オプファー出撃
第4話です。
物語も動き始めていますしキャラも色々と増えてきています。
宜しければお読みください
キングダライム国、グーダライム基地においては騒然となっていた。
近隣のアーカイム基地が襲撃を受け半壊状態との報告が入り、更にはテスト中の新型機の行方が知れなくなった、との報告が齎されては当然であろう。
この報告が最終的にオーレリィーの元に、出撃命令と共に届いたのはシャナーダが襲撃してから、つまりナオがアーカイム基地を脱出してから三時間が経過してからである。
既に他の部隊においてはアーカイム基地へ急行し損害状況の確認、負傷者の救護などの指示が出ていた中、オーレリィー小隊に下った命令は「新型機の捜索」というものであったのだ。
「どういう事?」
オーレリィーが怪訝な表情をするのも無理はない。
「それは判りませんが、やっかみという事でしょうか? 戦場から遠ざけようとしているとしている可能性もあります」
副官のマールモが答えた事をオーレリィーも考えていた。
本国以外や戦場以外では、自分があまり良く思われていないのも自覚はしているが、こうも弊害が出ると内心げんなりとするというもの。
「どうにも危機感が欠けて困る。面子や外面で戦争をしているというのではないのに」
「まあ、無理もありません。キングダライム国が誇るエース・オブ・エースですから」
「それは止めて」
「ですが通算で500機以上のアーマード・ロイドを撃破。階級は少佐です。少しは誇ってもいい事かと」
マールモにしてみれば認めようとしないオーレリィーが歯痒くて仕方ないのだ。
マールモの、オーレリィーに対する心情、信頼は絶大であり揺ぎ無いものでもある。
「それはともかくとして、こちらとしてはアーカイム基地にいって状況確認と奪取された新型機を取り戻さないと。一刻を争うというのに、報告が遅くては取り返しがつかない事態にもなり兼ねないというのに……」
「昨日未明にアーカイム基地にて『光の柱』が確認されたそうです。貴方の時と同じ状況です」
「そう……で、どうなったの?」
「それも不明です。それもあっての襲撃かと思います。それ故に単に敵側が無作為に攻撃したとも思えない理由が其処にあります」
「それは……不味いわね。ええ、本当に。報告が遅いのは悔やんでも仕方ないわね。『オプファー』の準備は?」
「直ぐに出撃可能です。距離があるのでサブフライトシステムの用意と対空及び対地用で装備も指示してあります」
「準備が早くて助かる」
曲りなりともエース・オブ・エースの副官なのだ。
決して無能などではないし彼女自身、そのような非難も謗りも受けたくはない。
何よりも彼女の副官でいる事を誇りに思っているのだ。
ナオ自身、オーレリィーとシャナーダに追われている事など知りもしない状況の中、山岳地帯を、森林の中を隠れるようにジーオンを動かしていた。
これは脚部がホバーユニットになっているゼルトナーに対しての対抗策でもあった。
ゼルトナーは重アーマード・ロイドの部類に入る理由として、その脚部を巨大なベクターノズルとして推進出来る機能を持っているからである。
それに応じて本来のアーマード・ロイドよりも推進剤を内包ないし外付けのタンクで賄っている突撃強襲型であれば装甲も必然的に厚くなり、また重くもなる。
それを解消するように推進ユニットは大型化する、という特有の循環が発生しているのだ。
ゼルトナーの特性を封じる上でも狭隘な山岳の森林地帯を選んだカルディナの、戦略的な発想は当然である。
「……ダメージチェック完了。機体ダメージは0です」
あれだけの攻撃を受けても傷一つ付いていないのにナオは感嘆せざるを得なかった。
最も、損壊しているのであれば既に致命傷を受け、完全に破壊されていたであろうよ。
「……どうすればいい」
「と、いいますと?」
「これからどうすればいいんだ?」
「私には決定権はありません。マスターはこのアーマード・ロイド『ジーオン』のパイロットです。私が提示出来ても行動は貴方に委ねています」
「そのマスター、ていうのはどうなんだ?」
「マスターはマスターです。その他に何かありますか?」
「判った……ここは何処なんだ?」
「インストールされている情報から現在位置を表示します」
これは完全にカルディナの聞き間違いである。
ナオのいう「ここ」とは世界の事を指していたのだが、この勘違いは僥倖であろう。
