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8(討伐)

 自分は東南の曽祖母である。老婆は云った。何かを訊ねたくとも、それが酷く困難であることは試すまでもなかった。

 老婆はナースコールに手を伸ばし、看護師がやってくるわずかの合間に、彼女の曾孫が居なくなったことと、後日、改めて来訪することを告げ、病室から消えた。

 一週間が過ぎた。

 こんな有様だったから、あの晩のことは夢だったのではないかと亜希子は疑っていた。そもそも、すべて夢だったとすら思う。

 怪我をしたのは間違いない。だが、それが何によってもたらされたのかは常軌を逸している。

 目の前にクラスメイトがいた。

 嫌いな子だった。

 同じクラスじゃなければ無視していた。

 同じクラスだったから、無視出来ずにいた。

 何をするにも鈍くさく、うっとおしく、凡ミスが多く、叱っても終始、にこにこして、楽しそうで、反省の欠片もなく、詫びの言葉も口先だけで、担任も適当に甘やかすし、とにかくイライラさせられた。

 虫酸が走る。

 あれは字面の通りの存在だった。

 だからその日のその朝も、姿を認めるや否や胃の辺りがムカムカとして──気付いた時は眼前が真っ白になって、宙に浮いて、背中から校庭の砂の上に落ちたと気付いたのは、やけに晴れた朝の空が青くて眩しかったから。

 怪我をしてから母はずっと付きっきりで居てくれる。自分が大切にされているのを身をもって知り、嬉しく思った。父も定時で退勤するや病室に来てくれる。

 全身のあちこちが浮腫み痛み、痒みも酷い。

 幾重にも固定された身体、覗く肌はカサカサで、髪はベタベタする。でもそれ以上に両親は良くしてくれるし、病室は個室で、お医者さんも看護師さんも、みんな優しい。

 これが怪我でなかったらどんなに良かったろう。自分がどんな有様なのかを忘れることが出来たらどんなに素敵なことだったろう。小さな老婆はきっかり一週間後の昼にやって来た。年かさの大人たちを引き連れて。

 母の姿は今朝に見たきりだった。ナースコールを押す必要はなかった。何故なら老婆とその一行を招き入れたのが亜希子の担当で、ことさらよくしてくれた看護師だったから。

 彼女は全員が病室に入るのを確認すると、引き戸を閉めて出ていった。異様な空気を亜希子は感じ、不安で堪らなくなる。

 老婆は軽く会釈すると、「失礼するよ」

 男がさっと用意した来客用の椅子に「よっこいせ」声に出し、座った。

 その瞬間、亜希子はクラスメイトの誰一人、担任すらも見舞いに来てなかったことに思い当たった。

「秋子は殺した」

 不意の言葉に当惑する。

「人間を食った竜神様は討伐せねばならなくてな」

 酷く疲れた様子で老婆は云った。

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