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第弐章「星の降る夜に、消えた夜に」-第2話-

お待たせしました。

第2話の更新です

 勿論、ナオにも目的があって事である。

 本来はジーオンで行いたかったのだが、アーマード・ロイドの「中身」を知るために必要だったのだ。

 単純な好奇心だけではなく、どのような仕組みなっているかを知るのもパイロットとしては必要不可欠な事。

 ナオは格納庫でモニカに説明を受けていた。

 まずはナオが搭乗していたエーメルのゼルトナーは戦闘記録からもみても通常の戦闘終了後に行われる点検作業で十分であったが、ティクスとシャナーダのゼルトナーに関しては「レベル1」、つまり可動時間200時間を超過した場合に行われる簡易OHを兼ねた点検ではなく、「レベル2」の工場への搬送によるフレームまで含めた総点検及び完全OHになるはずであったが、追加武装の装備及びそれに伴う改修作業へと回されたのだ。

 最も基地に配備されているゼルトナーの数台が改修用に充てがわれたが、今回の件でまずはシャナーダとティクスの機体が先行改修とされた。

 しかし、これは現場サイドてにおいても僥倖になったのは、卓越した操縦技術を持つ二人の乗機がテスト機になるのであれば確実なトライアンドエラーが出来るというもの。

 今回の件での破損はある意味、勿怪の幸いという部分も多分にある。


「アーマード・ロイドはご存知の通りサルワトールが開発しました。そして技術と情報をキングダライム国は各国に売りつけてきました」


 その所為で戦争形態が劇的に変化し、より一層の激化となったのはシャナーダが述べた通りである。


「第三世代機、ていうのは? 第四世代機との区別は?」


 その明確な差異があるからこそ性能差も当然、出てくるというもの。


「頭部ユニットと生体ジェネレーターの差によります。第三世代機は、出力はそれ程高くなく、また頭部の処理ユニットの速度も違います」

「つまりそれでカテゴリー分けされているんだ」

「そうです。今、丁度ゼルトナーの装甲が外れましたから。あれが生体ジェネレーターです」


 モニカは、腹部にある円柱状の金属カバーで覆われたモノを指した。

 目下の処、エーメルのゼルトナーが点検作業中なのである。

 最もシャナーダとティクスのゼルトナーは別工場で改修中となっている。


「そうは見えないけど……」

 

 確かにチタン複合セラミック合金のカバーで覆われた「それ」は明らかに異質なものであった。.


「重要で、結構デリケートな部品ですから保護して置かないといけないので」

「もっとこう、おぞましい感じを想像していたんだけど」

「それ、合ってますよ。あのカバーを外したら人間の臓器に似た物が出てきますから」

(それはあまり見たくないな……)

「そういうのを開発したんだ」

「違います。頭部と生体ジェネレーターは発掘しているんです」

「え? どういう事?!」

「地中深くから掘り出しているんです。それに人間でいう手足、骨格を機械で作り特殊装甲で皮膚を付けて人が動かせるようにしているんです。それがアーマード・ロイドなんですよ」

