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プロローグ0

プロローグ0です。

本当はこれが一話になる予定だったのですが、最初にジーオンによる戦闘シーンを入れたくて差し替えたものです。

本来の順番的にはプロローグ0⇒プロローグ1⇒プロローグ2⇒第3話⇒第4話です。

異世界への召喚前の事情、そこから何故ジーオンに乗せられたのかを記載しています。

これでプロローグは終わりです。

次回からは第一章の開始となります

 上野ナオは一世一代の決心をしていた。


「何、緊張しているんだよ?」


 声を掛けてきたのは中学からの友人である四堂五郎であり、ナオにしてみれば友人というよりも悪友であると表記した方がより正確であろった。


「腹、括ったか?!」


 煮え切らないナオの表情を見ての言葉はクラスメイト全員、否、一人を除いた総意。


「周りは何時ヤルんだとヤキモキしていたんだから、とっととコクってしまへ。そして玉砕しろ!!」


 思春期のイベントの一つと言えば「これ」であろう。


「あ、あのな……」

「いいよな~幼馴染。それも隣に住む幼馴染。毎日一緒に登下校だし」


 五郎の言う通りであるが誰にも言っていない事がある。

 毎朝、欠かさずに起しに来てくれるし時折、母親と一緒に夕食も作ってくれる事もしばしば。

 最もそれはナオがそう思っているだけで、既に周知の事実というもの。

 定例だが、母親の真阿沙は、


『早く林檎ちゃんがお嫁さんに来てくれないかしら』


 ましてや林檎の母親である穂乃香に至っては


『高校卒業して直ぐに結婚でもいいわよ。ていうか早く貰ってちょうだい』


 その言葉に赤面しつつも、当の本人達も一切の否定をしていない状況。


「それに家も隣同士。各種イベントは必ずお前と一緒にいる」


 クリスマスは勿論、正月やGW、夏休みも冬休みも傍らに居るだけではなく、バレンタインデーでは誰が見ても判る特大の『本命チョコ』を衆目の元で渡している。

 ホワイトデーのお返しはささやかであったが、林檎の笑顔にはクラスメイト全員が魅了されたのも事実。


「どうみたって告白しても勝てるじゃん。ていうか負ける要素がない。リア充爆発しろ!」

(でも、ちゃんと告白しないと……)


 確かに林檎もそれを待っているのが見え隠れしているのも事実。


「昼休みなんて毎日、林檎ちゃんが作ってきてくれた愛妻弁当に舌鼓打ちやがって。見せ付けやがってコンチクショー!!」


 ナオ自身、恥ずかしがって屋上などに行こうと言うのだが林檎が頑なに拒否するので結果として教室で、それも周囲にこれでもかと見せ付けている状況。


「あまずっぺー。アマズッペーヨー。ああ、俺も林檎ちゃんみたいな彼女欲しいなー! お前が振られたら絶対に俺がコクる! 絶対にコクる!!」

「四堂、五月蝿い!!」


 クラスの女子がぴしゃりと言い放った。


「うっせー! 俺は友人として大いに僻んでいるんだ! 何が悪い?!」

「この馬鹿四堂が!」


 どうにも彼はクラスの女子からは嫌われるようだ。


(こいつも黙っていればモテるのに……)


 違うクラスの女子からは好意を持たれているのをナオは知っている。

 ハーフっぽい顔立ちに長身と、性格においても人当たりも良く颯爽とした物腰であるが、ナオに絡むと真逆の性格になるようだ。


「ちょっと、四堂の馬鹿はこっちに来なさい!!」

 