270度もあるマルチスクリーンにモニター投影された地図は完全にナオが知っている世界地図とは全く違うものであった。
もし、ある程度の知識があればそれが「パンゲア」大陸によく似た地図であるというのが判ったであろう。
(完全に俺の知っている世界じゃない……)
ナオが居た世界においてもこのようなアーマード・ロイドは、どの国においても開発ないし実用にも至っていない。
あるとすれば、それは非日常的な空間に投影されたものであり、彼が今そこにある「現実」として認識は出来なかったのだ。
「現在地はここにキングダライム国西方300キロの位置。後五キロ程度でクシャナトリア国になります。先程襲撃して来た第三世代機「ゼルトナー」はクシャナトリア国での使用されていますホバーユニットを有した重アーマード・ロイドです」
「ゼルトナー?」
「はい、ライブラリデータにありました」
ご丁寧にも投影スクリーンに機体概要が表示されたがナオはそれが今更、何を意味しているのか到底理解は出来なかったのは言うまでも無い。
「何で、それを今言うのさ?」
「いけませんでしたか?」
「判っていたなら……」
どうして教えなかった? との言葉を飲み込んだ。
「マスターが混乱している状態でそれを告知しても意味がない状態でした。戦闘、いえ操縦に手一杯のマスターにそれを教えても余計な混乱を招くだけと判断しました」
その情報が表示されたとしても始めての戦闘で、無我夢中で二つの操縦桿とフットペダルを動かしていた極限状態でそれが意味を成せたかといえば否であるのは明白。
「……そうだな。そうだった」
「いえ、こちらこそ出過ぎた真似をしました」
「さて、どうするか、だ」
「状況を整理します。まずこの機体は恐らくはキングダライム国にて開発されたものであるかと思います。機体マーカーもグーダライム基地にあった機体とも同一でした。襲撃して来たのは先程も伝えましたがクシャナトリア国のゼルトナー」
「でも自分達は敵ではない、と言ってきたんだよな」
「攻撃はあちらからです」
「それは判っている」
しかし、それ以外の意図は判らない状況。
「これからの行動ですが戦略プログラムからマスターに提示出来るプランは三つです」
『一つ、キングダライム国の救援を待つないし同国の基地の何れかに庇護を求めに行く事です。友軍マーカーはありますので攻撃される事はないです。一つ、先ほどのクシャナトリア国の機体からあった通信を信用する。第三の選択として、このまま宛も無く彷徨うか、です』
「最後は無い、な。どの道ジリ貧になる」
機体のエネルギーが無限でない様に、ナオ自身においても有限ではない。
「最初の、提示の問題点は機体ログを解析された場合、友軍機を攻撃した事実は変更出来ません。それに機体を完全に撃破していませんので白を切るのは出来ないでしょう」
カルディナは最後に、機体ログは絶対に解析させません、と付け加えた。
「消去法だと二番目になるけど」
「マスターと私の身柄は恐らくは保証されると思います。このアーマード・ロイド『ジーオン』はパイロットをマスター、つまり貴方で認識しています。それは私も同様です。マスター以外が搭乗して操縦する事は出来ません。この機体は既に専用機なのです」
ましてやカルディナは、自分でも言っているが統括システムでもあり、この二つが無ければジーオンはただの鉄くずという事を示唆しているのだ。
「何で……」
「搭乗時に確認、認証しました。それは伝えましたけど」
「バイタルサインの確認だけじゃなかったのか……」
「センサーに反応あり。こちらに接近してくる機体があります。今、スキャンします」
該当機種の捜査がHUDモニターに映し出された。
「二時の方向から三機接近。該当機種は『オプファー』、フライトシステム『ペガズ』で接近中。随伴機はセプスが3機。同じくフライトシステム『ペガズ』に搭乗。距離五千。五分後には接触します」
オプファーの表示においては『警告』が示されている。
「どういうんだ?」
「キングダライム国での最強のパイロットが登場する機体です」
「どうしてこんな所に?」
「それは判りません。更に七時の方向から接近する機体があります。ゼルトナーが2機。距離6千。こちらは七分後には接触します」
「目的はこのジーオンか……?」
「オプファーとセプスにおいては近隣のグーダライム基地からの発進と思われます」
「ステルスモードは?」
「機能しています。発見される事はないと思いますが。接近まであと四分。……待ってください、地上からこちらに接近する機体あり。スキャンします」
