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第壱章「破れた世界の隅で」ー第四話ー

第四話です。連続投稿?です

宜しくお願いします

 オプファーは320mmバズーカの銃口をジーオンに向けた。

 0距離で、連続で発射される砲弾がジーオンの機体を更に揺らした。


「畜生。こんな処で……」


-第壱章「破れた世界の隅で」-第四話-


「あれは、あれは林檎を連れ去った奴だ」


 ナオは記憶の中、見間違いの無いモノを記憶から蘇らせていた。


「オプファー……林檎を連れ去った。あの機体のパイロットに接触出来れば」


 何か判るかもしれない、という言葉を飲み込んだ。

 最も、この考えがジーオンのコックピット内であればカルディナに全て知れ渡っていたであろう。

 しかし、ナオはそのような周りくどい事はしなかった。


「俺は幼馴染を、大事な幼馴染を探したい。クシャナトリアに協力する。だから俺に力を貸して欲しい」

「それがマスターの望みであれば。なら今後の方針を決めましょう。クシャナトリアに協力するにしても、どのようにしますか?」

「……どうしたらいい?」

「協力はいいと思います。ですが、今は何も条件を付けない方がいいかと思います。条件をつければ二心ありと疑われるでしょう」

「でも何も言わない方がむしろ疑われないか?」

「……それもありますね。では訂正します。せめて階級は少佐待遇を要求してもよかい」


 確かにオーパーツ的な性能を持つアーマード・ロイドと、神輿としてはこの上ない『光の柱』と共に異世界から来た人間が、何も要求しないのであれば、いらぬ嫌疑を掛けられるだけではない。


「クシャナトリア軍は間違いなくマスターを利用します。それが軍事力としてだけではなく政治利用もです」

「……判っている。戦争をするんだ」

「マスターが敵パイロットを殺したくないのならジーオンの操縦技術を上げる必要性があります。今のマスターはジーオンの性能に頼りきっています。ですが操縦技術を磨き、ジーオンの性能を余す事なく使いこなす事でそれが可能になるかと思います」


 マルチスクリーンが灰色になった。


「シュミレーションを終了します。戦闘の結果は見るまでもなく破壊されたか捕獲されたかのどちらかになります」

 

 開放された「制御ルーム」越しにカルディナが声を掛けてきた。

 パイロットスーツ越しに、ナオは肩で息をしていた。


「……何か強くなっていないか?」

 

 その感想は最もであろう。

 決して高を括っていた訳ではないが、敵機に振り回されてばかりであったのは周知の事実であろう。


「オプファーにセプス、ゼルトナー、あれが本来の性能です。ライブラリデータと前回、前々回からの戦闘による推測される機体性能から読み取り、またパイロットデータも参照の上、シュミレートしました」

「こんなに難しいなんて……」

「それだけではありません。操縦にまだ無駄が多いです」

「簡単にいうけど」

「いま映像を出します。先のシュミレートですが全てのパワーゲージを出します。本来、適正であろう値に対してマスターの操縦による値はいずれも足りません。また適正値をオーバーしている箇所もあり適正な行動、操縦にはなっていません」


 映像に映し出された、砲撃の嵐の中を高速で飛行するジーオンはせわしなく挙動も精彩を欠いていた。

 その挙動は一言で言えば『落ち着きがない』である。


「でもさ……」

「シュミレーションとは言え、私の制御をOFFにしています。それに操縦技術を向上させたいといってきたのはマスターです。それに従ってまでの事です」

 二回の戦闘は全てカルディナが操縦のサポートをしてきた事とジーオンの性能に拠る所が大きいのは周知の事。

 いくら操縦方法を理解しているとは言っても、ナオの操縦技術は新兵レベルであり、今後の彼の目標に対しては圧倒的に技術が足りていないのである。


「こんなに扱いづらいなんて……」

「なら時間を惜しまないようにしてください。マスターはパイロットとしては未熟です。少しでも操縦レベルを向上させて置かなければ目的は達成出来ません」


 故にカルディナの制御をOFFにしてジーオンの挙動を体に覚えこませる手段を取ったのだ。


「バイタル安定。ではシュミレーションを再開します。準備は宜しいですか?」

「……ああ」


 いうとナオは操縦桿を握り直し、両足に力を入れた。


「何て暴れ馬だよ?!」

 専用のパイロットスーツがシートと体を固定していても、その挙動においては恐らくロデオマシーンなど比較出来ない位であり、上下左右に激しく動く状態であり、操縦桿の少しの動きにも過敏なまでに反応する。