 言われて、襟首を掴まれて引き摺られていった。


「四堂君、相変わず賑やかだね」


 林檎がナオの元に来たのでクラスの女子が、お邪魔虫を引っぺがしたとも言える。

 クラスメイトの林檎に対する援護体制はある意味、完璧とも言える。

 二人で居る時は、決して邪魔など無粋な事もなければ、ましてや邪魔者は女子が一丸となって全て排除している位だ。


「楽しそうでいいな」


 林檎の、その微笑む笑顔にナオの心臓は早鐘の如く打ち鳴らされる。

 最もクラスの女子にしてみれば応援するのはある意味、打算的な部分もある。

 アイドル並みの美貌に、バランスの取れた体躯。

 そして一途な性格であるのは十分に理解されている。

 純粋に応援する気持ちが九割、残りの一割は他の男子が言い寄ってくる事がないから自分の好きな相手と付き合えるチャンスがある、という事なのである。

 毎学年の事だが、どう言う訳かクラスは必ず一緒になる。


『私はナオちゃんが好きなのでナオちゃんの隣がいいです』


 席替えの時に公然と言い放つ事により、これで少しでも淡い期待をしていたクラスの男子が全て痛恨の一撃の下に撃沈されるのだ。

 女子は、自分好みの男子を後顧の憂いなく告白出来るのだ。


「お弁当作ってきたからお昼休み、一緒に食べよう。勿論、ナオちゃんの好きな物だよ」


 最も彼女が、ナオの嫌いなモノを態々、弁当箱には詰めたりはしない。


「今日も腕によりを掛けて作ってきたから」


 食事中、笑顔を向けながら話掛けてきたが、一世一代の儀式の事で何を話していたかも理解できていなかった。

 弁当を綺麗に完食した同時にナオは絞り出すように言葉を紡いだ。


「あ、あのさ……」

「え、何?」

「お、俺さ……」


 特に女子が色めきだち、そして男子が嫉妬の炎を燃やし始めたのは表記するまでもない。


「どうしたの……?」

「お、お前に……言いたい事が……」

『それ、そこよ』

『早く言いなさい』

『上野、意気地を見せろ』


 小声の野次は主に女子からである。


「う、うん……」


 林檎もナオが何を言おうとしているのか大凡の見当が付いているので赤面している。


「……言いたい事があるんだ……」

『もう一押しだ!』

『言ってしまいな!』

『むしろブチュっとやっちゃへ!』


 一部において公衆道徳に反する言葉、不純異性交遊を助長する言葉が聞こえたが二人の耳には入っていない。


「お……ほ、放課後、屋上で待っていてくれるか?」


 勿論、これも本人達の耳には届いていないが、失望の声と溜息が教室中を席巻したのは言うまでもない。


「う、うん、いいよ。でも、何の話かな?」

「大事な……大事な話があるんだ……」


 公衆の面前であれば、これが精一杯なのかもしれない。

 クラスメイトにおいては口々に『このヘタレめ!』と、罵倒しているが緊張しているナオには雑音にもなっていないのも現状。


「期待していんだよね……判った。じゃあ放課後、屋上で。」


 いうと林檎はそそくさと席を離れた。

 最も、背中を向けられたので、頬を染め期待に満ちた彼女の表情をナオは知る由もない。

 恐らくは林檎は自分の早鐘のような鼓動を聞かれるのを嫌ってこの場を離れたのであろう。

 この後、クラスメイトの尽力により屋上が封鎖されたのは言うまでもない。

 放課後、ナオが教室を出るまで、むしろ本人よりも周囲がそわそわと落ち着かない空気を撒き散らしていたのはいうまでもない事。


「よし!」


 屋上の扉を、意を決して開ける。

 既に後戻り出来る状況ではないので後は最後の『一押し』をするだけである。


「林檎……」


 彼女が何かを期待する表情なのが、夕日に照られていても十分に判る。


(……綺麗だ)


 それを口にすれば、さぞかし彼女は歓喜の表情をするのであるが、唾を飲み込むのと一緒に腹の中に収めてしまったを責めないで欲しいものだ。


「は、話して、何かな……?」

「……」

「ど、どうしたの?」

(ちゃんと、林檎に好きだ、て言わないと……)