「機種は?」
「ゼルトナーです。二機がまっすぐこちらに接近してきます」
「……気付かれたのか?」
「判りません。ですが、こちらに向かってきています。距離1000。一五分後には接触する可能性が80%を超えます」
これは相手が歩行によるもので時間差は当然というものであり、いずれにしても戦闘は避けられない可能性が高くなってきたのは紛れもない事実。
「ステルスが万能なのはあくまでもレーダー的なモノ。地上を走破していた場合、対地振動センサーを極限まで高めれば「音」は拾えるから。そこから予測進路で追い詰めればいい」
シャナーダにしてみれば、これまでの戦闘から得たモノと独学によるモノ。
元々はフライトシステム『ドラーコ』で上空から探索を考えていたが、レーダーで発見出来なかった事から地上に居る可能性が高いと判断し見事にそれは的中したのだ。
それはナオにしてみてもカルディナにしてみても到底気付かない事であり「経験値の差」というものである。
「もう遅い! 捉えているからね」
シャナーダのゼルトナーのカメラがジーオンを補足し、それを拡大表示したのだ。
「ヴィオラ、新型機は二時の方向。データを送る! 今度の目的は戦闘ではなく接触が目的だ。不用意な戦闘はするなよ。私は上空の戦闘に参加する」
上昇したゼルトナーのセンサーはオプファーを直ぐに捉えた。
「オプファー。白銀の悪魔がやっぱり来たか……」
シャナーダはカナミーの『ドラーコ』に乗り込んだのは接触回線を使う為と『ドラーコ』で戦闘に参加する為である。
同じ空中戦をするにはフライトシステムが必要不可欠なのだ。
「あれは私が撃墜させる! お前達は手を出すな」
シャナーダにしてみればオーレリィーがこの戦闘空域に来るのは予想していた。
近隣基地にオーレリィーが来ている情報はエリスから齎されていたし、状況によっては彼女との戦闘も視野にいれていた。
それ故に、その懸念もあり一度補給を行ったのだ
白銀の、装飾華美の鎧のような機体がオプファーである。
最初期はそれ程でもなかったが、戦果を挙げていくと同時に戦場での味方兵への士気向上を目的に現在の姿に改修されていったのだ。
最もそれは仕様だけではなく、装備を充実させた結果でもあった。
「捜索に来てみればやはり戦闘になる、か……国境近くでの捜索はそれを十分考えられていたけど、こうも戦闘になるとは」
オーレリィーは再び操縦桿を握る手に力を込めたのは、オプファーのレーダーが新たなる敵機を捉えたからだけではなかった。
「敵が増えた……まだ敵が潜んでいる可能性が高い? それともこの近くに何かある、という事か?」
それをオーレリィーに読まれる可能性が十分にあったがシャナーダとしては戦闘に参加する以外に活路は無かったのだ。
「戦闘は私が行う! 周囲を索敵。あちらが見つける前に発見の事」
「でも、どうやってですか? レーダーに映ってはいません」
「ステルスでも積んでいるのか?」
「自分の目を頼れ!」
フリスカとメイシへの叱責は副官のマールモである。
オーレリィーは内心で「助かる」と呟いた後、フットペダルを踏み込みオプファーをサブフライトシステムごと加速させた。
「「決して殺させはしない!」」
オーレリィーとシャナーダは知らずに、異口同音でコックピットで呟いた。
「……戦闘が始まった」
投影モニターを三次元表記にして状況を確認するナオであったが、傍観を決め込むという余裕はなかった。
地上からはゼルトナーが接近してきていれば、セプスもこちらを探しているのが判る。
「このままの状況では戦闘に突入する確率は95% どうしますか?」
「どうする、て言っても……」
「情報が少なすぎる! こんな行き当たりばったりな事をしないといけないなんて……」
握っている操縦桿に力を込めるが、思い悩んでいる間にも状況は一秒毎に変化している。
「ゼルトナー1機、オプファーに撃破されました」
モニターに拡大表示された映像を見れば、みればまだ中破程度であるが、サブフライトシステムごと破壊されたのが判った。
ドン、と音を立てて機体から小規模な爆発が起きた。
「……パイロットが死ぬのか……?」
その機体から、また音を立てて爆発が起きた。
「畜生!」
操縦桿を引き、目一杯フットペダルを踏み込むとバーニアユニットが火を吹いた。
「ステルスモード解除と同時に戦闘モードに移行。各種索敵はこちらで行います」
