1話 召喚
楽しんでもらえたら幸いです。
2月の中旬、俺は大学の春休みを使って実家へ帰省するためバスに乗っている。
地元の友達と会ったり、家でのんびりするのはやはり楽しみだ。
しかし、いつもこのバスに揺られているときに考えることがある。
妹のことだ。俺の4つしたで今は高校1年生の勉強やら恋愛やら色々なことで悩む年頃の女の子である。
昔はおしめを換えてあげたこともあるし、抱っこもしたし、そりゃお風呂にも入ったこともある。が。
妹が中学校に上がってからだろうか、その頃から俺に対して当たりが強くなった気がする。
どれくらい当たりが強いかって?
そりゃもう、ウザイ、キモイは当たり前で俺が先にお風呂に入ると汚い、変な毛が浮いてる、お湯入れなおして、てかもう入らないで。とか・・・とか・・・
とほほ・・・
お兄ちゃん悲しい・・・
しかも妹が今通ってる高校は地元じゃ有名な低偏差値の不良高校だし、お兄ちゃんは心配なのだ。
でもそれでも可愛いもんは可愛い!
だってたった2人だけの兄妹だしな!
~~~~~~~
「ただいまー!」
「おかえりー!寒かったでしょ!お風呂沸かしておいたから入っちゃいなさい、
ご飯ももう少しでできるから」
「ありがと」
あー、やっぱり実家はいいね!母さん気が利くなぁ。
親父はまだ仕事か。
「愛美はいる?」
「愛美なら自分の部屋にいると思うわよー?」
「そっか、なら声だけ掛けてから風呂入るわ」
んじゃさっそく妹の顔でも久しぶりに見に行きますか。
さてさて、部屋の前まで来たのだがどうしようか。
ここは律儀にノックをして、「入るよー?」がいいかな?
いやいや、やっぱり久しぶりだしビックリさせる為に
ここはガッとドアを開けて「お兄ちゃん帰って来たよー!!」がいいいかな?
うん。よしよし。
ガチャっ!
「お「勝手に入ってこないで」・・・お「出てって」・・・」
バタンっ・・・
うそん。
はぁ、悲しすぎるぜ。
思春期なのは分かるけど俺ドMじゃないし、ほらもう少しね?
もう少しだけでいいから優しくしてほしいなぁ。
「あみー?ただいま。兄ちゃん帰ってきたからな?元気にしてたか?」
「・・・」
しょうがない、とりあえず風呂でも入るか。
まだ実家に帰ってきたばかりだし、時間が経てば少しはマシになるだろう!
はぁー!!きもちぃー!
下宿先だとシャワーばかりでまともに湯船につからないし最高だな。
さっきのことで俺の心まで冷やされちゃったけど、これで身も心も温まりましたっと!
愛美は相変わらず俺に対してキツイ感じの接し方だけど安心したこともある。
まずは髪の色だ。不良高校と言われるだけあって身だしなみがだらしない奴も多いのだが、うちの妹は清楚な黒髪!化粧も派手じゃないし、よかったよかった。それに元気そうだしな。
そういえばもう高校生だし彼氏とかできたのかな?
愛美は二重でパッチリお目々だし、肌は透き通ったような白い美肌だし
きっとモテモテだと思うんだよなぁ。
もし変な奴連れてきたら「貴様のようなやつに妹はやらん!出直して来い!」
とか言って一発ぶん殴ってやったりして!くっくっくっ
あぁ、ダメだダメ!そんなことしたら余計に嫌われてしまう。
そういえば今日の晩飯何かなー。
風呂から上がると親父も帰って来ていて、すでに料理も並べられていた。
晩飯は俺の大好きな唐揚げに、お刺身、サラダに、お米とみそ汁だった。
風呂上がりのビールにつまみを食べた後の温かい料理たち。
んぅ~!唐揚げを噛んだ瞬間に溢れだす肉汁が堪らない!!
一家団欒での食事やっぱりいいね~。
「ごちそうさま」
愛美がそう言うと、食器を持って流しへ歩いていく。
妹よ、食べるの早すぎじゃないか?
もう少し一緒に食卓を囲まないかい?
「あっ、そうだお母さんお風呂の湯換えといてね」
「あんたいつまでそんなこと言ってるのよ、いい加減にしなさいよ」
っ!?!?
まだ気にするのか・・・
ふふふっ、しかしこんなことで折れる俺ではない!
実は愛美にプレゼントを買ってきているのだ!