 ナオ自身、自分でも緊張しているのが判る。

 顔は真っ赤に充血し、心臓の鼓動までも自分の耳に届いている状況で、何も無いなどとお茶を濁す事もしない。


「……林檎に言いたい事があるんだ」


 掌が汗ばみ喉もカラカラに乾いているのが判る。

 心臓の鼓動が、自分でも判る位にはっきりと聞こえてくるのが一層、緊張に拍車を掛けていた。


「う、うん……」


 林檎も緊張の面持ちなのは、恐らくは十年以上も待っていた言葉がこの後、聞ける可能性が出てきたのだからである。


「それは『普通の言葉』じゃないよね?」

「……違う。ずっと言いたかった事だから」

「良かった……じゃあ、期待してもいいんだよね?」

「ああ、ちゃんと言うから。お、俺は……」


 もし、ナオが周囲の状況に気を配っていれば、意を決する為に、下を向いていなければ事態は変ったかもしれない。


「俺はお前の事が」


 それは唐突に起こった。


「な、何、これ?」


 林檎の悲鳴に、ナオも状況がおかしいと気付いた。


「何だよ、これ……?」


 見れば林檎の周囲に光が満ち、下から伸びた光の粒子が急激に加速する様は、まるで「門」が開いたようにも見えた。


「……何だよ、あれ?」


 ナオが驚愕の声を上げた先から出てきたのは「巨大な人」を模した醜悪なモノであった。

 しかしそれは人間ではなく、不意に伸びてきた機械の手が、無造作に林檎を掴んだ。


「何これ? ナオちゃん恐い! 助けて!」


 悲痛な叫びに呼応する様にナオは動いた。

 一歩踏み出した瞬間、その巨人が光の中へと消えてゆき、ナオが二歩目を踏み出した時に粒子が加速して、林檎の悲痛な叫びと共に「門」は消えようとしていた。


「な、何だよ? これ……」


 ナオ自身も彼女を追いかけて、消えかけた「門」に足を踏み入れたのに気付いていなかった。


「!」


 自分の体が、急速に上昇しているのを理解してはいるが訓練されてもいないナオが、5G以上にも加速に耐えられる訳がない。

 薄れていく記憶の最中、眼下に自分の住む街が見えたのをどうにか理解出来た。


 サルワトールは、自室の窓からその光景を見ていた。


「……やはり来たか」


 遥か東方に一筋の光が降りてくるのを見て、そう呟いた。

 深夜なのでそれが一層、神々しく見えるのも理解していた。


「国境近くか……。予定通り、位置はアーカイム基地だな」

 

 それはクシャナトリア国との国境境にある中規模の基地であるが、更に近隣には大規模であるグーダライム基地もある。

「クシャナトリアの連中がこれを黙ってみている程、間抜けではないだろうよ。予想外の事にどう慌てるかな? そう言えば彼女は近隣のグーダライム基地に駐留していたな。運命と思えばそうかも知れないが……」

 

 くぐもった笑い声が漏れる。


「まあ、いい。舞台は整った。あとは私も道化を演じてみせるかな」


 さて、件のアーカイム基地は騒然となったのは無理からぬ事。

 最初は誰もが夜襲が発生したと勘違いした位だ。

 震動はすぐに収まったが、異変に最初に気付いたのは当直の見張りの兵士であった。

 一筋の光の柱が空からまさに「降り注いで」来ている状況なのだ。


「何だよ、これは……?」


 それを目撃していた誰もが状況を理解出来ていない。

 ようやく状況を整理し、そして理解出来たのは『光の柱』が消えた直後で、見ればそこには一人の少年が横たわっていた。

 彼等にしてみれば名も知らない少年が突如をして現れたのだから警戒するのは当然の事。

 複数人が武器を、銃口を向けたまま、その少年を取り囲むのは必須。


「これって……、聞いた事があるよな? あの方が現れたのと同じじゃないのか?」


 言われて何人かは脳内で、ある物語と直結したようだ。


「でも、男だぞ?」

「そんなの知るかよ。もしかして陽動か? でも何の警報も出ていないぞ?!」


 国境近くの基地であれば、どのような形で隣国からの襲撃があるか判らない。

 常に緊張にさられており、日常と違う事に関しては必然と無意識に警戒心が生まれるて然り。

 一人が安全装置を外すと他の兵士も一斉に解除した。

 その音を聞いたのか、どうやら目を覚ましたようだ。


「ここは……どこだよ?」


 ナオが状況を整理出来てないのも無理はない。

 見れば銃口を向けられており危機的状況に自然と体が強張ると共に、これ以上下手に動いたりして刺激してはいけないと本能的に判断した。


「お前は誰だ?」

「……俺は、俺の名前は上野ナオ。ていうか、ここは何処なんだ……?」


 この言葉に数人が目を合わせた。


「う、五月蝿い! 黙れ!!」


 恫喝とも狼狽とも取れる口調に、ナオもそれ以上あえて口を開く事はしなかった。

 見ればトリガーに掛けた指が震えており、何時暴発するか判ったものではない。


(ここは大人しくしているしかない。それに状況が判らないから……)