それはナオの意思を反映し、急上昇で一直線にゼルトナーに向かうジーオン。
その目に映る光景に向けて、それを最悪の結果としないように向けてフットペダルを踏み込み続けた。
「あんな所にいたの!」
「何をするつもり?」
オーレリィーにしてもシャナーダにしても、ジーオンが何をしようとしているのか理解出来なかった。
「接触まで10秒。衝撃に気をつけてください。機体が爆発する可能性があります」
「消火剤は?」
「ありません。後五秒です。相対速度を合わせます」
各部の姿勢制御用スラスターで機体が小刻みに震える。
「相対速度0。大丈夫です」
「ありがとう!」
言うとジーオンは半壊状態のゼルトナーを音も無く抱きかかえた。
パイロットのエーメルは、モニターを見ていても何が行っているのか理解出来ていなかった。
ジーオンはセプスの攻撃を、機体を動かして常に背中を向ける格好になりつつも防御する。
「これなら被弾による二次爆発の危険性はない!!」
ジーオンの圧倒的な装甲であるから可能な事であったが、それが無くてもナオはこのような行為に及んだであろうよ。
「パイロットも脱出の準備をしろ。いつ爆発するか判らないんだから」
「は、はい!」
パイロットのエーメルもいきなりの事で気付いていなかったが少しでも冷静であれば、この異常な事態にこの場で気付いてたかもしれない。
ナオはコックピットハッチをあけてパイロットが出てきたのをモニターで確認した。
着地の寸前で脚部のバーニアが全開となり衝撃を極力無くし、半壊の機体を地面に横たえる事が無事に出来たのは勿論、クシャナトリア側の援護があっての事である。
「早く脱出しろ!」
機体から出た彼女も外部スピーカーからの音声に気付いたようだ。
「パイロットは男……?」
「離れてろ!」
離脱したパイロットからジーオンを更に離してから離脱、同時に上昇させた。
それをただ見送ってしまったエーメルはそれ以上、確認する事が出来なかった。
「どうします? どちらに味方しますか……」
「味方も何も、この状況だとキングダライム側は俺を敵と見做す」
「クシャナトリア側は味方の可能性があると、考えると思います。先程の行動で決ったかと思います。警告、セプスが攻撃を仕掛けてきます」
「敵に乗っ取られたか!」
逸るフリスカを副官のマールモは抑える事が出来なかった。
「武器は腕部の殴打用極周波振動クロー、アンサラーだけです」
「近接戦闘しかないのは判っている!」
繰り返しであるが、それが現状使用出来る唯一の武器であり最強の武器でもあった。
「フライトシステム無しで単独飛行が出来るなんて!」
これはシャナーダだけではなくモニター越しで見ていた全員が驚愕した。
重アーマード・ロイドのゼルトナーですら全出力を傾けても数分、空中での飛行と機体のコントロールを維持出来るのみであるに対してジーオンは完全に「飛行」し、戦闘機までとはいかないまでの機動力を見せつけた。
ましてや「白銀の悪魔」と恐れられているオーレリィーが搭乗するオプファーですらその機能は備わっていないのだ。
「それでも! 当てれる!!」
マールモは自信をもってジーオンに照準を合わせ120mmケースレスマシンガンのトリガーを引いた。
しかし、それは更なる驚愕によって打ち消される結果になった。
バーニアユニットが展開、更には肩の大型バーニアが火を噴き、機体を急旋回させた事によりそれは決して着弾する事は無かった。
勿論、彼女だけが攻撃している訳ではなくフリスカも攻撃に参加した。
それは連携の訓練を十分にしてあり、戦場においても確実に敵を追い詰めてきたものであった。
二人には確実な自信があった。
この連携なら5分もあれば確実に撃墜させれてきたし事実、撃墜してきたのだ。
しかしその2対1であっても、その攻撃は尽く回避された。
「なんて機動性! ヒキガエルかバッタか?」
「何で堕ちない!」
冷静なマールモとは対照的にフリスカは驚愕と憔悴の声を上げた。
マシンガンが火を吹くが、ジーオンの装甲に傷一つ付ける事すら出来ない。
「ひっ?!」
モニターに肉薄してくるジーオンが映し出されると同時に衝撃が走った。
彼女自身、何が行ったのか理解出来ていなかったが、オーレリィーもシャナーダは見ていたから判っていた。
アンサラーにてセプスの上半身と下半身が分断されたのだ。
「相変わらずだ……」
シャナーダが呟いたがこれは誰にも聞かれていないし、口元が綻んでいるのは誰も目撃出来ていない。
