第7話 積み重ねと、小さな違和感
森の奥へ、さらに進む。
さっきの戦闘から、まだそれほど時間は経っていない。
けれど――
「……また、来ます」
リリアの声。
今度は、三体。
茂みの奥から、ゴブリンが姿を現す。
(さっきより多いな)
少しだけ緊張が走る。
でも、さっきと違うのは――
(やり方は、もう分かってる)
「ユウトさん、どうしますか?」
リリアが確認してくる。
任せる、という意思表示。
「……一体、引きつける」
「はい」
短く頷く。
余計な言葉はいらない。
ゴブリンたちがこちらに気づき、動き出す。
その中の一体に、軽く石を投げる。
カン、と音が鳴る。
視線が、こちらに向いた。
(よし)
一体だけが、こちらに走ってくる。
残り二体は、リリアの方へ。
分断成功。
深く息を吸う。
タイミングを合わせる。
――来る。
振りかぶる。
踏み込む。
バットを振る。
――ゴッ。
手応え。
ゴブリンの身体が吹き飛ぶ。
そのまま、動かなくなった。
「……よし」
小さく呟く。
すぐに視線をリリアへ向ける。
彼女はすでに一体を仕留め、もう一体と対峙していた。
動きが無駄なく、速い。
危なげがない。
(強いな……)
感心する余裕があるくらいには、落ち着いてきている。
最後の一体も、数秒後には決着がついた。
静けさが戻る。
「お見事です」
リリアがこちらに歩いてくる。
「いや、まだ慣れてないだけだよ」
「ですが、先ほどよりも動きが安定しています」
……見られてるな。
まあ、隠すほどのことでもないか。
「同じことやってるだけだよ。距離取って、タイミング合わせてるだけ」
「……それができること自体、簡単ではありません」
淡々とした評価。
少しだけ照れる。
「リリアの方が普通に強いだろ」
「私は訓練を受けていますので」
当然のように言う。
その口調に、変な自慢はない。
「でも、ユウトさんの戦い方は……」
そこで、言葉が止まる。
「?」
「……いえ」
小さく首を振る。
だが、その視線は少しだけ鋭い。
――何か、考えている。
(……まあ、気づくよな)
さっきの“動き”。
普通じゃないのは、自分でも分かる。
でも。
(今は、いいか)
無理に説明する必要はない。
それよりも――
「この辺り、まだ出るか?」
「はい。報告では、もう少し奥に群れがある可能性が高いです」
「じゃあ、もう少しだけ行くか」
「承知しました」
歩き出す。
さっきよりも、少しだけ余裕がある。
足取りも、軽い。
――そして。
数分後。
開けた場所に出た。
そこには――
「……多いな」
思わず声が漏れる。
五体。
いや、六体。
ゴブリンの小さな群れ。
こちらには、まだ気づいていない。
だが、距離は近い。
「……どうしますか?」
リリアが小声で聞く。
その目は、冷静だ。
逃げる選択も、ある。
でも――
(いけるか?)
一体ずつなら問題ない。
さっきもできた。
でも、これは数が違う。
リスクは、確実に上がる。
「……一回、戻る」
「戻る、ですか?」
「ああ。準備してくる」
短く言う。
リリアの目が、わずかに細くなる。
「……承知しました」
やっぱり、引っかかってるな。
でも止めはしない。
そこがありがたい。
「少しだけ、時間くれ」
「はい。警戒しておきます」
俺は一歩下がり、木の陰に入る。
心臓が、少し速い。
(無理はしない)
勝てる形にする。
それだけだ。
意識を集中させる。
⸻
――ログアウト。
⸻
見慣れた部屋。
戻ってきた安心感よりも、先に思考が動く。
「……数が多い」
六体。
正面からはきつい。
なら――
「分断、か……」
さっきは二対一で済んだ。
でも今回は、それだけじゃ足りない。
視線を巡らせる。
使えそうなもの。
手元にあるもの。
――そして。
「……これ、いけるか?」
あるものに目が止まる。
シンプルで、でも効果は高い。
「……やるか」
迷ってる時間はない。
必要なものを手早くまとめる。
リュックに詰める。
深く息を吐く。
(慎重にいく)
それだけだ。
意識を切り替える。
⸻
――ログイン。
⸻
森の空気が戻る。
木の陰。
リリアの背中。
「おかえりなさい」
小さな声。
やっぱり分かってるな、と思いながら頷く。
「ちょっと作戦変える」
「……お聞きします」
リリアが振り向く。
その目は、さっきよりも真剣だった。
「まとめてはやらない。一体ずつ引きはがす」
「はい」
「そのために、少しだけ手を使う」
リュックに手をかける。
リリアの視線がそこに向く。
――違和感は、もう完全に気づかれてる。
でも。
(それでもいい)
今は、勝つ方が優先だ。
「いけるか?」
「……はい。ユウトさんに合わせます」
短く、力強い返事。
俺は小さく頷いた。
「じゃあ――やろう」
視線の先。
まだ気づいていない、ゴブリンの群れ。
深く息を吸う。
ゆっくり吐く。
――最弱スキル。
でも。
使い方次第で、いくらでも戦える。
それを証明する。




