第壱章「破れた世界の隅で」ー第七話ー
ようやく更新しました。短いですが宜しくお願いします。
「……追い詰められていないか? いや、誘導されている気がする。しまった!」
モニターに広がったのは荒野であった。
ナオのゼルトナーは森林地帯は抜け、渓谷が隣接する荒野地帯に出てしまったのだ。
正確には「追い出された」という方が適切である。
「これじゃ狙い撃ちされる!」
遮蔽物がない空間においては、その場所で後ろを捉えられているというのは「死」を意味していた。
センサーにも後方から追従するティクスのゼルトナーを補足していた。
「脚部のスラスターをDモードに切りかけて速度を上げる!」
ナオは手動でスラスターの設定をBからDを切り替えた。
ゼルトナーには任意で変更可能なモードが4種類あり、Aモードは通常巡航及び歩行用モード。
設定Bは狭隘な空間で使用を前提した出力を抑えているが瞬発力を上げたモノである。
この場合、脚部はバーニアスラスターとしてか機能しない。
設定Cは高速移動に特化した物であり、Dモードは瞬発力を上げた短期間しか使用できない「アフターバーナー」モード。
ナオはそれらにも手を入れたのだ。
「距離が縮まっている?」
ティクスのゼルトナーが徐々にであるが追い上げてきているのがHUDに表示された。
表示されている計測値においても明らかな速度の違いが出ている。
「機体性能が違うのか? これじゃ……」
追いつかれ、射程圏内に入る、という言葉を飲み込んだ。
後方確認モニターを見ながら、飛び交う弾丸を避けるように蛇行しながら高速で移動するナオのゼルトナー。
「だいだいこの機体のクセが判ってきた。なら!」
いうとフットペダルを踏み込み、操縦桿を動かす仕草はついさっきまでの不安はなく、むしろ大胆かつ繊細に動かすようになっていた。
「……この短期間で、クセが判った?」
それはナオのゼルトナーの動きを、モニターのモードを望遠モードにしてみていたシャナーダの口から出た言葉であった。
それと同時にティクスも気付いたようだ。
「動きを変えた? いいや、動きが変わった」
トレーナーでみていた全員も、明らかに変わったナオの操縦を見ていた。
しかし、だからと入って、以前として後ろを取られているナオの勝機を低い事には変わらなかった。
「地形をスキャンして、有利な場所を見つけないと……」
操縦技術も然りであるが有利な場所を選び、そこを活用しなければ勝機はない。
しかしジーオンに搭載されている三次元マトリックススキャンよりも精度は格段に低く、ゼルトナーに搭載され機能しているのは対地センサーと対空センサー、振動センサーに音響センサーや熱感知センサー等の一般的な物である。
「300m先に峡谷の谷間があるのか……。ここなら?」
遮蔽物が何もない空間よりも幾分かマシというものであり、決して勝機が見えた訳ではない。
「……なるほど。狭隘な空間に誘い込もうというの? ティクスも様子を見ているけど。その余裕が後でアダにならなければいいけど」
「シャナーダの奴は様子見? まあ、いいけど。アタシはあいつをボコれたらそれで良いんだけど。いいじゃん、誘っているなら乗っているやるよ」
ティクスのゼルトナーのモニターには前方を行くナオのゼルトナーは谷間に入ろうとしていた。
「このまま無抵抗の.ままで!」
「そんな事が出来るなんて!」
ティクスが驚愕するのも無理はない。
ナオのゼルトナーが、まるで高速回避運動のように反転しただけではなく、射撃をしたまま、それも後ろ向きで移動しながら谷間に入っていたのだ。
少なからず被弾したのだが、それがティクスの感に触ったようだ。
「あの野郎……やるじゃないか」
「あれは偶然に出来たの? それとも操縦技術?」
シャナーダにしても、ナオが今した操縦を出来るかは自信がなかった。
「ゼルトナーて、ジーオンに似ている気がする」
ナオがそう感じるのも無理はない。
肩部の大型バーニアは無いものの、脹脛部分に装備されている独立型のバーニアユニットは脚部のスラスターは機構が似ているのもあれば、背部の可動式スラスターは四次元テールノーズを搭載していないが可動式のユニットは酷似している。
