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第弐章「星の降る夜に、消えた夜に」-第4話-

新年明けましておめどうございます。

今年も宜しくお願い致します。

本年度、初の更新です。

(デモンストレーションのつもりかも知れないが、あれを破壊出来るアーマード・ロイドなど存在しないよ。せいぜいジーオンの評価を高める礎になってくれたまへ)


 オーガスタは内心でとばっちりだけは食らいたくないと思ったが、現実はそう甘くないのを遠くない未来でその身に思い知る事になるとはこの段階では思いもしなかったであろうよ。

 オプファーの格納庫は修理及び新装備の装着作業が開始されようとしており一層慌ただしくなった。


「何を装備するんですか?」


 オーレリィーがサルワトールに尋ねるのも無理はない。


「まずは破壊された両腕の交換作業と平行して新しいシステムを装備させる。完全に第五世代機へのコンバート。それとコントロール系のバージョンUP。それとテストだ」


 端末を渡してスケジュール表を確認させる。

 余程の遅延がない限りは完熟飛行も併せて3週間で終わる内容であった。


「それと君の新しい部下にもシキューリを用意した。これで当面は問題ないであろう」


 それにはオーレリィーも素直に感謝せざるを得ない。

 第三世代機のセプスよりも高性能であるシキューリであれば、使いこなせればそれだけ生存の可能性が高くなるというもの。


「あ、ありがとうございます」


 機体性能が高い程、それが新人であれば在る程、生還率も高まるというもの。


「昔からの部下には今のままのセプスが良かろう。急な機種変換は要らぬ死地を招くだけだ」

「……」


 オーレリィーにしてみればここまでするサルワトールに違和感と悪寒めいたモノを感じたのは当然であろうよ。

 彼女にしてみれば、アーマード・ロイドの開発にしか興味が無いと思っていたのだ。

 彼はとてもでないが胸襟を開ける相手ではないと直感しているし、今でもそれに変更はない。

 ただ、軽々しくそれを変える程、優しくはない。


「で、今度は何のテストなんですか?」

「仕様書には目を通したのかね?」

「ええ、でも本当に実用化出来たんですか? その超電磁砲とやらは」

「私が出来ない装備を付け他人に試させる程、マッドサイエンティストではないよ。それだけではない。平行して可変速プラズマ収縮砲も併せて持ってきた」


 オーレリィーにしてみれば耳慣れない言葉であるが、それが何であるかは想像が出来た。


「これは任意で貫通力や初速、拡散等の出力変更が出来る。最もこれは腹部に付けなければいけないが」

 理由は出力が大き過ぎて単独の生体ジェネレーターでは超電磁砲との併用が出来ず、その問題解決としてオプファー本体との外付けの生体ジェネレーターとの併用が前提となっている。


「但しそれだと砲撃としては意味を成さないので、使用する場合は専用の砲身ユニットを付ける必要性がある。この辺の制御もプログラムに組み込む」


 それ故にテスト期間を含めても一週間は掛かる見込みになっている。


「この3週間もあれば君の部隊に寄与したシキューリの完熟テストも可能であろう」


 ここまでの至れり尽くせりでオーレリィーが逆に不信感を募らせるのも無理はない。


(クルゥエルが何をしてくるかは判らない。こっちも訓練出来ていないあの子達を無理矢理狩り出されては守る事も出来ない)


 個人同士であればオーレリィーが相手をしないか、または苦渋を飲めばいいだけ。

しかし同じ基地で、尚且つ部下がいて戦闘になる場合は可能な限り予防線ないし手を打たなければいけないのだ。


(マールモに警戒と情報収集をさせつつ、フリスカと一緒にあの子達との訓練に集中する)


