Episode9:瑞穂&久しぶり
何年ぶりになるのだろう。春斗と同じ部屋で一緒に寝るのは。小さい頃はよく一緒に眠っていた。それが歳を重ねるごとに減っていき今ではそんなことありえなくなった。
「久しぶりだね。一緒に眠るのって」
思ったことを口にしてみる。何を話していいのか分からないから。
「あぁ、小学校3年生の時ぐらいからお互い恥ずかしがってたしなぁ」
「だよねぇ。本当に小さい頃はそんな風になるなんて思ってもなかったのに」
「それは言えてる」
春斗の声は眠たそうだ。さっきから欠伸を何度も繰り返している。
「もう遅いし眠ろっか」
春斗を気遣いそう提案する。本当はもうちょっと話していたいけどさすがにそれは悪い気がする。
「うん」
欠伸を交えながら春斗はそう言った。少しだけそれが可笑しくて笑ってしまった。
「じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
返事をしてから春斗はすぐに眠りについたらしく、規則的な寝息が隣から聞こえた。
「瑞穂、瑞穂起きろよ」
春斗が私の肩を揺すりながらそう言っている。私はゆっくりと体を起こして時計を見る。
「5時・・・?春斗、少し早くない」
私は普段6時に起きている。多分、春斗も普段はそれぐらいだと思うのだけど今日は早起きのようだ。
「忘れてのか?今日は香穂さんいないんだから自分達で弁当作らなきゃ」
香穂さんというのは私のお母さんだ。お母さんはおばさんと呼ばれるのが嫌らしく春斗に無理やりそう呼ばせているのだ。
「あ、そうか。完璧に忘れてた」
「お前、そういう所抜けてるよなぁ」
「今日はたまたまよ。たまたま」
「はいはい。とにかく急ごうぜ」
「分かった」
私はそう返事してから春斗に続き1階へと下りて行った。
「何作ろうか?」
台所で包丁を持ちながら春斗が私にそう尋ねてきた。
「う〜ん。時間もないし簡単なのでいいんじゃない?」
「そうだな。それより包丁の使い道ってある?」
「まぁ少しはあると思うよ」
「良かった。俺、切ること以外できないからさ」
春斗は苦笑いを浮かべながらそう言った。それが可笑しくて私は少しだけ笑った。
「じゃあ、私が適当に作って、切るのは春斗に頼むね」
「あぁ、ありがとう。でも味付けは普通に頼むぜ」
「普通にって?」
私は気になって聞き返してみる。
「いや、だから瑞穂好みじゃなくて一般的な味付けにしてってこと」
「どうして?」
「今日はそういう気分なんだよ」
「分かったわよ」
私は渋々了解した。その返事を聞いてから春斗がほっとしたような顔になっていた。そんなに今日は一般的な味付けが良いのだろうか。