「俺は気にしてないしいいよ。それよりさ愛美、今日誕生日だろ?」
「うん、だから?」
「誕生日おめでとう!!」
俺がそう言いながら拍手をすると2人も俺に続いた。
「「おめでとう!」」
パチパチパチパチ!
これこそ家族って感じだよな。
母さんも親父も嬉しそうだし、やっぱり子供が成長していくのは嬉しいんだろうな。
食器洗いと、2人にマッサージくらいはしてあげないとな。
でもその前に!
「兄ちゃん実はケーキとプレゼント用意してきてたんだ!母さんケーキお願い」
「っ!?」
おっ、さすがに用意している物があると無視できないようだな!くっくっくっ
「ほら、これだ、東京で買って来たんだよ。きっと愛美に似合うよ」
「いらない・・・」
「ん?なんて?」
「いらない・・・ケーキは食べるけど」
なっなんだって!?
ケーキは食べるけど、プレゼントはいらないだと・・・!?
結構高かったのに、それにケーキは食べたらなくなっちゃんだ!
う〇こになっちゃんだぞ!?
でもプレゼントはなくならない、愛美が着けているのを見るだけで幸せな気持ちになれると言うのに!
「こらっ!愛美!お兄ちゃんせっかくあんたの為にわざわざ買ってきてくれたんだから
貰ってあげなさい!」
「・・・」
「別に着けなくてもいいからちゃんとお礼言って!」
「・・・はぁ。わかったよ。ありがとう」
母さん。ナイス!
でも着けなくていいは余分だぜ?ふっ。
親父あんたも少しはフォローしてくれよ!
「よかったら開けてみてくれよ」
「部屋で開ける」
「分かった」
今無理強いするのは止めておこう。
愛美もきっと照れているだけなのだ。
そう思うことにする。
~~~~~
「おはよー」
「あら、おはよう。起きるの早いのね。もう少しゆっくり寝ててもよかったのに」
「せっかくだから愛美の弁当でも作ろうと思ってさ」
「魁人は本当に愛美のこと大好きなのね」
妹の弁当作ったらもうひと眠りしようかな。
それから地元の奴らに顔でも出しに行くとしよう。
それじゃ、ぱぱっと作りますか!
「母さん弁当机の上置いとくから」
そう言って台所から出て階段を上り、自分の部屋を開けようと
手を掛けた時に愛美の部屋のドアが開いた。
「おはよ!」
俺は笑顔で声を掛けるが愛美はなんだか気まずそうに俯いたまま固まっていた。
しかし少しの間を開けてから一言だけボソっと。
「・・・おはよ」
俺はそれだけでも嬉しかった。昨日帰って来た時は
どうしたものかと思ったが今日は何か良いことがある気がする!
そのまま部屋に入ると俺は二度寝をするのだった。
目が覚めると10時ぐらいで一先ず洗面所で顔を洗い
台所に行くとなんとそこには。
弁当があった・・・
あいつ忘れていったのかな?
わざとじゃないよな?
わざとならへこむな。
高校まで届けてやるかな。
俺は弁当を鞄に入れると早速外に出て
原付に跨る。
そんなに遠くないし確か10分くらいだったっけ?
おっと、その前にメールしとこ。
『今から弁当持ってくから校門まで来てね』
よしこれでいい。
では出発!
~~~~~~
なにこれ・・・?
学校に着いたわいいけど、校門でタバコ吸ってる奴いるし。
今は体育の時間?
体操着の人もいるけど、めちゃくちゃ改造した制服着てる奴もいるし。
校庭でバイク乗ってる奴もいるし・・・
えっ先生は?
てかはっちゃけてるやつも授業出てるとかなんか可愛いな。
そんなことを考えながら校門の影に隠れて様子を覗っていたら
うんこ座りをしてたヤンキーが近寄ってきた。
あぁー、来んな来んな。絶対絡んでくんじゃんこいつら、めんどくさ・・・
ヤンキーA~Dが現れた。
「ちわーっす!」
「お兄さんこんなとこでなにしてるんすか?もしかして女子高生見て興奮してる?」
「いやいや違うって、こいつ女子の体操着盗むつもりだって!
家帰ったらそれでナニをこうやってナニナニするつもりだって!ぎゃははは!」
「「「ぶっ!はははは!」」」
なんだよこいつらうるさいなぁ。
てか、ナニでナニナニってナニ!?
あぁ、いかんいかん俺としたことが咄嗟につまらんボケをしてしまった。
今の高校生ってこんな表現の仕方すんのか!?
