第壱章「破れた世界の隅で」 第五話
第五話更新しました。
ナオはシャナーダの指導で腹筋と首周りの強化をするトレーニングを中心に行っていた。
腹筋に関しては横Gなどに対して内臓を守る為と合わせて、Gが掛かった際に一番負担が掛かる首を鍛える必要性があったのだ。
グリュープスがマーラル基地に入港してから数日が経過していた。
最も初日においてはグリュープスの補修に補給、ゼルトナーなどのアーマード・ロイドを搬出しメンテナンス作業に取り掛かり、その中には勿論、ジーオンもあった。
通常のアーマード・ロイドとは明らかに異色を放つジーオンを見てマーラル基地の整備兵も驚きを禁じえなかった。
モニカから提出された資料により整備も解析も不可能という事に激しく落胆もした。
それでも果敢に解析やメンテナンスに取り掛かかった整備兵が居たが、彼ら彼女等の心を尽くへし折ったのだ。
「そういえば本当にアンタ、アーマード・ロイドを動かせれるの?」
格納庫で、シャナーダの突発的とも思える以外な言葉にナオは思わず目を瞬かせた。
「ちょっと疑問に思ったんだんよね。アンタ、あの機体以外は動かせれるの?」
「そんなの知らないさ。第一、ジーオン以外に乗っていないんだ」
それは最もな事であり、ナオ自身が確認出来ていないのだ。
それを思い出したシャナーダは納得という表情をした。
「アンタが噂の機体のパイロット?」
シャナーダともこれまであった誰とも違う声を背中から掛けられて、ナオが振り返った先に居たのは金髪でサイドシャギーが印象的な少女であった。
シャナーダとそれ程変わらない小柄であるが、それでも幾分か丸みを帯びていた。
その愛らしい容貌ては裏腹に、眼光はまるで猟犬のようでもあった。
彼女を見て、シャナーダはどこか苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……ウェーナー・ティクス」
「あら自己紹介ありがとう。初めまして、噂のパイロットさん。私の事はティクスと呼んで」
「上野ナオ。噂は判らないけど......」
「自覚していないの? それとも目を背けているの? カミノはあの白銀の悪魔オーレリィーと出自が酷似している。それだけじゃなく決定的に違うのは男なのにアーマード・ロイドを動かされる、という点。あのアーマード・ロイドが特別なのか? それともカミノが特別なのか? それとも......」
「それは俺も判らない」
その理由が今の所、皆目分かっていない。
ジーオンに関しては開発者である『悪魔的天才サルワトール』が何らかの理由が知っている可能性があるが、それ以外の理由に関してはナオ自身すら判っていないのだ。
「ふ~ん。じゃあ試してみようか。アンタが本当に特別なのか?」
「ティクス。アンタ何考えているのさ?」
「ええ~。これはシャナーダ、アンタも疑問に思ってた事じゃないの?!」
「・・・・・・まあ、そうだけど」
「ならテストすればいいのよ。実際に違うアーマード・ロイドに乗せてみればいい」
「何でそんな事・・・・・・」
「特別な存在は、その存在理由を示さないといけない。特別である、というのを誰にでも判るように鼓舞しないといけないの」
ティクスの発言もあったが、シャナーダにおいても周囲からとシャナーダ自分自身が抱えている疑問を払拭する必要があった。
特別な存在においては羨望よりも、嫉妬と憎しみの比重が大きいのだ。
基地内においてもそれはナオの耳には届いていないが、あからさまに絡んでくる者はいないが、それでも雑音がシャナーダの耳には届いていた。
疑問は最もであり至極当然なのは、ジーオンが特別機であるのは間違いないが、設えた機体では無いかという疑問が浮上してきたのだ。
ティクスが言った事は、折を見てシャナーダが言おうとしていた事なのだ。
「拒否権は?」
「それは別に構わないよ。でもずっと疑念は付くだろうけど。そういえば白銀の悪魔ともやりあったんだって?! 良く生き残れたよね。それ、て機体の性能? それともカミノの腕?」
「……機体の性能だよ」
それは謙遜でも何でも無く、ただ事実のみであった。
「確かに見るからに童貞臭くて、女の扱いには下手そうだからね」
「それがアーマード・ロイドの扱いと何が関係しているんだ?」
「女の扱いも出来無い奴は、独りよがりで操縦が雑で下手くそなんだよね。オナニーで満足してなよ、て意味」
「ふざけるなよ。そんなに言うなら戦闘でもなんでやってやる!」
ナオが激昂気味に怒気を吐き出した。
「OK。じゃあ、一応、エリスに連絡しておく。実際にゼルトナーに搭乗してみようか」
(これはアタシが望んだ結果だよ。まさかティスクがそれを判っていたの?)