 この場合、最大の予防線は時間の許す限り新兵の教育を行う事であり、少しでも戦場で生き残る術を教える事である。


「ではお言葉に甘えて」

「2週間後にはテストに入る。その時はおって連絡する」

「はい」

「……何か他に聞きたい事でもあるのか?」


 サルワトールが立ち去らないオーレリィーを見て訝しげに思うのは無理も無い。


「聞きたい事が一つあります」

「答えれる内容なら」

「あの機体は何ですか?」


 それがジーオンを指しているのは彼自身理解している。


「マシンガンやバズーカも効かない装甲。機動性もさる事ながら圧倒的な加速性能はこれまでのアーマード・ロイドとは一線を画す物です」

「ならば、それは無意味だ。あの機体の開発データは基地諸共灰になった。機体データは戦闘を行ったオプファーやセプスで確認するとしよう」

「ですが……」

「試作機だ。カタログスペック以上の性能を出す時もある」


 いうと、これで話は終わりだといわんばかりに区切ってしまった。


「君は自分の記憶を取り戻すために戦っているのだろう?」

「了解しました!」



「……と、いう訳でクルゥエル隊の動向を探っていて欲しいの」

「判りました。確かに隊長の言う通り、彼女達がどんな事をしてくるか判りませんからね」

「で、自分は隊長と新人教育ですね」

「ええ。一応、基礎は出来ていると思うけど。主に体力造りとアーマード・ロイドでの実地訓練で行くから」

「急ぐんですね。根を上げたらどうします?」

「何が何でも鍛えて。もう私の部隊に配属されたの。他の部隊に行かせてむざむざ死ぬような事などさせないから」


 基礎体力作りは基本的にフリスカが担当し、戦闘訓練においてはオーレリィーが担当する事になった。


「フリスカには嫌な役回りをさせて本当に御免なさい。」

「あの子達が死んで隊長が哀しむより、私が憎まれてあの子達が生き延びるんであればいいですよ」


 時間的な割り当てとして午前中は基礎体力作り、午後はシュミレーションを用いての訓練、夕方以降においては基礎体力作り。

 オーレリィーの訓練においては好評であったが、フリスカの基礎体力作りにおいては概ね不評であったのはいうまでもない。


「訓練に好評も不評もない。死にたくなかった死ぬ気でやれ!」


 フリスカの言う事は最な事であり、戦場で命を落とさせない為の訓練なのだ。

 別の言葉であるが、これは「親の心、子知らず」で、真意が伝わらない言葉の象徴であろう。

 最も、二日目以降においてはそのような言葉を発する気力も無い位、更に訓練は厳しさを増していったのはいうまでもない。

 そんな中、彼女達新兵においての楽しみと言えばオーレリィーの訓練と共にする食事。

 無論、一番の楽しみなのは後者であるのはいうまでもない。

 どれだけ訓練で疲労困憊となり胃が受け付けない状態であっても、仕官食堂の椅子に座った根性だけはフリスカも一応は認めていた。


「あんまり無理しないように、ね」


 オーレリィーのその一言だけで彼女達の疲労も少しは軽減出来たかもしれない。


「少しでもいいから食べておかないと、この後はもっと大変だぞ」


 フリスカがそう言うのも当然である。

 例え訓練中に倒れたとしても彼女ならば問答無用で叩き起こし訓練を再開させるであろうよ。

 フリスカが鞭であればオーレリィーは飴。

 訓練の間も、食事の間もオーレリィーは勤めてコミニケーションに従事していた。

 それは少しでも距離感を詰める事と、隊の規則を教えていく事であったからだ。

『仲間は決して見捨てない』は不文律の規則であり鉄則。


「おっと危ない」

 隣に座っていたルーナエ・パトリエルが余りの疲労により眠るようにもたれ掛ってきたのをオーレリィーが受け止めたのだ。


「す、すみません」

「いいの。それより大丈夫?」

「すすすすすスミマセン」


 緊張のあまりか、思いっきり同様しているの姿を見てオーレリィーも少し頬が緩んだが一瞬にして鋭い双眸となった


「あら、エース・オブ・エースともあろう者が、こんな場末の処で下々の者と仲良く食事?」


 皮肉という香辛料に嫌味のスパイスを掛けて話しかけてきたのはクルゥエルである。

 その後ろには彼女の部下も居た。


「……どこで食事をしようが私の勝手だと思いますが」

「指揮官クラスは、専用のがあったと思いますけど」


 クルゥエルの言う通りである。

 指揮官クラスや隊長クラス、更に厳密に言えば少尉以上においては個室などで、別に用意された食事が割り与えられているのだ。


「仮にもキングダライム国のエース・オブ・エースと謳われている方がこのような貧相な食事を好んで摂るとは」

「栄養とカロリーさえ取れれば別に気にもしません。私は彼女達との会話を重視していますので。どうぞ御気になされずに」


 オーレリィーが攻撃的な口調なのは、彼女が既に侮蔑の眼差しと嘲りの口調で接してきているからだ。

 誰しもが敵意を向けられれば、それ相応の返し方しか出来なくなるというもの。


「あら、嘴の黄色い雛鳥とのお戯れですか? アーマード・ロイドの操縦も御遊戯程度とお見受けしますけど」


 実戦を経験している彼女にしてみれば、新兵の操縦などたかが知れているのは当然理解している。


「どいつもこいつも戦場に出れば直ぐに死んでしまうような目です事。そんな新兵を預かって鍛え上げるのも苦労している事でしょうね。その点、我がクルゥエル隊は皆、名家の出身で戦場で赫々たる戦果を上げていますのよ」

