第5話 冒険の始まり
――翌日。
勇者たちは広場に集められた。
一人の兵士が前に出て口を開く。
「魔物たちはこの世界の各地で出現している。我々は発生源すら掴むことができていない。そこで勇者様たちには、その発生源を突き止めていただきたい」
一人の勇者が、それに対して質問をする。
「ここからは全員、別行動というわけですか? それとも何人かで一緒に行動しろということですか?」
兵士は淡々と答える。
「各自の判断に委ねます。単独でも、複数でも構いません」
その言葉を合図に、勇者たちはそれぞれ動き出した。
すぐに旅立つ者。仲間を探す者。様子を見る者。
(……グループ分けみたいだな)
居心地の悪さを覚えつつ、俺は人目を避けるように歩き出した。
準備をするなら、ここじゃまずい。
「すみません」
そのとき、横から声がかかった。
「この任務、二人で行ってもよろしいですか?」
リリアだった。
一瞬、周囲の視線が集まる。
「俺ですか?」
「はい」
即答だった。
「ご一緒した方が効率的だと判断しました」
……断る理由もないか。
「……わかった」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げるリリア。
「行きましょう、ユウトさん」
⸻
城下町の外れ。
人通りの少ない路地裏で、リリアが足を止めた。
「このあたりなら、人目はありません」
「……どうかしましたか?」
俺がそう聞くと、リリアは小さく首を傾げる。
「先ほどから周囲を気にしているようでしたので」
……見られてるな。
少しだけ考えてから、口を開く。
「準備をしたいんだ。少しだけ時間もらっていい?」
「承知しました。見張りをしておきます」
「助かる」
あっさりと引いてくれる。
俺は壁際に寄り、軽く息を吐いた。
(……今のうちに)
意識を切り替える。
⸻
――ログアウト。
⸻
一瞬で、視界が切り替わる。
見慣れた天井。
自分の部屋。
「……よし」
無駄な確認はしない。
すぐに動く。
リュックを引っ張り出し、必要なものだけを詰めていく。
水。
携帯食。
小型ライト。
モバイルバッテリー。
あと、簡単な道具を少し。
「こんなもんでいいか」
詰め込みすぎない。
動けなくなる方が困る。
リュックを背負い、そのまま立ち上がる。
やることはシンプルでいい。
(無理はしない)
それだけ守れば、なんとかなる。
意識を集中させる。
⸻
――ログイン。
⸻
視界が戻る。
石の壁。
ひび割れた地面。
そして――
「……おかえりなさい」
すぐ近くで、リリアの声。
「うおっ」
思わず一歩引く。
「近いって」
「すみません。急に気配が消えたので」
……やっぱり、違和感はあるか。
「大丈夫。ちょっと集中してただけ」
「そうですか」
リリアの視線が、俺のリュックに向く。
「その荷物は?」
「ああ、準備してきた。長旅になるかもしれないし」
できるだけ自然に答える。
数秒、見られる。
でも――
「……堅実ですね」
そう言って、リリアは頷いた。
「いや、慎重なだけだよ」
「それは大切なことです」
静かな肯定。
少しだけ気が楽になる。
「じゃあ――行くか」
「はい」
俺たちは並んで歩き出す。
まだ距離はある。
でも、それでいい。
――最弱スキル“ログアウト”。
それを使った、俺のやり方で。
この世界を、生き残る。




