第壱章「破れた世界の隅で」 第六話
第六話です。前回から時間が掛かりました。今回は短いですが宜しくお願い致します。
ゼルトナーがマシンガンのグリップを握ったと同時に内部が開放され、コネクターが接続された事で使用可能となった。
「模擬戦か?」
「実戦だよ」
言うとシャナーダはトリガーを引いた。
地面に向けられたマシンガンが火を吹き、着弾した地面はその火力に抉られたのをナオはモニターでも確認した。
「……まさか、実弾なのか?」
「カミノが希望するなら模擬弾かペイント弾に変更するけど?」
(挑発しているのが判る。さっきもティクスに乗せられたけど……)
「いいさ、実弾でやろう。それに実戦は願ったり適ったりだ。あと、質問なんだけど」
「なんだい?」
「シャナーダも参加するのか? これは俺とティクスの戦闘だったような気がするけど」
「二人でやったら模擬戦という名目でも私闘になるだろう。一応、エリスにも報告しているけど第三者のアタシが参加したら模擬戦という名目が立つ。それに弾薬在庫数は上手く誤魔化しているし。それとも被弾する自信でもあるのか?」
「まあ、操縦が下手な奴は直ぐに被弾するからね。1発や2発程度の誤差は気づかないさ」
いちいち突っかかってくるティクスの通信に、ナオも流石に通信を切りたくなってきた。
「処で、この勝負の判定は?」
「勿論、完全破壊ないし相手を行動不能にすればいい。単純明快だろう」
簡単に言うが、それは一つ間違えば『死』を意味してるのは御分かりであろう。
「ここで死ぬんならそれが運命、てやつだろうね。ははのは~」
(それなら随分と簡単で軽い運命だ!)
ティクスの高笑いにナオは憤りを覚えたが彼女に対して実力を示していないので、その言葉を喉の奥へと飲み込んだ。
装備はそれぞれ120mmケースレスマシンガンと予備マガジンが4つにダマスカス鋼の剣とシールドの標準装備。
勿論、基地の敷地内で行う訳にもいかないので約1k離れた山岳と渓谷地帯での戦闘となった。
これには事態を聞きつけたカルディナ、エーメルにモニカも同行した。
モニカにおいてはエリスからの指示を受け、模擬戦などで使用するバックアップや計測機器を搭載した車両で同行させ、エーメルにおいては機体回収用としてエストゥペドで来ていた。
「いきなり戦闘始めようなんて、何て無茶を……」
「それも実弾なんて。壊したら修理するのが大変なんですけど」
エーメルとモニカの愚痴に対してカルディナは全く別物であった
「戦闘データも取れますよね? でしたら見せて貰えますか?」
「別にいいですけど……」
「リアルタイムで見せてください。後、出来ればバックアップも欲しいです」
「機体データは別で、後で渡しますね」
シャナーダが通信スイッチをONにした。
『じゃあ、そろそろ始めようか』
(さて、どうする? アタシの機体もティクスの機体もそれなりにチューンされている。エーメルの機体はノーマル仕様でセッティングだけ変えている。それでどこまで出来るか見物だ)
シャナーダはモニター越しにティクスのゼルトナーを見た。
肩にはトレードマークでありかつ部隊マークである『凶悪な顔をしたプードル』が描かれている。
(ティクスは、どう動く? 狙いはナオだけど……。ま、アタシにはそんなの関係ないけど。そう、これはあくまでもオマケみたいなモノなんだよね)
シャナーダにしてみれば既に目的の大半は終わっており、これは別の意味では「お遊び」か「余興」と同じである。
それぞれの距離は300m離れているので信号弾が上がったのが戦闘開始の合図になった。
「機体が同じで戦闘技術も経験もアチラが上。なら、どうする? 機体のクセが判らないと。いや、そもそも実際に動かすのはこれが初めてだし。相手の出方を見るか……?」
勿論、そのような余裕など何処にもない。
始めての操縦での感覚を掴まなければいけないだけではなく、機体のクセや特性も何も把握していない状態なのだ。