 状況が把握出来ずに動くのは、コンパスと地図が無い状態で航海をするのと同義であり、その判断は間違っていなかった。


(……冷静にならなければ何も出来ない)


 でなければ、彼等はトリガーに掛けた指を躊躇なく引くであろう。


「下手な動きはするなよ」


 回された後ろ手に手錠が掛けられた。

 両足にも、鎖が長めの手錠を填められたのは完全に行動を制限する為であり、相手が正体不明であれば当然の処置である。


「お前は何処から来た?!」

「……東京だよ。日本の」

「トーキョー? ニッポン?」


 彼等の表情に、明らかに疑問符が出たのが判る。


「どこだ、そこは。クシャナトリアか? ブライムダルか? それともトータナレヌか? まさか海洋都市ドラグラムロか?」


 発音のアクセントからしても、ナオが居た世界の地名でないのが推測される。


「それこそ何処なんだよ?」


 逆にナオが聞き返す。

 最もそれは質問をした兵士達も同じであった。

 身体検査をされた後、ナオは留置所に投げ捨てられるように放り込まれた。

 携帯端末も腕時計も没収されてしまったのは言うまでもない。


「一体、どうなっているんだよ……は状況を整理しないと」


 林檎に告白しようとし、そして光の柱が現れ彼女がその中で消えていった。

 恐らくは助けようとして自分も巻き込まれた事。

 そして、訳の判らない状況になっている事。

 そもそも、ここが何処であるかなど理解も把握も出来ていないのだ。

 携帯端末があれば先刻、兵士達が口にしていた地名を入力して検索が可能なのだがそれすらも出来ない。


「……林檎はどうなったんだ?」


 ナオの最大の問題はそこである。


「俺と同じでここに来ているのか……? 銃口を向けてくるあたり紛争地帯……それとも軍なのか?」


 確かに銃は全員が所持していたのはナオも確認している。

 これが良心的な国の軍であえば林檎も保護されており、大使館などを通じて日本へ送還されている可能性があるしナオ自身もそのようになる可能性がある。

 紛争地帯であれば一気に危険度のラインが上昇し、それにより焦燥感と得体の知れない不安感が募るのは仕方の無い事。

 思いを寄せている相手の安否が気になって仕方ないのだ。

 しかし現状はこうして拘束されて何も出来ない事が余計に不安を煽るのだ。


「携帯があれば……」


 それは藁にも縋る気持ちの吐露かもしれない。

 最もこの状況で不確定な状況で使用する事が可能であろうか?

 アーカイム基地の責任者であるジェダーソンには、不審者が光の柱と共に現れた事が報告されたのは朝一番での事であった。

 その後、襲撃が予測されたが、何もなく小規模な警戒態勢は一時間もしない内に解除された事を報告で受けた。


「何でそういう事は早く報告しないんだ?!」


 テーブルに、音を立ててカップを置いたのは、それなりの不機嫌さを表しているといっていいであろうよ。

 報告がこの時間になったのは、担当官の『重要度が低かったから』である。

 一度、就寝中に連絡を入れた際に、物凄い剣幕で怒鳴り散らされてから、彼はそれを行わなくなったのだ。


「……まあ、いい。で、どういう状況だったのだ?」


 詳細を口頭で説明されるが、


「何だ、何も判っていないじゃないかっ!」


 彼にしてみればジェダーソンに報告してから尋問を行う予定であったのだ。


「しかし、一部の兵士においては伝え聞く『あの件』と酷似していると。確かに……でもあれは女性だぞ。男が、いやまさか」


 ジェダーソンの思考は決して柔軟性に飛んでいる訳ではなく、あくまでも現実的に考えようとしている。


「とにかく尋問してからだ。それからだ」


 ジェダーソンとしてもそれ以外はいえなければ、ましてや言える状態ではなかったのだ。

 更に追い討ちを掛ける事態ともなった。


「あ、あの……」


 通信兵が驚愕の面持ちで入ってきた。


「どうした?」

「通信が入ってきています」

「誰からだ?」

「あの、サルワトール様からです」

「……通信をここに回せ」


 ジェダーソンは、自分の首が襟元から絞まる感覚になったであろうよ。

 一応、レポートでの提出はしているのだが例の機体の起動実験が成功していないのだ。

 それも開発責任者がサルワトールであり、彼自ら完全設計したワンオフ機体が、である。


(本人が来ないで、起動実験が成功するものかっ!)