ある意味、望んだ結果になった事にシャナーダは内心、歓喜としたと同時に不安も覚えた。
昇降用エレベーターを使ってナオはゼルトナーのコックピットに乗り込んだ。
コックピットハッチは開けたままで、そこからシャナーダが教える形になった。
「狭いな……」
ジーオンと比べて窮屈であるのは、そもそもの開発経緯自体が大きく違うのだ。
最もそれは第三世代の量産機と最新鋭のワンオフ機体であれば当然であろう。
機体の大きさも、内包する機器においても余裕を持たせれているのだ。
だから270度のマルチスクリーンのコックピットを搭載出来るのだが、約20m前後のゼルトナーには生憎とエアコンの設置が居住性の部分では限界であった。
「じゃあ、まずは動かしてみようか」
「言われなくても……」
ナオが主電源のスイッチを入れると同時に生体ジェネレーターの起動音が響きだした。
ややガスタービンを回すのにも似た音と共に生体ジェネレーターから発生した電力が各部へと供給されていく。
(教えていないのに、何で今のが起動スイッチだと判った? ううん。それよりもナオが生体ジェネレーターに灯を入れる事が出来た! これまで男は誰ひとりとしてアーマード・ロイドを起動すら出来なかった)
シャナーダが驚いたのは何もこれだけではない。
「四面モニター確認。各種安全スイッチも解除」
ナオは独り言の様に言いながら左のサイドパネルにあるスイッチを全て押していく。
モニターにはゼルトナーの各種セーフティーが解除されていうのが表示された。
(ゼルトナーは各種の安全装置を解除しないと、幾ら操縦桿を動かして動作はしない仕組みになっているのに。それを知っている? なら)
「……操縦方法は?」
「大丈夫、知っている」
計器類の確認をしていく手順は、シャナーダが何時もしている手順と全く同じであった。
それは先の言葉で証明されたが、それはあくまでもジーオンと同じで「知っている」だけである。
「操縦桿はHOTASか。これはジーオンと同じだ。他のコントロール系はキーボードにスイッチコントロールか。テストモードにして、操作は……」
ナオはそれぞれの操縦桿のスイッチを押して動作を確認していく。
それに応じて前面モニターであるHUDに操作状況などが表示されていくのを確認する。
「……大丈夫そうだね。じゃあ、とりあえず動かしてみてよ」
いうとシャナーダは自分を乗せたエレベーターを降ろした。
ゼルトナーのハッチを閉めると同時に四面モニターにカメラアイから捉えた映像を映し出された。
「ちょっとチラ付くな……」
ジーオンは映像を加工して「綺麗な映像」を投影しているがゼルトナーはカメラが見た映像そのままである。
右の操縦桿を動かしフットペダルを踏むと、ジーオンと同じように歩行し始めた。
最も振動吸収シートも最新鋭ではないので、上下に動く感覚に少し三半規管が揺さぶられる。
格納庫を出るゼ
ルトナーを見て整備兵のモニカは、その表情を凍りつかせた。
「な、何で動いているんですか……」
「あ、アタシが艦長に許可貰ってね。今、あれにはカミノが乗っている」
「そんなの聞いてませんよ。まだ整備していないんですよ、あれ。それにティクス少尉のゼルトナーも動いているじゃないですか!」
「これからちょーち、ぶっ壊す事になるかもしれないから丁度良かったかも」
「ちっとも良くないですよ! ていうかどういう事です?!」
物騒な言葉にモニカは悲痛な声を上げた。
「戦闘やっちゃうかも……」
いうとシャナーダは自分のゼルトナーに向かって駆け出していた。
「待ってください。そっちは整備が終わったばっかりなんです!!」
そんな言葉は届かずシャナーダが搭乗したゼルトナーは起動した証拠にカメラアイが点灯してしまった。
「まあ、普通の模擬戦闘だけじゃあ面白くないから……」
オプションラックにあった120mmマシンガンを3丁、手に取った。
「……これで面白くなる」
愉快犯というより、悪戯をする幼子のような表情をするシャナーダ。
「ジーオンよりもピーキーじゃないな。どっちかというと感覚だ……」
素直な反応がナオにとっては逆に新鮮であったかも知れない。
「ちょっと反応が鈍いけど。うん、動かし易いな」
生体ジェネレーターと駆動系モーターの出力がジーオンより低いのでそう感じるのだ。
最もジーオンにおいては、最高出力を誇る生体ジェネレーターと高回転かつ高トルクで出力特性に優れた急制動が可能な超伝導モーターを搭載しているのだからピーキーになって当然。
格納庫を出て少し出た所で、警告音と共に上部に設置された後方確認モニターにシャナーダとティクスが搭乗しているゼルトナーが映し出された。
「どうしたんだ? 問題があるなら通信でもいいのに」
シャナーダのゼルトナーが120mmマシンガンを放り投げてきた。
「あぶない」
咄嗟に操縦桿を動かしマシンガンをキャッチさせた。
「何をするんだ?!」
「上手い上手い、ちゃんと直前でオートに切り替えれたじゃないか」
ゼルトナーがマシンガンのグリップを握ったと同時に内部が開放され、コネクターが接続された事で使用可能となった。
「模擬戦か?」
「実戦だよ」
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