むしろそこが心配だよ!
でも確かにこうやって隠れてたら不審者かな?
っと!いたいた、愛美発見。
人数的に学年での授業かな?
「おい、なに無視してんだよおらぁ!」
「てかこいつ今一瞬ニヤッってしなかったキッショ!!」
確かに愛美を見つけて笑顔になったかもしれないが断固としてニヤニヤはしてない。
あいつがちゃんと真面目に授業を受けているから嬉しかったのだ!
「おい、こっち見ろや!」
そう言ってヤンキーAは俺の胸倉をいきなり掴んで来た。
しかし、そのくらいで怒る俺ではない。
こいつらに弁当持って行ってもらえばいいしな。
ここは丁寧に自己紹介をしてから配達を頼もう。
「すみません。無視していた訳じゃないんです。妹を確認していてて。
ほら、これが妹のお弁当です。あいつ今日忘れて家を出て行ってしまいまして。
僕の名前は岸和田 魁人です。岸和田 愛美の兄です。申し訳ないんですけど
この弁当届けてくれませんか?」
「「「「ぷぷぷっぷぷっぶわっははははは!!!!」」」」
なんだ?なんかおかしかったか?
「ちょっちょっとまじで?兄貴が妹の弁当届けにきたよ!
こいつ絶対シスコンじゃん!気持ちわる!おいお前ら行くぞ!」
そのまま校庭に入っていくヤンキーA~D達。
妹呼びに行ってくれたのかな?
なんかヤンキーBとCがこっちに指さしてる。
愛美俯いてるなぁ。
ザワザワしてるけどあんまり聞き取れないな。
なんかキモイとか聞こえた。
シスコンとか。
変態とか。
泥棒とか。
なんか俺バカにされてるっぽい・・・
おっ戻ってきた。
しかもなんか2人増えてるし。
ヤンキーEとFが仲間に加わった。
「ども!初めましてお兄さん!愛美の彼氏です!」
「ども!俺も彼氏です!」
「「「「実は俺達もです!!ぷぷぷ」」」」
全然面白くないんだけど、腹抱えて笑ってるし
てか渡してくれないのかなこの子たち。
「あの~すみませんお弁当渡して来てもらってもいいですか?」
「あっ?いいよ?ほらそれ寄越せよ」
と言ってヤンキーBが俺の手から弁当を乱暴に掻っ攫う。
おいおい、もう少し丁寧に扱えよな。
「よっしゃー!弁当ゲット!俺らで味見してやろうぜ!」
「どうせ不味いんじゃね?」
「俺腹減った」
「ぱっぱと食おうぜ」
こいつら舐めてんのか?
それは可愛い妹の弁当だぞ。
しかも俺お手製の!
「お前らそれ妹の弁当なんだけど。食うつもり?」
「味見してやるって言ってんじゃん。なに?キレてんのこいつ?」
だめだこいつら本当に弁当食べる気だ、返してもらって自分で渡しに行こう。
そして俺が奪い返そうとすると、渡さないために背中の後ろに手を回して隠したりしてくる。
そろそろ返してもらうためにヤンキーBの二の腕を掴んで動けなくしてから
弁当を返してもらうことにした。
「もうお前ら用ないからどっか行っていいよ」
「おい、兄さん腕が痛ぇんだけど。しかも足踏んだろ?
このまま行かせる訳ないっしょ?しかもお前愛美の兄貴だろ?
あー、お前が俺に手出したせいで愛美ちゃんどうなるかなー。
愛美ちゃん可哀想だなー。何もしてないのに学校で居場所なくなるんじゃね?
妹のこと思うならそこで突っ立ってろ、動くんじゃねーぞ?」
そういうと6人はニヤニヤしながら俺を囲むようにする。
ヤンキーAが火のついたタバコを俺に向かって投げると、ヤンキーCが殴りかかってきた。
俺はタバコとCを避けると真っ先にBの頬を殴る。
さすがに妹の為となっちゃ俺もブチギレるは。
「てめぇら妹に手出したら生まれてきたこと後悔させてやるからな」
それだけ言うと隣にいたEにハイキックをお見舞いする。
Dが後ろから俺の横腹に回し蹴りを入れようとしてくる。
これは避けられないと判断し、咄嗟に身体を少し回して横腹ではなく腹の全面で蹴りを受ける。
そのまま回転をつけながらDのこめかみに裏拳をぶつける。
するとCがどこからか持ち出した金属バットを真横から振って来たので、
それを屈んで回避すると同時に足を払う。
仰向けになったところで鳩尾にパンチをかます。
Fはビビッて尻餅ついているから一先ず無視してAを向くと
何か言いたいのか口をワナワナさせている。
「おっおっおまえ!こんこっんなことしてタダで済むと思ってんのか!?