 しかし、それは最もな意見で、是非とも本人に向かってキチンと意見して欲しいものだ。


「どういうご用件でしょうか?」

「昨日、侵入者があったようだが」


 内心、ひやりとした事であろう。


「正確には、光の柱と共に現れたそうではないか」

(まだ報告もしていない事を何故、知っている? 間諜でも居る、というのか?)


 と、同時に疑問も思って当然である。


「時に、XZ-000『ジーオン』の起動が未だのようだが」

「そ、それは……」


 ジェダーソンにしてみれば話柄を変えられたのはいいが、どうにも痛い所を突かれたようだ。


「れ、レポートでも提出しておりますが……」

「そのような事が聞きたいのではない。あれは何時、起動するというのだ?」


 ジェダーソンは、自分の耳を疑ったであろうよ。


(こいつは今、何を言った? 絶対的な自信の表れか、それとも……)

「パイロット適正が合わないのかもしれません。もっとも彼女なら起動させれる事が出来るかもしれませんが……」


 彼なりの、精一杯の皮肉だったのかもしれない。


「なら、彼をあの機体に乗せてみればいい」

「あの廃棄予定の機体ですか……」


 その言葉にサルワトールの眉が少しだけ動いたのを、ジェダーソンは気付いていない。


「私はあれを失敗作だとも思っていなければ廃棄予定もしていない」

「あれを起動させる為に何人死んだと思っているんですか?」


 彼にしてみれば5名のテストパイロットの命を奪った「呪われた機体」なのだ。


「搭乗と同時にパイロットの精神が破綻する機体が欠陥品でなくて何というんですか?」

「もし、彼が「彼女」と同じであれば動く可能性があるかも知れんぞ」


 彼は言わなかったが『彼女』を搭乗させるなど持っての他だ、と釘を刺したのだ。

 貴重な戦力をみすみす殺す事に成りかねない事は軍人としても、国に尽くす人間としてそれは避けなければいけない事であった。


「彼女と同じ状況で現れたのだろう。もしかする、かもしれない」


 サルワトールは、彼が彼女と同じなのかもしれない、と暗に言っているのだ。「しかし、貴方が開発したアーマード・ロイドは女性しか、それも17歳までの少女しか操縦出来無いという特性がある、というにですか?」

「何事も実験だよ。それに彼女が、オーレリイーがこの世界に来た時と同じ状況なのであろう。例外である彼女と同じで、その少年が異世界から来た者なら動かせれるかもしれないぞ」

「……いいでしょう。でも結果は知りませんよ」

「ダライアス閣下からそれで何か咎められても私が責任を持とう。それで、何か不満でもあるのか?」


 サルワトールにしてみれば命令一つで可能だが、万が一にでも面服反従されても困る。

 彼には、思う通りに動いて貰わなければいけないのだから。

 しかしジェダーソンは気付いていない。

 サルワトールは起動の有無の結果には責任を取るが、それ以外で発生した基地被害等は責任を負わない、と言っているという事に全くもって気付てはいないのだ。 

「万が一、起動に成功した場合そのまま強奪される可能性でもあるのでは?」

「コックピットハッチ前で銃口を向けていればいい。それでも不安であれば関係の無い人間を人質にして脅せばいい。良心の呵責に攻められながら無茶をする人間など居ないであろう」

 

 自分自身に危害が来るのであれば人間は無茶も、無謀な賭けもする。

 しかし、例え無関係であっても、他者を巻き込むのは良しとしないのだ。


「捕虜が少なからず居るだろう?」

「……しかし」

「くどいな、君は言われた事をすればいいのだ。嫌なら他の人間に代わって貰うだけだ。立身を望む者は君だけではないのだよ」

「……判りました。仰せのままに」


 立身の為に良心の呵責を忘れる者も居れば自己保身に走る者も居る、と。

 彼は直ぐに行動に移したのは自分の心が、万が一にでもブレて鈍らない内に行う必要性があったからだ。

 上野ナオを無力化させる捕虜は適当に数名選び、格納庫に部下数人を付けておく。

 拘束している上野ナオにおいては手錠を填めた上で、これも数人の部下と厳重な警備と共に同じ格納庫に向かわせたのであった。


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