「両手両足に意識を集中してください。操縦桿とフットペダルを動かす時は10段階刻みで動かすようにしてください。照準誤差も酷いです。誤差1m。キチンと目標を照準のセンターに入れてからスイッチを押してください。これだけ誤差が出ていれば倒せれる敵も倒せれません」

 

 最もコックピット以外を狙うのであれば、この誤差は致命的なモノ以外の何者でもない。


「判っている。やってやる……やってやるよ!」


 それから計2回のシュミレーションを行った結果として、ジーオンのコックピットから出てきたナオの足元というか全身が大きく揺れていた。

 それは、まるでジェットコースターに連続で乗ったかのようなに三半規管が揺さぶらているのと合わせて、横から来るGに内臓をかなりシェイクされたからである。


「吐くんならトイレに行ってからにしろよ」


 それでも気遣いからか顔色を見てなのかは不明であるが、シャナーダがエチケット袋をナオに渡してきた。


「こんな所でやったら整備兵から袋叩きにされるからな」


 くぐもった嗚咽と共にナオはエチケット袋に口を当てた。


「まあ、搭乗前に食事していなかったのが幸いだね」

「……シャナーダが忠告していたくれたから」


 シャナーダは新兵などが罹る症状など経験と情報から理解していたから忠告しておいたのだ。

 最も一番危惧しているのは、まだ発症していない。


「なあ、聞きたい事があるんだ。どうすれば強くなれる?」

(ああ、この間までとは違う目の色だ。目標に向かって突き進もうとする意思を持った瞳)

 

 その言葉とナオの瞳の奥にある「光」を見て、シャナーダはそれを感じ取った。


「とりあえず体を鍛えないと駄目。操縦だけじゃなく戦闘には体力が要る。走りこみや筋力トレは必須だよ」


 ナオも今回のシュミレーションでそれを理解した。

 搭乗する前に釘を刺されていたので決して軽視はしていかったがこの体たらくであった。

 普通のシュミレターでも問題ないのだがジーオンの場合、正確にはカルディナの場合、衝撃吸収シートの能力をフル活用し擬似とは言え、あらゆる方向からの衝撃を再現したのだ。

 体力が無ければ集中力も直ぐに途切れてしまい、また戦闘中の体調不調は操縦ミスを招く結果にもなるのだ。


「船の中じゃ筋力トレ位だけど、それでもしないよりはマシだよ。基地に着いたら私がみっちり扱いてあげるよ」

「基地?」

「そう、一番近くの前線基地に向かっている。戦闘があったから補給は絶対に必要だし。それに街とかに出ないとストレスを溜め込むだけだから」


 兵士のストレス発散と補給においては必須項目である。

 パイロットだけではなく戦艦に乗り込んでいる兵士であっても何時あるかも分からない戦闘に対して神経と尖らせているのだから息抜きは絶対的に要るのだ。


「それに戦闘で何に一番、コストが掛かっているか知ってる? 兵士の育成だからね。因みに一人の兵士を育成するのにどれだけの時間とお金が掛かると思う?」

「それは……知らない」


 ナオが居た世界では一人当たりに支払われている金額は年平均100万円と言われているが、それはあくまでも金額ベースなだけで設備費から居住費など必要とされている『経費』は加味されていない。