「回収しろ! 回収しなかったら味方が、仲間が死ぬんだぞ?! 見殺しにするなよ!」
コックピットでナオは叫んだ。
「そうだ! それでいいんだ」
そしてのそのある種、無責任な叫び声はマールモの駆るセプスがそれを回収したので最悪の事態とは為らなかった。。
「切捨てなどしない。誰も見殺しにはしない」
それがオーレリィーの指示であり、隊の規律でもあるという事をナオは知らない。
これが不文律の鉄則で、もしこれをシャナーダが知っていればこの部分だけは同調したであろうよ。
「そこの機体、回線を開け」
これはオーレリィーからである。
「はい、そうですか、て開けれるかよ。とにかく逃げ回っていれば……」
しかしそれでは状況は改善さず、むしろ悪化していっているのがナオにも理解出来ていた。
それは操縦桿を握る手が汗ばんで来たのが判っていた。
そもそもナオとオーレリィーにおいては技量も経験も違う。
唯一の差であれば機体性能位であるが、それでもその差から追い詰められていくのは当然。
「何で?!」
ナオが焦るのも無理はない。
機動性においてはジーオンが圧倒しているのに、サブフライトシステムで旋回能力も劣るオプファーに追い詰められている理由が理解出来なかった。
それは操縦技術による「差」であった。
「それ以上、逃げ回るなら撃墜してでも止める。出来れば極力、傷付けないで捕獲したいが……動けなくする!」
「ロックされました!」
カルディナからの警告に緊張が走った。
「!」
ジーオンに120mm弾が直撃し、更にはバズーカから射出された320mm砲弾が数発炸裂した。
シャナーダは見ていたので理解していたが、オーレリィーはそれを初めて体感し、そして驚愕した。
「馬鹿な!あれで破壊出来無いなんて何て装甲なの?! でも、どれだけ装甲が厚くても関節をやられたひとたまりもない」
思考を直様切り替えて、左腕の武器を「ランサー」を選択する。
ドリル状の刀身が三分割にあり、それぞれが別方向に回転しながら粉砕する武器である。
「させない!」
カナミーが搭乗するゼルトナーが120mm人マシンガンで攻撃しながら間に割って入ってきたが、それは自殺行為にも等しかった。
「馬鹿、止めな!」
シャナーダが制止の声を上げるが、それは決して届かない。
「不用意に出てくるから!」
オーレリィーがトリガーを引く照準には、カナミーのゼルトナーを完全に補足していた。
シャナーダが悲痛な声を上げるのも無理はない。
カナミーのゼルトナーが、120mmマシンガンの着弾と共に四肢を引きちぎられながら炎上し始めた。
そして爆発した熱量を、モニター越しにナオも感じた。
「畜生!」
それはジーオンに接近していたヴィオラが搭乗するゼルトナーが、激情に任せて空中に躍り出た。
ヴィオラがシャナーダの命令を守っていれば最悪な事態を回避出来たであろう。
その命令無視の代償はオプファーのランサーによってコックピットを破壊される。
「迂闊に戦場に出てくるから。激情に任せて、周りを見ていないから!」
つまり彼女の人生の終わりを意味した。
「ぅわあああああああ!」
シャナーダは、自分が自制出来ていないのを理解していた。
そしてそれを理解した上で激情に身を任せていた。
「よくも! よくもヴィオラとカナミーを殺したな!」
サブフライトシステムを最大加速させる。
どれだけ悲鳴を上げようが、機体がその挙動に耐え切れずに空中分解しようが構わない。
オプファーを撃墜させなければこの怒りは到底、収まりようがないのだ。
オーレリィーにしてみれば、このような怒気は戦闘になれば常に向けられており、その対処方法も知っている。
ナオから見ても、荒くれるゼルトナーの動きとは対照的にオプファーは冷静な動作をしているのが判る。
「お前が居なければ! お前さえ戦場に現れなければ! キングダライム国の王が暗愚でなければ! ダライアス・モーガンが野心を抱かなければ! サルワトールがアーマード・ロイドを開発しなければこんな戦争には成らなかったんだ!!」
シャナーダが必死になって操縦桿を動かすが、動かせば動かす程、オーレリィーにしてみれば雑な動きに付け入る隙が見えてきていた。
「止めろおおおおおおお!」
ゼルトナーとオプファーの間に入るジーオンは直様、近接戦闘用極周波振動クロー『アンサラー』をオプファーに向けた。
「戦争をして、争って一体何になるんだよ?! そんなに戦争をしたいのなら……」
「行動不能にして確保する!」
