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1(体育館に出た)

   竜になる


 体育館に出たということで守谷(もりや)正二(しょうじ)が呼ばれる。ひとつ下の従妹、東南(たつみ)秋子(あきこ)が篭城するのは中学に上がってひと月半で通算五回目。幸い、放課後なので授業にならないと云うことはないが、バスケ部、バレー部、シャトル部 (バドミントンだっけ)、それからピンポンの連中もメーワク被っているかなぁ。

 校内放送で名指しで呼ばれ、向かう廊下の道すがら、すれ違う生徒のヒソヒソ話が耳に入る。誰だ、タツミ部なんて呼ぶヤツは。誰だ、秋子ちゃん係なんて呼ぶヤツは。

 睨みつけたいところを我慢する。せめてドラゴンスレイヤーとかだったらカッコいいものを。いや、それはそれでどうなのか。

 体育館の入り口には、部活用にジャージへ着替えた生徒と、やはりジャージ姿の顧問教諭が鈴なりとなって薄く開けた扉の隙間から中を窺っていた。正二は中腰になり、手刀で人垣を掻き分け、薄暗い体育館へと足を踏み入れた。

 背後のギャラリーがうるさいのでピシャリと後ろ手で扉を閉める。太くて長い身体を窮屈そうに丸めた竜がいた。

 白く輝く真珠色のウロコに覆われた巨大な図体で空間を専有している。わずかにある膨らみは到底手足とは呼べず、だから蛇と変わらない。竜は目をつむり、むすっと不機嫌そうに巨大な顎を床につけていた。

 セーラー服とスカートが落ちている。まさに抜け殻。向こうにあるピンクのチェック柄のそれはたぶん下着の切れ端。間に合わなかったと思われる。正二はそれらを拾い集めると、適当にたたんだ制服の間に丸めて突っ込んだ。じっくり見たりしませんよ? 従妹の下着を見たところでどうとも思わないですよ?

 かたわらにそれを置き、自分の身の丈よりも大きな竜の頭の横にどっかと腰を落として胡坐をかく。

「どうした」

 竜は、ふーっと溜息のようなそれを鼻から吐き、薄く目を開け、また閉じる。

「飴ちゃん、食べる?」

(……食べる)

 ガクランのポケットからりんご味の飴玉をふたつ出し、包みを開いてひとつを竜に、ひとつを自分の口に放り込んだ。しばらく黙って丸いそれを口の中で転がした。

(靴、隠された)

 べそべそと湿っぽく竜が云った。

 正二は後ろ手をついて天井を仰ぎ見ながら、「ホントに?」別に疑うワケでないが。

(昇降口で同じクラスの子があたしの靴、持ってたもん)

「その場で文句つけてやれよ」

(だって、向こうは三人だったし……)

 やっぱりべそべそ云いながら、竜はぷいと顔を背けた。

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