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第8話 最弱スキルの使い方

 木の陰から、群れを見据える。


 ゴブリンは六体。


 まだこちらには気づいていない。


 けど――距離は近い。


 いつ見つかってもおかしくない。


「……どうしますか?」


 リリアが小声で聞いてくる。


 その声は落ち着いているのに、どこか俺を気遣っているようにも聞こえた。


 正直、迷う。


 さっきより数が多い。


 ミスしたら、一気に崩れる。


(……でも)


 ここで逃げ続けるだけだと、たぶん先に進めない。


「……一体ずつ、やろう」


 小さく答える。


「まとめては無理だと思う」


「はい」


 すぐに頷くリリア。


 否定も、焦りもない。


 その反応に、少しだけ気が楽になる。


「俺が、少しだけ足止めする」


「……足止め、ですか?」


「ああ。だから、その間に一体ずつお願いしたい」


 言いながら、内心で苦笑する。


 自分一人じゃないから、こういう選択ができる。


「……分かりました」


 リリアは静かに頷いた。


「ユウトさんに合わせます」


 その一言で、覚悟が決まる。


(よし)


 リュックを開ける。


 中から取り出したのは、小さなボトルと布。


 手際よく布に染み込ませる。


 鼻をつく匂いが、少しだけ広がる。


「それは……?」


「ちょっと試したいことがあって」


 正直に言う。


 うまくいく保証はない。


 でも――やる価値はある。


 布を枝に巻きつける。


 簡単な準備。


 深呼吸を一つ。


 ライターを取り出す。


「……いきます」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 火をつける。


 ――ボッ。


 小さな炎。


 それを軽く掲げた瞬間。


 ゴブリンたちの動きが止まった。


「……反応、してる」


 思わず声が漏れる。


 警戒している。


 明らかに、さっきと違う反応。


(いけるかもしれない)


「リリア、今」


「はい!」


 すぐに動く。


 一体を引きつけ、横へ誘導する。


 残りは――こちらを見る。


 足が、少しだけすくむ。


(落ち着け)


 火を見せる。


 ゆっくり、振る。


 煙が広がる。


 ゴブリンたちが、距離を詰めきれない。


 その隙に――


「……一体、お願い!」


「はい!」


 リリアの剣が走る。


 一体、倒れる。


(よし……)


 少しだけ、余裕が生まれる。


 でも、まだ四体。


 気は抜けない。


 火を消さないように注意しながら、距離を保つ。


 無理に攻めない。


 時間を稼ぐ。


 それだけに集中する。


 ゴブリンの一体が、焦れたように突っ込んできた。


「っ――!」


 思わず体が強張る。


 けど――


(見えてる)


 さっきより、動きが分かる。


 ギリギリで避ける。


 バットを振る。


 ――当たる。


 偶然に近い一撃。


 でも、確かに倒れた。


「……できた」


 小さく呟く。


 その間にも、リリアがもう一体を仕留めていた。


 残り、二体。


 明らかに動きが鈍い。


 火を怖がっている。


(無理しなくていい)


 焦らない。


 崩さない。


「リリア、あと少し!」


「はい!」


 呼吸が合ってきている。


 一体ずつ、確実に。


 最後の一体は、リリアが仕留めた。


 静寂。


 風の音だけが残る。


「……終わった」


 力が抜ける。


 思っていた以上に、疲れていたらしい。


「大丈夫ですか?」


 リリアがすぐに近づいてくる。


「ああ、なんとか」


 苦笑する。


「正直、ちょっと怖かった」


 素直に言う。


 隠す意味もない。


 リリアは、少しだけ目を見開いた。


 それから――


「……ですが、冷静でした」


 静かに言う。


「助かりました」


「いや、俺一人じゃ無理だった」


 すぐに返す。


 本心だ。


「リリアがいたから、なんとかなった」


 一瞬、間が空く。


 それから。


「……はい」


 小さく、でもはっきりと頷いた。


 ほんの少しだけ、空気が柔らかくなる。


「一回、戻るか?」


「そうですね。無理はしない方がいいです」


「同感」


 笑う。


 さっきより自然に。


 俺たちはその場を後にする。


 森を抜けて、街へ戻る。


 並んで歩きながら、ふと思う。


(……悪くないな)


 一人じゃない。


 任せられる相手がいる。


 それだけで、こんなに違うのか。


 ――最弱スキル“ログアウト”。


 それは確かに強い。


 でも。


 それだけじゃない。


 少しずつ。


 確実に。


 この世界でのやり方が、見えてきていた

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