「……」

「アーマード・ロイドの戦闘では私も負けなしですよ。最も機体の優越でこれまで生き残ってきた貴方とは違いますけど」

「……」

「そういえば先の新型機の奪還では失敗。それに敵にむざむざ部下を殺されたそうではないですか。貴方程のパイロットが何をしていますの? それともその犬死した部下が使えないのかしら? ええ、きっとそうね」

「……っ」

「その点、我がクルゥエル隊は優秀でしてよ。これまで一人も部下を死なせた事はないですからね」


 ああ、もう遅い。

 それに気付いたのはフリスカであり、オーレリィーの逆鱗に触れた事を理解した。


「言いたい事はそれだけ?」


 いうとやおら立ち上がった。


「っ?!」


 オーレリィーのそれは、憤怒の表情はもはや羅刹と表現しても差し支えない程である。

 その迫力に圧倒されてクルゥエルは思わず後退った。


「殺させない! 私の部下は殺させない!」

「しかし……」

「メイシは私の力不足で死なせてしまった。責めるなら私だけを責めればいい!」


 食堂全てに聞こえる声は、その怒りが硬質なモノとなり全てに突き刺さる。


「この子達は絶対に殺させはしない。死なせもない! 私が全ての力を使って守って見せる!!」


 静かに、そして力強く決意の様に一歩前に進む。


「未来ある子達を侮辱するのは止めて貰いたい!!」

「な、何ですの……?」


 クルゥエルは訳が判らなくなり混乱しているので正確に把握出来ていないのも無理はない。

 最もその他人を見下す性格が、他人への配慮が著しく欠損しているのが災いしているのに気付いていないのだ。


「別に謝罪など要求はしない。ただ私が手を上げない内にこの場から去って頂きたい! 決闘をお望みであればこちらも一向に構いませんが! お得意のアーマード・ロイドを使っての実戦でもこちらは受けて立ちますよ!」


 出自の差はあれど同じ少佐であり、ましてや撃破数においてはオーレリィーが上。


「……どうしますか? このまま引けば見逃しますし、ここであった事は流そうと思いますが」


 彼女なりの譲歩であるのは、誰が見ても判るというもの。


「ま……まあ、貴方がそういうのであれば、ここは引きましょう」

「判りました。助かります」


 先に一礼をしたオーレリィーの人間性においても実質的な勝利であるのは明白。


「でもこれだけ忘れないでください。私が侮辱されてもそれは構いません。しかし部下を、私の大切な部下を侮辱しないで頂きたい。次、同じような事があれば私は躊躇しません」


 十分過ぎる程、釘を刺した事であろうよ。


「……何なのよ、あれは?!」


 食堂を出た処でクルゥエルは憎悪を吐き出した。


「あんなのに馬鹿にされて……」


 最初にそれを行った人間が、どの口でそれをいうのであろうか?

 彼女自身、他人を傷付ける事は平気でも、自分がそうされる事には慣れていないし、何よりも嫌悪する事なのだ。


「アンタ達も黙って見ていて。何も言わないなんてどういう事?!」


 部下への八つ当たりは良くないが、それをせざるを得ない心境なのであろう。

 最もそれを行った場合の部下の心理状態も知らなければ、知ろうともしないであろう。

 彼女達の場合は、クルゥエルの言動を傍から見て優越感に浸るタイプで、それが出来なくなった途端、彼女同様に何も出来なくなるのだ。


「あの女、絶対に許さない」


 怨嗟の声はただ吐き出すだけでなくクルゥエルに、更にドス黒い感情を抱かせるようになったのはいうまでもない。


「隊長、ありがとうございます。私達の為に……」


 自分達を守る為に激憤してくれたのだから全員が感極まっているのも当然の事。


「貴方達は私が、私達が絶対に守るから。でも三つ約束して頂戴。一つは絶対に死なない事。一つは仲間を守る事。最後は仲間を見捨てない事。これは守って」

「はい! その三つは必ず守ります!!」

「いい返事ね」


 彼女達を見つめる双眸は限りなく慈母にも似た慈愛を持っていた。



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