「ち、地中から……。どういう事?」

「言葉通りです。サルワトールは地中から発掘した通称「遺跡」を用いてアーマード・ロイドを造りました。正確には基礎かもしれないですけど」

「遺跡て、昔何かあったという事……?」

「それは具体的には判りません」


 モニカの言う通りであり、ナオもそれは判っていた。

 判り易く言えば、恐竜の存在は化石により理解できたが実物は再現されていないので正確な特徴や生態などは推測でしかないのだ。

 あくまでも仮説、でしか理解出来ていない。


「一説には昔、巨人が居てその体の一部が「遺跡」として残っていると言われてますけど」

「それを追求するよりも、一つでも多く発掘して兵器にする方が大事、か……」


 恐竜の化石も学術的に価値を認められて化石の発掘、保護にも動いた。

 ましてやダイヤモンドにおいてはカット技術の向上により価値が高まり普及していったのだ。

 それまでは「ちょっと綺麗な石」程度での認識でしかなかったのだ。


「じゃあ、ちょっと駆動系のメンテナンスをしますから手伝ってくれますか?」

「ああ、いいよ」


 メンテナンスハンガーに設置されている昇降用クレーンに乗せられて案内されたのは指の部分である。


「第三世代機の特徴の一つとして指が三本なんです」


 いっても人間にあたる親指、人差し指、残りの指が一纏めになっていて、見た目は人間の指と何ら変りはないし機能としても申し分ない。


「第四世代はここの消耗頻度が高いんですが第三世代においては割りと頑丈なんです」


 装甲を外された状況をナオは見てそれを理解した。

 各関節部分にあるのはモーターでの動作であるが、ショック吸収用のダンパーなどそれが必要なモノだけで構成されているのだ。


「でもこれ、実は苦肉の策なんですよ」」

「どういう事?」

「第三世代機は頭部の処理能力が低いんです。だから必要な本数を策定したとも言われています。……チェックOKです。通電も問題ないです」


 各部をテスターで検査していただけであるが、それで十分なのであろう。

 最もここの点検は動作確認とコネクターの確認だけなのである。


「いくら頑丈といっても数回の戦闘後はOHか全交換になりますけど」


 ナオの視線が一点に釘付けにされたそれは腕の部分である。

 全ての装甲と各部ハッチが開放されていた。


「あれは!」


 ナオがそれを見たのは初めてではない。

 ここに、この世界に来たきっかけの「アーマード・ロイド」の「腕」と酷似ないし類似点が多く見られた。


(あの顔に腕は……、やっぱり!)


 ナオの中で燻っていた「何か」が、ありきたりであるが漠然と散らばっていたピースが全て合致した。


(やっぱり林檎はこの世界に来ている。それは確実でも確定でもない。そう判ったんだ)


「次は頭部にいきましょう。世代差はカメラアイの数も違うんですよ。第三世代機が処理できるのは最大まで4つ位までが限界です」


 確かに搭乗して判った事だかモニターの数も必要最低限しかなかった。

 頭部のメンテナンスは他の整備班が行っていた。

みれば全て女性である。


「処理ユニットも同様のチタン合金による特殊カバーで覆われています。これは」

「生体ジェネレーターと同じ理由なんだろ?」


 重要箇所であれば当然というもの。

 航空機にもあるブラックboxにおいても堅牢な作りになっているのと同じである。

 最もチタン合金なのは生体部品の腐食を防ぐ事が目的もなっている


「カメラは光学から赤外線など複数のユニットを複合して一つのユニットとして「眼」の代わりにしています。ただ使用する際は切り替えないといけないんです。同時使用は出来ないのが欠点ですね」

「随分と制限があるんだな……」

「でも、これが戦場に出現した時は、畏怖の対象だったと言われてます」


 人型、それも大型のモノが現れただけではないのだ。


「それまでの第一世代機、第二世代機を上回る機動性や運動性、いえ人型による圧倒的な汎用性が大きかったとも言われています。武器も第二世代機までのは使えるようになっていましたから」


 一部改良もあるが新たに武器を造る必要がなく、それでいて汎用性が高ければどの兵器が戦場で有利なのかは明白。


(アーマード・ロイドていうより巨大なサイボーグみたいだな……)

「フレームから駆動系は最初購入でしたが解析が進んだ今では複製及び製造まで出来るようになっています」


 徹底的に分解、解析と複製を行い、それに伴う生産ラインも同時に確立したのだ。

 それは執念にも似た行動であるが、思いは暴君に蹂躙されたくない、という事なのであろう。


「一説にはキングダライム国以外でも自力で第五世代機の開発に着手しているそうですが」


 ジーオンを見上げるモニカの瞳は複雑な色をしていた。


(それを上回るアーマード・ロイドが開発、実戦投入されてしまった。差は大きく開いている)