オーレリィーにしてみれば出来ない事はなかった。
あの呼び名は好きではないが、それに見合う実績は持っているのだ。
「させるかっ! 二人の仇は取らせて貰う」
部下を殺されておめおめと引き下がるシャナーダではない。
「邪魔!」
ゼルトナーに向けて320mm砲弾をバズーカから射出するオプファー。
「させない!」
その砲弾の先にジーオンが割って入った。
一撃の元、高速で飛来してくる砲弾を粉砕したのだ。
「……凄い。でも、何で邪魔をする!?」
ナオはそれには通信では応えず、操縦桿をオプファーへ向けて動かした事で意思表示をした。
「これ以上、目の前で人が殺されるのを黙って見ていられるかよ!」
「マスター、かなりバイタルが乱れています。誤差の修正が酷くなってきています」
「とりあえず、この戦闘を止める。だから協力してくれ」
「了解です」
しかし、どれだけ意気込んでも圧倒的な経験値の差は埋めようがないのは事実でジーオンの機動性能を持ってしても、オプファーを捉える事は出来ない状況に変化は無かった。
操縦技術においてもあるかもしれないが、ジーオンは近接戦闘しか武器が選択出来ていない。
中長距離の攻撃兵器があれば、オプファーを追い詰める事が出来るかもしれないが、今はそれは無い。
「何で、当たらない?!」
ナオが苛立つ声を出すのも、相手の間合いにすら入れないのだ。
理由は簡単で、アーカイム基地では相手が逃げれる空間が少なすぎたのだ。
だから接近戦に持ち込めれたのだが、遮蔽物も何もない空間戦闘となれば分が悪い。
この戦闘を同じく歯痒く見ていたのはシャナーダ。
「間に入れない……」
単独で攻撃を仕掛けにいったナオとは状況が違いシャナーダの場合、ナオと連携しなければならず判らない相手に機体の動きを合わせる事も出来ない。
ならば彼女としてはまだ残っている敵機を撃破するだけである。
必然的にメイシのセプスとの戦闘に入った。
「畜生! これじゃ悪戯に消耗するだけじゃないかっ」
オプファーの挙動に言い様に嬲られているナオにしてみれば集中力が切れ始めていた。
「波長やバイタルが乱れています。これ以上の戦闘は好ましくありません。ですが戦局が硬直しています」
「判っている! 判っているよ! でも……」
「奨励は出来ませんがイメージトレースシステムを使用しますか?」
「……出来るのか?」
「脳に多大な負担を強いります……奨励は出来ませんが戦局を打破する可能性があります」
「無いよりマシだ」
「では網膜投影に切り替えます。システム起動まで五秒。切替と同時にコックピットスクリーンはオフになります」
コックピットシート後部から競りあがってきた来た網膜投影装置がナオの頭部を完全に覆う。
モニターが全て灰色になったと同時に視界には直接景色が映し出された。
「くっ……」
それは鋭い痛みと共に、違和感を覚えた。
それが何であるかは判らなかったが、例えるなら一番近い表現「頭の中を蛇が這いずり回る不快感」であったであろうよ。
「最大で5分間は思考だけで操縦が可能となります。脳波感知、A10神経及びニューロンの電気信号を正常に感知」
網膜投影に、各種の感知されたデータが表示され、それは医療モニターで表示されているものに酷似していたが、ナオにしてみればそれが何であるのかは理解出来ていなかった。
「人と機体を直接繋ぎました。リンク状況は表示されます。システム起動、リミッター解除します」
網膜に3Dでの脳が表示され、ジーオンとの接続状況が表示され、それは脳の何処が、何に対してのものを司っているか明確に表示していた。
「あれは……?」
ジーオンの変化を見ていたオーレリィーが声を出すのも無理は無い。
機体各部にある超電磁モーターからファンが迫り出して高速回転をし始めた。
それだけではなく、明らかに過剰となり放出された電力の波がモーター同士を繋ぎ、更には機体全てを包み込む。
ナオにおいては思考により機体が動いているのが肌で、脳内で直接感じ取る事が出来た。
4次元テールノズルをオプファーに向けて、ジーオンを加速させる。
「さっきよりも早い!」
それは操縦桿を用いた時のあった誤差を感じさせず、むしろそれ以上であった。
「動きが変った? 」
それはオーレリィーも感じ、その速度変化も直感した。
「フェイントが通じない?!」
オーレリィーとナオとの操縦技術においての「差」の一つである。
攻撃が当たらないのは、彼女がこまめに挙動を変えていたからだ。
(……追い詰められ始めた?)
