちゃんが見られて嬉しいよ。
「ごめんね、マリアちゃん。心配かけちゃって。そしてありがとう、心配してくれて」
「うん……すごく心配した」
俺も今だ抱きついているマリアちゃんの背中に手を回し、抱きしめる。傍から見れば、感動シーンのような絵図になっているだろう。
だが、しかし‼︎俺の心はそんな晴れたものじゃなかった。
「おい、ミツハ」
「なんだ?」
平然な顔をして答えているけど、ティーカップを持っている手が震えてますよ?
「説明しろ」
「……はい」
俺のたった一言で折れた。こんな弱々しいミツハを見るのは珍しいな。とりあえず、なんで俺が無事であることをマリアちゃんに言わなかったか聞こうか。
「なんで、伝えてあげなかったんだよ。そのせいでマリアちゃん、こんなに不安になったんだぞ」
「それには理由があってだな」
「そうなの!どうしても言えなかった理由があるの‼︎」
俺がミツハを問い詰めていると俺の隣に座っているヒオが話に交わってきた。言い方からして、ヒオも訳を知ってるらしい。そこで俺は再度問うた。
「どんな理由が?」
「カイト。私たちはまだあなたに言っていないことがあるわ。それがマリアに言わなかった根本的な理由よ」
「これからは怒らないで聞いてほしいの」
2人が真剣な顔になるので、俺も真剣に聞くことにする。こうなったとき、碌なことしか聞いたことがないような気がする。だが、次にミツハから放たれた言葉は俺の想像を絶することだった。
「3人目の魔王《偉大なる魔王》は死んだことになっているわ」