「そういえばゼルトナーでの戦闘はどうだったい?」


 見れば肌の色は健康的な浅黒で、全体的にウェーブの掛かった髪に人懐っこい顔立ちであるが、ナオよりも身長が高く、少し見上げる形になった。


「あ、整備班長のバンシィネ班長です」


 モニカの説明によりナオは相手が誰であるか少しは理解出来た。


「まあ、ジーオンよりは扱いやすかったけどね……」


 言い踏む辺り、何か感じたのはバンシィーネもモニカでも理解出来た。

 単純なのは圧倒的なパワー差と性能差を見れば、それは大人と赤子の差以上に開いている。

彼女等にしてみれば初めてゼルトナーを操縦した人間の評価は非常に気になる所である。

 それに整備に積極的に参加するあたりも好感を得たのであろう。

 上官にしてみればパイロットはパイロットとしての仕事をして欲しい、と言いたい訳であるが艦長のエリスにおいては特に何の注文もない。

 むしろシャナーダに一任しているといっても過言ではない。

 バンシィーネも最新鋭機を操縦するパイロットの感想を聞いてみたい心情もあるのだ。


 「ゼルトナーは乗りやすかったですよ」


 いってナオは直ぐにこの答えが彼女達が求めているモノと違う事を直ぐに認識した。


「反応もピーキーじゃなくてマイルドで。出力特性をみればよく出来た機体だと思います」


 量産機としては当然であろう。

 扱いやすい、大量生産がし易い、が主眼なのだ。


「ただ……」

「今後の戦闘でも必要になるかもしれないです。コマンドを待機状態にしておくのもこちらとは盲点でしたし」

「カミノが言っていたシステムをOSに反映させれば機体性能も向上する。意外と素人的な意見も役に立つんだ。だから何でも良いんだよ」

「しいて言えば手持ち以外の中距離砲撃機能が欲しいと思った。高速移動が出来るタイプならそれがあった方が有利に展開出来る」


 それは今、基地内にある別工場で改修作業中となっている。


「あと索敵用の機体は無いんだね……」

「索敵ですか?」

「まあ、レドームとか付けた索敵ないし電子戦に特化した機体なんだけどね・・・」

「そういうのは無いですね。聞いた事もありませんし。どうしたんですか?」


 それは先の戦闘で、センサーの有効範囲や索敵能力の低さに苦戦した事が起因しているのだ。

 モニカが意外な声を上げるのも無理はない。

 あくまでも索敵は母艦と連動しての運用なのだ。


「索敵や電子戦に特化した機体があれば。用は先に敵を見つけた方が有利に展開出来るだろ? 短距離、中距離、長距離に合わせて索敵用の機体をワンセットに運用出来たら楽になるかも……」

「索敵に特化した機体……」


 これにはバンシィーネも熟考を必要とした。

 資材の問題もあるが、それが基地での現地改修が可能なのかどうかを判断しているのだ。


(資材は何とかなる。けど広範囲のレーダー装置をどうやって搭載する。大型化過ぎて機体強度に問題が出るけど……。フレーム強化で何とか出来るけど。頭部ユニットはどうする? 処理は……)


 広範囲でのレーダーシステムは大型ないし中型戦艦クラスにしか搭載されていないのだ。


「それが出来るのは恐らく頭部の処理ユニットと併せて第四世代機になると思います。第四世代機以降の情報はありますが、クシャナトリアではまだ開発、運用には至っていないんです」


 キングダライム国も存外に馬鹿ではないので、売り付ける情報はある意味古い情報であり、自分達が完全に第四世代機の運用ができ、または第五世代機の開発に着手ないし目処が立ってからが妥当かもしれない。


「じゃあ別付けしたレドームユニットを頭部ユニットに被せてみる感じとか?」

 二人の反応は今ひとつであり、何かがピンと来ないのは当然の事。

 ナオの場合はあくまでも可能性の話であるが、それを受ける人は実際に運用を行っている人間でそれに伴う欠点なども瞬時に理解出来るのだ。


「ゼルトナーの頭部ユニットでは処理しきれるかな……?」

「ある程度の許容量はあるけど、そこまでのはどうか……」


 メカニックとしてからの意見として、どうにも難色が示されているようだ。


「頭部ユニットだけ変更出来ないの?」

 

