6(忠告? 助言?)
「……許嫁ですもんね」
「それとは余り関係ないかな」
藤巻は心底うんざり、呆れた顔をしてみせた。「惚気るために、わざわざ私を呼び出したんですか」
正二は首を振る。「忠告? 助言?」
「何の、」
「何もかも。秋子のお情けで済んでるんだよ、藤巻サン」
すると藤巻は、これまでになく目を三角に吊り上げ、ギッと強く睨んできた。
これはなかなか。正二は失笑する。蛇のような目ってまさに今のキミのことじゃぁないかな。
夕日を映した藤巻の瞳は、赤々と燃えている。
※
帰宅前に本家に寄った。秋子は正二の言葉を素直に聞き入れ早退したものの、自室に篭って布団を被ったままだと云う。
襖を開けたら真っ暗だった。古い家は一部をリフォームして当世風ではあるけれども、結果的にはチグハグだ。
秋子の部屋もリフォームの対象で、畳敷きからフローリングになった。ベッドにナチュラルカラーの机と本棚。カラフルな小物と、動物のようでそうでない、不可思議な姿形をしたぬいぐるみ。幾つかは正二があげたもの。秋子はかわいいものが大好きだ。
暗い部屋を横切り、床に座った正二は、ベッドにもたれて片手を布団の中に滑り込ませる。中は秋子の体温で温まり、心地良かった。手探りでも秋子の指は直ぐに見つかった。そっと握ると、きゅっと握り返してきた。
「明日は学校、休みなよ」正二が云う。
「遅れちゃう」秋子が応える。
「すぐ取り戻せる」
「中間、頑張ったから落としたくない」
「勉強なら見てやるよ」
「でもショウちゃんは? あたしの勉強見てくれる分、自分の時間なくなっちゃう」
「問題ない」
すると秋子は笑ったようで、「ショウちゃん、成績だけはいいもんね」
「だから多少悪くても問題ない」
「そんなの困る」
「アキが気にすることじゃない」
「……気にするよ」
指先に伝わる困惑を包み込むつもりで、正二はもう一度握り直した。「気にするな」
「でも、」
「冷却期間、少し作ったらどうかな」
すると秋子の指が、ためらいがちに離れていった。「話したの?」
「何を?」
「わたしのこと」
正二は布団の中から手を引き抜いた。「まさか」