 それに圧倒的に必要とされるのは時間であり、一人が喪失した場合は更に補充するのに同等以上のコストが掛かるのだ。


「戦争なんて短期決戦だよ。長期戦になったら疲弊するだけ」


 それでいて主に「消費」しかしないのでコストパフォーマンスも著しく悪い。


「ま、こんな話はいいとして、ナオも私のストレス発散に付き合う?」

「何だよ。それ?」

「気持ち良い事だよ。経験位あるでしょ?」


 シャナーダが何を言っているのかナオにも充分過ぎる程に理解出来た。


「初めてなら色々、手解きして挙げるけど。私が上になるからさ」

「い、いや、いい……」


 血色の悪い顔を更に悪化させながら首を左右に振った。


「何、あっちの世界に恋人でも居るの?」


 これはシャナーダが不用意な発言をしたのは言うまでもない。


「……悪い、ちょっと外の空気吸いに行ってくる」


 いうと、ナオはまだふら付く足取りで格納庫から出て行った。


「……ありゃ、失敗したかな」

「あれ、どうしました?」


 声を掛けてきたのはエーメルである。


「いやあ、ちょっとストレス発散等について。ぶっちゃけ色仕掛けしてみたんだけど失敗した」

「戦闘とかでは頼れる隊長なのに、どうして普段はシモの会話に走るんですか?」

「いやぁあ、ほら私も戦闘続きだったからついつい」

「無理しない方がいいですよ。そんな事言ったって隊長、処女じゃないですか? 下手な見栄を張ると痛い目を見ると思います。ていうか是非、見てください」

「あら、随分と突っかかるね? カミノになんかあるの?」

「私を助けてくれた恩人ですから……」


 シャナーダは、エーメルの言葉がそのまま表情に出ているのも理解し、ああこれは麻疹じゃないな、と直感もした。


「これは色んな意味でライバルが多いかな……?」


小声ではあるが周囲には十分に聞こえているのをシャナーダは理解していなかった。


「マスターのメンタル等を著しく阻害する行為は止めて頂きますか?」


 背後から声を掛けてきたのはカルディナである。


「アンタ、どこから聞いていたのさ?」

「吐くんならトイレのあたりから、ですけど」

「黙って聞いているなんて随分と人の悪い事で」

「バイタルサインを乱されては困ります」

「本当にそれだけ?」

「……それだけですが」


 一瞬、言い淀んだのをシャナーダもエーメルも聞き逃さなかった。


「ジーオンに取って必要なパイロットです。マスター無しにジーオンは起動しませんし私にも必要不可欠な存在ですので」


 この言葉にシャナーダが、ヒューと音を立てて業とらしく口笛を吹いた。


「つまり大事な存在を盗られたくないわけだ」

「ええ、大事な存在です」


 そんな火花を散らすやり取りは知らず、ナオは甲板デッキに出て外の空気を吸っていた。


「本当にこんなのが空中に浮いて動いているなんて……」


 グリュープスは全長150m前後の小型艦であるがそれが空中に浮き、ある程度の速度で進むんでいるのは、ナオが居た世界でも実現していないのだから感嘆の声を上げて当然。


「どうぞ。少しは何か入れた方がいいですよ」


水を持ってきたのは整備士のモニカであった。


「あ、ありがとう」

「……」

「……」


 流石にお互い無言の状態になったのでナオも気まずさが出たのであろう。


「も、もう大丈夫だから……」


 いうと紙コップの水を一飲みした。


「そ、そうですか……でも、あのアーマード・ロイド凄いですよね。ゼルトナーからの戦闘データを見たんですけど装甲に傷一つ付いていないなんて」

「そ、そうなんだ。俺もあれには最初、乗せられたからさ」

「それに270度マルチモニターとか色々な装備とか凄いですよね。でも、本当にあのアーマード・ロイドがキングダライム国で運用されなくて良かったです」

「どういう事?」

「知っていると思いますけど、最初の技術とか情報はキングダライム国が売りつけてきました。それか買っている状況だったんです。今ではどの国でもそれなりに技術力はあるんですが、あの「悪魔的天才」は何時も上を行く技術力なんです」


 旧型のモノを売りつけるそれは、情報と技術を売る側としては当然の行為であろう。


「少し目を離すと、直ぐに他の女が言い寄ってきていますね」

「全く、それを自然とするのが問題だ……」

「あれは整備兵のモニカですね。あの子が」


 カルディナ、シャナーダ、エーメルの三人が少し離れた所で見ていての感想。

 推測であるが林檎の行動は、それが分かっていたから抑止を行っていた可能性がある。


「良い異性を求める。それは男でも同じなんだけど……」


 シャナーダが言うそれは、遺伝子に刻み込まれた『より優秀な遺伝子を求める』という本能の一つであろう。


「隊長も、珍しく博識な事を言いますよね」

「これでも一応は勉強しているんだよ。報告書を作ったり、嫌な上役と話する時に必要だからね。こっちの頭が悪いと判断したらトコトン低く見てくる」

「あ、蛇みたいにねちっこいの居ますね。嫌味ばかり言ってくる頭でっかちの」


 これにはエーメルも同調して当然であったのは、その経験があるからである。


「本国の連中の中でも特にロサ議員はは反吐が出る位だよ」

「……ああ、判りますよ。あの人は同性から見ても嫌いですし政治屋としては最低の部類に入りますからね。一度会議の中継を見たんですけど、あれはヒステリックに喚き散らす明け方のカラスと同じです」


 末端の兵士においても酷評なのはある意味、政治家の生命としては末期なのかもしれない。


今回はある意味、第3話のBパート的なモノです。

次回更新は時間が掛かりますのでご了承ください。

恒例ですが感想をお待ちしております

非難、中傷はご遠慮ください

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