第弐章「星が降る夜と、消えた夜に」-第1話-
第弐章の開始です。
今回は割と短めですが宜しくお願いします。
「……やられた」
「俺の……勝ちだ」
恐らくは10秒にも満たない時間の中で、それも連続で幾つもの動作をこなしたのだから当然というものであろう。
「一体、どういう手を使ったんだ? いきなり操縦レベルが向上したんだけど?」
戦闘終了後、基地内の格納庫に着いた途端、シャナーダが詰め寄ってくるのも無理はない。
彼女にしてみればナオの操縦技術はある程度、予想していたしゼルトナーの性能も理解したが、いずれもその範疇を超えていたのだ。
「ああ、あれは……」
モニターに必要とするコマンドを全て呼び出し、その時の状況によりそれを連続で選択した事を説明した。
間近に見ていたティクスにおいては、手品のタネを明かされるようなものであった。
「モニカ、今のシステムに組み込める?」
「常に表示しておいて、それを選択すればいいんですよね。ちょっとシステムを見てみて大丈夫なら直ぐにでも出来ます」
「じゃあ、それがアタシのゼルトナーで出来たら言って。ちょっとテストしてみたいから」
「……しばらく時間が掛かります。これから整備班総出でゼルトナー3機の修理と整備に取り掛かるんですから」
「あはははははははははははははははは。ご免ね~」
「実弾を使用しての戦闘なんて。模擬戦でも何でもないですからね。戦闘、いいえ、私闘もいい処です」
「やっぱり……」
ティクスが頭を抱えるのも無理はない。
戦闘をしていた途中から気付いていたのだ。
最も、気付いていて戦闘を破棄することなく、強行したので原罪はシャナーダと同じである。
「え? あれ、最初の数発は実弾だけど後は空砲と模擬弾織り交ぜたから大丈夫なはずだったんだけど」
シャナーダが狼狽と同時に目を瞬かせ、尚且つ冷や汗が額から滴り落ちた。
「全部実弾です。ナオさんが最後にやったのもあれが空砲と模擬弾だったら出来なかったかもしれないですけど」
「あ、あれ~? ちゃんと細工したのでやったんだけど」
「調べましたけど、全員のゼルトナーのケースレスマシンガンのカードリッジは全て実弾でした。なのでティクスさんのゼルトナーは半壊状態、特に脚部の損傷が酷いです」
モニカは、ティクスのゼルトナーの脚部はオーバーホールよりも全交換になるとの事も付け加えた。
「あれだけ派手にやったんですから駆動系は全部見直しでオーバーホールです。勿論、バンシィーネ整備長は大変お怒りです」
「あああああああ、やっちゃったぁあああああああああああああああああああああああ」
頭を抱えて蹲るティクスを尻目にエーメルが何やらモジモジと、少し身を捩りながら近づいてきた。
「き、聞きたい事があるんですけど……」
「ど、どうしたの?」
「そ、そういえばコックピット、あ、汗臭くなかったですか?」
「え?!」
使い古された文言であるが完熟トマトよりも真っ赤になった、エーメルの質問に、ナオは彼女が何を言っているのか理解出来ていなかった。
「あ、汗臭くなかったです?」
「え? 別にそんなの気にしていないけど……」
実際問題、戦闘に集中していたし、緊張していたのでそこまで状況えお確認するには至っていなかった。
「気にしていないという事は、匂いがあったって事ですよね……」
その言葉に、ナオは失言したと思ったが、次の言葉は更にそれにトドメを刺してしまった。
「た、多分、していないと思うけど」
ナオは必死に記憶されている嗅覚を呼び起こすが、海馬はそれに答える事はなかった。
しかしその姿が、エーメルには何とか誤魔化そうとする姿に写ってしまったのは誤算というか痛恨のミスであったのかもしれない。
「ああ、やっぱり……。こうなったら毎日香水付けますぅうううううううううう」
言うと、少し涙目でエーメルは走りさっていった。
因みに余談であるが、この後、エーメルが一日に5回のシャワーと香水を付けるようになり、ゼルトナーのコックピットに芳香剤を持ち込むようになったのはまた別の話である。
