Episode6:瑞穂&ドキドキ
スーパーで春斗に手を握られてからどうも私はおかしくなっている。春斗を見ることができないし、ずっとドキドキしている。
「どうかしたのか?」
春斗は私に何度もその質問をした。私はその度になんでもないと答えたけど春斗はずっと心配そうな顔をしていた。
私の家に到着してから私はすぐに自分の部屋に入った。普段ならめったにそうしないが今日はどうしてもそうしたかった。春斗の側にいると落ち着かないからだ。
「瑞穂、流し台借りるぞ」
下の階から春斗の声が聞こえる。返事をしようと思ったけど出来なかった。
それから3分ほど経った頃だった。
「コンコン」
私の部屋のドアをノックする音が聞こえた。ノックの主は当たり前だが春斗である。
「入ってもいいよ」
私がそう返事するとドアを開いて春斗が部屋に入ってきた。
「お前、やっぱり気分でも悪いのか?いきなり部屋にこもって」
「ううん。ただ忘れないうちにやっときたい事があって」
「そっか」
「うん。ごめんね心配させて」
「いいって。じゃあ俺は下の階行っとくから」
「うん。私もすぐに行く」
私のその返事を聞いてから春斗は頷いて部屋を出て行った。
10分ほどしてから私も1階へとおりることにした。
下に下りるとリビングでソファに座って春斗がお笑い番組を見ていた。そんなに面白くないのかただテレビを見つめているような感じだった。
「春斗、ご飯作るけど何が食べたい?」
私はテレビを見ながらボーっとしている春斗にそう声をかけた。私の声に反応して春斗はこちらを向き少しだけ考えてから口を開いた。
「う〜ん。なんでもいいよ」
「そう、じゃあ適当に作るわね」
「うん」
春斗はそう返事するとまたテレビの方に顔を向けた。しかし、そうしたのも束の間でいきなり立ち上がりこちらに走ってきた。驚く私をよそに春斗は焦った口調で話し出した。
「待て、今日は俺も一緒に作ってやるよ」
そう言えば、学校でそんな事を言っていたのを思い出す。
「そうだったね。じゃあ一緒に作ろうか」
「あぁ」
返事をしてから春斗はほっとしたような顔になった。何をそんなに焦っていたのだろうか。
「なぁ、カレーの作り方ってどこに載ってるんだよ?」
私たち2人は結局、カレーを作ることにした。なぜかというと、春斗が簡単な料理がいいというからだ。めんどくさいのは嫌らしい。それなら手伝わなくてもいいのにと思ったけど私はそれを口にはしなかった。
「私が指示してあげるから大丈夫だよ」
「そっか」
春斗は納得すると取り出したばかりの本を元の場所にしまった。
「で、最初はどうするんだ?」
春斗は包丁を取り出しながらそう言った。
「野菜を切ってもらえる。ちなみにその包丁は使わないわよ」
春斗が取り出していたのはケーキ類を切ったりする包丁だった。切れないことはないだろうけど苦戦するのは目に見えている。
「え、そうなのか?ってか包丁って何でも一緒じゃないんだ?」
家庭科の時間に包丁の説明もあったのに何も聞いてないらしい。おそらく眠っていたのだろうけど。
「うん、違うよ。今回はこの包丁で切って」
私はそう言って包丁を取り出しそのまま春斗に渡す。
「了解。さっさと切ってやるよ」
それよりは正確に切ってほしいと思い私は苦笑する。春斗はそれに気付かずじゃがいもを切るのに集中しているようだった。
「こんなんでいいか?」
私がお肉を切っていると春斗は私に自分が切ったじゃがいもを見せてくれた。
「結構、上手だね」
私は素直にそう言った。思ったよりもとても上手に切れていたのである。包丁の区別もつかない人と同一人物だとは到底思えない。
「そうか?」
私の言葉に春斗は少しだけ気分を良くしたようだった。
「うん、本当に上手だよ」
思えば春斗は昔からなんでも器用にこなしていた。スポーツにしろ芸術にしろ基本的に何でも上手だった。。勉強は出来なかったのだけど。
「じゃあ、続けて人参とかも切るよ」
「うん、ありがとう」
完全に期限を良くした春斗は鼻歌交じりで切り始めていた。その姿がなんとなく可愛らしかった。