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わたしは吸血鬼様の非常食  作者: しきみ彰
第二部 吸血鬼は愛を模索する
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冷たいエルフ

 なんだかんだあったものの、ジレットはこのまま薬草園に残っていいということになった。

 どうやら、先ほどの一件でいいと判断されたらしい。基準がいまいち分からないが、見ていていいと言われたのは嬉しかった。


(だって、何か学べるかもしれないし)


 そわそわしながらその様子を観察していると、シャーロットがあ、と声をあげる。


「セシリアール。ジレットに薬術を教えてあげてください。いい機会ですし、学んでおいて損はないので」

「……え。なんで僕が」

「先ほどのお詫びをするべきではありませんか?」

「うぐ……」

「……というのは建前でして。わたくし薬術教えるの下手なので、セシリアール頑張ってください。人間嫌いを克服するいい機会ですよ」

「悲しくなるから、本音はしまっておいてもらえないかな?」


 セシリアールは目を細めつつ、はあとため息をこぼす。そしてジレットのほうをくるりと振り返った。


「えーっと……ジレットだっけ?」

「は、はい。そうです」

「薬術、学びたいの? というより、学ぶ気はあるの?」

「はい」

「……そっか。なら仕方ない。教えるからこっちにきて」

「はい!」


(まさか、初日から願いが叶うなんて。シャーロット様に感謝しないと!)


 ジレットは心をときめかせた。少し小走りでセシリアールの元へ行こうとすると、長いスカートを踏んでしまう。


「ひゃっ!?」


 ジレットは転けた。実験道具が置いてあるテーブルに当たらなかっただけ、良かったと思う。というより、意地でもぶつからないように身をよじったせいか、変なところまでぶつけてしまった。


(痛い……)


 涙目になりながら当たった場所をさすっていると、くすくすという笑い声が聞こえてくる。

 笑い声の主は、シャーロットだった。


「ジレット……あなた、何をしているのですか、ふふふ……っ!」

「い、いえ……実験道具を壊さないようにと気を配ったら、こう……」

「そ、そんな理由で、あんな転け方をしたのですか……? ふふ、あははは……! やだ、もうっ!」

「あ、あの……」


 なぜ笑われているのか、全然分からない。

 ジレットは困惑する。ただやっぱり、打った部分が痛かった。立ち上がろうとしたが、スカートがかさばり上手くいかない。ジレットは途方に暮れる。


(うう……なんでこういうときに限って、こんなことしてしまうの……)


 落ち込んでいると、す、と手が差し出された。


「…………笑ってないで、立たせてやりなよ。弱い者いじめは弱者のやることなんじゃないの?」


 手を差し出してきたのは、セシリアールだった。ジレットは彼の手を借りて立ち上がる。小柄な見た目に反して、セシリアールはなかなか力強かった。


 彼は面倒臭そうに顔をしかめながら、シャーロットを見ている。

 涙目のシャーロットは、そんな視線を受け止めながら肩をすくめた。


「あら、違いますよ? これは、いじめではなく可愛がりというものです」

「変わってないから」

「大いに違います。違いますから」

「……もういいや。不毛な争いはやめよう。そんなことやるなら研究してたい」


 ほら、行くよ、と手を引かれ、ジレットはセシリアールに着いていく。その手が繋がったままなのはおそらく、転倒防止なのだろう。


(も、申し訳ないわ……)


 嬉しさのあまり小走りになったのがいけなかった。小さな子どもにでもなった気分だ。

 申し訳なさと恥ずかしさを感じつつ、ジレットはセシリアールに着いていったのである。


 連れてこられたのは、薬草園の一画にある薬草畑だった。


「ここは?」


 見たことある薬草が多いなーと思いながら首をかしげていると、セシリアールが言う。


「ここにあるのは、薬術で使う基本的な薬草。薬草の名前を覚えないと、薬術なんてできないからね。だからとりあえず、ここの薬草と効能を覚えて……」

「えっと。効能まで詳しくは知りませんが、名前はだいたい分かります」


 ジレットは、躊躇いながらも言った。

 しかし、クロードの薬草畑を管理していたのはジレットである。だから、分からないわけがないのだ。


「……へえ。じゃあこれは?」


 セシリアールが、ある薬草を指差す。

 ジレットは端的に「ミントです」と答えた。


 するとセシリアールは、別の薬草を次々指差していく。ジレットは時折悩みながらも、すべての問いに答えることができた。


「……悔しいけど、全問正解」

「本当ですか? 良かったです!」


 セシリアールの渋い顔を気にしつつも、ジレットは表情を明るくして言った。


(これも全部、クロード様のおかげね!)


 自分がまた一つ成長できていたことを知り、そしてそれにクロードが関係していたことを知れたため、ジレットのテンションが上がる。

 そんな彼女を見つめながら、セシリアールはつぶやいた。


「チッ、時間稼ぐつもりだったのに……」

「……ちょっと待ってください。今の発言、どういうことですか!?」


 セシリアールはそっぽを向きながら、無言で薬草を摘み始める。


(うう……やっぱり、煙たがられてる……)


 おそらく、ジレットが薬草を覚えている間に、自分は自分のやりたい研究をするつもりだったのだろう。もともと人が嫌いだと言っていたから、あまり一緒にいたくないのかましれない。


 しかしジレットとしては、もっとちゃんとしたことを教えてもらいたいのだ。じゃないと、クロードの力になれない。


(……で、でも。私、めげない!)


 ジレットは、セシリアールのことを以外と信用していた。その理由は、ジレットが転けたとき、なんだかんだ言いつつ助け出してくれたからだ。


 心の底からジレットのことを嫌っているのであれば、幼児のように手を繋ぐ必要もなかったはず。


(大丈夫! 私の心が折れさえしなければ、セシリアール様は教えてくれるはずだわ!)


 つっけんした態度のエルフを見つめながら、ジレットはそう拳を握り締めたのである。

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