「本当は最初に実弾を使って危機感を募らせて、あとは空砲と模擬弾で誤魔化していくつもりだったのに」
シャナーダのその言葉に流石のナオも驚愕したのは言うまでもない。
「何でそんな周りくどい事を?」
「アンタを本気にさせる為だよ。ペイント弾や模擬弾だと本気にならないだろう」
最もである。
人は切羽詰まった際に、覚悟を決めた時に本領を発揮する。
「それに大事な機体を損壊させる訳にいかないでしょ? まあ、投げ飛ばされたからそれも言えないけど」
「間違えて実弾を装填していたら世話ないけど。上手いのか下手なのかは判らないけど機体が全壊するような事態にはならかったのが幸いだけどね。貴重なアーマード・ロイドを損壊させるような真似してさ」
これは勿論ティクスからの嫌味であるのはいうまでもない。
「随分言うね、そういうティクスだって乗ったじゃないか?」
「シャナーダがマジで実弾を使う訓練をする訳ない、て思ってたらかね。最初のもの実弾だけいれて、あえて地面に撃って実弾を消化。実弾を使っている印象も付けれて戦闘に危機感をもたせれる、というのが最初の筋書きだったんだろう」
「……」
冷静に考えてみれば、大事な機体とパイロットを損壊させる訓練に意味はない。
「まあ、結果は真逆になったけど」
「処で聞きたいんだけど、ゼルトナーの操縦は本当に始めてなのか?」
シャナーダにしてみれば、この疑問は最初に解決するべきであったであろうよ。
「初めてだけど……」
「じゃあ何で動かし方、操縦方法を知っているの?」
戦闘での敗退が、癇に障っているのではないといえば嘘であるかも知れないが、ナオの行動において府に落ちない部分があるのもまた然りである。
「それは確かにあたしも気になった」
ティクスにおいては、熟知しているはずの自分よりもシステムには精通しているようにも見えた。
最も既成概念がないだけで、枠に囚われなかったというのもあるかもしれないが。
「何で、て。……何と無く判ったんだ。上手く言えないけど、コックピットに座ったらそれを押したらどうなるか、て判るんだよゼルトナーだけじゃない。ジーオンでもそうだった」
シャナーダにしてみれば、それはキングダライム国に居るとあるパイロットの経歴と一致すると即座に理解した。
「それって、白銀の悪魔と同じじゃないか……」
その言葉にモニカやエーメルも、彼女が何を言いたいのか理解した。
「同じ異世界から来たんですから、同じような事が出来て不思議じゃないです」
「誇張じゃなかったんですね……」
オーレリィーは、訓練なしにアーマード・ロイドを操縦してみせたのだ。
それも、コックピットに座ったら全てを理解出来た、とも言ったそうである。
最も、広告宣伝の為、誇張されているとも思われたが、彼女が上げた戦果と畏怖はそれが決して誇大広告ではなかったと立証された。
そして彼女が年齢制限を受けてないように、ナオは男性で唯一アーマード・ロイドを操縦出来る特異性を持っている。
「勝者には何かご褒美をあげないと。何がいい?」
急にシャナーダが上目遣いで見てきたのでナオは少し動揺したのは、表情にも行動に現れていた。
「え? 何?」
「勝者にはご褒美が必要だよね、何でもいいよ。例えばあ・た・し、とか」
いきなり最終結論に行き着いたが、それを聞いたカルディナやモニカ、エーメルもざわき、何故かティクスだけは狼狽してしていた。
「じゃあ、ゼルトナーの修理を手伝ってください」
「え?」
「ゼルトナーの修理、ですよ。手伝ってください」
「す、好きな事が出来るんだよ? こう、色々とさ」
「だからゼルトナーの修理を手伝ってください」
「それって単なる罰ゲーム以下なんだけど。だからさ、この体を好きに出来るかもしれないんだよ」
「じゃあ、好きにする。その体に労働で、という事で」
シャナーダが体をくねらせてアピールしてきたがナオはそれを笑顔のまま粉砕却下した。
肩を落として項垂れるシャナーダであったが、
「俺にも責任があるんで修理は手伝うから」
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