そのフェイントにまで、動きを合わせられ始めているのだ。
それはモニター越しで見ていたシャナーダにおいても理解でき始めた。
「そこまで出来るの?」
回避されたと同時に、通り抜け様にに機体を回転させて裏拳状態で再度、アンサラーをオプファーに当てたのだ。
「何っ?!」
防御したオプファーの左腕は見事に破壊された。
「……次は完全に破壊する!」
ナオが更に攻撃を仕掛ける。
仮にジーオンのコックピットに第三者が居れば異質な光景に気付いたであろうよ。
ナオの双眸が血走ってきているのは何も網膜投影だからではない。
顔付きにも精悍さなくなり、むしろ廃人に近い感じになりつつあるのは、明らかにアドレナリンが過剰分泌されているからである。
「ちょこまかと……逃がすかよ?!」
今のナオにしてみればオプファーの、少しの挙動も見逃す事はなく、むしろそれがはっきりと理解出来るのだ。
「システム解除まで後30秒」
「まだだ! 解除するな!! アイツを追い詰める」
「ですが」
「システム続行。続けろ!!」
「……了解です」
ブースターユニットが激しく展開し全身のバーニアユニットが火を吹き、左右への高速移動でオプファーを追い詰めていくジーオン。
「更に早くなってきている!」
オーレリィー自身においても、自分自身が余裕が無くなってきているが分かっていた。
決して侮っていた訳ではないが、集中力が散漫になっていた自分に対して後悔する事になったであろう。
爆発が、大きな閃光と共に発生し、それと同時に友軍機のマーカーも消えた。
「メイシ……そんな……」
シャナーダと交戦していたメイシのセプスが撃破されたのだ。
それもお返しといわんばかりに、彼女が見ている目の前で、だ。
「……そんな」
オーレリィーの声が震えていた。
オプファーの動きが一瞬、停まったのをナオは見逃さなかった。
「捉えた。もう、遅い」
「しまった!?」
オーレリィーが咄嗟に操縦桿を引いたのが功を奏したのであろう。
オプファーのダメージは頭部カバーが破壊されただけに留まったが、それを見たナオの動きが突然、停まった。
「あれは、あの時の……?」
見間違えるなどなかった。
そこにあったのは幼馴染の林檎を連れ去った「巨人の顔」だったのだから。
「何で……うっ!」
不意に苦悶の声を上げ、体を捻るようにもがき始めてしまった。
「バイタル異常、危険ラインに突入! パイロットの生命を最優先にシステム強制解除!!」
カルディナはシステムのカットを急いだ。
ナオの脳内に表示されていたモノが次々と消えていく。
「どうした……?」
それは異口同音でオーレリィーとシャナーダが同時に呟いた。
明らかに機能に不具合が生じているのが分かり、バーニアユニットも点火が不規則に点滅し始めていた。
「今!」
いうと、オプファーは肩部にあるバルカンを一斉射した。
装甲を破壊する事は当然出来なかったが、欺瞞させるには十分であった。
「片腕が無い状態では……これ以上の戦闘は出来無い。撤退する」
オプファーはジーオンに背を向けると同時にサブフライトシステムのブースターユニット全開にし、即座に戦闘空域を離脱していった。
「ぅぅぅうううう……」
声が尻すぼみになると同時に、ナオは前面のパネルに体を預けるように倒れてしまった。
「システム異常発生、こちらも機体冷却と併せてシステムの強制ダウンを行います……」
見えない重力の手に引っ張られるように地上に落ちていくジーオン。
最も地上に激突しなかったのはシャナーダのゼルトナーが地上数十mの位置で確保した。
次回は本当のプロローグです。
物語の始まりです。
非難、中傷などはご遠慮ください