最も出力は大幅に違う、という点があるが。
「パワーが低いから、意外と扱いやすい」
これはあくまでもジーオンと比べてであり、ゼルトナーの出力と総推力は第三世代機のモノとして平均よりもやや高めである。
そして何より
「ピーキーじゃない。扱いやすいけど……」
どこか不満げな声を漏らしたが、操縦桿を動かし続けていた。
「自分から狭い処に入り込んで! 穴モグラかい。誘っているならとんだ甘ちゃんだよ」
ナオには勝機が無かった訳ではなかったし、そこまで無策ではなかった。
「兎に角、後ろを取らないと!」
勝機があるとすれば、ティクスの後ろを取る事であり、これは戦闘機の空中戦においても定石というもの。
その為にここに誘い込んだのだ。
「馬鹿な?! ここを最高速度で突っ切ろうというの? 一歩間違えば壁に激突なのに!」
ティクスが驚愕するのも無理はない。
ナオのゼルトナーは横幅50mも無い空間を、最大出力である時速180kmで、一切スピードを緩める事無く突き進んでいる。
それも銃弾を躱しながらである。
「まあ、レーダーを駆使すれば出来ないくもないけど。でも、それでどうするのさ?! 逃げるだけなんて男の腐ったような奴!」
コックピット内で散々罵倒されているとも知らないナオは後方確認モニターを見ながら勝機を伺っていた。
「自滅してくれればいいんだけど、それじゃあ面白くないからね。確実に仕留めてやるよ! 何っ!?」
ティクスが驚愕するのも無理はない。
確実にバックパックを破壊するであろうと思われた銃撃が直撃しなかったのだ。
「そんな処を!」
左側面モニターに映し出されたのは、谷間の側面を疾走するナオのゼルトナーだった。
すぐさまに標準を合わせるが、それを見越したように今度は正面、そして右側の谷間の側面に移動した。
「振り子か?! でも、それなら動きが予測して判り易いんだよ」
定期的な動きするというのは、当然予測しやすく尚且つ的にし易い。
「なら戻ってくる所を狙い撃ちだ。さあ、おいでませ」
操縦をしながら照準操作をする際に舌なめずりするティクス。
こんな時、まるで三流のように迂闊で致命的なミスをする、というのを理解していないようだ。
確かに、振り子のように谷間の中央に戻ってきたナオのゼルトナーを、照準が確実にロックオンした。
「ごきげんよう! そしてヘタクソはサヨウナラ!」
トリガーを引いたその瞬間、ナオのゼルトナーは予測通りの動作として壁の側面を走行した。
「何っ?!」
振り子のように戻らなかった。
逆に宙を、まるで宙返りのように舞った。
ティクスが驚愕したのは何もそれだけではない。
数多の戦場で、幾度もなく血生臭い戦闘を繰り返し、その中にはトリッキーな動きをする機体もみてきたのだが、それはティクスの予想を超えていた。
半回転した処で、更に機体を反転させ全バーニアとスラスターを噴射させたのだ。
それはティクスのゼルトナーの頭上を超えて、その後方30mの位置に着地と同時に追従するように加速した。
「まさかこんな手段で後ろを取られるなんて」
形勢は逆転し、追う者と追われる者は完全に攻守を入れ替えた形となったのだ。
「躊躇はしない! けど御免」
照準を脚部のスラスターに併せ、トリガーを引いた。
それだけはなく、背中のスラスターバインダーにケースレスマシンガンが火を噴いた。
「推進機関を潰せば最小限で無効化出来るから」
それは最もである。
ゼルトナーの戦闘力は、高速移動が可能な所であり幅広い行動範囲と一撃離脱の戦法がその性能としての戦闘力を有している。
それを奪われては、翼を漏がれた鳥と同じ、ただの鈍重なアーマード・ロイドに成り下がる。
ナオは装弾数60発のマガジンが無くなるまでトリガーを引き続け、そして撃ち尽くした。
装甲を、内部機関を破壊する音が、センサー越しでも伝わってきた。
「勝負はもうついた。これ以上はもう無意味だ」
「そう思うのはアンタの勝手だよ!」
まだまだ続きます。
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