 ナオがあまりに簡単にいう。


「じゃあ、頭部ユニットを二つにしてみたら。一つを完全に索敵用に特化するとか?」

「!」

「今、何ていった……?」

「頭部を二つにしてみたら、て」


 パソコンのCPUにおいても初期は二つのCPUを搭載したモデルもあった。

 それでも処理速度は二倍ではなく一・六倍が限界と言われていたが。 

 今では一つのCPUで二つのCUPを搭載している機能を持っているが、そこまでの技術革新は起きていないようである。


「別に頭部ユニットが一つである必要性は無いんだろう?」


 つまり可能であれば複数搭載しても問題無いのであろう、とナオは聞いているのだ。


「同調に問題がありますけど……」

「出来なくはないな」


 恐らくはかなり調整に戸惑うであろうが予測されるが、技術畑の人間にしてみれば提示された可能性にトライしてみたくなるのも心理というもの。


「モニカは予備の機体に頭部と併設する作業をテスト」

 

バンシィーネが嬉々としながら腕まくりをしたのは言うまでもない。


「忙しくなるよ、モニカ。男口説いていないで手伝う!」


 整備班の年長者からの叱責により慌てて彼女の後を追うモニカ。


「す、すいませ~ん」

「俺も手伝うよ」


 その状況をジーオンのコックピット内にある制御ルーム内にいるカルディナは確認していた。

 彼女がここに居るのは先の戦闘データの解析を行っているからである。

 データの転換にやや戸惑いつつも、行動の解析を進めていく。


「最初は戸惑っていたようですが、ここから変っていますね。……いい感じです」


 それは手動での調整と10段階での操作を意識するようになってからであろう。

 シュミレーションで出来なかった事が戦闘で出来るようになる。

 むしろシュミレーションを糧に戦闘で活かした、と表現しても差し支えないであろう。


「これをジーオンにフィードバックしないと……」


 プログラムをジーオン用に書き換えていく。

戦闘データはパイロットと同様に貴重な資産でもあり、特にそれが優秀なパイロットであればあるほどである。

 最もジーオンのパイロットは生体認証と併せて適合パイロットである上野ナオただ一人であり、他に変えが利かない。


「……操縦桿やペダルの遊びも少し変更しておいたほうがいいですね」


 といってもこれまでノーマル状態であったのだから、これからセッティングを煮詰めていくいっても過言ではない。

 あくまでも最初の戦闘においてはカルディナ側が合わせていたのだが、これは本来であれば意味は少ないのである。


「スラスター出力と特性、パワーゲージも見直しが必要でしょうか。ピーキーな特性が好み……?」


 ジーオンの特性が極端なのと合わせて最初に操縦した際に感じた感覚を求めている可能性があるのかもしれない。


「基本はこれまで通りとして、出力は状況に応じて変更すれば問題ないですね」


 それを戦闘中に可能にしているのがジーオンである。


「更新したデータを基に再度、最適化を行います」


 カルディナは目を閉じたが、ジーオンのカメラアイはナオを捉え片時も見逃す事はなかった。

 彼女自身も気付いていないが、整備を手伝っている所にひとしきり整備を手伝ったシャナーダとエーメルが来たのをカメラが捕らえた瞬間に片眉が少しだけ動いた。


「あ~あ、まだ終わんないのかな……」

「自業自得ですよ。隊長」

「早く終わらせて、一杯と行きたいけど」


 誘う相手は本来の業務を行わずに整備に勤しんでいた。

 それも整備班長から付きっ切りで作業をしている。


「ありゃりゃ、これはバンシィーネの姉御にも受けがいいのかな?」


 手取り足取り教授しているバンシィーネの表情は、二人が見ても判る位の「女」の顔。


「他の人と違って、真摯な所が評価されているんじゃないんですか?」

「……確かに。特に上の連中を知っている人間ならそう思っても仕方ないかな」


 彼女達が接する上司、特に男性においては好感が持てないが嫌悪感を砲弾に込めて打ち出す位の鬱積があると言っても差し支えない程である。


「後方で踏ん反りかって嫌味ばかり言う卑劣漢か、こっちの顔色ばかり伺う臆病者が大半」


 痛烈であるが辛辣でもなんでもなく事実であるのが哀しいかな。


「まあ、判らなくもないですけど。でも現場で血と涙を流しているのはこっちなんですけど」

「自分達が痛くないから判らないのさ」


 そう、他人の苦痛や涙の理由など、本人以外には決して判らないのだ。

「愚痴は兎も角、カミノを整備班長から引っぺがさないとな……」

 勇んで行ったシャナーダであるが、整備班長からの有難いお説教を食らうだけであった。


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