Episode3:春斗&新藤 竜馬
「お〜い、春斗。大丈夫か?」
午後の最初の授業が終わった後の休み時間。保健室のベッドにお世話になっている所に友達である新藤 竜馬がやってきた。
「いや・・・まだ痛い。瑞穂は一体何を弁当に入れたんだよ」
「相変わらず朝日さんとはラブラブだな」
竜馬はにやけた顔でそう言った。その顔に思いっきりパンチをしたくなる。
「どう見たらそう見えるんだよ」
「普通に見てたら」
「あっそ」
真剣に相手をするのが間違っている。相手は竜馬なのだから。
「じゃあ、俺は教室戻るけどお前はまだここにいるの?」
「あぁ、さすがに授業はまだ受けられそうにない」
「OK、先生に伝えといてやるよ」
「あぁ、悪い。ありがとな」
「お礼はいらないから、誰か可愛い子を紹介してくれ」
最後にそう言って竜馬は教室へと走って戻っていった。
午後の2番目の授業(5時間目)の終了を告げる鐘が鳴った。既に俺のお腹も回復しており次の授業からは参加できそうだった。
俺はベッドから降りて保健室を出て自分の教室へと向かう。1階にある保健室から俺の教室にある3階までは腹痛が治まったばかりの俺にはそこそこきつかった。
やっとの思いで階段を登りきり自分の教室へと向かう。引き戸のドアを開け中に入る。すると俺に気付いた瑞穂が駆け足で俺の側へと寄ってくる。
「もう大丈夫なの?」
瑞穂は心配した顔で俺にそう尋ねた。2時間授業を休んだだけなのに大袈裟すぎないか。
「大丈夫だけど。どうしたんだ、お前?」
「皆が春斗は多分、私の作った弁当を食べたから保健室へ行ったんだって言うから」
「・・・・・・・」
確かにそうだけど、そんな顔で言われると正直な答えが出せるはずがない。
「今日は朝からお腹の調子が悪かったからだよ。瑞穂の弁当のせいじゃないって」
「本当?」
瑞穂はまだ心配顔のままでそう尋ねてくる。
「あぁ、だから気にするなって」
「うん・・・でも・・・」
「本当にお前の弁当のせいじゃないって。仮にそうだとしたら俺は今までにもっと保健室に通ってるだろ?」
「それはそうだけど・・・」
「だからお前の弁当のせいじゃないって。気にするな」
「うん・・・分かった」
瑞穂は渋々だったがやっとのことで了解してくれた。
自分の席へ戻ると竜馬がさっきのにやけ顔で近づいてきた。
「何だよお前、そんな気持ち悪い顔して」
俺は竜馬の顔を見ながらそう言った。
「相変わらずラブラブだねぇ」
その台詞2度目だろ。
「さっきから煩いな。そんなんじゃないって」
「照れるなよ。それよりお前に頼みがあるんだ」
「可愛い子紹介だったら無理だぞ。そんな子知らないから」
「違うって。今日合コンあるんだけど男子1人足りないわけよ」
「嫌だ。俺、そういうの好きじゃないから」
「そう言うなって。可愛い子紹介の代わりだと思ってさ」
「俺、紹介すると言った覚えもないけどな」
「いいじゃん。親友の頼みなんだから」
そう言って竜馬は少しだけ頭を下げる。頼むならもう少し下げろよ。
「俺以外の奴誘えばいいだろ」
「だってさぁ、連れて行くならそこそこは格好良くないと」
「俺は格好良くないから無理だな」
「何言ってんだよ。そんなんだったら誘わねぇよ」
サラリと凄いことを言ってのけるな。世の不細工人間を侮辱してる・・・
「あ、そういえば」
「どうかした?」
「俺、今日瑞穂と放課後買出しに行くんだった」
俺は断るために嘘をつくことにした。実際に2人で買出しに言ったりすることもあるため、この嘘はかなりの高確率で騙すことができる。
「まじ。それならしょうがないか」
「あぁ、悪いな」
「いいって。さすがに夫婦の仲を引き裂いてまで誘うのは悪いしな」
そう思ってんならそもそも合コンに誘うなよ。
「別に夫婦じゃないけどな」
「照れるなよ」
そう言いながら竜馬は自分の席へと戻っていった。