ジーオンの様に「誰の手垢が付いていない状態」ならばパワーポイントや機体のクセに悩むこともないが、初めて操縦する機体であれば勝手が判らないのも道理。
「逃げ回っていれば死ぬ事は無いけど。でも、それじゃ勝てないし意味がない」
あれだけの事を言われて引っ込む程、自尊心が皆無な訳でもないのだ。
「シャナーダが敵になる事はあるけど、味方になる可能性はない。とりあえずは少しでも慣れないと……でも、そんな余裕はない。ぶっつけ本番も良いところだ!」
フットペダルを踏み込むと同時に操縦桿を動かした。
ナオにしてみれば作戦があった訳でもなく、先の言葉は心情を吐露したものであった。
「操縦方法は判っている。後はどう戦うか、だ」
まるでスキーで斜面を曲がる様に滑らかにホバー移動するゼルトナーの動きは動作を確認するかの様であった。
「……凄い。本当に初めての操縦なんですか?」
これはトレーラー内で状況を観測しているエーメルの言葉である。
「ジーオン以外は、これが初めてです」
「パワーポイントも外してないし、上手く使えていると思います」
ナオが操縦するゼルトナーは山岳地帯をホバー走行していた。
「それでもどこまで通用するか?」
バーニアスラスターの出力も上げての移動も出来なければ、木々の狭隘さからパワーを出した操縦が出来無い。
ここを選んだのも、平地では条件が悪くなるのは必須であり、狭隘な地区であれば、双方もそれ程パワーが出せれずに少なくとも五分に近い戦いが出来るとも思ったのだ。
更には上空に出れば直ぐに捕捉され、数分と経たずに追い詰められる事はナオでも理解出来ていた。
この戦闘において近接レーダーの有効範囲は半径100mと設定されているのだ。
本来の有効範囲よりも極端に狭いのは、広範囲の戦闘ではなく局地的に限定された範囲で戦闘を行う事からである。
相手の行動が丸判りの模擬戦闘など意味はない。
もしこの場に教練担当教官でも同席していれば、この段階でシステムを見ているのは何事か、と一括されたであろう。
それとも、随分と余裕であるな、と嘲笑されたかもしれないが機体を理解する上でも、これは重要な事であるがTPOを弁えていないのは否定しない。
「ここでやるなら、出力を調整しておかないと……」
いかに扱い易くして小回りを利かせるかが重点になるのは明白。
「もう一つセッティングして直ぐに切り替えが出来るようにしておく」
敵機接近のアラームが、危険な状況をナオに知らせた。
前面HUDにはティクスのゼルトナーが高速で接近すしているのが表示された。
「森林が多い山岳部分を、狭い処を選んだのは少しは褒めてあげるけど。でも地形にも操縦にも熟れていない人間には障害物でしかないんだよ!」
ティクスのいう事は最もである。
「条件は五分じゃないけど……」
「マヌケが考える浅知恵如きに!」
ティクスのゼルトナーが森林地帯の木々と障害物を縫うように接近してきた。
「こいつで終わりだ!」
あっという間に距離を詰めてきたティクスのゼルトナーの120mmケースレスマシンガンが火を噴いた。
「こっちもアンタに当てられるつもりはない」
それは一瞬の事であった。
右足を軸にし、左脚のバーニアを最大限に吹かし、まるでバイクのアクセルターンのように銃弾を回避した。
操縦桿を動かし、回避行動を取りつつ脚部のバーニアを吹かして移動を掛ける。
「くそ。移動させ辛いけど……」
慌ただしく操縦桿とフットペダルを動かすと共に状況を確認していく。
ティクスのゼルトナーは一定の距離でナオのゼルトナーを追ってきていた。
その間、無駄な射撃は一切なかった。
「遊んでいるのか? それとも……」
ナオの思考にはそう思われたようだが、ティクスにおいてもこのような狭隘な箇所での無駄な弾丸を浪費する気にもならなかったのが正確である。
「……追い詰められていないか? いや、誘導されている気がする。しまった!」
戦闘はまだまだ続きます。
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