Episode10:春斗&2人の女子
通いなれた道を今日もまた瑞穂と歩いている。
学校の校門を通り校舎の方へと歩いていく。たまにこの時誰かの視線を感じる時がある。その方向を見るといつも男子が嫉妬を含めた目で俺を見ている。その度に瑞穂はもてるのだと再確認させられる。
校舎に入り自分達の教室に向かおうと階段を登ろうとした時、後ろから瑞穂の事を呼ぶ声が聞こえた。
「瑞穂」
その声に俺達は反応してほとんど同じタイミングで振り向いた。振り向いた先には1つ年上の3年生である女子の先輩がいた。
「真奈美」
瑞穂が嬉しそうな声でそう言った。
「瑞穂、1週間ぶりぐらい?あんたが留年を選んでからなかなか会えなくて寂しいのよ」
「私も真奈美と会えなくて寂しいよ。本当にごめんね」
「いいって。あんたの気持ちも分かってあげてるつもりだしね」
「私の気持ち?」
瑞穂と真奈美と呼ばれた先輩は俺を忘れたかのように楽しく会話している。先に教室に行ってもいいのだろうか。
「あんたもしかして気付いてないの?」
突然、真奈美先輩が驚いたような声をあげる。話を聞いてなかった俺はまったく何がなんなのか分からない。
「気付くって何を?」
「はぁ・・・」
真奈美先輩は本当に呆れたような溜息をついている。それをみて瑞穂は少しだけ困惑しているようだ。
「自分の気持ちに気付かないで留年を選んだわけね」
「よく分かんないよ」
一番分からないのは俺なんだけどね。
「まぁあんたらしいのかもね」
そう言って真奈美先輩は急に笑い始めた。何かいろいろと忙しそうだなこの人。
「とりあえず頑張ってね。それと私とこまめに連絡取ってよね」
「うん、分かった」
さっきまで困惑していた顔は嘘のように瑞穂は笑顔でそう言った。
「じゃあ私は教室に行くね」
「うん」
「じゃあね瑞穂。それと瑞穂の幼馴染君」
「あ、はい」
俺は突然、呼ばれたために少しだけ焦ってしまった。
「なんか明るい人だな」
俺は真奈美先輩が見えなくなってから瑞穂にそう言った。
「うん。それに面白いよ」
笑顔でそう言う瑞穂に俺はそうかもねと言いながら頷いた。
教室に入ると既にクラスメイトの半数以上は登校していた。その中に竜馬の姿もあったので少しだけ溜息をつく。
俺は自分の席に向かい鞄を置き椅子に座る。まるで見計らったかのように竜馬が近付いてきて口を開いた。
「今日もラブラブだな」
またかよ。竜馬に瑞穂と登校するのを見られた日はいつも最初にこの台詞を聞く。俺はそれが鬱陶しく感じられ最近は早く登校していたが今日は弁当を作ったり、真奈美先輩に捕まったりといろいろ時間をロスしたからこうなってしまった。
「毎回、毎回うるさいんだよ」
「だって春斗だけ幸せになろうなんてインチキなんだよ」
「別に幸せじゃねえよ」
「毎日、彼女と登校して幸せじゃないはずがないだろ」
「お前はそこから間違ってるんだよ。俺と瑞穂は付き合ってない。何でも言ってるだろ」
「でも、他人から見たらカップルでしかないんだぜ。付き合ってるも同じだろ」
「それは幼馴染だからだ。それにそう見えるからってカップルってのはおかしいだろ」
「まぁ、それは人の捉え方次第ってやつさ」
「あっそ。とにかく俺と瑞穂は違うから」
「まぁ、そういうのも悪くないんじゃないか」
ぶん殴りたい。今すぐにこいつに制裁を下したい。でも、ここは教室だ。我慢を忘れるな。
「どうした?いきなり考えた顔になって」
本当の事を言えるはずない俺は適当にごまかしておいた。その返事を聞いてから竜馬は少しだけ笑ったかと思うと自分の席へ戻っていった。
「キーンコーンカーンコーン」
0時限目の始まりを告げる鐘が鳴り響く。時間はまだ7時40分。さすがに進学校なだけはあると毎度思ってしまう。そして自分が入学できたことに驚いてしまう。中学校の時も今と変わらず馬鹿だったのに。
鐘が鳴ってから2,3分した頃に先生が入ってきた。今は英語の時間で教科担任は美人で男子からの人気が高い堀内 梓先生だ。そのため、男子生徒のやる気が高く教室は騒がしい。毎度の事だけど俺が眠りたい時も煩くて寝れはしない。
「では出席をとりますね」
美人に似合うような透き通った声で先生が出席をとる。返事をする男子の声が気持ち悪く感じるのは俺だけなのか。もしかしたら俺もこんな声をしているのかと考えると嫌になる。
「では授業を始めますね」
先生のその言葉を合図に俺を除いたほとんどの男子が情けない声で返事をしていた。女子の中では数人笑ってる奴がいる。俺を同じ目で見てないように心の中で祈ることにする。
「キーンコーンカーンコーン」
始まりの鐘が鳴ってから60分後、授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。それにしても60分授業とは長すぎる。中学校に比べて10分も伸びている。1年と少し経った今も慣れはしない。
「春斗」
俺が物思いに耽っていると後ろから誰かが俺を呼んだ。俺を声が聞こえた方向に向くとそこにはクラスメイトではない女子生徒が立っていた。
「どうしたんだ、琴奈?」
彼女の名前は東 琴奈。俺と同じ中学校出身で同学年。中学校の時から俺や竜馬と仲がよく、たまにクラスに寄ったときに喋りかけてくる。
「教科書貸してほしくてさ。他の友達も持ってなくて」
「別にいいけど。教科は何?」
「えっと生物」
「生物ね」
俺はそう言いながら立ち上がり自分のロッカーへと向かう。ローカーから生物の教科書を取り出し琴奈に渡す。
「ありがとう、助かったよ」
琴奈はお礼を言うとあっという間に教室を出て行った。なんかあいつもいろいろと忙しそうな人間だなと思う。
そんな事を考えながら俺は自分の席へと戻った。