愛美の兄貴だろ?家も分かる、岡本さんに言いつけたらどうなるだろうなぁ、ははは。
あの人が黙ってる訳ねぇ。はっははは」
岡本・・・岡本・・・どこかで聞いたことがあるような。
そういえば。
「あっ?岡本大志のことか?」
「なんだ知ってるのか。ここらじゃ有名だからな!」
「俺の後輩だが?」
「そうだろうあの人は・・・って?んな嘘バレバレなんだよ!」
岡本大志。俺の地元の不良共の頭を張ってるらしい奴だ。
らしいというだけで、つまり本当に頭を張ってるかは知らないのだが。
俺はそいつのことを知っている。
あれは俺が高校生の時、コンビニの前に自転車を置いていると
そいつの子分が絡んできたことがあった。
俺のママチャリを乗り回して、サドルを抜いてゴミ箱に捨て、籠を破壊されたから
喧嘩になったことがあった。
その時親分っぽいのが出てきたからそいつとも喧嘩した訳だ。
年齢はタメだがその時からあいつは俺のことを先輩と呼ぶから
俺も後輩と呼ぶことにした。
それから岡本は弱い者いじめはしなくなったし、こんなヤンキーAの
言うことを聞いてやるはずがない。
それにあいつ働いてるしな・・・
そんなことを考えながら俺はポケットからスマホを出す。
ついでに尻餅ついてるFの顔面を蹴る。
「ふべしっ!」
「おっおまえそれでも大人かよ!?」
「うるせぇ、ちょっと待っとけ今から岡本に電話する。
その後にお前の相手してやるからちょっと待っとけ。」
「あぁ?ちょっと待てこら!」
・・・
・・・
5分後・・・
顔を腫らしながら正座をしているバカ6人がいた。
「「「「「「すみませんでしたっ!!!!!」」」」」」
「もう1回言うぞ?お前ら愛美に手ぇ出すんじゃねぇぞ?」
「「「「「「はい!」」」」」」
「分かったならいいんだよ、分かったなら。あとこの事誰にも言うんじゃねーぞ?
もちろん愛美にもな。顔のこと言われたらプロレスごっこしてたとでも言っとけ。
あとそうだな、お前らが愛美に何かあったら守ってやれ。
弱い者いじめもやめろ。そんなダサいことする男になるな。
和田の顔に泥塗ったみたいなもんだし、反省しろ。
別にその服装とか、髪型変えろとか言わねぇから。んじゃ説教は終わりだ。
俺は少ししたら帰るから、お前らはこの弁当渡して来い」
「分かりました!ほんとすみませんでした!和田さんによろしくお願いします!」
そう言うと、まるでそれを落としてしまったら
命が無くなってしまうかのように、
大事にお弁当を抱えて駆け足で妹の元へ行った。
俺は校門で隠れることはやめて一歩踏み出し、少しの間妹を見ていた。
あいつらもオラオラしてるけど、素直になると可愛いのにな。
今回のことで少しは反省するだろう。
そろそろ俺も帰るとしますか。
そして踵を返し、校門を一歩跨いだ時にそれは起きた。
ブッブブブッブブッブブブーーーーン!!!!!!
!?
急に身体が動かなくなったと思ったら、地面が光始めた。
俺の右足は足元に走る光の線の外に左足は内側に。
どうなってる!?
なんとか首から上だけは動くようだ。
必死に後ろを向くと、生徒は全員動けないようで止まっている。
その代わりに、困惑する声が木霊する。
そして何よりも目を引くのは生徒たちの立っている地面に描かれている光の模様だ。
幾何学的なそれは、非常に複雑で円の内側に描かれている。
範囲は校庭に留まっている。
地面の模様が点滅し始め、徐々に点滅の間隔が速くなる。
そうだ!愛美は!愛美はどこだ!?
さっきのところ・・・いた!
遠くてその表情ははっきりとは分からないが、目が合っている気がする。
右手を伸ばして何か叫んでいるような。
そして光の点滅は止まり、最後に爆発的に輝きを増し甲高い音が鳴った。
キーンという耳鳴り音と共に俺は意識を手放した・・・