木曜日 2
「ちょっ……お前なんで父親マジシャンでそんな偉そうな態度とれんの!?」
今まで我慢してきた不満を課長が木曜子に怒鳴りつける。
「あー、お前マジシャンバカにしてんじゃねーよ。お前消すぞー、うちのパパに手品で消してもらうぞー。うちのパパ消したっきり出さないんだからなー、放棄すんだからなー」
鷹上くんは今の状況では待っているしかない。怒り続けそうな課長であったが急に冷静になった。
「まてよ……? <パパが消す>……人為的に<なくなる>……<盗られる>…!?」
落ち着いたところで課長が自分の推論を伝える。
「木曜子! 秘密の書類がなくなったのはスパイの仕業だと考えられないか!!」
「成程! さすが課長! 勘が冴えてる! かっこいい! 素晴らしい! なんて思い上がるなよ、愚かで無力な存在め。早く白状しろ、このスパイメガネ!!」
「おかしいだろ後ろの方!ツーか何で俺がスパイ!?」
「だって第一発見者があやしいっていうじゃないか」
課長としては今まで大して働かなかっただろお前とわめくしかない。
「お前がロクに働かないからおのずと俺が第一発見者になっちゃうの!! 何でも!!」
木曜子は興味なさそうに話題を変える。
「ちぇっ、じゃあ別の方法を考えるとするか」
木曜子が大声でスパイがいるかもしれないということで交渉を持ちかける。普通なら知り得ないことを叫んだ。
「おーい、スパイ!! そのヒミツ書類と社長の愛人ミレイちゃんのメールアドレス交換しよーぜ!!」
「そんなにこっち側に不利な交換ねーよ!! つーか社長に愛人いること何できよちゃん知ってんの!?」
木曜子が情報通かどうかなんて不明とはいえ、会社の上司にあたる人物の弱みを知っていたので課長は、彼女に不安を覚える。
「そんなもんいらないもんねーだ!! やーい」
途方もなく子どもっぽい行動だが、鷹上がアカンベーをしながらここを後にしようとしていた。
「ちょっと! 何自白してんの、バカスパイ!!」
部屋のドアを開けて鷹上が去る間際にカバンを開けて何やら紙きれを取り出す。
「ネットに情報がだだ漏れている会社だからどんな大甘セキュリティかと思えば」
≪結局木曜子、お前が原因か≫
「こんな厄介な門番がいたとはね」
鷹上が上から目線で秘密書類を見せびらかした。管理課課長が探し回っていた資料はすでに盗まれていたのである。
「もっといろんな情報が欲しかったんだけどね、これだけでもよしとするかな」
「それはっ!」
木曜子が嬉しそうな表情で気づいたことを話した。
「えっ、てコトはあなたはもしやあの掲示板にいる名もなきスパイ氏?」
「ここで出会うな!」
「記念に握手を」
「求めるな!!」
逃げ去っていく鷹上を追いかける管理課・課長。理由はどうあれ、木曜子も後に続く。三階から二階に続く階段の踊り場近くで鷹上の姿を確認した。木曜子がエレベーターで降りてきたので管理課・課長は「お前! 階段で来いよ!!」と怒ったのは当然だろう。
そんなことをいつまでも根に持とうとしてもしょうがないので諦める。追跡は会社の外から曲がり角を二~三回通過したところで捕らえることができそうである。
「待て―――――!!」
商店街の道で手品などで良く流れる曲を耳にしたと思っていたら「マジック・ショー」が開かれていた。スパイがマジックの扉に入り込んだ
課長・木曜子「「あ」」
「えっ」
マジック・ショー主催者が黙って扉を閉める。
「………」
主催者が扉を開けた時、スパイの姿は消えていた。
「課長、あれうちのパパ」
「……あの消したっきり出さないことで有名なっ、か……」
「そう。これでスパイも秘密も闇の中!」
「えええええええ!?」
このマジック・ショーの助手的役割をした人は数日間の記憶を失っているとかいないとか。